タイムマシン第1号
	            原作:フレドリックブラウン
	            アランフィールド
	             
	             
	             
	「諸君、タイムマシン第1号です」と、グレンジャー博士。
	三人の友人が、その機械を見つめた。
	片手に収まるほどのダイヤル付きの箱で、脇にスイッチが一つ付いてい
	た。
	「操作は、簡単です」と、グレンジャー博士。
	「行きたい日時を、ダイヤルでセットして、ボタンを押すだけです。そ
	れだけで、過去にも未来にも行けます」
	 
	 
 
	 スメドリーは、真っ先に機械を手に持って、調べ始めた。
	「これって、ほんとうに動くのかな?」
	「簡単なテストは済んでいます」と、グレンジャー博士。
	「一日前にセットしてボタンを押すと、室の外から、自分の背中が見え
	たので、そのまま、すぐに戻ってきました」
	「もしもその時、室へ入って、自分のお尻を蹴り上げたら、何が起こっ
	てたかな?」と、別の友人。
	 グレンジャー博士は、笑いながら言った。
	「たぶん、それは不可能です。過去を変えてしまうことになりますから。
	よく知られている、いわゆるタイムパラドックスです。ある人が過去に
	行って、自分の祖父を、父が生まれる前に殺してしまったら、その人は、
	どうなるかといったような━━━」
	 スメドリーは、まだ、機械を調べていた。突然、三人の友人から離れ、
	薄笑いを浮かべて言った。
	「これが、やりたかったんだ!君たちが話している間に、ダイヤルを6
	0年前にセットした」
	「やめたまえ、スメドリー!」と、グレンジャー博士。スメドリーに向
	かってにじり寄ろうとしていた。
	「博士、止まらないと、ボタンを押しますよ!止まってくれれば、事情
	をお話します」
	 グレンジャーは、止まった。
	「タイムパラドックスのことは」と、スメドリー。
	「オレも聞いて知っている。そして、興味があった。オレは、自分の祖
	父を殺したかったからだ。オレは、祖父をひどく憎んでいた。祖父は、
	冷酷な人間で、祖母やオレの両親の人生を地獄へと追いやったのだ!」
	 スメドリーは、タイムマシンのボタンを押した。
	 一瞬、あたりがかすんで、スメドリーは、荒地に立っていた。スメド
	リーは、すぐに、自分がいる場所を計算した。ここが、グレンジャー博
	士の家が、建てられる場所なら、祖父の農場は、南へたった1マイルの
	場所だった。彼は、歩き始めた。途中、りっぱな棍棒になる木の棒を見
	つけた。
	 農場の近くで、赤毛の若者が、犬を鞭で打っていた。
	「やめろ!」と、スメドリーは、どなりながら走って若者に近づいた。
	「オメェにゃ関係ねぇ!」と、若者は、鞭をふるい続けた。
	 スメドリーは、棍棒をふりおろした。
	 
	               ◇
	 
	 60年後。
	「諸君、タイムマシン第1号です」と、グレンジャー博士。
	二人の友人が、その機械を見つめた。
	 
	 
	 
	                            (終わり)