エコーバック
            原作:フレドリックブラウン
            アランフィールド
             
            プロローグ
             
 パワーが、どこともなくやって来て、突然、ラリースネルに宿やどった。
なぜ宿やどったのか、分からない。ただ、やって来た。それだけだった。
 それは、もっと好青年に起こればよかったのだろうが、スネルは、と
るに足らない盗人ぬすっとで、盗んだあとどう逃げるかばかり考えていた。しか
し、収入の大半は、闇チケットやパーティ券を若者に売って稼いでいた。
すこし太り気味でだらしなく、中央に寄った目が、実際よりさもしく見
せていた。唯一救われる点は、臆病だおくびょうったことで、それで、彼は、暴力
犯罪に関わることは一切なかった。



 

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 ある夜、スネルは、食堂の電話ブースで、競馬のノミ屋と、その日の
午後のレースで電話で賭けた当たり馬券が、3連単か3連複かで、言い
争いをしていた。ついにあきらめて、スネルは、言い放った。
「死んじまいな!」
 そして、受話器をたたきつけた。
 そのことを、スネルはそのまま忘れていたが、つぎの日、そのノミ屋
が、電話しながら死んだことを聞かされた。ちょうど、スネルと話して
いた時刻に。
 このことは、ラリースネルに考える材料を与えた。スネルは、無学で
はなく、魔力について知っていた。実際、前に魔力を試してみたことが
あった。まったく効果はなかったが。なにが変わったのだろう?試して
みる価値はあった。注意深く、20人のリストを作った。いろいろな理
由で、スネルが憎んでるやつらだ。そして、順番にひとりづつ、1週間
で全員に電話して言った。
「死んじまいな!」
 すると、みんな、言ったとおりになった。
 スネルは、得たものが、単なる魔力ではなく、パワーだということに
気づくまで、その週末までかからなかった。

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 スネルは、高級ナイトクラブで、収入が彼の数十倍のナンバーワンダ
ンサーと話していて、こう言った。
「ハニー、ショーが終わったら、オレの室へ来ないか?」
 彼女は来た。冗談のつもりだったから、これには、スネルもだじろい
だ。金持ちの男やハンサムなプレイボーイがついて来たが、彼女は、冗
談まじりのラリースネルの誘いに乗ったのだ。
 スネルは、パワーを得たのであろうか?つぎの朝、彼女が出てゆく前
に試した。
「今、いくらあるんだい?」
「千ドルくらいかしら」
「よかったら、貸してくれないか?」
「いいわよ」
 彼女は、千ドル置いていった。
 スネルは、ビジネスを始めた。つぎの週の終わりには、金持ちになっ
ていた。あらゆる知り合いから、カネを借りたのだ。ほんのわずかな知
り合いから、なかには、いくらでも金廻りのいい地下組織の大ボスまで
をも含めて。そして、かならず、別れぎわに言いそえた。
「忘れちまいな!」

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            3
 
 スネルは、安アパートから、町の高級ホテルの最上階のペントハウス
に引っ越した。そこは、独身者用のホテルだったが、たまにゆっくり体
を休めたいときは、ひとりで寝ることを伝えておく必要があった。
 いい生活だったが、スネルがパワーを無駄にしていることに気づくま
で、2・3週間もかからなかった。最初にこの国を乗っ取って、つぎに
世界を乗っ取って、得たものをうまく使えば、史上最強の独裁者になれ
るのではないか?1晩にひとりのスターダンサーの代わりに、ハーレム
を含むすべてを所有することもできるだろう。軍隊を組織して、彼の最
低の望みが、他の人々の最大の法になるよう強制することもできるだろ
う。命令が電話で伝えられたなら、ラジオやテレビを通じて服従させら
れるだろう。必要なものは、世界中のすべての人に、あるいは、ほとん
どの人に伝えられる、世界ネットワークの構築費用を払うこと、あるい
は、単に要求することだ。彼の側につく人々が大多数なら、残りの人々
も、そのうち従うだろう。
 しかし、これは、大きな取引になる。今までなされた最大の取引だ。
計画に時間をかけて、ミスの可能性を無くさなければならない。数日間
は、計画のため人々から離れてひとりで、郊外で過ごさなければならな
い。

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            4
 
 スネルは、チャーター機で、ハドソン西の比較的、旅行者の少ない地
方へ行って、ホテルから━━━そこでは、お客はみんな出てゆくように
言っただけだが━━━ひとりで、考えたり、夢見たりするために、長い
ウォーキングを始めた。いい場所を見つけた。そこは、山に囲まれた谷
にある小高い丘で、景色が雄大であった。考える時間のほとんどをそこ
で過ごした。そこで、さらに、意欲が沸いてきた。やがて、動き出すで
あろう世界が見えてきて、幸福感がさらに高まった。
 独裁者。彼が、自分に皇帝の冠をかんむり授けるだろう。世界の皇帝だ。だめ
なことがあるか?パワーを持つ人間に、はむかえるものがいるだろうか?
パワーが誰をも命令に服従させ、与えることも取り上げることも、さら
に━━━。
「死んじまいな!」
 丘の上から、スネルは、叫んだ。声の届く範囲に誰がいようが、おか
まいなしに、気兼ねなく大声で━━━。
 
            エピローグ
 
 ハイキングをしていた若い男女が、つぎの日、スネルを見つけた。いそ

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いで村に戻ると、エコーヒルの頂上で、死体を見つけたと、報告した。
 
 
 
                            (終わり)
















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