ザ・オフィス
          原作:フレドリックブラウン
          アランフィールド
 
          パート1=始まり
          パート2=始まりの終わり
          パート3=終わりの始まり
          パート4=終わり
           
            登場人物
 
コンガ氏:コンガ&ウェイの経営者、機械類を工場に売っている。
マーティレインズ:簿記係、21才、背が低いのが悩み。
ステラクロスターマン:ファイル係、ヒールをはくと男より背が高い。
ウィビロービィ氏:オフィスマネージャー、鋭い目線で監視している。




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パート1
                             始まり
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 コンガ&ウェイのオフィスは、かつてはシンシナティのコマーススト
リートに建っていたビルの2階にあった。そこは当時有名だったり橋
からそれほど離れてはなかった。り橋は、ケンタッキー州コビントン
へと流れる広い泥だらけのオハイオ川にかっていた。
 フォンテインスクエアやコマースストリートといった町の中心部から
数ブロックのところだったが、そのあたり3ブロック一帯は、すべて家
賃が安かった。それは建物が古い、それもすごく古いせいもあるが、わ
ずかフロントストリートとウォーターストリートをへだてただけで、川か
ら非常に近かったからだ。大きな川が増水で溢れると、しばしば洪水に
なった。しかしこれは、この物語の短いあいだは、一度も起こらなかっ
た。
 そのビルは今はもうない。20世紀初頭の当時においても、そのビル
は非常に古かった。ビルのあった場所は、橋に出る新しい通りの一部に
なった。そのビルは今はもうないというだけでなく、そもそも建ってい
た場所がない。もしもその場所が土やコンクリートで埋められていたら、
ビルはなくなったと言えるかもしれない。そこは名前も知らないビルに

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なった。
 コンガ&ウェイは、一方で、本来のもの以外に多くの社名があった。
特殊なビジネス用語で、20世紀初頭固有の、スクリューマシンプロダ
クツやミッドウェスト旋盤サプライ会社、仕上げ研磨会社といった名前
だった。すり減ってはいるがくっきりとした、黒で縁取られた金色の文
字で書かれた社名は、コンガ&ウェイの看板の下、オフィスの出入り口
のドアに書かれていた。
 こんなふうに名前が4つもあるのは、詐欺ではないかと読者は言うか
もしれない。ビジネスは、もっぱら、エドワードB・コンガという名前
の一人の男によって行われていた。ウェイ氏は10年近く前に亡くなっ
ていた。しかし共同経営規約に従って、ウェイ氏の未亡人は利益の25
%を受け取った。彼女が生きてるあいだはずっと。しかしそれ以外のこ
とに関しては、彼女は一切口出しせず、すべてをコンガ氏にゆだねる代
わりに、社名に亡き夫の名前を残すことを主張して譲らなかった。コン
ガ氏は、みんなの利益のために、彼女に関しては例外を認めたが、自分
に関しても同様に感じた。ウェイ夫人をとても嫌っていた一方で、共同
経営者のハリーウェイはずっと最良の友人であったので、会社の看板に
彼の名前を残すことでハリーの思い出を大切にしたいと感じた。会社の
別の名前に関しては━━━仕上げ研磨会社は、メアリーホートンの一番
上の引き出しにある爪やすりのようなものを含めなければ、研磨機は扱

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ってなかった。ミッドウェスト旋盤サプライ会社は、コンガ氏にとって
は紙の重さくらいの重要性しかない、モーステーパシャンクに設置する
4分の3インチの第2中心軸しか扱ってなかった。スクリューマシンプ
ロダクツが扱うスクリューマシンに最も近いものは、エンピツ削りやパ
ウダー状の黒鉛だった。扱う量はとても少なく、ほとんど利益につなが
ってなかった。
 このような小さな不備は、かといって別段、大きな不備につながって
もいなかった。コンガ氏は全面的に信頼できるという男ではなく、ただ
の仕事人だった。シンシナティやその近くの店から機械を仕入れ、ピッ
ツバーグやアクロン、シカゴにある工場に売っていた。
 コンガ氏のもとで、7人が働いていた。
 
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 人間は、生まれて、そして死ぬ。つまり、始まりと終わりがあって、
どちらも時間的にはっきりとした地点がある。情熱的な興味深いできご
とが、生まれる前に起こったり、葬儀屋やうじ虫たちのできごとが、死
んだ後も続くことはあるが、その人間自身に関する限り、はっきりとし
た始まりとはっきりとした終わりがある。
 場所については、時間で定義するのは、より難しい。場所はいつもそ

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こにあるし、これからもいつもあるだろう。その光景は変わるかもしれ
ないが、そこには時間的な境界がない。
 コンガ&ウェイがあった場所は、かつては別の会社やさまざまな会社
があった。あるときは、平屋の小屋だったり空き地だったりした。それ
より以前は、ロサントビルという町の初期移民のひとりが耕した広大な
土地が広がっていた。のちにそこはシンシナティとなった。その前は、
そこには1本のオークの木が枝を広げていて、インディアンの少年が木
登りをしていた。インディアンたちが来るはるか昔、オークの木のずっ
と以前は、どんぐりのなるトゲのある木が立っていた。過酷な季節のあ
いだ、モズは獲物をトゲに突き刺して保管し、そこに巣を作り、その場
所がのちに正確に、簿記係のマーティレインズの机の上のインクつぼを
置いた場所となった。
 
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 1922年6月29日木曜の午後、そこから始めよう。この年は好況
が始まる年だった。また、不況が始まる7年前でもあった。2年に及ぶ
不況の終わりを見た年で、20世紀がうなりを上げ始めた年だった。
 マーティレインズを登場させる。年令は21、身長5フィート7イン
チ、体重130ポンド、普通のブロンド髪で、簿記係。モズの巣にペン

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を刺したり、借り方に項目を記入したり、自分の勇気を知るためだけに
ファイル係のステラクロスターマンをデートに誘ったりするようなやつ。
研磨剤10パウンドと半ガロンの接着剤を借り方に記入してから、台帳
から顔を上げて、オフィスの奥で、ステラがファイルキャビネットの下
から2番目の引き出しに腰を曲げているところへ目をやった。
 ステラは、ほどよく肉付きのよい、すばらしい体をしていた。顔は別
の方を向いていたが、マーティは、彼女が温かい茶の目をして、ときど
き涙でかすむことを知っていた。髪は肩までのショートヘアでやはり温
かい茶だった。彼女は背が高く、ふつうのハイヒールでは、目の高さが
ほとんどマーティの背の高さだった。ときどき彼が少し不快に思い悩む
のは、夜に高いヒールをはいてきたら、彼より背が高くないように見せ
られるかどうかだった。また、ステラはまだ背が伸びるのではないかと
悩んでいた。いや、そんなことはないと彼は考えた。彼女は19だし、
19になったらふつうはもう背は伸びない。少なくとも、彼、マーティ
は、17で背が伸びるのが止まった。17から20才のあいだ、もう1
インチか2インチ、背が伸びないかと虚しい望みをかけながら、注意深
く背を測ってきたが、1年前に彼はあきらめた。
 さらに2つの項目を記入すると、ふたたび目を上げた。ステラは今は
一番下の引き出しに体を曲げていて、スカートが数インチめくれて、巻
き上げたシルクのストッキングの上1インチか2インチ、滑らかなオリ

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ーブ色の肌が見えた。
 それは、マーティには興味があるところだったが、気にしていいのか
悩むところだった。それは不謹慎だった。娘はヒザの下までストッキン
グを巻き上げるべきでないし、そんなふうに腰を曲げるべきでない。彼
がまた思い悩むのは、ほかの男たちはオフィスでこのようなものを見る
のかどうか。営業マンのふたりは不健全な心があったが、ふたりとも外
出していた。年寄りのコンガ氏は、自分のオフィスにいた。雑務係のマ
ックスならどうするかと捜したが、思い出した。マックスは2日前に辞
めていた。しかし、オフィスマネージャーのウィビロービィ氏は自分の
デスクにいたので、マーティは彼を見た。そしてすぐに、数字を記入し
ていた台帳に目を落とした。ウィビロービィ氏の目は、ステラクロスタ
ーマンの足を見ていなかった。マーティを見ていた。目からレーザービ
ームが出て、こちらに向かってきていた。ウィビロービィ氏の、なんと
いう嫌味っぽい目!すべてを見ていて、すべてお見通しであるかのよう
な。マックスが前にこう言っていた。ウィビロービィは、頭の後ろにも
目がある。それほど間違ってはなかった。
 マーティレインズは今度は目を上げずに、さらに6項目記入した。グ
レイソン会計を終え、項目にしるしをつけて、ページをめくった。彼の
顔はまだ、先ほどの気まずさから少し紅潮していた。
 なぜ、と彼は思い悩んだ。ほかのやつらのような図太い神経がないの

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だろう?ひどく恥ずかしがり屋なことを、なぜ悩んだりするのだろう?
彼は恋人がなく、白人で、21だった。ハンサムではなかったが、醜くみにく
もなかった。背は平均より少し低かった。それはそれほど重大なことで
もないし、それによってなにかができなくなるわけでもなかった。週2
0ドル稼ぎ━━━一部を貯金した。
 ステラクロスターマンは、まだ19で、ただのファイル係だった。
(いや、と彼の内部のなにかが言った。彼女は女神だ!彼女は特別な存
在だ!彼女はなぞに満ちている!)
 しかしなぜ、次のチャンスで、自然に「ステラ、今夜の予定は?」と
けないのだろう?彼は、彼女には好かれていると考えていた。たぶん、
彼女はすぐいい返事をくれるだろう。あるいは、悪くても、なにか予定
があって、こう言うだろう。「なぜって、今夜は忙しいの、マーティ。
でも━━━」そして、次の予定のない夜になにを約束するかは、彼に託
される。
 「ステラ、今夜の予定は?」たったの4ワードを言うだけだ。しかし
自然に4ワードを言おうとしても、自分の声がなにか変なのが分かって
いた。正しく言い始めても、最後には自然な質問にしてはピッチが高く
なりすぎて、自分がアホに思えて、たぶん恥ずかしくなって、後悔する
ことになる。なにか欠けていることでもあるのだろうか?
 彼は、また、ステラを見た。今は立ったまま、一番上の引き出しで作

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業していた。キャビネットの上に書類の入ったカゴが置いてあった。一
番上の紙を取り上げて、名前を見て、それぞれのファイルに入れていた。
単調な仕事に違いない、とマーティは考えた。
 すばらしいアイデアを思いついて、彼の目が輝いた。彼女が取り上げ
た手紙のひとつが、ヒーラー&リー社やシンシナティ旋盤会社といった
宛名でなく、ミス・ステラクロスターマン宛てになっていたら?なぜだ
めなんだ?彼女をデートに誘ううまい方法だ。コンガ氏が手紙を口述筆
記させるときの形式ばったビジネスレターのように書ければ、なにかの
目的のためにうまくしゃべれるようになる第一歩になるだろうし、今ま
で恥ずかしがり屋だと思われていたのは、ただの気まぐれだったと見な
されるようになるだろう。
      「ミス・ステラクロスターマン
      コンガ&ウェイ様方
      シンシナティ、オハイオ州
      親愛なるミス・ステラクロスターマン:」
 よく考える時間がなく、少し怖かった。つまり、少し考えて、心に決
めてしまったので、彼女がどう考えるだろうかとかどういう返事をくれ
るか心配し出した。ウィビロービィ氏が見てないことをさっと確認して、
デスクの引き出しから1枚紙を出して、ひらいたままの元帳の上に広げて、
書き始めた。自分の大きな誇りになっている、きれいなスペンサリアン

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書体で、デートという目的のために書いた。簿記係として、マーティは
単に適任というだけだった。コンガ&ウェイの簿記システムは、同様に、
シンプルというだけだった。
 マーティレインズは鈍感な少年だった。彼の前に何人かの登場人物を
登場させたが、彼は物語の要にかなめなっている。
 彼が鈍感な少年だというのは、なにも彼のせいではないし、仕事がそ
うさせていたのでもなかった。実存主義者は、もちろん、すべて彼の責
任だと言うだろうが、実存主義の思想は、1922年には、まだ台頭し
てなかった。フロイトもアメリカでは知識人にしか知られてなかった。
 語り手であるオレは、それは彼の母親のせいだと言いたい。陽気な1
990年代の終わりにかけて、彼女はバルチモアの売春宿の娼婦をして
いた。そこで敬虔な長老派教会のビジネスマンと知り合い、愛し合い結
婚した。しかし3年もしないうちに、彼は心臓発作で亡くなった。彼女
には、幼い息子と質素な生活なら暮らしてゆけるだけの財産を残した。
彼女は、そのように暮らすことにためらいはなく、過去の仕事に戻るこ
とはなかった。夫の宗教については、やめたわけではなかったが、それ
ほど熱心でもなかった。彼女のよくない過去への心からの償いつぐなの気持ち
から、過度に自分を責めていた。
 マーティに対しては、多くの者が無条件に信じる神を強く信じるだけ
でなく、女性の神聖さを強く信じるように教えた。彼女の教えによれば、

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純粋さは神にもっとも近い場所で生まれると言う。このことは、なんど
も強調された。考えることの純粋さは、おこないの純粋さと同じように、
とても重要だった。
 この信念を過剰投与されれば、どんな男でも曲げられてしまう。マー
ティは過剰よりもっと多く吹き込まれた。彼の父は、ふつうに良心的な
男で、生き、そしてまったく違う形の物を残した。最悪でもマーティは、
比較的健全なエディプスコンプレックスを発展させた。しかし、ほとん
ど覚えてない父を憎む理由がなかった。物については、全く違っていて、
長老派よりもカソリックを支持した。この場合には、処女マリアの崇拝
から、彼は、純粋な女性像をあがめることになった。それにより、彼の母
親も含めて、他の女性たちは、肉体および神聖さからは程遠いなにかで
作られていることを、見抜くことができた。物に支えられて、21にな
って彼は完全に、おこないと同様、考えることにおいて純粋だった。彼が
セックスの仕組みが分かっていなかったと言ってるのではなく、なにか
そこには嫌悪すべきものがあって、純粋に、少なくとも彼の意識下の心
では、そう考えるようにしつけられていたのだ。もちろん、彼はそれが
出産のために必要な行為で、種の保存につながるということを知ってい
た。もちろん、彼はそのことが分からない程おろかではなく、彼が今い
るのは、過去にそのようなことが行われたからということを知っていた。
彼の母親の結婚生活において、あとで彼の父親となる、見知らぬ男と。

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しかし、彼の心がシャイでその事実から離れたがって、それについて考
えるのをこばんだ。つまり、互いに愛し合っている結婚生活の場合は、事
情はまったく異なっていた。その行為が単独で行われようと、あるいは
基本的に出産のために行われようと。
 友好的でない精神分析医は、当時でさえ数少ないが、たぶんこう言う
だろう。マーティレインズは予想もされなかった、ただの事故で生まれ
てきただけで、装填した銃の引き金に髪が引っ掛かっただけだったと。
 しかし彼の母親は、彼はパーフェクトだと考えた。彼女の基準に照ら
して、そうだった。
 
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 1922年6月29日木曜日。いい天気だった。
 オフィスマネージャー、ジョフリーウィビロービィは、そのことに感
謝した。太陽は出ていて、暖かかった。ウィビロービィ氏は、暖かい日
を愛し、寒い日を憎んだ。彼に寒い日々が訪れたのは、自分の残りの人
生すべてを賭けて戦った、1917年から1918年の冬の4ヶ月だっ
た。4年半前は、塹壕ざんごうの中にいた。神に誓って彼が決心したことは、も
う2度と塹壕ざんごうには入らないということだった。たとえ殺されようとも。
彼の遺書は、それがなければ重要でもないが、埋葬ではなく火葬にして

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くれということだった。
 彼は少し身震いした。死だとか埋葬やら、軍隊や塹壕ざんごうのことを考えさ
せたのは、なんだったのだろう?死は、避けることができるなら、考え
ないでも済むものだ。塹壕ざんごうでの数ヶ月間を除けば、彼は軍隊でイヤな日
々を過ごしたわけではなかった。1917年の志願兵の中では、彼は年
齢が少し上の方で、少し優秀だった。事務の経験があったので、補給部
の仕事に回され、すぐに軍曹になって、フランスの港へ送り込まれた。
そこでは今とさほど変わらない仕事、それほどやっかいでもない仕事が
与えられた。その後、悪い時期に、彼は愛国主義の影響を受けて、世界
を救うために自分の生涯を捧げるべきだという大胆な考えを抱き、前線
に配置替えしてもらった。彼が犯した哀れな間違いによって、成し得た
ことのなんと少なかったことか!
 
               ◇
 
 彼のデスクから、オフィスの開いたドアを通して、いろいろ見ること
ができた。外廻りから戻った営業部のふたりが、デスクについていた。
窓から明るい日射しが差し込んでいるのが見えた。
 彼の視線は、窓から、ファイルキャビネットで忙しい、ステラに移っ
た。日射しを見ていたので、彼の目には日射しが残った。ステラは、明

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るく、暖かい日射しのようだった。もしも彼がもう少し若ければ━━━。
 本当のところ、それほど年寄りではなかったが、彼女は彼をたぶん中
年と見るだろうし、彼女は自分をどちらかというと少女と考えているだ
ろう。あまりにきれい過ぎて、彼女の年令の2倍にわずかに届かない男
や、結婚する気などまったくない独身者からも、からわれることはなか
った。
 その上、数年前、彼がオフィスマネージャーになってすぐ、彼の下で
働く女性を口説いたり、デートに誘ったりは決してしないとかたく決心し
た。そのことを今思うと、「彼の下で働く」というところが、苦しいシ
ャレに思えて、ニヤリとした。ウィビロービィ氏は、シャレや2重の意
味を楽しめる心を持っていて、無理やりのこじつけでさえ楽しんだ。ぎ
りぎりのきわどさを楽しむために、多くの人から心が汚いと言われなが
らも、彼は言葉遊びを楽しんだ。きれいなものであっても。同様に、色
気さえ、きわどさを増してくれるものだった。
 色気があろうがなかろうが、彼は言葉を愛していた。精神的にそれら
と遊ぶことを愛していた。輪でそれらを遠くに跳ばしたり、さかさまに
したり、あるいは、道に迷わしたり。今朝のように、速記タイピストの
メアリーホートンが、デスクサイズもある計算機を両腕にかかえてオフ
ィスを横切って、ウィビロービィ氏の方へ運んでいた。メアリーは計算
機を胸に押し付けていた。そう考えると、明るい1日がさらに明るくな

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ったように彼には思えた。
 ウィビロービィ氏は、言葉の連想や乖離かいりを愛していた。彼はかつては
優秀な語源学者であった。それに真剣に取り組んでいたという意味でだ
が。語源学について言うと、彼はかつて、とても若いころ、虫を研究す
る、昆虫学の言葉と混乱する傾向があった。結論として彼は、~する人
を表すエントが、昆虫学の蟻のエントと同じことに突然気づいて、幸せ
な気分になった。
 誤植による間違いは、2重の意味を持てば、彼をおおいに喜ばせるチ
ャンスだった。
 
 
 
                            (つづく)








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