眠れるステーション エムポックノール
            ハンスべイムラー、ブライアンヒュラー
             
            プロローグ
             
 キラ少佐、ジャッシアダックスとウォーフ少佐は、連れ立ってクワー
クの店へ入った。
「どうも、いらっしゃいませ!ようこそ!」と、クワーク。
「今日は、なんだか、静かねぇ」と、ダックス。
「いやぁ、ちょうど、谷間でね、先にご注文を伺いましょうか?混み合
ってくる前に」
「わたしは、ティラミンビール」と、ダックス。
「それじゃ、わたしは」と、キラ少佐が言いかけると、店の隣から騒音
が響いた。
「今のはなんだ?」と、ウォーフ少佐。
「何ってなんです?ああ、あれね。あれは、おいっ子とチーフオブライエ
ンがコンジットを修理してるんです。すぐ慣れますって」
「クリンゴンレストランにしよう!」と、ウォーフ少佐。
「そっちのほうが、静かね」と、ダックスも同意して、三人は店を出て
いった。

2

1














































 クワークは、士官候補生の制服を着て通りかかったおいっ子のノーグを
呼び止めた。
「おい、あの騒音はいつになったら止むんだ?」
「コンジットの修理が済んで、安全が確認されたらだよ」と、ノーグ。
「急いでやれ!でないと、客が逃げちまう」
「なら、差し入れしてよ」
「何をだ?」
「ルートビア、ふたつ」
 
               ◇
 
 チーフオブライエンは、コンジットで修理を続けていた。
「ハイパースパナ」と、オブライエン。ノーグは、器具を道具箱から手
渡した。
「ジー、ジー、ジー」と、修理の音。
「光カプラー」
「ビー、ビー、ビー、ビー、ビー、ビー」
「どうして次は、フェーズデコンパイラだって分かったんだ?」と、オ
ブライエン。
「作業を見ていまして」と、ノーグ。

4

3














































「そうか、なかなかやるな」
「父は、チーフをすごく誉めていました。なんでも直せる人だって」
「ふん、エンジニアは、それが仕事だ。ようし、これでいいぞ」
「すばらしい!」と、ノーグがいい終わらぬうちに蒸気が噴出してふた
りを包んだ。
「わわ、おお」
 
               ◇
 
 チーフオブライエンは、オフィスへ向かうシスコ大佐に報告した。
「応急処置はしましたが、故障範囲が広いんです。プラズマ分配マニフ
ォールドを交換しなくては」
「複製できないのか?」と、シスコ大佐。
「ええ、カーデシアのマニフォールドは、ベータマトリックスを使って
いるので、複製できないんです」
「それじゃ、ガルデュカットに連絡して、マニフォールドシステムのス
ペアがないかどうか訊いてみるのはどうです?」と、オドー。
「大喜びで助けてくれるだろうな、他に方法はないか?」と、シスコ大
佐。
「今は使われていないカーデシアのステーションから失敬してくるとい

6

5














































う手があります」と、オブライエン。
「エムポックノールか?」
「ディーエスナインと同じ構造で、一年前に閉鎖されました。しかしプ
ラズママニフォールドシステムはまだ使えるかもしれません」
「付近でのドミニオンの活動はどうだ?」
「ここ数ヶ月はありません。戦略的には価値のない星域ですから」
「しかし、ひとつ問題があります」と、オドー。
「カーデシア人が基地から撤退するときは、侵入者撃退対策として、わ
なを仕掛けていくのが普通なんです。そのわなを解除するには、カーデ
シア人でないと」
「では、カーデシア人を連れていけばいいわけだ」と、シスコ大佐。
 
               ◇
 
 チーフオブライエンは、エラーロックでガラックに訊いた。
「司令官はなんて言って、きみを説得したんだ?」
「志願したとは思わない?」と、ガラック。
「へへ、脅されたんだろ」と、オブライエン。
「違いますよ、ワイロをつかまされたんです。私の店のスペースを増や
してくれるそうなんです。最近の仕立ての機械は、かさばるのでね」

8

7














































「とにかく、来てくれて嬉しいよ。どうしたんだ?」
「いやはや、まったく、最近、みなさん、私を信用してるみたいなんで
す。なんと言いますか、居心地が悪くってね。この調子だと、そのうち
食事に招かれだすかもしれません」
「そうか、そんなにいやなら、僕は君を招待するのは、やめておくよ」
「ありがとうございます」
「お礼なんかいいって、君には借りができたしな、カーデシア人が仕掛
けたわなを、解除するのは、僕向きじゃないよ」と、オブライエン。
「それが当然ですよ。ご心配なく、私の得意分野ですから」と、ガラッ
ク。
 ボリアン人のボクタは、シャトルに乗り込んできたクルーたちに言っ
た。
「わなの解除だと?それを知ってたら、この任務には志願しなかったの
に」
「だけど、ゴミ処理よりは、おもしろそうだろ?それに、エンジニアが
フェーザーを撃てるなんて、めったにないぞ」と、ペチェッティ。
「ペチェッティ、お気の毒だけど、あなたが撃つことになるのは、ねず
みだけよ。エムポックノールは無人だったから、きっと腹ぺコだわ」と、
女性士官のストルゾフ。
「心配するな、おまえらのことは、おれが守ってやる」と、アマロ。

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9














































 ノーグは、四人のうしろからやってきた。
「なんの用だ、候補生」と、アマロ。
「同行させていただきます、閣下」と、ノーグ。
「ああ、待っていたぞ」と、オブライエン
「光栄です。閣下と任務をごいっしょできて感激です」
「期待してるぞ、だが、その閣下は、やめてもらいたいな」
「はい、かっか、いや、チーフ!」
「よおし、出発だ、エムポックノールへ向かうぞ」


            1
 
 ガラックとノーグは、シャトルのブリッジで、カーデシアのコトラを
やっていた。
「何をしている?」と、ガラック。
「再編成です」と、ノーグ。
「負けているのにか?」
「だからですよ、資産を守らないと」
「これは、経済取引じゃないんだぞ。そもそも資産を守ろうとするから、
こんなはめになったんだ、積極的に行かなきゃだめだ、攻撃にでないと

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11














































!」
「そっちの番です」
いらついてきた。フェレンギ人にカーデシアのゲームをさせるのは、ク
リンゴン人に口を閉じて、ものを噛めと言うようなものだ」
「コトラは、軍を再編成したり、資産を守ったりじゃなく、大胆な戦略
をもって行動にでるゲームなのに!チーフ、ノーグと代わってください
よ!セトリックスリーの英雄と、是非、コトラで対戦してみたいんです」
「それは、どういう意味だ?」と、チーフオブライエン。
「チーフのお手柄は、みんな、知っていますよ。たった二十四人の部下
ひきいて、カーデシアの二個大隊を相手に、大勝利を収めたんですから
ねぇ。その半分の真剣さで、コトラをやれば、いい勝負になりますよ」
「今はもう、軍人じゃない、エンジニアだよ」
「そうかな、じゃ、ドクターベシアとホロスイートで何時間も過ごすの
は、修理しているからですか?」
「ガラック、なにが言いたい?」
「訊いただけですよ。ドクターと昔の戦闘機のパイロットの格好をして
楽しんでいるでしょう?過去の戦争でね」
「それは、ただの、遊びさ、ゲームだよ」
「コトラもそうですよ。是非、あなたのような勇者と対戦してみたいも
んです」

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13














































「ああ、また、今度な」
 ペチェッティは、ブリッジに入ると、チーフオブライエンに電子パネ
ルを見せて、報告した
「チーフ、欲しいもののリストです。分類は、三つ。必須機材は、マニ
ホールドとプラズマリコイラ、準必須機材は、EPSマトリックスコン
バータなどで、他に欲しいものは、バイバス転換機などなどです」
「カーデシアの勲章やバッジっていうのは何だ?」
「いやぁ、それは、趣味でして、もし、いいのがあったら」
「任務は、お遊びじゃないんだぞ、ペチェッティ、おまえのコレクショ
ンを増やすために行くわけじゃないんだ」
「了解」
「ふふふん」
 
               ◇
 
 シャトルは、ワープ航行を続けた。
「もうすぐ、エムポックノールです」と、操縦席のノーグ。
「ワープ航行停止」と、チーフオブライエンは言った。
「フルスキャンしろ!操縦を代わろう」
「メインパワーも、生命維持装置も、全く、作動していません。生命反

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応なし」と、ノーグ。
「転送可能域へ入ろう」と、チーフオブライエン。
「いや、転送は危険だと思いますよ」と、ガラックは言った。
「カーデシア以外のシグナルを探知すると、転送パターンにスクランブ
ルがかかるように、なっているはずです」
「では、避けよう。ドッキングでゆく。パッドは閉鎖されてる。目標塔
から行こう」
「だけど、エアロックにわなは?」と、ノーグ。
「当然、仕掛けてある。ドッキングする前に、誰かが、解除しないとね」
と、ガラック。
「僕が志願します!」
「やめなさい!熱心さは認めるが、DNAまでは誤魔化せないぞ。無事、
エアロックを抜けられるのは、カーデシア人の私だけでしょう」
 
               ◇
 
 ガラックは、宇宙服を着てエムポックノールに入り、メインパワーを
作動させた。ステーションの照明の一部が点灯し、医療室に置かれた冷
凍睡眠ケースにいたカーデシア人が目を覚ました。
 乗員たちは、エラーロックから出てきた。

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「いやぁ、エムポックノールにようこそ!」と、ガラック。
「ご招待、ありがとう」と、チーフオブライエン。
「いやぁ、ご遠慮なく。なんでも持っていってください」
「みんな、いいか!これから、三つの斑に分かれる。ノーグとストルゾ
フは、僕と、必須機材を探す。ペチェッティとアマロは、準必須機材を。
ボクタとガラックは、それ以外のもの。警備システムは、ガラックが解
除してくれたが、油断はするなよ。かならず、スキャンしながら進むよ
うにしよう。もし、不審なものがあったら、触らないで、助けを呼べ。
ようし、出発」
 三班は、それぞれ分かれて、薄暗いステーションを懐中電灯をかざし
ながら進んだ。
 ボクタに続いて螺旋階段を上がろうとしてガラックは、手すりにあっ
たねばねばした液体に触れた。
「なんだ、これは?」と、ガラック。
「生命維持化合物だ」と、ボクタ。
「なんでそんなものが、ここに?」
 階段の脇の室は、照明がついていた
「行ってみよう」と、ガラック。
 そこは、医療室で、ベッドが三つあった。
「保存チューブのようだな」

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19














































 一つのベッドの上に柱が倒れていて、ガラックはそれをどかして、カ
バーをあけると、ミイラ化した死体が横たわっていた。ボクタは、トリ
コーダで調べた。
「カーデシア人だ。死後およそ一年。おい、これを見ろ!」
「おもしろい」
「連隊のバッジだ」
「第一階級、第一歩兵大隊のものだ」
「きっと、ペチェッティが喜ぶぞ!」
「そっちの保存室は、最近、開いたようだな」と、ガラック。
 チーフオブラインは、ノーグを助手に、コンジットを修理していた。
「コイルスパナ!」ノーグは、言われたものを渡した。
「フラックスカプラ!」
「あ」と、ノーグ。
「フラックスカプラ!」
「シャトルに忘れました、すぐ取ってきます、閣下、いえ、チーフ」
「ガラックよりオブライエン」と、通信バッジの声。
「どうした?」
「医療室まで来てください。見せたいものがあるんです」
「すぐ行く」
 ノーグは、エアロックまで戻ったが、シャトルは切り離され、宇宙空

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21














































間を漂っていた。
「なんで、シャトルが」と、ノーグが呟くまもなく、シャトルが爆発し
た。
「ああ、ああ」






            2
 
 医療室に、全員が集まっていた。
「シャトルが勝手にテーションを離れて、自爆するはずないだろう」と、
チーフオブライン。
「この保存室から出た、ふたりの仕業と考えるのが、妥当でしょうね」
と、ガラック。
「第一歩兵大隊の兵士がふたり、そこいらを歩き廻っているんだとした
ら、やばいですよ。皆殺しが、モットーですから」と、ペチェッティ。
「単純なモットーだが、信じて戦う兵士は、強いですよ」と、ガラック。

24

23














































「なぜ、カーデシア人は、撤退する時に、ふたりの兵士を保存室に残し
たんでしょうか?」と、ノーグ。
「もちろん、基地を、守るためよ。進入者があれば目覚めるよう、プロ
グラムされていたんだわ」と、ストルゾフ。
「そうかもしれない。ふたりが、どこかに、いるのは確かだ。シャトル
を爆破したことから言って、友好的では、なさそうだ」と、チーフオブ
ライン。
「こっちが自己紹介しないから、おこっているのかもしれないわ」
「それも、そうだ。呼びかけよう」と、アマロは言って、通信機を操作
しようとした。
「通信できません」
「僕のもだ、妨害フィールドを張ったらしい」と、チーフオブライン。
「脱出しなければ!助けを呼びましょう!」と、ボクタ。
「どうやって?亜空間トランシーバは、カーデシアが撤退する前に壊し
ていった」と、ペチェッティ。
「のろしを上げるって手もありますけどね」と、アマロ。
「それは、いけるかもしれないぞ。ディフレクタグリッドは、ほとんど
無傷だ。なんとかして、フィールドコイルを調整して、共変パルスを打
ち出すことができれば」と、チーフオブライン。
「ステーションを、昔の電信機のように使って、SOSを送れる」と、

26

25














































ペチェッティ。
「ディーエスナインまで送れる強いパルスを出すには、強力なパワーが
必要となる。ペチェッティ、おまえは居住区へ降りて、ミクロフュージ
ョン反応を復活させろ。ストルゾフ、いっしょにゆけ!ボクタ、コンジ
ットフローのマグネティックフィールドを、再調整してくれ。アマロが
護衛につく。ノーグとガラックは、僕といっしょだ。貨物室のシグナル
発生装置を、セットアップする」
「はい、チーフ!」
「通信機は、なるべく、使わないように。敵に居場所が知れるぞ。質問
は?よぉし、いこう!」
 
               ◇
 
「私は、さっきの、ストルゾフの意見には、同意できないな」と、ガラ
ックは言った。
「いったい誰が、味方が撤退したあとのステーションに残ることを志願
しますか?保存室で何年も目覚めないかもしれないのに!いくら、勇猛
果敢でも考えにくい。他に理由があるはずです」
「かもしれない。だが、謎が解けるまで、長居ながいする気はないよ」と、チ
ーフオブライン。

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27














































「まったく、地球人ってのは、ミステリーの楽しみ方を知らないな」
「僕も、ミステリー小説は好きだな。寝る前に読む分にはいいが、自分
が殺されるのはね」
「誤解しないでください。私だって、早く、このステーションから逃げ
出したいんですよ。でも、この謎が解けないうちは、すっきりしないで
すからね」
 ノーグは、ふたりから離れて、周りを調べにゆくと、カーデシア兵士
が背後から忍び寄った。
「とにかく、今は、シグナル発生装置のセットアップが先決だ。ミステ
リーの謎解きなら、あとで、たっぷり、時間があるさ。ノーグ、ちょっ
と、こっちへ来て、手伝ってくれないか」
「すぐに、行きます」と、ノーグが言うと、カーデシア兵士は、身を隠
した。
 ペチェッティは、居住区で修理していた。ストルゾフが、護衛につい
ていた。
「銃口を向けるのは、やめろよ!」と、ペチェッティ。
「大丈夫よ。ロックしてあるから」と、ストルゾフ。
 ニ階のハッチが閉まった。
「あなたがやったの?」ペチェッティは、首を振った。
 ターボリフトが降りてきた。

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29














































「扉があいたら、行くわよ」と、ストルゾフは小声で言った。
 ターボリフトのハッチが開いた。
「合図するから!いち、に、さん!」
 ターボリフトには、誰も乗っていなかった。
「僕が、気が付かないで、ターボリフトを動かしたのかな?」
「上を見てくる」
「分かった」
 ペチェッティは、螺旋階段を上がっていった。ペチェッティは、カー
デシアの紋章のディスプレイにみとれた。
「わぁ、すげぇ!」
 ペチェッティは、背後から何者かに襲われた。
「助けてくれ!」
 ストルゾフは銃口を向けたが、ペチェッティを確認できなかった
「ペチェッティ!ストルゾフより、チーフ!たった今、うぁ」
 ストルゾフも、別のカーデシア兵士に襲われて、二階から突き落とさ
れた。
「うわぁああ」
「ストルゾフ!ストルゾフ!」と、チーフオブラインは通信バッジに呼
びかけたが、応答はなかった。
 三人が居住区に着いた時には、ストルゾフは息絶えていた。オブライ

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31














































エンは、壊された壁に近づくと、そこに、ペチェッティが倒れていた。









            3
 
 ふたりの遺体は、白いシーツで覆われた。
「きっと、いきなり襲われたんだ」と、ボクタ。
「敵は、内部センサーで居場所をつかんだんだ」
「落ち着け!かならず、脱出できるから」と、チーフオブライン。
「余計なことを考えるな!ペチェッティは、死ぬ前に、ミクロフュージ
ョン反応を、ほぼ、復活させてくれた。残りは、僕がやる。それから、
貨物室に戻る。コンジットは、どうした?」
「終わってます」

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33














































「よおし、じゃ、アマロと補助コントロールに行って、パルス発生装置
の調整をしてくれ!」
「分かれるんですか?」
「仕方がない。SOSを打たなければ、ここからは、脱出できないんだ」
「でも、チーフ、もし我々が」
「ボクタ、頼む、がんばってくれ!」
「おれがついているから、平気だよ」と、アマロ。
「ペチェッティにも、ストルゾフがついていた!でも、どうなった?」
「じゃあ、ガラックをいっしょに行かせよう、なら、安心か?」と、チ
ーフオブライン。
「申し訳ないが、私には、他に、やることがあります」と、ガラック。
「何をする気だ?」
「私は、殺されるのを、ただ、黙って待っている気はありません」
「それは、どういう意味だ?」
「もちろん、ふたりの敵を探しにゆくという意味ですよ。そして、始末
します。それに、泣き言を聞いていたら、ひどい頭痛がしてきましてね」
「チーフに逆らうと、頭痛だけでは済まないぞ」と、アマロは言って、
ガラックに銃のねらいを定めた。
「アマロ」と、チーフオブライン。
「撃ちたくて、たまらないんだろうね。カーデシア人を殺せるのなら、

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35














































誰でもいいんだ」
「アマロ、よせ!」と、チーフオブライン。
「ガラックが敵を始末してくれるのなら、それに越したことはない」
「さすが、チーフですね。どうです。いっしょに来ませんか?昔のよう
に、カーデシア人を殺しにゆきましょう。復讐したくありませんか?」
「いいや、ただ、ここを、脱出したいだけだ」
「あなたは、本能を抑え込んでいるんですね。でも、心のどこかに、セ
トリックスリーの英雄が眠っているはずだ」
「時間がないぞ。行け!」
「ノーグ、ボクタとアマロと行くんだ」
「了解」
「いえ、平気です。ノーグはチーフと。ガラックが敵を捕まえに行って
くれましたから、安心しました」と、ボクタは言って、アマロと出かけ
ていった。
 
               ◇
 
 ガラックは、医療室のコンソールパネルの前にいた。
「アクセス、却下。アクセス、却下。おい、なにか、他に言うことはな
いのか?ないらしいな。アクセス、却下。アクセス、却下。アクセス、

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37














































却下。ばかのひとつ覚えだ」
 ガラックは、背後に気配を感じて、身を隠した。医療室に、カーデシ
ア兵士が銃を構えて、入ってきた。
「私に用か?」と、ガラックは保存室から身を起こして、カーデシア兵
士を撃った。
「いい気分だ。最高だ」
 ノーグは、貨物室を歩きながら、修理中のチーフオブライエンに話し
かけた。
「チーフ、なぜ、ガラックは、セトリックスリーにこだわるんです?」
「僕を、怒らせたいんだろ?」
「でも、手柄を立てたんでしょ?」
「だからって、いい思い出とは限らないぞ。軍人だったとはいえ、人を
殺したからな」
「なに、言ってるんです?そんな、ご謙遜を」と、ガラックの声がして、
倉庫に入ってきた。
「どうやって、入ってきたんだ。ドアはロックしたのに!」と、ノーグ。
「開ける方法は、いくらでも、あるさ、素人でもないし。これを見てく
ださい。ちょっと、持ってて。ペチェッティが生きていれば、さぞかし、
喜んだでしょう」
「どこで手に入れた」と、チーフオブライエン。

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39














































「もちろん、兵士からですよ」
「じゃ、敵を殺したんだね?」と、ノーグ。
「ああ、ひとりね。もうひとりだ。ところで、死んだ兵士の体からサン
プルを取って調べたところ、あまり、嬉しくない結果が出ました。どう
やら、彼は、大量の精神異常作用発動薬を飲まされていたようです」
「なんで?」
「分かりません。ただ、この薬は、人を好戦的にします。薬のたんぱく
質構造は、カーデシア人のよそもの嫌いの性向を増幅させるんです。私
の推測では、かれらは、カーデシア軍部の実験に使われたのだと思いま
す。高等司令部は、兵士たちのモチベーションを高める方法を模索して
いたのでしょう」
「そこで、カーデシア人でないものを憎むよう薬を投与したのか?」
「じゃ、なぜ、あなたを、襲ったのです?」と、ノーグ。
「それは、いい質問だな」
「実験が失敗したのかもしれない。手が付けられなくなって、保存室に
いれたとか」
「ずっと、こうして、仮説を立てるのもいいですがね、一度始めたこと
は、早く、やり終えてしまいたいので。なんです、チーフ?」
「別人みたいだぞ」
「そうですか?」

42

41














































「仕立て屋の顔じゃない」
「仕立て屋じゃありません。少なくとも、今はね」
 ボクタは、居住区の通路で、パルス発生装置を調整していた。
「昔、ガラックにスーツを頼んで、できてきたら、袖丈そでたけが長かった。僕
おこって、ガラックにもう一度直させた」
「で、何が言いたいんだ?」と、アマロ。
「あんな、こわい男だと知っていたら、怒鳴り込まなかったよ。ガラッ
クは、ふたり目も殺すかな?」
「いいや、ふたり目は、おれが殺してやりたい」
「気持ち分かるよ」
「ストルゾフは親友だった。アカデミーの同期さ。スパーリングのパー
トナーだったんだ。初めて対戦した時、女だから手加減してやろうと思
ったもんさ。ふん、でも、ノックダウンされて、そんな考えは、どっか
に吹っ飛んだよ。格闘技にかけちゃ、男のおれも、かなわなかった。彼
女のワンツーは抜群だったな。右へフェイントをかけて、バックハンド
で首へチョップが来る、いつも、やられたよ。一度、勝ちたかったな。
彼女の得意技を使って、やっつけたかった。きっと、喜んでくれたのに」
「こいつが、はずれない!コイルスパナを取ってくれないか?」
「どんな形だ?」
「端にふたつ、突起があるやつだ、うわぁぁぁ」

44

43














































 アマロが振り向くと、ボクタは、カーデシア兵士に踏み付けられて悲
鳴を上げていた。カーデシア兵士は、銃を構えたが、背後からフェーザ
ー銃で撃たれて倒れた。向こうにいたガラックは、近づいてきた。
「このコイルスパナを取ってくれと言われて、一瞬、背を向けたすきに」
と、アマロ。
「バカをしたな、もっと、バカなことには、これは、コイルスパナじゃ
ない」と、ガラックは言うと、工具でアマロを刺した。
「うわぁぁぁぁ」
「これは、フラックス、カプラーさ」

            4
 
 チーフオブライエンは、貨物室での修理中を終えた。
「よおし、これでいい。オブライエンより、ボクタ!ボクタ、応答せよ!
アマロ、何かあったのか?」
 チーフオブライエンとノーグは、いそいで居住区の通路へ向かった。
アマロは、胸を刺されて倒れていた。
「早く、あいつを!」と、アマロ。
「アマロ、落ち着け!あいつって誰だ?」と、チーフオブライエン。
「ガラックです、奴に刺された!」そう言うと、アマロは死んだ。

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45














































「チーフ、なんで、ガラックが、こんな」と、ノーグ。
「行こう!まだ、近くにいるだろう」
「だけど、おかしいですよ、ガラックは、味方でしょ?」
「いやぁ、もう、違う!薬の影響だ!きっと、ガラックも、薬に触れて
しまったんだ。気付くべきだった。アマロを、わざと挑発した時も、敵
を殺しに出て行った時も、変だったのに」
「次は、僕たちを殺しにくる?」
「ああ」
「説得したらどうでしょう?殺したくなるのは、薬の影響なんだって言
えば」
「アマロの殺し方を見ただろ?聞くはすがないさ!」
「ディフレクタグリッドをセットアップして、早く、SOSを発信しま
しょう!」
「ガラックは計画を知ってる、きっと、邪魔するぞ」
「でも、やってみないと」
「いやぁ、無理だ、SOSを打とうとして、もう、四人の部下を失った
んだぞ。ガラックの言う通り、敵が襲って来た時、迎い撃つべきだった
んだ。敵が来るのを、待つのではなく、自分からゆく。行こう!ガラッ
クのあとを追うんだ」
「いたら、殺す?」

48

47














































「他に方法がなければ、殺す」
 ガラックは、司令部の床を捜していた。
「どこかにあるのは、分かっているんだぞ。ああ、そこにあったか。ガ
ラックよりチーフオブライエン。何を見つけたか、教えてあげましょう
か。コトラのボードです。ステーションの司令官が残していったんでし
ょうね。駒は散らばっていましたが、テーブルの下で、最後のひとつを
見つけました」
 チーフオブライエンは、通信バッジでガラックの話すのを聞くと、ノ
ーグと司令部に急いだ。
「どうです?まさに、今の、この状況を象徴しているゲームだと思いま
せんか?うん?ふたりの戦い、こころもふたつ、戦略もふたつ、お互い
相手を出し抜こうとして、敵の守りの穴を捜している、前に出たり、下
がったりしながら」
「ふたてに分かれよう、君は通路から司令室へ入り、僕は司令官室から
入る」
「ただし、現実と違うところは、生死がかかっているところだ。そのお
かげで、いっそう、楽しめますがね、はは、はははは、こんなに楽しい
思いは何年かぶりかですよ。胸が高鳴り、沸き立つ血が、からだじゅう
を流れています。いやぁ、生き返った気分だ。あなたもそうでしょう、
チーフ」

50

49














































 チーフオブライエンとノーグは同時に司令部に入った。コトラのボー
ドには、誰もいなかった。司令官室のドアが閉まり、エネルギーバリア
で遮断された。ノーグは、ガラックに背後から襲われた。
「あなたの最後の駒を、捕まえましたよ」と、ガラック。
「返して欲しければ、私から、取り戻してごらんなさい」





            5
 
 チーフオブライエンは、エネルギーバリアに触れると、バリアが消え、
司令官室のドアが開いた。彼は、コトラのボードを銃でひっくり返した。
「チーフの番ですよ、どうします?攻撃か、撤退か?降伏か?」
「ガラック、薬のせいだ、薬に負けるな!戦ってくれ!」
 ガラックは、ノーグを縛り上げて、動けないようにした。
「戦う?最高の気分なのに、ゲームに心躍るなんて、何年ぶりかですよ」
「これはゲームじゃない」
「いいえ、ゲームです、ゲームは人間性をあらわにする」

52

51














































「どこにいるんだ?」
「あなたの目を見ましたよ。私がノーグを人質に取った時、私を殺した
いと思ったでしょ。目にはっきり殺意が出ていましたよ」
「僕は、ただ、部下を無事に返して欲しいだけだ」
「いいや、あなたは殺人鬼だ。私もです。合法的な連邦士官の仮面の下
には、獣 けものが隠れている。私とおんなじだ」
「いやぁ、僕は、君とは違う」
「いやぁ、同じです、セトリックスリーで何人カーデシア人を殺しまし
た?十人、二十人、百人」
「覚えてないね」
「しかし、気持ちは覚えているでしょう。これ以上カーデシア人に、部
下を殺させまいと、打って出た時の気持ち、血には血をだ。敵を殺すの
は、楽しかったはずです。瞳から、生気が失われてゆくのを見るのは、
快感だったはずだ」
「どうしても決着を付けたいのなら、いいだろう、ケリをつけよう!君
と僕、一対一で」
「それこそ、望むところですよ、プロムナードで落ち合いましょう」
「丸腰でな」
「ええい、武器なしで」
「引き金を引きたい気持ちを、どんなに我慢しているか。おまえには、

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分かるまい。大事な人質だからな」
 チーフオブライエンは、プロムナードに来ると、ストルゾフとペチェ
ッティの死体が縛られて吊るされていた。ボクタとアマロの死体も縛ら
れて吊るされてるのが見えた。
「忠実な部下たちが、応援していますよ。殺されても、あなたに恨みは
ないようですね。私の支持者は少ないですが、やっぱり忠実ですよ。丸
腰でという約束でしょ」
 ガラックが、縛られたノーグに銃を突きつけていた。
「君だって、持っているだろ」と、チーフオブライエン。
「気付かなかったな。でも、銃は必要ありませんね。銃を床に」
「君からだ」
「あなたからだ。でないと、ノーグとはお別れだ」
「だめです、チーフ」と、ノーグ。
「心配することはないさ」と、ガラック。
「丸腰の相手は撃たないよ、それじゃ、楽しくないですからね」
 チーフオブライエンは、銃を床に置いた。
「もう一丁、隠していませんか?後ろに」
 チーフオブライエンは、後ろに手を廻してフェーザーをふたつ床に置
いた。
「君の番だ」

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「正直、すぐ撃ち殺したいところですが、でも、それでは、せっかくの
楽しみが、味わえませんからね」
 ガラックは、銃を脇に置くと身構えた。ニ三発殴り合って、チーフオ
ブライエンは、床に倒れた。
「うう、わぁぁ」
「がっかりですよ、チーフ、あなたの目にあるのは、血に飢えた輝きで
はなく、恐怖だけだ」
 チーフオブライエンは、ガラックに一方的に殴られて、再び床に倒れ
た。
「うう、おおぁ」
「情けない、とても軍人とはいえない、ていたらくだ」
「その通りだ、僕は、エンジニアさ」
 チーフオブライエンは、通信バッジに触れて信号を送ると、先ほど床
に置いたフェーザーが爆発して、ガラックを吹き飛ばした。
「うわぁぁぁ」
「ノーグ、無事か?」
「自分は、大丈夫です。ガラックは?死んだんですか?」
「いいや、生きているよ」
「ああ、ああ」


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            エピローグ
 
 ガラックは、ディーエスナインの医療室で横になっていた。
「ニ三日で元気になるよ」と、ドクターベシアは言った。
「神経を侵していた、例の薬は、もう中和したからね」
「おだやかな顔だ」と、チーフオブライエンは言った。
「あの時とは、別人みたいだよ」
「ある意味では、別人さ。薬で攻撃本能が目覚め、人格を乗っ取ったわ
けだから。自分でもどうしようもなかったろう」
「話していいか?」
「少しなら」
 チーフオブライエンは、ガラックに触れると、ガラックは目を覚まし
た。
「いろいろあったが、無事、プラズママニフォールドは、持ってこられ
たよ。今、組み込んでるところだ」
「任務完了ですね」と、ガラック。
「全然、計画通りには行かなかったけどね。事情聴取があるそうだ」
「ええ、それは、さっき聞きました。チーフ、ひとつ、お願いがあるん
ですが」
「大丈夫だ、事情を言えば」

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「そのことじゃありません。本当に、申し訳なかったと、アマロの奥様
に、伝えて欲しいんです。本当なら、自分で言いに行きたいんですが、
歓迎されないでしょうし」
「伝えておく」
「ありがとうございます」
「爆発で、肋骨が二本折れていたんだってね」
「たいしたことありませんよ、フェーザーにもっと近かったら、死んで
いたかんもしれませんし」
「ああ、正直に言うと、殺す気だった」
「分かってますよ」
「それじゃ、またな」
                    (第五_六_四話 終わり)









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