チャンスふたたび
            原作:フレドリックブラウン
            アランフィールド
             
            プロローグ
             
 ジェイとオレは、シカゴのニューコミスキー球場の内野スタンドにい
た。1959年のワールドシリーズ10月9日の試合のリプレイが、そ
ろそろ始まろうとしていた。
 オリジナルゲームは、ちょうど500年前で、ロサンジェルスドジャ
ーズが9対3で勝利し、4勝してシリーズを制し、ワールドチャンピオ
ンとなった。オリジナルゲームと可能な限りまったく同じ条件でゲーム
は始まるが、結果が違ってくることはありうる。
 



 

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 シカゴホワイトソックスの選手たちがフィールドに出てきて、内野で
ボールをまわし始めた。先発ピッチャーのウィンは、マウンドでボール
を受けとると、ウォームアップピッチングを始めた。クルツェフスキー
がファースト、フォックスがセカンド、グッドマンがサード、そして、
アパリシオがショートだった。ドジャーズのギリアムは1番バッターと
して打席に、ニールが2番で控えサークルに出てきた。
 彼らは、その名前のオリジナルプレイヤーではもちろんなかった。彼
らは、アンドロイドで、人造人間だが、ロボットと違うのは、金属でな
く、伸縮自在のプラスティックでできていて、実験室で培養された筋肉
で動き、人間の正確な複製としてデザインされていた。500年前のオ
リジナルプレイヤーと、可能な限り同じレプリカだった。はるか昔の選
手たちを再現するために、昔のスコアや写真、フィルム、そのほかの資
料が徹底的に研究された。彼らは、見かけが同じでオリジナルプレイヤ
ー通りにプレイするだけでなく、技術的にも同じで、元の選手よりうま
くならないよう調整されていた。彼らの試合は、年間試合でなく、ワー
ルドシリーズの年1回のみで、今回は、そのセミミレニアム記念だった。
しかし、もしも彼らが年間を通じてフルシーズン戦っても、平均スコア
はまったく同じ、ピッチャーの勝率もやはり同じになっただろう。

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 理論的には、スコアは元の試合とまったく同じになるはずだが、もち
ろん、破られることもある。監督やコーチが━━━やはりアンドロイド
だが━━━違うサインや指示を出すこともあった。元のワールドシリー
ズで勝ったチームが、通常ならまた勝つが、試合数が同じとは限らず、
スコアも時として元のスコアと大きく違うこともあった。
 この試合も、2イニングまでは、スコアは元の試合とまったく同じに
進んだ。しかし、3回に入って大きく違ってきた。この回は、ドジャー
ズが6人の打者を送り込むビッグイニングだった。今度も、ウィンが、
1アウトしか取れず満塁にされたが、うまく切り抜けて、ドジャーズを
無失点に抑えた。
 観客は、ブーイングを始めた。ジェイは、ホワイトソックスファンで、
1回裏まではイーブンオッズでも賭けたくないと言っていたが、オレに
賭けをもちかけてきた。
 6イニング目に━━━しかし、試合は記録にあるのに、なぜスコア通
りにならないのだろう?ホワイトソックスが1点差で勝利し、ワールド
シリーズは、3勝3敗となった。ホワイトソックスは、チャンピオンシ
ップを賭けて試合するチャンスをあすに残した。


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 ジェイ━━━正式な名前は、Jのあとに12桁の数字がつく━━━と
オレは、ほかの観客といっしょに、帰るために立ち上がった。スタンド
は、いたるところ明るい金属で波打った。
「疑問なのは」と、ジェイ。「かつての人間たちの試合を実際に見るの
と、どのくらい違うのかな?」
 
            エピローグ
 
「さぁね」と、オレ。「かつての人間たちを実際に見たことがないから
ね。オレはまだ200才にもならないが、少なくともこの400年は、
生きた人間は見つかってないそうだよ。帰りに潤滑油をさしに行かない?
きょうはまださしてないから、サビが出そうだ━━━あすの試合は、い
くら賭けるかい?ホワイトソックスは、チャンスをふたたび得た。実際
の人間たちにはなかったことだ。できる限り、彼らの伝統は保存してい
きたいね!」
 
                            (終わり)


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