おばばのバースデイ
	            原作:フレドリックブラウン
	            アランフィールド
	             
	            プロローグ
	             
	 ハルペリン家は、とても強い
絆で結ばれた家族だった。ウェードスミ
	スは、非ハルペリン家のふたりのうちのひとりで、自分には家族がなか
	ったので、この結びつきがうらやましかった。しかし、
羨望は、手にし
	たグラスの柔らかい光のなかに閉じ込めた。
	 きょうは、ハルペリンおばばの、80才のバースデイパーティであっ
	た。
	 
	 
	 
 
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	 スミスともうひとりを除いた全員が、ハルペリン家でハルペリンの姓
	だった。おばばには、3人の息子と娘がひとりいて、みんな集まってい
	た。3人の息子はみんな結婚していて、妻たちもいた。おばばも合わせ
	て、8人のハルペリン家がいた。さらに、4人の孫がいて、そのうちの
	ひとりには妻がいたので、合計13人のハルペリン家がいた。スミスと、
	もうひとりの非ハルペリン家の男のクロスを入れると、15人のおとな
	がいた。もっと早い時間には、3人のハルペリン家のひ孫がいたが、夜
	になって、それぞれの年齢に応じた時間にベッドへ行かされた。
	 スミスは、みんなが好きだった。お酒が自由にくみかわされ、スミス
	の好みよりは、パーティは少々、だんだん大声でにぎやかななものにな
	った。全員が酔っていた。おばばさえ、玉座には見えないイスに座り、
	今夜3杯目のシェリーのグラスを手にしていた。
	「おばばは、小柄だがとてもやさしく活発な老婦人だ」と、スミスは思
	った。「たしかに女家長だ。ビロードの手袋と鉄の棒で家族を支配して
	いる」スミスはたとえ話を混乱するほど、酔っていた。
	 スミスは、おばばの息子のビルハルペリンに招待されていた。スミス
	は、ビルの弁護士であり友人だった。もうひとりの非ハルペリン家のジ
	ーンクロスは、ハルペリン家の孫の世代の誰かの友人に見えた。
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	 室の向こうで、クロスがハンクハルペリンと話しているのが見えた。
	なにを話していたのか、突然声を荒げ、怒りだした。スミスは、たいし
	たトラブルでなければいいがと願った。パーティがすごく楽しかったの
	で、ケンカや言い争いでも、今ぶち壊しにしてもらいたくなかった。
	 しかし、ハンクハルペリンがパンチを繰り出して、あごをとらえ、ク
	ロスは仰向けに倒れた。頭が暖炉の石の縁にあたり、ズシンと大きな音
	がして、倒れたままになった。ハンクはすぐに駆け寄り、クロスの横に
	ひざをついて体に触れた。ハンクは青ざめた顔で立ち上がった。
	「死んでいる」と、ハンク。「そんなつもりじゃ━━━」
	 おばばは、もう笑顔ではなかった。声は鋭く高音になって、気難しい
	態度になった。
	「彼がはじめに手を出したのよ、ヘンリー」と、おばば。「わしは見て
	たよ。ここにいるみんなも見てたよ。そうだよね、みんな?」
	 おばばは言い終わらぬうちに、体の向きを変え、威圧的にウェードス
	ミスを見た。彼が生き残った最後の部外者だった。
	「私は━━━最初から見てなかったんです、ミセスハルペリン」
	「おまえは見ていたよ」と、おばば。ぴしゃりと。「ちゃんと見ていた
	よ、ミスタースミス!」
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	 ウェードスミスが答える前に、ハンクハルペリンが言った。
	「おばば、すまない」と、ハンク。おばばは答えなかった。「困ったこ
	とになった。オレは、7年間プロのリングに立っていた。ボクサーの拳
	は、元ボクサーであっても、法的には凶器とみなされるんだ。やつが先
	に手を出したとしても、これは、2級殺人になる。きみは知ってるよね、
	ミスタースミス、弁護士なんだから。それにオレは別の事件でも係争中
	で、このことでかなり不利になる」
	「あ〜、そうかもしれない」と、スミス。あいまいに。「それよりだれ
	か、医者か警察か、あるいは両方、電話したほうがよくないか?」
	「ちょっと待って、スミス」と、スミスの友人、ビルハルペリン。「先
	に、われわれで、この物事をはっきりさせておくべきだ。あれは、正当
	防衛だったよね、違うかい?」
	「私は、たぶん、そのようにも━━━」
	「待ちな、みんな」と、おばば。鋭くさえぎった。「正当防衛だったと
	しても、ヘンリーには困るんだ。それに、この男、スミスが、ここ以外
	の場所や法廷でも、信用できると思うかい?」
	「でも、おばば」と、ビルハルペリン。「われわれで、この━━━」
	「意味ないよ、ウィリアム!」と、おばば。「わしは、なにがあったか
	見てたよ。わしらのみんなも、見てたよ。あのふたり、クロスとスミス
	は、殴り合ったんだよ。そして、相手を殺した。クロスがスミスを殺し、
	クロスは殴った拍子に目を回して、暖炉に頭を打った。ヘンリーを刑務
	所には送れないよ、そうだろ、子どもたち?わしら以外の部外者がやっ
	たのさ。ヘンリーは、混乱して動いたから、ケンカしてるように見えた
	だけさ。残りのわしらで━━━」
	 ヘンリーを除く、ハルペリン家の男たちは、スミスを取り囲んだ。お
	ばばを除く、女たちもすぐ後ろにいた。円は、だんだんせばめられた。
	            エピローグ
	 
	 スミスが最後に見たのは、玉座に座ったおばばだった。目はビーズで、
	興奮し決意がみなぎっていた。スミスが、ひと言もしゃべれなくなった
	沈黙の中で、最後に聞いたのは、ハルペリンおばばのくっくっという笑
	い声だった。そのとき、最初の打撃がきて彼をよろめかせた。
	 
	 
	                            (終わり)