タワー
「東京駅まで!」と、料亭のおかみさんふう女性。
「ここからだったら、新目白通りを抜けてゆくのが断然早いわよ!」
「いいわ、私が教えてあげる!そこの高戸橋を右に曲がって新目白通り
に入ってくれる?」
「高速道路に沿って、飯田橋を抜けて」
「皇居に出たら、お堀ぞいに行くと」
「ほら、東京タワーが一番よく見える場所に出るから」
「ここで左折すれば、正面が東京駅よ!」
「あら、今夜のタワーは、ずいぶんブルーなかんじだこと!」






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          おもふ雲
「それって、なんなの?」と、女の子。
「どれ?これなら、安全の全の字よ」と、お母さん。
「金の字かと思った!」
「あら、金の字も忘れてしまったの?最近、覚えたばかりじゃない?」
「知ってるわよ!ただ、金の字をそう書く人もいるのかなって思ったの」





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          銀座
「シンカワの住友ビルの第2の方」と、ビジネススーツの女性と男性。
「すいません、シンカワって何です?」
「シンカワ知らないの?私、このまま降りる!すぐ降ろして!」
「ははっ」と笑う部下の男性と降りていった。






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          サブリナ
「銀座のホコテンって、何時まででしたっけ?」と、スラックスの女性。
「歩いてばかりで疲れてしまって」
「近くて悪いんだけど、有楽町のビックカメラまで」
「車では入れないかしら?」
「いいわ、そこで停めて。じゃ、また!」





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          交通公園
「近くで悪いんだけど」と、広尾の女性。
「天現寺インターの近くまで行って!」
「ここ左折してすぐ、パーキングのところで停めて!」
女性が降りると、親子連れ。
「バスに乗ったら、逆方向に曲がってしまって、いいかしら?」
「どうぞ」
「いつも目黒行きのに乗るんですけど、バスの案内の方がどれでも行く
って言うから、新橋行きのに乗ったら、全然逆の方に行くから」
「そうですね、逆かもしれませんね?」

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「外苑西通り沿いなんですけど」
「バスの運転手さんが間違ったの?」と、男の子。
「運転手さんは間違ってないわよ、違うバスに乗ってしまっただけ」
「じぇったい、ここをこう曲がって、こう行って」
「意外とバスって、希望通り曲がってくれないものね」
「そうですね、この通り沿いですね?」
「そう、このあたりで停めてください」
男の子はぐっすり眠り込んでいた。
「あら、起きなさい!着いたわよ!」
「どちらに行かれたんですか?」
「交通公園で遊んでいたからすっかり疲れて」
親子連れの後は、若い女性。
「芝浦まで、わかるかしら?ここを右に曲がって、慶應義塾大学に出た
ら、また右に曲がって、札の辻を渡って」
芝浦に出ると、以前はただの埋立地で何もなかったところに高層マンシ
ョンがいくつも立ち並んでいた。
「ガードレールが切れたところで停めてください!」
芝浦がこんなに変わっていたとは!そういえば、レインボーブリッジか
ら見る夜景は、高層ビルが立ち並んで、手塚治虫が描いた未来都市のよ
うな気も。

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          新宿御苑
「新宿御苑まで」ホストとホステスの4人組、
1・2分で到着。
「そのコンビニの前で停めて!」
「ハイ、料金は7100円でございます!」
「ウフ、マスター、また、ボケかませられたわ!」
「あ、間違えました!710円でした!」
「━━━」



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          歌舞伎町
「歌舞伎町のドンキまで」背の高いホステスふう女性。
「ここは左折します?」
「まっすぐ行って!」
エルタワーの突き当たり。
「ここはまっすぐじゃないですよね?」
「━━━」
「左折しまぁす!」
歌舞伎町のドンキに来ると、おじぃさんが自転車に乗っていた。
「ドンキに来ましたけど」

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「前に停めて!」
「あ、おじぃさんが、おじぃさんが」
タクシーの群れの前を、よろよろと。
「あははは、ボケのタイミングが後ろにずれまくってて、おもろいわぁ」

















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          飯倉町五丁目
「歌舞伎町の風林会館まで!」ホステス2人を連れた会社員ふうの男性
2人。
「う~ん、この写真は、やばいんじゃないの?」と、助手席に座った男
性。運転者証をはずして眺めていた。
「暗いというか、なんというか、自分で撮ったの?」
「暗い方が、影があって、いい男に映っているかも?」若いホステスの
ひとり。
「それにしても、この写真は暗すぎる!運転手さんはハタチくらい?」
「ハイ、27です!」

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「へぇ~、やっぱ若いね!」
「若いのに、暗くて、まだ、成仏してないのって悲しいわね!」
「早く、成仏してください!」


















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          汐留
「汐留の日本テレビまで!」辛口評論家ふう男性。
「最近はタクシー運転手の質が落ちてるよね!水増し経営ってやつかね
?」
「運転手さんは汐留まで行ったことあんの?」
「それじゃあ、昭和通りから行って」
「昭和通り曲がる時にいちいち断わる必要ないんだよ。有名なんだから」
「平成通りや明治通りもあるって?関係ねぇだろう!」
「いいから、トンネルで行って!トンネルぐらい知ってんだろ?ほら、
すぐ右寄せて!」

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「あ、ウィンカー出してすぐに車線変更したら危ないだろうが!」
「トンネル出たら、すぐコンビニのとこ入って!」
「早くウィンカー出さなきゃ左曲がれねぇだろうが!」
「日本テレビの前で停めて!ところで運転手さん、メーターまだ入って
ないんじゃない?」
「だたいまから、メーター入りますってか?どうでもいいから、領収証
ちょうだい!」














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          磯子
「駅まで!」会社のお偉いさんふう男性。
「飲んだぁ、飲んだぁ!もう62だってのに、こう仕事させられては飲
まずにはいられねぇわな。
運転手さんはいくつなの?」
「27です」
「28かぁ、うちの娘と同じだわ」
「27です」
「28かぁ、若いと肌のつやが違うね、うちの娘もめちゃめちゃいい体
してるよ」

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「27です」
「ところで、運転手さん、うちは磯子なんだけど、1万でいってくれる
なら、今払うよ」
1万円札を預かって、芝公園から高速に入って、湾岸で横浜抜けて磯子
まで行くと、1万8千円を越えていた。
「そこそこ、そこのバーの前で停めて!」
「さぁ、まだまだ飲むぞぉ!」














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          久が原一丁目
「この前、ぞっとする話ってのをテレビでやっててさ」深夜乗ってきた
ふたりの若い男性。
「タクシーの運ちゃんが仕事終えて営業所に戻ろうと」
「深夜の誰もいない住宅地で信号待ちしていると」
「髪の長い女性が、いつの間にか、うしろに乗っていて」
「駅までっていうので、近くの駅まで行くと」
     ◇     ◇     ◇
「もっと、ずっと、遠くの駅よ!この道、まっすぐ行って!」と、髪の
長い女性。

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女性の言うとおりタクシーを走らせていると、道も定かでない、街燈も
まばらな真っ暗な場所に来た。
「まだ、先ですか?」
「そうよ、まだ先よ」と、髪の長い女性。
「ここから先は、ただの樹海ですよ。駅なんてありませんよ」
「私の終着駅があるのよ」
と言って、女性は車を降りて、樹海で首を吊った。
このまま女性を残して帰っていいものか迷ったが、支払いは済んでいた
し営業所に戻ることにした。
バックミラー越しに、樹海で成仏しきれずに佇む女性の姿が見えた。
「大海八尋よ。おおうみやひろ、覚えておいて!」
 
 
 



 

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          ニュー芝浦
「わたしが幽霊になって、あなたの夢に出てくるですって?」と、大海
八尋。
ニュー芝浦エアポートは、行き交う人でごった返していた。
「そうなんです、しかも僕は僕で、21世紀のタクシードライバーとや
らをやってる夢なんです!」
「あなたも21世紀かぶれになったわけ?今は121世紀よ、そんな1
万年も前の古代文明を知ってなにになるっていうの?いつからそんな夢
を見るの?」
「やはり、1万年アニバーサリーが始まってからでしょうか?」

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「その幽霊、ご職業は?」
「幽霊に職業があるのかわかりませんが、生前はやはり、キャビンアテ
ンダントでしょうか?あの気の強さから察するに」
「どういう意味よ、CAがみんな気が強いってわけじゃないのよ!それ
にその頃って、1万メートルくらいの地べたをうようなところをウロ
ウロしてたっていうじゃない?」
「タクシードライバーはそのまま地べたをってたようです」
「なにがおもしろいっていうのかしら?宇宙人とのファーストコンタク
トもなかった時代、銀河間航行もなかった時代、21世紀ブームって、
誰が仕組んだことかしら?ところで早いとこ、発ってくれる?」
「ハイ、ワープナビの進行でまいります!」
「アンドロメダのインターギャラクシーターミナル(銀河間空港)に着
いたら、2日後にまた迎えに来てよ!そのころまでに、あなたの幽霊の
夢、どう進展してることかしら?」
 
 
 
                            (終わり)



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