緑の悪夢
            原作:フレドリックブラウン
            アランフィールド
             
            プロローグ
             
 彼は目覚めると、昨夜ベッドの中で考えた強い決意を思い起こした。
それは、ウィリアムがふたたび男に、強い男になるために曲げてはなら
ない決意だった。妻のデイジーに離婚してくれるよう断固として要求す
る。そうしなければ、すべてを失って2度と勇気を持てなくなるだろう。
6年間の結婚生活の最初から、離婚は不可避だった。
 今が、そのターニングポイントだった。自分より、あらゆる点ですぐ
れた女性と結婚することは、耐えられないだけでなく、自分がだんだん
弱々しい生き物、希望を失ったねずみになっていってしまうのだ。



 

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 デイジーは、あらゆる点で、ウィリアムよりまさっていた。彼女は、ア
スリートだったので、ゴルフでもテニスでもあらゆるスポーツで、彼を
やすやすと打ち負かした。デイジーは、ウィリアムを上廻り、圧倒した。
車の運転でも、彼には到底及ばないドライビングテクニックを披露ひろうした。
ほとんどあらゆる面でエクスパートのデイジーは、ブリッジでもチェス
でもポーカーでさえ、男のようにプレイして彼を打ち負かした。
 もっと悪いことに、デイジーは、夫のビジネスや金融にも手腕を発揮
し、彼が今まで考えたこともないような額の金を稼ぎ出した。ウィリア
ムの自尊心はことごとく打ち砕かれ、残されたわずかな自尊心さえも、
結婚生活の6年間、傷つき打ちのめされなかった日はなかった。









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 今までは、ローラがやって来るまでは、そうだった。ローラは今週か
ら、お客として家に滞在していた。愛らしくかわいらしいローラは、デ
イジーにはない、きゃしゃでかよわく、ほれぼれするほどの無力で頼り
なさのすべてを持っていた。ウィリアムはローラに夢中になり、ローラ
が彼の救世主だと分かった。ローラと結婚すれば、ウィリアムは、ふた
たび男になれるだろう。ローラが彼と結婚するだろうことは、確かだと
感じた。ローラは、ウィリアムの唯一の希望だった。今度ばかりは、デ
イジーがなんと言おうと、ウィリアムが勝利するのだ。
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 ウィリアムは、シャワーを浴びて、すぐに服を着た。デイジーとの対
決シーンを恐れながらも、勇気が続くうちに、早く終わらせるために、
急いだ。下へ降りると、朝食のテーブルにデイジーがひとりでいた。
「おはよう、あなた」と、デイジー。「ローラは、朝食をすませて、散
歩に行ってるわ。わたしが頼んだの。あなたとだけ話したくて」
「そりゃよかった」と、ウィリアム。デイジーの向かいに座り、考えた。
「オレが言おうとしていることが、分かっているみたいだな。デイジー
が離婚を切り出してくれることで、物事がスムーズに運びそうだ」

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            エピローグ
 
「ウィリアム、いい?」と、デイジー。「わたし、離婚してほしいの。
このことは、あなたにはショックなことは知ってる。でも━━━ローラ
とわたしは、たがいに愛し合ってるの。だから、ふたりで出てゆくわ」
 
 
 
                            (終わり)












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