オーマイガー
            原作:フレドリックブラウン
            アランフィールド
             
            プロローグ
 
「ウォルター、ジェーシーってなんなの?」と、ラルストン夫人は、朝
食のテーブルで、夫のドクターラルストンにいた。
「たぶん、ジュニア商工会議のメンバーを指す言葉だと思うよ。そうい
う会議が、まだあるかどうか知らないけど。なぜだい?」
「マルシアが言っていたんだけど、きのう、ヘンリーが、ジェーシーが
どうのこうのって、ぶつぶつ言っていたそうよ。5000万のジェーシ
ーがどうとかって。マルシアがたずねると、バチあたりな口をきいたそ
うよ」



 

2

1





 マルシアは、グラハム夫人のことで、ヘンリーは、夫のドクターグラ
ハムのことだった。おとなりさんで、ふたりとも仲のよい友人であった。
「5000万・・・」と、ドクターラルストン。なにかを考えながら。
「その数字は、ジェーシーの数のようだな」






            1
 
 ドクターラルストンとドクターグラハムは、ふたりとも、パーシーた
ち━━━単性生殖で生まれた子どもたちの担当医師だった。20年前の
2043年に、単性生殖━━━卵子を精子の助けなしに受精させる最初
の実験を担当していた。その実験で生まれた子どもは、ジョンという名
前で、今、20才で、おとなりのドクターグラハム夫妻と住んでいた。
ジョンの母親が数年前に事故で亡くなって、夫妻の養子として引き取ら
れたのだった。
 ジョンが10才になるまで、ほかのパーシーたちはいなかった。10

4

3





才になって、明らかに、ジョンが健康で普通であることがわかって、初
めて、医師たちは、門戸を開放し、子どもを欲しがる女性━━━独身で
あろうと、不妊の夫をもつ女性であろうと、単性生殖で子どもを持つこ
とを許可した。2030年代に発生したパンデミックによって、世界の
男性人口の1/3が失われていたため、5000万を越える女性が単性
生殖で妊娠し、子どもたちが生まれた。性のバランスをとるのに、幸運
だったのは、単性生殖で生まれた子どもたちは、すべて、男性であった。



            エピローグ
 
「マルシアが言うには」と、ラルストン夫人。「ヘンリーの心配は、ジ
ョンのことらしいの。でも、理由がわからないって。だって、ジョンは、
あんなにいい子なんですもの、と言っていたわ」
 そのとき、いきなり、ドクターグラハムが、ノックもなしに室に入っ
てきた。顔は、まっ白で、目は、大きく見開かれ、同僚を見つめて、言
った。
「ぼくが正しかった」
「正しいって、なにが?」

6

5





「ジョンのことだよ。だれにも言ってなかったんだが━━━。昨夜のパ
ーティーで、お酒を切らしたとき、ジョンがなにをしたと思う?」
 ドクターラルストンは、まゆをひそめた。
「水をワインに変えたのかい?」
「ジンに変えたんだ。みんな、マティーニを飲んでいたんでね。さっき
も、ジョンは、サーフボードなしで、サーフィンに行くというので、た
ずねると、信念さえあれば、そんなものは、必要ないというんだ」
「なんて、ことだ」と、ドクターラルストン。顔を手でおおった。
 かつて、人類史上、1度だけ、処女懐胎があった。今、5000万の
処女懐胎で生まれた少年たちが、元気に育っていた。
 10年後に、新たな5000万のジェーシーが現れることだろう。
 ジーザスクライストのイニシャルも、JCだジェーシーった。
「なんて、ことだ」と、ドクターラルストン。なみだ声になった。
「なんて、こオーマイガーとだ・・・」
 
 
 
 
                            (終わり)


8

7