聖なる神殿の謎
               リックバーマン、マイケルピラー
                
            プロローグ
             
 宇宙暦43997、エンタープライズ艦長、ジャンルックピカードは、
連邦の敵ボーグにされ、改造手術を受けた。ボーグに操られたピカ
ードは、宇宙艦隊に対し、攻撃をしかけた。
「抵抗は無駄だ!」と、ピカードは、ボーグ船のブリッジから呼びかけ
た。
「直ちに、武器を捨て、我々を、セクターゼロゼロワンへ誘導しろ!命
令に従わぬ場合は、おまえの船を破壊する」
「非常警報!光子魚雷装填!フェーザー砲、用意!」と、バルカン人の
副官。



 

2

1
























































「アルファポジションへ移動しろ!」と、シスコ中佐。
 一隻のボーグ船に、四隻の連邦の艦船が攻撃をしかけるが、一隻破壊
され、もう一隻がレーザービームに捕らえられた。
「捕捉されました」と、女性士官。
「防御シールドを強化!」と、シスコ中佐。
 二隻がボーグ船にレーザービームを浴びせた。
「防御シールド、パワー低下!」と、女性士官。
「64パーセント、42パーセント」
「波動を修正して、回避させろ!」と、副官。
「波動調整、効果ありません」と、ボリアン人士官。
「シールド消失しました!」と、女性士官。
「全力反転!」と、シスコ中佐。
「全員、配置に」
 ブリッジは、次々に被弾し、クルーは全員なぎ倒された。
「被害報告!被害報告!」と、シスコ中佐は、立ち上がりながら言った。
 応答する者は、誰もいなかった。
「警告!」と、コンピュータが言った。
「ワープコア、破損。あと、五分で爆発します」
「第一デッキから、第四デッキまで被弾しました」と、ボリアン人士官。
「居住区の人間を、脱出用の船に誘導しろ!」と、シスコ中佐。

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3
























































「了解!」
「荷物をあきらめるんだ!すぐに緊急用エリアに行け!」
「警告!ワープコア、破損。あと、四分で爆発します」と、コンピュー
タ。
「ドラ!」と、シスコ中佐は、女性にいた。
「彼女は、私が連れてゆきます」と、ボリアン人士官。
「ジェニファーを見なかったか?」
 シスコ中佐は、破壊された船でジェニファーを捜した。
「ジェニファー!ジェイク!」
 シスコ中佐は、瓦礫の下からジェイクを助け出した。
「警告!ワープコア、破損。あと、三分で爆発します」
「待ってろよ、ジェイク、ママを助けてくる!」
 シスコ中佐は、瓦礫の下に倒れているジェニファーを見つけた。
「ジェニファー!いいか、ジェイク!ママを助け出したら、すぐにここ
を出るぞ!」
「シスコ中佐!」と、ボリアン人士官。
「手を貸せ!」と、シスコ中佐。
 ボリアン人士官は、ジェニファーの容体をポリコーダで調べた。
「ジェニファー、しっかりしろ」
「中佐!」

6

5
























































「手を貸せ!」
「息がありません!もう、手遅れです!避難してください!」
「警告!ワープコア、破損。あと、ニ分で爆発します」
「少尉!この子を頼む!」と、ボリアン人士官。
「中佐、行きましょう!」
「だめだ、妻を置いて、行けるものか!離せ!離せ!」
 シスコ中佐は、抱きかかえられてシャトルの船内へ運ばれた。
「ジェイク!大丈夫だったか?」
「発進準備完了!」
「発進!」
 シスコ中佐は、シャトルの窓から、船がボーグ船に捕らえられたまま
爆発するのを見た。
 
               ◇
 
 宇宙暦46379・1。三年後。
 ジェイクは、森の中の池で釣りをしていた。
「ジェイク、ここにいたのか、釣れたか?」と、シスコ中佐。
「釣れたけど、帰してやった。ねぇ、泳ぐにゆく?」と、ジェイク。
「いや、もう、到着の時間だ。そんな顔するな!これから行くベイジョ

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7
























































ーは、きれいな星だぞ」
「でも、僕らが住むのは、星じゃなくて、オンボロのステーションでし
ょ?」
「ベイジョー星の軌道にあるステーションだ、星に住むのと変わらない
さ」
「子供いるかな?」
「いるさ、おまえくらいの子も、たくさんいる!」
「シスコ中佐!」と、通信バッジの声。
「はい、艦長」
「ディープスペースナインに接近中、ドッキングは七分後だ」
「了解!」
「行こう!ステーションの中でも、また、釣りはできるさ。コンピュー
タ、プログラム終了」
 シスコ中佐は、ジェイクを連れて、ホロスイートを出た。
「あれが、そう?」と、ジェイクは、宇宙船の窓に浮かぶディープスペ
ースナインを見て言った。





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9
























































            1
 
「ステーション日誌、ディープスペースナイン、ベンジャミンシスコ中
佐、宇宙暦46388・2。カーデシア占領軍の撤退後、ベイジョー臨
時政府は、惑星連邦に、駐屯軍の派遣を要請した。これを受け、以後、
ディープスペースナインに駐留する。第一部隊は、二日前に、エンター
プライズで到着した折、メンバーの中には、オブライエン、テクニカル
チーフもいる」と、シスコ中佐の日誌。
 シスコ中佐は、ジェイクとチーフオブライエンと共に、ディープスペ
ースナインに入った。
「カーデシアは撤退の前に、この基地でひと暴れしていったらしいです
よ」と、オブライエンは、言った。
「抵抗したベイジョー人が四人殺されたとか」
「なぜ、誰も片付けないんだ?」と、シスコ中佐。
「みんな、システムの修理に忙しくて、こっちまで手が廻らないんです。
めぼしいものは、すべて、カーデシア人に取られて、ステーションはか
らっぽですよ。キラ少佐からもお話があると思いますが、キラ少佐とい
うのは、あなたの補佐官に任命されている方で」
「わかっている。店を壊された経営者たちはどうしている?」
「建て直そうとする者もいますが、ほとんどは再建をあきらめて、ステ

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ーションを出て行く気です」
「ようこそ、中佐」と、ベイジョー人の僧侶は、僧院から出てきて、シ
スコ中佐に言った。
「どうぞ、中へ。預言者がお待ちです」
「今は、忙しくてな」
「では、また」
 
               ◇
 
 三人は、シスコ中佐とジェイクのために用意された室に入った。
「うちの妻のケイコは、ここへ来て、室を見るなり、地球へ帰ると言い
出しましてね。息子さんも、あちこち、うろつかない方がよいかと。安
全面で問題がありますから」
「パパ、ここで、どうやって寝るの?床にクッションが置いてあるだけ
だよ」と、ジェイク。
「ああ、エンタープライズからベッドを運ぶから大丈夫。それと、中佐、
ピカード艦長が、お会いしたいとおっしゃっていましたが」
「艦長が?医療チームと科学チームは、まだ、着かないのか?」
「明日、着く予定です」
「ジェイク、戻るまで室で待っていろ!」

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13
























































「ねぇ、これ、フードレプリケータ?」と、ジェイク。
「今は、故障中で使えない。でも、非常食がたっぷりあるから、後で届
けるよ」
「パパ!」
「最近の非常食は捨てたもんじゃない。しばらくの間、がまんしろ」
「オーケー」
「オーケー?」
 ジェイクを室に残し、シスコ中佐は、オブライエンと司令部に入った。
「まったく、妙な作りで、設計した奴の気が知れませんよ」と、オブラ
イエン。
「どこになにがあるかわからなくて、修理に手間取っています。あそこ
が、司令官のオフィスです」
「じゃぁ、ここにいたら、カーデシア建築を、毎日拝まなきゃいけない
わけか?」
「ええ、今は、キラ少佐が使っています」
「私の気のせいかな、なにか、やけに暑くないか?」
「温度調整機の故障で、32度から下がらないんです、修理中ですが」
「私は、臨時政府の権限には反対です」と、オフィスからキラ少佐の声。
「何を言うんだ?」と、オフィスのコンソールの声。
「べイジョーは、独立してやってゆくべきです」

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15
























































「キラ少佐にあいさつしてくるか」と、シスコ中佐。
「中佐、ベイジョーの女性と仕事をしたことはありますか?」
「いや、なぜ?」
「深い意味は、ありません」
「これじゃ、なんの意味もないでしょう!」と、キラ少佐の声。
「そんなことはないだろう」と、コンソールの声。
 シスコ中佐は、オフィスに入った。
「こんなやり方では、なにもかも、水の泡です。わからないんですか!」
「君はどうかしている」と、コンソールの声。
「そう思うなら、今後、私には、意見を求めないでください!」
 キラ少佐は、通信コンソールを切った。
「なに?」と、キラ少佐は、入り口に立ったシスコ中佐に言った。
「ベンジャミンシスコだ」
「室を明渡せって?」
「いや、確かに、それもあるが、その前に顔を見て、挨拶をしようと思
ってね」
「ご丁寧に!」
「なにか問題でもあったのか?」
「聞かない方がいいと思いますよ」
「どうして?」

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17
























































「私は、本当のことを、づけづけ言いますから。人が聞きたくないこと
までね」
「是非、聞きたいな」
「私は、連邦の駐屯軍を置くことには、反対です!」
「ベイジョーの臨時政府の要請だ」
「私は、政府の連中とは、ことごとく意見が対立するの。だから、こん
な、ステーションに送り込まれたんだわ。私たちはね、ベイジョーの独
立のために、子供の頃から銃を持って戦ってきた。そして、やっと、カ
ーデシアを撃退したと思ったら、政府の連中が、今度は、連邦の部隊を
引っぱり込もうっていうのよ」
「連邦は、援助したいだけだ」
「援助ね、援助のため。カーデシアも、60年前、同じことを言ったわ」
「少佐、私はこの任務を受けた時、補佐官にベイジョー人を付けてくれ
と頼んだ。ここは、ベイジョーだ。ベイジョー人の意見を尊重したい。
どうかな?これから、お互い、協力し合って、うまくやっていこう」
 コンソールが警報を鳴らした。キラ少佐は、オドー保安主任を呼び出
した。
「はい、少佐」と、オドーの声。
「オドー、エリア814で何かあった?」
「保安センサーが故障で、わかりません、現地に向かいます」

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19
























































「最近、犯罪が多発してて。失礼して、見てきます」
 
               ◇
 
 プロムナードにある無人の医療室に忍び込んで、ノーグと老人が盗み
を働いて出てきた。
「急げ、急げ、行くぞ」と、ノーグ。
「よおし、ふたりとも、そこを動くな!」と、オドー。
 ふたりは、通行人を突き飛ばして逃げようとした。
「やめなさい!」と、キラ少佐。
 老人は、錘 おもりの付いた鎖を回してオドーに投げつけたが、武器は、流体
化したオドーの頭を貫通して壁に突き刺さった。老人は逃げようとした
が、オドーに取り抑えられた。シスコ中佐が、威嚇のためにフェーザー
を発射して、近くの壁に当たった。
「そこまでだ」と、シスコ中佐。
「おまえは、なにものだ?」と、オドー。
「オドー、連邦から来た指揮官よ」と、キラ少佐。
「このプロムナードでは、武器は使用禁止だ。もちろん、フェーザーガ
ンもな」と、オドー。
「ノーグ、なにをしている」と、クワーク。

22

21
























































「この小僧は、こそ泥を働いた」と、オドーは、ノーグの腕をつかんだ。
「中佐、おれは、クワークだ。前は、このプロムナードでカジノをやっ
てた。この子は、おれの甥っ子なんだ。かーっ!」と、クワークはノー
グに威嚇した。
「見てのとおり、まだ、子供だ。ちょっとしたでき心でやったことだと
思う。おれたちは、明日、ここを出てゆく。この子は、おれから、きつ
ーく叱っておくから、今回はおおめに見て、引き取らせちゃくれないか
?」
「いやぁ、そうは、いかない。連行しろ!」
 オドーは、ノーグを連行して行った。クワークは店に戻っていった。
「あんなこと言ってるけど、命令したのは、クワークに決まっているわ」
と、キラ少佐。
「少佐、フェレンギ人と付き合うには、うまく取引しないとね。あの子
を釈放する代わりに、クワークにある仕事をやらせるつもりだ。重要な
仕事をね」
「オブライエンから、シスコ中佐」と、通信バッジの声。
「なんだ?」
「エンタープライズより、通信が入りました。ピカード艦長がお待ちだ
そうです」
「了解した、すぐに戻る」と、シスコ中佐は、キラ少佐に言って、デッ

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23
























































キに向かった。









            2
 
 エンタープライズ号の艦長室のチャイムが鳴った。
「入れ!」と、ピカード艦長。
 シスコ中佐は、艦長室に入った。
「シスコ中佐、待っていたよ、ジャンルックピカードだ」
「おひさしぶりです、艦長」と、シスコ中佐。
「前に会ったか?」
「はい、艦長。三年前、ボーグとの戦いの時、私は、サラトバに乗って
いました」

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25
























































 それには、ピカードは、答えず、言った。
「カーデシア軍がベイジョーに対して、何をしてきたかは知っているな
?」
「はい、奴らは、ベイジョーの星の資源を、吸い取るだけ吸い取り、も
う何も残っていないとみるや、撤退を決めたのです」
「こんな状態の星では、残されたベイジョーは、生きてゆくすべもない。
我々が救援物資を送っても、とても、足りはしない。だが、ベイジョー
はいい種族だ。彼らが、連邦に加盟してくれれば、援助ももっとできる
のだが」
「加入するでしょうか?」
「簡単にはゆかない。彼らも内部分裂している。今までは、カーデシア
という共通の敵がいたから、うまくまとまっていたのだが」
「では、時期尚早ですね」
「内政干渉にならん範囲で、彼らの連邦加入の準備を整えるのも、君の
任務だ。中佐、この任務の話があった時、君が、一度は断ったことは、
聞いたよ。だが、三年もずっと、ユートピアプラネットの造船所で、平
和に暮らせば、そろそろ、変化が欲しい頃だろう」
「息子のジェイクのことがありますから。ここは、子供には、よくあり
ません」
「残念だが、宇宙艦隊の士官には、自分の任務地を選り好みする権利は、

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27
























































与えられていない」
「じゅうぶん、わかっています。ですから、地球に戻り、非戦闘員とし
て働ける道を探しています」
「宇宙艦隊司令部に、君の交代要員を要請すべきなか?」
「そのほうが、よろしいかと」
「考えておく、だが、それまでは」
「いうまでもなく、それまでは、全力を挙げて任務の遂行に勤めるつも
りです、艦長!」
「下がっていい」
 
               ◇
 
 シスコ中佐は、オドーの保安オフィスにクワークを呼び出した。
「別に難しい条件じゃない。出発を取りやめろ!」と、シスコ中佐。
「取りやめろだ?荷造りだって全部済んでるのに」と、クワーク。
「ほどけばいい」
「いったい、どういう風の吹き回しだ?なんで、おれを、置いときたい
?」
「私も、そこが、わからん」と、オドーは言った。
「こいつは、ギャンブラーで泥棒ですよ」

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29
























































「泥棒じゃない」と、クワーク。
「いいや、おまえは、泥棒だ」
「だったら証拠を見せてみろ!なんにもつかんでいないくせに、ふざけ
るな!」
「まぁ、聞け!」と、シスコ中佐は言った。
「私の部下や、ここに住むベイジョーの人たちにとって、このプロムナ
ードは、交流の場であり、いこいの場だ。もし、きみたちが皆、店を閉
めたら、ここは、ゴーストタウンと化してしまう。だから、誰が町の復
興に立ち上がってくれる人物が必要なんだ。町を見捨てずに、先頭に立
ってみなを引っぱってゆく力のある者が欲しい。君ならできる」
「はははは、はははは、このおれが!」
「悪くはないな」と、オドー。
「おまえには、政治家みたいなところがある。向いてるよ」
「おれに、連邦の管理下に入って、商売をやれっていうのか?とんでも
ないね、お断りだ」
「ここは、ベイジョーのステーションだ。我々は援助してるだけ。君が
法を守っている限りは、口出しはしない」
「中佐、おれはな、潮時しおどきってものを心得ている。今のベイジョーの臨時
政府は、危なっかしくて、とてもじゃないが、長居する気にはなれない
ね。今の政府が倒れたら、おれみたいなものは、真っ先に、処刑される」

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31
























































「危険な賭けだ。だが、君はギャンブラーなんだろ?クワーク」
「ついでに、泥棒だ」と、オドー。
「なぁ、クワーク、このままいけば、君の甥っ子は、ベイジョーの刑務
所で、一生を過ごすことになる。私にも息子がひとりいる。だから、で
きれば、子供に、つらい思いはさせたくない。家族のもとから引き離さ
れて、冷たい監獄で暮らすなどとはな!よく考えろ!君次第だ」
 それだけ言うと、シスコ中佐は、保安室を出て行った。その後姿を見
ながら、オドーは言った。
「最初は、私も、いけ好かない男だと思ったよ」
 
               ◇
 
 キラ少佐は、上着を脱いで、プロムナードの片付けをしていた。
「少佐」と、シスコ中佐。
「みんな、修理に忙しくて、片付ける人がいないから」と、キラ少佐は
言った。
「宇宙艦隊の士官は、手を汚すのは嫌いでしょ?」
 シスコ中佐は、自分から片付けを始めた。
「避難キャンプではね、なんでも手があいたものがやるのよ、階級は関
係ないわ」

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33
























































「さっき、クワークと少し話しをしてきた。奴は、政府が倒れると踏ん
でいるらしい」
「クワークの読みは、よくあたるの。今の政府は、もって、一週間って
とこね」
「その後、ベイジョーはどうなる?」
「内戦ね」
「内戦を避ける道は?」
「あるとしたら、オパカだけね」
「オパカ?」
「宗教的指導者よ。カイオパカというの。信仰心だけが、ベイジョー人
全体をひとつにできるの。オパカが統一を唱えれば、みんな聞くわ。だ
から、どのセクトも彼女を手に入れようと、やっきになっている。それ
で,身を隠して、めったに現われないの」
「中佐、預言者がお呼びです」と、ベイジョー人の僧侶が顔を出して言
った。
 
               ◇
 
 シスコ中佐は、ベイジョー星の中心地にある僧院に入った。
「よく来てくれました。ひどいありさまで驚かれたでしょ?」と、カイ

36

35
























































オパカ。
「カーデシアの仕業?」
「あなたが来てくださるのを待っていました。パールは探求したことが
ありますか?」
「パール?」
「パールとは、自分自身の内面。精神の世界です。預言者は、人々を、
パールへと導きます。息を吸って」
 カイオパカは、シスコ中佐の左耳を指で強くつまんだ。
「カイオパカ、それより話が」
「息を吸って」
「皮肉ね。あなたは、ここでの任務を、望んでいなかった、いっしょに
いらっしゃい」
 カイオパカは、僧院の噴水に手をかざすと、そこに階段が現われた。
ふたりは、階段を下っていった。
「たしかに、ベイジョーは大きな危機にあります。しかし、なによりうれ
うべきは、精神の荒廃です」
「だとしても、私では、なんの力にもなれない」
「中佐、自分を否定しては、答えは見つかりません」
「何のことです?」
「答えは、自分の中にあるのです。こちらへ」

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37
























































 カイオパカは、発光体の扉をとびら開けた。
「これは?」
「預言者の涙」と、カイオパカは言って、シスコ中佐を残して戻ってい
った。
 シスコ中佐は、発光体を見ると、彼は、水着を着て、地球の砂浜にい
た。
「いったい、どうなっているんだ?オパカ、ああ、熱い!」
 砂浜は焼けるような熱さで、持っていたレモネードのお盆を置くため
に、シートの上に飛び乗った。
「ちょっと」と、シートの上にうつぶせにいた女性は、迷惑そうに言っ
た。
「失礼!足が熱くて、ジェニファー?」と、シスコ中佐。
「そうだけど?」
「ほんとに?」
「あなた、誰?見覚えないわ。きのう、ジョージのパーティーにいた人
?」
「ジョージ?ジェニファー、そんなバカな、こんなことありえない」
「あなた、大丈夫?」
「覚えているぞ、ここは、君と初めて会ったビーチだ」
「前に会ったことある?」

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39
























































「あの時も、レモネードを持ってた。砂が焼けるように熱くて、ここで
思わず止まって、ああ、すごい奇跡だ!信じられないよ!はは、ははは
は、そうか、君は知らないんだね?ジェニファー、飲まないか?」
「でも、見ず知らずの人に、いきなり、飲み物を渡されても、私、もら
えないわ」
 ジェニファーは、立ち上がって砂浜を歩き出し、シスコ中佐は、いっ
しょに脇を歩いた。
「本当は、なんなの?私たち、どこかで会った?」
「いや」
「じゃ、なんで名前、知ってるの?」
「ああ、それは、ジョージに聞いたんだ、パーティーで」
「あなたの名前は?なんていうの?」
「ああ、ベンジャミンシスコ、艦隊アカデミーを卒業したばかりで、配
属が決まるのを待っているんだ」
「ああ、士官候補生ね」
「そう」
「ええ、ママがいつも言ってるわ、士官候補生には気をつけろって」
「君のママだって、僕を見れば、ひと目で気に入るさ」
「ははは、ずいぶん、自信家なのね」
「断言するよ、君は、僕と結婚する」

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41
























































「いつも、そのせりふで、女の子をくどいているの?」
「いや、初めてだよ、これが、最初で最後だ」
「本気?」
「ああ、そうだ、今夜、食事に来ないか?君のために腕をふるうよ。お
やじがシェフなんだ。直伝じきでんのシチューをご馳走する」
「うふふ、そう、言われても」
「いいから、イエスって言ってくれよ!」
「あとで、後悔、しないかしら?」
「ははは」
 発光体が現われて、シスコ中佐をベイジョーの僧院へ戻した。
「ジェニファー!」
 カイオパカは、発光体の扉をとびら閉めた。
「これと、同じような、発光体が、この一万年の間に、全部で九体、宇
宙に出現しました。八体は、カーデシアの手にあります。彼らより先に、
テンプルを捜しだしてください」
「テンプルとは何です?」
「伝説として語られている、聖なる神殿のことです。それを捜す手掛か
りは、この発光体にあるのです。カーデシア人も、やっきになって、こ
の謎を解こうとしています。彼らに、テンプルを見つけられたら、おし
まいです」

44

43
























































「でも、私に、どうやって、テンプルを捜しだせと?」
 カイオパカは、発光体をシスコ中佐に手渡した。
「道しるべです」
「カイオパカ、でも」
「テンプルの謎を解かねば、ベイジョーの統一は不可能です。見つけ出
してください。ベイジョーのためでも、連邦のためでもなく、自分のパ
ールのために!あなたが、ここへ来たのは、運命があなたを導いたから
です」


            3
 
 シスコ中佐は、ステーションの自室に戻ると、床で寝ていたジェイク
に毛布をかけた。
「うん、なぁに?」
「顔を見てた、ママに似ているなぁって」
「シスコ中佐!」と、通信バッジから、キラ少佐の声。
「どうした?」
「おやすみのところ、すいませんが、プロムナードまで来ていただけま
すでしょうか?」

46

45
























































「わかった」
 
               ◇
 
 シスコ中佐は、ターボリフトを降りて、プロムナードのクワークの店
へ入った。店は、多くの人で賑わっていた。
「さぁ、賭けて!一攫千金も夢じゃないからね」と、ロムは客に呼びか
けていた。
「ダーボ!」と、女性の声。
 シスコ中佐は、クワークの店の賑わいに満足して、カウンタに腰掛け
た。
「いやぁ、中佐、何を飲む?」と、クワーク。
「ベイジョーのシンセール!」と、シスコ中佐。
「ああ、やめときな!ベイジョー人っていうのは、信仰もあつい連中だ。
でも、奴らの作る酒は、最低だ。信心深い奴らの作った酒は、飲めたも
んじゃない。子供を牢屋にぶちこむような、連邦の士官の酒もな!」
 
               ◇
 
「ステーション日誌、宇宙暦46390・1。エンタープライズは、小

48

47
























































型艇三隻をディープスペースナインによこし、次の任務地であるナポリ
ス星系へと出発する。一方、医療チームと科学チームのメンバーが到着。
その中には、私の古い友人も含まれている」と、シスコ中佐の日誌。
 四人は、エアロックから出てきた。
「おふたりに、ステーションの中をご案内しますか?」と、キラ少佐。
「じゃぁ、ドクターベシアを案内してくれ。ダックス中尉には、すぐ、
仕事にかかってもらう」と、シスコ中佐。
「ダックス中尉!」と、ドクターベシアは言った。
「あの、よかったら、今夜いっしょに、食事でも。それか、一杯飲むだ
けでも」
「ええ、喜んで」と、ダックス中尉は言って、シスコ中佐と研究室へ向
かった。
「君には、ちょっと、若すぎるんじゃないか?」と、シスコ中佐。
「彼は、27、私は、28」
「本当は、328才なんだろ?君が、地球人じゃないことは、話したの
か?」
「ええ、トリル族なのって言ったら、彼、素敵だって言ったわ。結合体
の種族は、初めて見るって」
「でも、もし、君の昔の姿を見たら、素敵だなんて、絶対、言わなかっ
たろうな」

50

49
























































「そうでしょうね」
「うーん、それにしても、大変身だな」
身体からだは変わっても、中味はおんなじままよ、ほとんどね」
 
               ◇
 
 キラ少佐は、ドクターベシアを医療室に案内した。医療室は、散らか
り放題であった。
「ステーション内で、窃盗が横行しているの、ここも荒らされたみたい
ね」と、キラ少佐。
「まさに、理想的な環境だ!これこそ、真の辺境医療だ!」と、ドクタ
ーベシア。
「辺境医療?」
「実は、僕は、志願してここへ来たんですよ」
「あら、そう?」
「楽な仕事や研究には、興味はない。僕は、こういうところで働きたか
った。銀河の果ての辺境の地。冒険とロマンに満ち溢れ、英雄が生まれ
る場所!未知の世界が僕を待っている!この、未開の星や、夢をかき立
てる」
「その未開の星が、私の故郷よ」

52

51
























































「あ、僕は、その」
「カーデシアのおかげで、負傷者が山ほど出ているわ。治療してくれれ
ば、あなたに、心から感謝してくれると思うわよ、なんせ、素朴で単純
な連中だから」
「ひゅー」
 
               ◇
 
 シスコ中佐は、研究室で、ダックス中尉に発光体を見せて、言った。
「ベイジョーの僧侶たちは、一万年にわたり、この発光体の研究を続け
てきた。データバンクとインターフェースをつないで、その資料を引き
出してくれ!」
「きっと、手掛かりになるわ」と、ダックス中尉。
「大急ぎでやってくれ!残りの八台は、カーデシアの手にある。奴らも、
あらゆる手を尽くして、謎を解こうとしているはずだ、先を越されるな
!」
「ベンジャミン!あなたの元気そうな顔を見て、安心したわ。心配して
いたのよ」
「また、会えて嬉しいよ、おやじさん、へへへ」
「うふふふ」

54

53
























































 ダックス中尉は、シスコ中佐が研究室を出てゆくと、仕事にとりかか
った。
「コンピュータ、発光体に関するすべての資料を検索してちょうだい!
ベイジョーの領域における未解明の天文現象も含めて拾い出して!」
「対象期間は?」と、コンピュータ。
「一万年!」
「データ検索開始。所要時間は、およそ二時間です」
 ダックス中尉は、発光体を見た。次の瞬間、彼女は、医療室に横にな
って、共生生物の移植手術を受けていた。
「クルゾン」と、ダックス中尉は、横に寝かされているクルゾンに呼び
かけた。
 クルゾンから、共生生物が取り出され、ダックス中尉に移植されると、
共生生物のすべての記憶が、自分にもたらされたことを感じた。
 ダックス中尉は、発光体を見ている自分に戻り、息をついた。
 
               ◇
 
 チーフオブライエンは、エンタープライズのブリッジに入った。
「艦長でしたら、作戦室にいます。お呼びしましょうか?」と、女性士
官。

56

55
























































「いや、いいんだ。ありがとう」と、オブライエンは言って、転送室へ
行った。
「司令室へ転送してくれ!」
「了解」と、技術士官。
 ピカード艦長は、転送室に入ってきた。
「オブライエン!ブリッジまで来たそうじゃないか」
「そうです、でも、お邪魔しては、と思いまして」と、オブライエン。
「少尉」と、ピカード艦長が言うと、技術士官は出て行った。
「君のお気に入りの転送室じゃないか」
「ええ、第三転送室!」
「実は、きのう、私もここへ来るなり、君の名前を呼んでいた、ふふふ。
いろいろ変わるな」
「ああ、同じ転送室じゃないですか。退艦許可を願います」
「よし、認めよう!」
「それでは」
 ピカード艦長は、転送シーケンスを作動させると、オブライエンは転
送パッドから消えた。
 エンタープライズ号は、ディーエスナインから出発していった。



58

57
























































            4
 
 司令室のスクリーンに一隻の艦船が映し出された。
「カーデシアのガルデュカットから、通信が入っています」と、オブラ
イエン。
「デュカット?ここの占領軍の指揮官だった男よ」と、キラ少佐。
「あいさつしたいと、乗船許可を求めています。エンタープライズが去
るのを、待っていたようですね」
「オブライエン、喜んで許可すると、デュカットに伝えてくれ!」と、
シスコ中佐。
 デュカットは、シスコ中佐のオフィスへ入った。
「ご機嫌、いかがかな?」と、デュカット。
「よく、いらした」と、シスコ中佐。
「突然、お邪魔して、失礼。だが、ここは、二週間前まで、私のオフィ
スだったんだ。どうも、そこが、自分の席のような気がしてしまう。正
直言って、今でも、このオフィスが、なつかしいよ。できれば、開け渡
したくなかった」
「ホームシックになったら、いつでも、お立ち寄りください」
「ありがたい申し出だ。誤解のないように言っておくが、我々は是非、
君たちの力になりたいと思っているのだよ。連邦の艦隊を遠く離れ、満

60

59
























































足な防衛施設もないこの基地で、孤立無援では、さぞ、心細いだろう。
万が一、君たちに、なにかあった場合には、我々カーデシア軍が駆けつ
ける」
「なるべく、面倒はかけないようにしたい」
「ところで、シスコ中佐は、カイオパカを見て、どう思ったかね?会い
に行ったんだろ?聞いているぞ。発光体を、預かってきたことも知って
いる。あれが、一体残っていたとはね。どうだろう、この際、お互いの
情報を交換して、知識を深め合わないか?」
「発光体のことなど、何も知らない!」
「我々は、君たちのすぐ近くにいるから、いつでも言ってくれたまえ!
ああ、それはそうと、せっかく来たんだから、少し、プロムナードで、
部下を遊ばせてやりたいのだが、まずいかな?」
 シスコ中佐は、特に問題はない、というように首を横に振った。
「では」と、デュカットは言って、オフィスを出て行った。
 
               ◇
 
 シスコ中佐は、研究室に入った。
「デノリアスベルトっていう場所、知ってる?」と、ダックス中尉。
「強力なプラズマフィールドの一種だろ?好き好んで、近づく者は、ま

62

61
























































ずいない」と、シスコ中佐。
「22世紀にデノリアスベルトで遭難した船に、カイタイノというベイ
ジョーの預言者が、乗っていたの。彼は、そこで、幻を見た」
「当ててみようか?その預言者は、聖なる神殿を見たんだろ?」
「ちょっと違うわ。突然、天空がぱっくりと口を開けて、船を飲み込ん
だというのよ」
「それは、何かの比喩か、謎かけか?」
「まだ、他にあるの。デノリアスベルトでは、発光体が五つも見つかっ
てるのよ。それに、このエリアでは、頻繁ひんぱんにニュートリノ変動が観測さ
れているの。この数年で二十数回も。かなり大きな変動よ。変動が観測
された場所は、一箇所に集中しているわ。聖なる神殿かしら?」
 ダックス中尉は、コンソールの宇宙図面にその個所を表示させた。
「調べてみる価値はあるが、カーデシアが傍で目を光らせているからな。
気づかれずに行く方法はあるか?」
 
               ◇
 
 クワークの店では、デュカットの部下たちがダーボで大当たりを出し
て騒いでいた。
 キラ少佐は、オブライエンと店に入ると、金属製の杯さかずきを力一杯カウン

64

63
























































タに三回叩きつけてから言った。
「みなさん、聞いてください!ただ今をもって、カジノを閉店とします」
「どういうことだ!勝手なまねは、させんぞ!」と、クワーク。
「なにか文句があるんなら、シスコ中佐に直接言うんだな!」と、オブ
ライエン。
「ああ、言ってやるとも、黙っていられるか!」と、クワークはオブラ
イエンに言ってから、デュカットの部下たちに向かって謝罪した。
「どうも、みなさん、騒がせて悪かったね、どうも、ちょっとした行き
違いがあったらしい。なあに、すぐに、話をつけてくるさ、おおい、勝
った金を入れる袋をやってくれ!」
 デュカットの部下たちは、渡された袋に、ラチナムの延べ棒を入れ始
めた。
 
               ◇
 
 デュカットの部下たちは、カーデシアの船内に袋を持ち帰った。
「はは、おれたちが勝ったから不安になったか、はははは、あのまま行
けば、連邦を破産させてやれたのに、ははは」
 デュカットの部下たちが去ると、クローゼットに入れられた袋は、流
体化して出てきて、オドーの姿になった。オドーは、誰もいない管理室

66

65
























































を見つけると、そのコンソールに向かった。
 
               ◇
 
 シスコ中佐は、ダックス中尉とシャトルに乗り込んだ。
「こちら、リオグランデ号、発進準備開始」と、シスコ中佐。
「了解、中佐」と、キラ少佐の声。格納庫が開いて、シャトルが姿を現
した。
 
               ◇
 
 チーフオブライエンは、司令部で制御パネルに向かっていた。
「スキャナーによると、カーデシアのエネルギーの分配ネットに変動が
見られます」
「はは、敵の中枢が麻痺!」と、キラ少佐は言った。
「シールドセンサも停止!オドー、よくやったわ!司令室よりリオグラ
ンデ。作戦成功です」
「では、シャトルを発進させる」と、シスコ中佐は言って、シャトルを
発進させた。
「オドーが転送地点に到着したわ」と、キラ少佐。

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「ロックオンします」と、オブライエンは言って、転送パネルを操作し
た。
「カーデシアの転送機は初めてなもので。まいったな!どうなってるん
だ!」
 チーフオブライエンは、業を煮やして、転送機を蹴っ飛ばした。する
と、オドーが転送パッドに、姿を現した。
「よくやってくれたわ」と、キラ少佐は、オドーに言った。オドーは、
一礼して去った。


            5
 
 シャトルは、デノリアスベルトを目指して飛行していた。
「グリッドパラメータに接近」と、ダックス中尉。
「推力、四分の一に落とせ」
「コンピュータ、コース23、マーク217の映像をズームアップ!」
「レンジ3100キロ」
「センサーによると、プロトン値が異常に高いわ」
「同地点にコースを変更する」
「現在、外界波の強度が急速に上昇中。あ、待って、安定したわ。この

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69
























































キャビンには、全く、影響が見られない。そんなこと、あるのかしら?」
 目の前にワームホールが出現し、シャトルを飲み込んで、すぐに閉じ
た。
 シャトルは、ワームホールの中を進んだ。
「センサーが停止したぞ」と、シスコ中佐。
「ステーションとの通信も不通になったわ」と、ダックス中尉。
「シャトルの送信地点で、大規模な亜空間変動が見られます」と、司令
部にいるオブライエン。
「シャトルに何が起こったの?」と、キラ少佐。
「わかりません、消えました」
「ナビゲーションシステムが完全にいかれている」と、シャトルのシス
コ中佐。
「時間をかければ、調整できるわ」と、ダックス中尉。
「時間などない」
 ワームホールが開いて、シャトルは、ワームホールから出てきた。
「現在位置を特定できないのか?」
「5光年先に、恒星が一つあるわね、Mクラスの惑星は、なし。コンピ
ュータ、一番近い星系はなにかしら?」
「イドラン星系、フォータイプの恒星をふたつ持つ三連星です」と、コ
ンピュータ。

72

71
























































「イドラン?そんなバカな!」と、シスコ中佐。
「コンピュータ、そう判断した基準は何?」
「22世紀に、クワドロス2号探査機がガンマ宇宙域で行った調査の結
果に基づいています」
「ガンマ宇宙域?ベイジョーから7万光年も先だ、ワームホールを通っ
たとしか思えない」
「こんなワームホール、初めてよ。共鳴波が全く発生していなかったわ」
「例の発光体は、これを抜けて、ベイジョー星系へ来たのかもしれない」
「十分考えられる仮説だわ」
「だとすれば、このワームホールは、一万年も前から、ここにあったこ
とになる。ダックス、これほど安定性のあるワームホールがあるなんて、
大発見だ。戻って、報告しよう!」
 ワームホールが開いて、シャトルは、ワームホールへ戻っていった。
「フライトプログラムを、この時空環境に合うよう、大急ぎで補正して
いるところよ。今に、機体が安定すると思うけど」
「推力を落としたのか?」
「いいえ、どうして?」
「失速してるぞ」
「時速80キロまで、速度低下」
「推力システムに異常発生。10秒後に自動停止システムが作動します」

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73
























































と、コンピュータ。
「エンジンを停止する」
「現在、時速20キロまで、速度低下。ここには、大気があるわ」
「ワームホールの中に、大気が!」
「生命が存在してるかも、着陸したようね」
「いったい、どこに?」
 シスコ中佐は、外へ出ると、そこは暗く雷鳴がとどろき、地表は岩だ
らけの荒涼とした大地であった。
 ダックス中尉は、鳥がさえずり、木々が生い茂り、穏やかな日差しに
包まれた緑地に降り立った。
「素敵なところね」と、穏やかな日差しと緑の中にいるダックス中尉。
「変わった趣味の持ち主だ」と、雷鳴の中の暗い岩場にいるシスコ中佐。
「こんなのどかで気持ちのよいところは、そうはないとう思わない?」
「この岩場のどこが、のどかなんだ?嵐まで来ているぞ」
「雲ひとつないいいお天気に見えるわ」
 ふたりの近くに、発光体が現われた。
「あれが見えるか?」
「ええ」
 ダックス中尉は、トリコーダで発光体を調べた。
「低レベルのイオン波よ。こっちを調べている」

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75
























































「この土地流のあいさつかもしれない」
「私は、ベンジャミンシスコ中佐だ。惑星連邦に所属している」
 発光体から、光の塊が発射され、ふたりは、はじき飛ばされた。
「ダックス!」
 ダックス中尉は、発光体に捕らえられ、飛び去った。
 シスコ中佐は、周りの岩石から白い光が漏れて、やがて、白い光の中
にいた。
 ダックス中尉を捕らえた発光体は、ワームホールから出てきた。
「また、ニュートリノ変動だ」と、司令部のオブライエン。
「シャトルが消息を絶った付近に、なにか物体があるわ。船じゃないわ
ね」と、キラ少佐。
「その中に何かいます?なんらかの生命体です」
「カーデシアも、これを探知しているかしら」
「きっと、気づいているでしょう。条件は同じだと思っていた方がよい
かと」
「警戒警報!防御体制!物体を転送で回収して!隔離フィールドを張る
のを、忘れないように!」
「了解。転送します」と、オブライエン。
 発光体は、転送パッドに現われると、元のダックス中尉の姿に戻った。
 シスコ中佐は、白い光の中にいた。

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77
























































「おまえは誰だ?何者だ?」
「ひとつの肉体よ、物質的存在」と、砂浜で横になっているジェニファ
ー。
「何だと?どういう意味だ?」
「視聴覚的刺激に反応する存在ともいえる。言語交信が可能だ」と、ピ
カード艦長。
「なるほど、言語交信ということは、言葉でコミュニケートできるんだ
な?」
「あなたは、何者?」と、カイオパカ。
「人類と呼ばれる種族だ。地球という惑星からきた」
「地球?」と、釣りをしている姿のジェイク。
「今見ている美しい星だ。おまえと私は、全く種が違う。だから、きっ
と、お互いを、理解するには、時間がかかるだろう」
「なんなの?その、時間って?」
 
               ◇
 
「副司令官日誌、宇宙暦46392・7。現在、シスコ中佐の救出作戦
の準備中。ますは、ダックス中尉の情報をもとに、現地の環境に合うよ
うにナビゲーションセンサーを調整する」と、キラ少佐の日誌。

80

79
























































「非常に、特殊なワームホールです。見たところ、自然に発生したもの
とは、とても、思えないわ」と、ダックス中尉。
「だとしたら、人口的に作られたと?」と、ドクターベシア。
「発光体を作った何者かが、あのワームホールを作ったという可能性が
高いわね」
「カーデシアが動き始めました、デノリアスベルトへ向かっています」
と、オブライエン。
「オブライエン、このステーションをワームホールの入り口に移動でき
ないかしら?」と、キラ少佐。
「これは、宇宙船じゃないんですよ。反動推進エンジンを六基備えてい
るに過ぎない。1億6000万キロ進むには、2か月はかかる」
「明日までには、着きたいわ」
「へへ、そんなこと不可能ですよ」
「あのワームホールは、この宇宙域全体の未来を切り開くものよ。ベイ
ジョーとしては、領有権を確保したいわ。くやしいけれど、惑星連邦の
後押しがあれば、こちらの主張は、通りやすいでしょうね」
「ディフレクタジェネレータで、亜空間フィールドを拡大できないかし
ら。ローレベルのフィールドでステーション全体を包むのよ」と、ダッ
クス中尉。
「そうすれば、慣性質量が落ちる」

82

81
























































「ステーション自体が軽くなれば、六基のエンジンでも、十分に移動で
きるわ」
「だが、失敗すれば、このステーションは、こっぱ微塵になるでしょう」
「うまく移動できても、現地で艦隊機のサポートが欲しいわね」
「一番近いのは、エンタープライズです。二日で合流できます」
「直ちに、艦隊に連絡を取って、援助を要請しましょう」
「司令室を頼むわ。大尉は、私と来て!」と、キラ少佐。
「了解」と、ダックス中尉。
「さぁ、ドクター、英雄になるチャンスよ!」
「イエスサー」と、ドクターベシア。
 三人は,エアロックに向かった、オドーがついてきた。
「どうしたの?」と、キラ少佐。
「保安チームとしては、同行する義務があります」と、オドー。
「ここを守るのが、あなたの義務よ。ワームホールでは、なにが起こる
か予測がつかないの。あなたの体には、害があるかもしれない。連れて
ゆかれない」
「少佐、デノリアスベルトで私は幼い頃保護された。自分がどこから来
たのか、仲間がいるのかさえわかりません。これまで、ずっとベイジョ
ー人にまじって暮らしてきたが、自分がなにものか知りたかった。ワー
ムホールの向こう側にその命題を解く答えがあるかもしれないんです。

84

83
























































行きましょう」
 四人は,シャトルで出発した。








            6
 
 シスコ中佐は、白い光の中にいた。
「やるか、やられるかだ、この男を消してしまおう」と、ピカード艦長。
「こいつは、危険だ」と、ボーグ。
「攻撃的だし、悪意がある」と、野球選手。
「今のうちに、殺すべきだ」と、ピカード艦長。
「私は、敵ではない。私をここへ導いたのは、君たちだ」と、シスコ中
佐。
「導いた?」

86

85
























































「あの発光体の持つ力のことだ」
「おまえは、我々を滅ぼそうと企んでいる。そんな邪悪な生命体などに
用はない」
「君たちを滅ぼそうなどという気持ちは、全くない」
「こいつを殺せ!」と、ボーグの姿のピカード艦長。
「どんな種族より、我々人類は、命を尊ぶ。君たちはどうだ?なぜ、君
たちが、私を敵視するのかわからない。私は、敵じゃない。それを、証
明させてくれ!」
「証明とは?」と、カイオパカ。
「人間というものは、突き詰めれば、経験によって決まる。経験の集積
体だ」
「その経験って、どんなもの?」と、釣りをしている姿のジェイク。
「思い出だ、過去の記憶、これも、そのひとつだ」
「過去って?」
「今よりも、前に起こったことさ。どうやら、おまえには、まるでぴん
とこないようだな」
「今より前と、今と、いったいどういう違いがあるの?今より先だって、
今と同じでしょ?」
「おまえたちの時間は、直線上のものじゃないんだな」
「直線上って?どういうこと?」と、砂浜を歩くジェニファー。

88

87
























































「人は、時間の流れのある一点に存在している。いったん、その一点を
過ぎてしまうと、それが過去となる。未来は、逆に、いずれはやって来
るが、まだ目に見えていない点だ」
「未来は、まだ目に見えてない?」
「つまり、人間は、一過性いっかせいの存在だ。私を調べて、本質を見極めれば、
なにも恐れる必要はないと、わかるはずだ」
 
               ◇
 
 ステーションは、亜空間フィールドでおおわれた。
「フィールドは、部分的に定着。現在の不定率は、12パーセント」と、
コンピュータ。
「部分定着だと」と、オブライエンは言った。
「現状の質量で、軌道を離脱できるか?」
「現状では、お勧めできません」と、コンピュータ。
「意見を聞いているんじゃないんだ。部分的なフィールドの定着でも、
移動に十分な推力が得られるか、教えろよ」
「可能です」
「どうも、ありがとう!」
「移動モードに切り替える。飛行姿勢は、現状を維持」

90

89
























































「了解」と、技術士官。
「エンジン点火」と、オブライエン。
「フィールドの定着率が低下。不定率、21パーセント」と、コンピュ
ータ。
「なんとしても、フィールドを補強するぞ。このままじゃステーション
は、粉々だ」
「亜空間フィールドは、あと六十秒で消滅します」
「コンピュータ、慣性制動器へのエネルギーを直ちに切り替えて、亜空
間フィールドを補強しろ!」
「その処置は、非常に危険です」
「いいから、今すぐに、切り替えろ!」
「安全規制レベルワンを適用、その命令は無効となります」
「無効だと?」
「亜空間フィールドは、あと三十秒で消滅します」
「仕方ない、手動でゆくぞ!私の合図で、ディフレクタに、エネルギー
フローを切り替えろ。パワーバランスを保てよ!」
「了解」
「フィールド消滅まて、あと十五秒です」
「今だ!」
 ステーションを覆っていた亜空間フィールドは、安定した。

92

91
























































「フィールドのエネルギーは、航行可能状態に復帰」と、コンピュータ。
「ふぅ」
「お見事です!」と、技術士官。
「はは、ふぅ!コンピュータ、後で、ちょっと話がある!」
 
               ◇
 
 シャトルは、ワームホールに向かっていた。
「カーデシアの戦艦が、接近中です」と、ダックス中尉。
「スクリーン、オン。目的は、いっしょのようね!」と、キラ少佐。
「手を引けと、警告しましょう!強く出れば、引き下がりますよ!」と、
ドクターベシア。
「ドクター、領有権争いについて言えば、彼らと我々は対等の立場にい
る。あの、ガルデュカットが手を引くはずはないな」と、オドー。
「私は、ディープスペースナインから来た、キラネリス少佐といいます」
「少佐、なにかな?」と、スクリーンに現われたガルデュカット。
「ガルデュカット、目的地は、ワームホールね?」
「ワームホール?いったい、どこのワームホールか?」
「直ちに退却することを、強く勧告しますわ。あのワームホールには、
凶悪な生物がいるの」

94

93
























































「我々カーデシア人には、友好的に接してくれるかもしれない」
「デュカット、おまえたちがトラブルに巻き込まれないように、忠告し
てるんだぞ」と、オドー。
「そうかな?どうやら、ワームホールの生物が、例の発光体を作り出し
たようだな。君たちのシスコ中佐は、その事実を調査するために行って
いるんだろ?心配はありがたいが、自分の目で見ないことには、凶悪か
どうかわからんよ」
 ガルデュカットは、通信を切った。
「言ったとおりだったろ」と、オドー。
 シスコ中佐は、白い光の中にいた。
「ジェニファー?」と、公園の草の上で横になりながら、ジェニファー
は言った。
「そうだ、それが妻の名だ」と、シスコ中佐。
「その女性は、あなたの一部だわ」
「私の過去の一部だ。死んだものは、過去になる」
「でも、今も、あなたの一部だわ」
「ジェニファーは、かつては、かけがえのない一部だったが、少し前に
失ってしまった」
「失った?どういうこと?」
「直線状の時間の中では、過去のものは取り戻せない。置き去りにする

96

95
























































しかないんだ。つまり、失うんだ」
「そんな考え方をする種族がいるなんて、とても信じられないわ。私た
ちをだます気ね?」
「違う!本当のことだよ。この日も、この公園も、存在はしたが、15
年前のことだ。もう、遠い、昔だよ。私にとっては、忘れられない、大
切な日だ。その後の、私の人生が、左右された。それこそが、人間の時
間の本質なんだ。現在が未来に影響する」
 子供たちが走ってゆく方を見ると、15年前のふたりが草の上で横に
なっていた。
「聞こえるかい?」と、かつてのシスコ中佐。
「なにが?」と、かつてのジェニファー。
「子供たちの笑い声ほど、いいものは他にないよ」
「子供好きなのね?」
「子供好きかどうかで、男を判断するのかい?」
「艦隊の士官は、子供を欲しがらないと聞いていたのよ。出世の妨げに
なるからって」
「その前に結婚相手を探さないと。大抵の人は、船の暮らしを嫌がるか
らね」
「あたしの気持ちを、遠廻しに探っているの?」
「結婚して欲しい!」と、かつてのシスコ中佐が言うと、ジェニファー

98

97
























































の唇にキスをした。
 それを見ていたワームホール異星人のジェニファーは、不思議そうな
顔をした。
「人間は物質的存在だ。肉体的触れ合いに喜びを感じるんだ」と、シス
コ中佐。
「喜びって?どういうもの?」と、ジェニファー。
「気分がいいもの。幸せなこと」
「この日のことも忘れられません」と、ボリアン人士官。
 シスコ中佐は、ボーグとの戦いの船内にいた。
「思い出させないでくれ!。一番辛い記憶だよ」と、シスコ中佐。
「なぜです?」
「この日、私は、妻を、失った。悪夢の一日だ。ここには,入りたくな
い」
「じゃ、なぜ、ここにいるの?」と、ジェニファー。
「それは、こっちが聞きたいよ!」
「あなたは、過去にとどまっている!」
 シスコ中佐は、白い光の中にいた。
「どういうことだ?どうなっている?」
 ワームホールを抜けて、カーデシア船が姿を現した。
「あと、二分でワームホールに到着するはずです」と、ダックス中尉。

100

99
























































「推力、三分の一に減速」と、キラ少佐。
 ワームホールは一度開いたが、シャトルが近づくと、閉じて消滅した。








            7
 
 シスコ中佐は、白い光の中にいた。
「どうしたんだ?何が起こっている?」
「また、人間が来たのよ」と、砂浜を歩くジェニファー。
「船が来たのか?ワームホールに?」と、シスコ中佐。
「ワームホール?それは、なに?」
「私をここへ運んできた、通り道のことだ」
「それは、崩壊した」と、ピカード艦長。
「ワームホールが?」

102

101
























































「おまえたちが侵入してきたせいで、すべては崩れ去った」
「あなたがた人間は、本質からして破壊的なのよ!」と、サルトバの女
性士官。
「あとさきを考えもせずに、軽率な行動を取っている!」と、もうひと
りの女性士官。
「それは、誤解だ。先にある結果を読んで、決断を下している」
「未来は見えないと言ったのは、おまえじゃないか!」と、バルカン人
の副官。
「その通りだ」
「それじゃ、どうやって、先を読んで決断してるの?」と、釣りをして
いる姿のジェイク。
「過去の経験をもとに判断するんだよ。ママと出会った時も、お互いに
今までの経験から、運命の相手だということがわかった。これから未来
をともにしてゆくんだと決断したんだ。そして、結婚した。その時には、
この先になにがあろうと、すべてを受け入れる覚悟があった。おまえの
ことまで、全部含めてだ」
「僕?」
「息子のジェイクだ」
「ジェニファーとの子供ね」と、産院のベットの上のジェニファー。
「この子も、あなたの一部?」

104

103
























































「そうだ、ジェイクは、我が家の血を受け継いでいるんだ」
「子供たちの笑い声が聞こえる」
「攻撃的だし、悪意がある」と、野球選手。
「これは、ゲームだ。楽しむもんだ。昔からホロデッキでよくやってる
んだ。野球っていうゲームさ」
「野球だって?それ、どんなの?」と、キャッチャー姿のジェイク。
「きっと、くと思ったよ。この球をおまえに投げる。もうひとりのプ
レーヤーは、バットという棒を手に持って、そこに立つんだ。それから、
ああ、その棒で球を打って、この線の間に飛ばすんだよ。いや、やり方
はどうでもいい。それよりも、肝心なのは、時間の概念!この球を投げ
るたびに、相手は全く違う反応を返してくる。空振りすることもあれば、
打つこともある。つまり、何が起こるか、わからないんだ。だから、予
測を立てる。あらゆる可能性を考えて、ベストの作戦を立てるんだ。状
況を読みつつ、一球、一球を積み重ねてゆく、ゲームなんだよ。そうし
てひとつの試合となる。我々の過去や未来の概念も、それとおんなじだ」
「それじゃ、実際に試合が終わるまで、何があるか、まるでわからない
じゃないか!」と、野球選手。
「そういうことさ!いいかい、最初から結果がわかっていたら、ゲーム
をやる意味など、ないだろ?」
「未来を予知する力がないのは、いいことだって言うの」と、ジェイク。

106

105
























































「それが、我々人間を理解する鍵かもしれんな。無知ゆえに、私たちは
存在している。答えを求めて生きている。それだけじゃない、常に、新
たな疑問も捜し求めているんだ。開拓者のように、一日、一日と、人生
を切り開く。そして、宇宙を探索し、知識を広げたいと思っている。そ
のために、私は、ここへ来たんだ。君たちを征服するためじゃない。こ
こへ来たのは、君らと共存し、学ぶためだ」
「だと、したら、なぜあなたは、過去にとどまっているんです?」と、
ボリアン人士官。
 
               ◇
 
「副司令官日誌、補足。ワームホールの座標で、宇宙ステーションとラ
ンデブーした。だが、スキャンの結果、ワームホールもデュカットの船
の姿も、全く見られなかった。数分前にも、カーデシアの戦艦三隻が現
われたが、彼らも、デュカットを捜索中のようだ」と、キラ少佐の日誌。
「オブライエン、敵がセンサーレンジに入る前に高出力の保護フィール
ドを張って!こっちの防御フィールドをスキャンされたくないわ」と、
キラ少佐。
「了解」と、オブライエン。
「敵の通信波です」と、ダックス中尉。

108

107
























































「スクリーン、オン」
 スクリーンにカーデシア船の船長が映し出された。
「私は、ガルジャサッド。我々は、カーデシア第七艦隊だ。デュカット
の戦艦は、どこへ消えたんだ?」
「運が良ければ、ワームホールの向こう側のガンマ宇宙域でしょうね」
「ワームホールだと?この星域に、そんなものはない。センサーにはな
んの反応もない」
「当然よ、突然、消滅したの」
「なんだと?」
「人工的に作られたワームホールなのよ。そのせいで、我々のセンサー
にも量子変動のパターンが見られなかったんだと思うわ」と、ダックス
中尉。
「何者かがワームホールを作って、突然、都合よく消したとでもいうの
か?そんなみえすいた嘘を、どこのだれが信じるんだ?」
「その通りだもの、信じてもらうしかないわ!」
 カーデシア船は、通信を切った。
「反軽粒子妨害波を亜空間に送っています。艦隊との交信を邪魔する気
です」
「敵は、フェーザー砲を準備中です」と、オブライエン。
「非常警報!シールドアップ!」と、キラ少佐。

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「未調整です!」
「また、通信波です」と、ダックス中尉。
「チャンネル、オン」
「都合のよい作り話には、誤魔化されんぞ!デュカットの船は、おまえ
たちの手で、撃墜したんだろ?」と、ガルジャサッド。
「ガルジャサッド、繰り返すけど」
「直ちに、無条件で、降伏し、我々に宇宙ステーションを明渡せ!嫌な
ら、我々は、攻撃を開始する」
「返答を出すために、一日時間をもらいたいわ」
「待ってやろう、ただし、一時間だ」
 カーデシア船は、通信を切った。










112

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            8
 
 ディーエスナインは、三隻のカーデシア船に囲まれていた。
「パワーを可能な限り集めて、最重要エリアだけシールドで保護しまし
た」と、オブライエン。
「ですが、もしも、連結部を狙われたら、致命傷です」
「オドー、大至急、全居住民を安全な地区へ誘導して!」と、キラ少佐。
「エンタープライズを最後に確認した位置は?」
「二十時間離れた地域です」と、ダックス中尉。
「彼らの到着が鍵ね」
「ただの、脅しですよ。本気で攻撃してくるとは、思えません」と、ド
クターベシア。
「ドクター、国境紛争の歴史は、習いましたよね」と、オブライエン。
「ああ」
「セトリック三号星の虐殺は?」
「オブライエン、まさか、降伏すべきだとは言わないでしょうね?」と、
キラ少佐。
「降伏しても、殺されますよ」と、オブライエン。
 シスコ中佐は、炎上する船内にいた。
「どうしてまた、ここへ、連れ戻したんだ?」と、シスコ中佐。

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「僕らが連れてきたんじゃない」と、ジェイク。
「あなたが導いたのよ」と、ジェニファー。
「ここは、あなたの一部です」と、ボリアン人士官。
「じゃぁ、別のところへ、君たちを導く力をくれ!どこでもいい!」
「自分自身を否定しては、だめよ」と、カイオパカは言った。
「ここを立ち去る手立ては、あなた自身の中にある」
「妻と死をともにしたかった」
「死?それは、なんです?」と、ボリアン人士官。
「直線状の時間から、存在が消えること」と、ジェニファー。
「中佐!行きましょう!」と、ボリアン人士官。
「だめだ!妻をおいてゆけるものか!」
「私は、ここに残ったのか?」
「あなたの心がね」
「そうだ、逃れられずにいた。うう、うう。君たちには、不思議だろう
が、この顔が忘れられない。今でも暗闇の中にいたり、目を閉じるたび
に、ジェニファーのこの顔が、この顔が、浮かぶんだ」
「その後の経験も、苦しみから、あなたを立ち直させる助けにはならな
かった」
「妻なしで、どうやって生きてゆけばいいのかわからなかった。うう、
うう」

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「それで、あなたは、ここにとどまったのね」
「うう、うう」
「あなたは、過去の住人」
「そうとも、私は、ここで生きている、うう、うう」
 
               ◇
 
 ディーエスナインの司令部。
「カーデシア艦から通信」と、ダックス中尉は言った。
「ガルジャサッドからです」
「オブライエン、準備いい?」と、キラ少佐。
「完了!こちらの、ソロンフィールドを破ったら、驚かせてやりますよ」
と、オブライエン。
「実力行使で返答してやりましょう。敵の船首をねらって、光子魚雷六
発発射!」
「六発全部を、一度に使う気ですか?」
「ただの威嚇よ。武力では、かなうはずないわ」
「わかりました」
 光子魚雷が次々に発射され、カーデシア船をかすめてやり過ごした。
「敵からの通信です」と、オブライエン。

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「はったりの効果は、十分ありましたね」と、ドクターベシア。
「スクリーン、オン」
「あれが返答なのか?」と、ガルジャサッド。
「小さな宇宙基地といえども、防衛力も整えずに、こんなところまでの
このこ来ると思う?」
「防衛力だと?うはははははは、たかが光子魚雷で、カーデシアの戦艦
に対抗できると思ったら、大間違いだ!」
「あなたは正しいかもね。指揮を取っているのが、私でなく、艦隊士官
だったら、おそらくは、負けを認めているでしょうね。でも、この私は
違う。カーデシア相手に勝ち目の無い抵抗を続けてきたベイジョー人よ。
戦争をしたいというのなら、私は、受けて立つわ」
 カーデシア船は、通信を切った。
「少佐、あなたとポーカーをやるのは、絶対にごめんですよ」と、オブ
ライエン。
 
               ◇
 
 カーデシア船のブリッジ。技術士官は、ガルジャサッドに報告した。
「我々のセンサーを破るために、ソロンフィールドを張っていますが、
破るのは簡単でした」

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「向こうの防衛力は?」
「スキャンの結果、光子魚雷が約五千発と、全レベルに集積フェーザー
バンクが」
「奴らは、いつそんな武器を積み込んだ?なぜ、我々にそれがわからな
かったんだ?うぇー!いや、奴らは、なんらかの方法で、我々のセンサ
ーに、幻影を見せているだけだ」
「でも、本当に持っていたら?」
「不可能だ」
「今、リスクを犯さなくても、一日で援軍が到着します」
「ああ、連邦側の援軍もな!」
 
               ◇
 
 ディーエスナインの司令部。
「ジャサッドは、亜空間通信を使って援軍を要請しているようです」と、
ダックス中尉。
「腰抜け!」と、ドクターベシア。
「ジャサッドを甘く見ると、痛い目に合うわよ!状況報告!」と、キラ
少佐。
「敵の艦隊は、標準攻撃態勢をしいています」と、オブライエン。

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「戦闘配置!」
 カーデシア船がフェーザー砲で攻撃を開始した。ディーエスナインの
プロムナードでは、オドーの誘導で人々が安全な地区に避難を開始して
いた。
「落ち着いて!さぁ、続いて」と、オドー。
「単なる威嚇でしょう」と、オブライエン。
「パルスコンプレッションを敵のフェーザーバンクに照射してみます。
ひるませることは、できるでしょう」
「照射!」と、キラ少佐。
 ディーエスナインからカーデシア船の下部にパルスが発射され、カー
デシア船からもフェーザー砲で攻撃された。
「被害状況は?」
「レベル14に命中です。空き貯蔵庫のため、死傷者なし」
「シールドダウン、27パーセント!」と、ダックス中尉。
 カーデシア船のフェーザー砲が、ディーエスナインの中央部に命中し、
何人かの住人が吹き飛ばされた。
「コンジットがプロムナードで爆発しました」と、ダックス中尉。
「メインパワーフローを封鎖!」と、キラ少佐。
「コントロール不能!」と、オブライエン。
「オドーから司令室!」

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「報告!」
「死傷者が多数出ています!ドクターを大至急、よこしてください!」
「すぐに向かう!」と、ドクターベシア。
「手動で、パワーフローを止めます」と、オブライエン。
「でないと、プロムナードが吹き飛んでしまう!ああ、カーデシアめ!
調整したばっかりだっていうのに!」
 ドクターベシアは、プロムナードで負傷者の治療にあたった。
「そこを、抑えて!しっかり!」
「ドクター、私より、誰かほかのものを」と、オドー。
「離すなよ、いいから、抑えて!」
 プロムナードのパワーが復活した。
「応急処置はしました」と、オブライエン。
「シールドダウン、18パーセント!」と、ダックス中尉。
「もう一度、フェーザーバンクを攻撃してゆざぶりましょう!」
「待って」と、キラ少佐。
「カーデシア側に連絡して、降伏の条件を話し合いましょう」
「少佐、ドッキングリング、15キロ前方に、広範囲にわたる空間変動
が見られます」と、ダックス中尉。
「ワームホールです」
「スクリーン、オン!」

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 スクリーンにワームホールが映し出された。
「ジャサッドを呼び出して!」
 キラ少佐は、言った。
「見なさい!言ったとおりでしょ?あれがワームホールよ!」
 ワームホールから、シャトルに牽引されたカーデシア船が現われた。
「こちら、リオグランド」と、シスコ中佐の声。
「スクリーン、オン!お帰りなさい、中佐」
「遅くなって、すまない。ワームホールの向こうで、ガルデュカットの
救助に手間取ってね。君たちも無事だったようだな」
「かろうじて、というところですけど」
「デュカットの指示で、敵は武装解除したよ。オブライエン、収容して
くれ!」
「了解!Cパッドに収容します」
 シスコ中佐は、プロムナードの被害状況を見て廻った。
「死傷者は?」と、シスコ中佐。
「十三名が負傷しましたが、死者は出さずに済みました」と、ドクター
ベシア。
 人々の間から、ジェイクが現われた。
「ジェイク!」
「とうさん!」

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「はは、ははは」









            エピローグ
 
「ステーション日誌、宇宙暦46393・1。ワームホールを作った謎
の生命体の許しを得て、ガンマ宇宙域への安全な航行が実現した。ベイ
ジョーの統一は、これから時間をかけて実現してゆかなければならない」
と、シスコ中佐の日誌。
 エンタープライズ号は、再び、ディーエスナインに立ち寄った。
「君のシャトルに仲間を助けられたために、カーデシアの連中は今回は
引き下がったようだが」と、ピカード艦長。
「しかし、決着したわけではありません」と、シスコ中佐。

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「彼らは、ワームホールの領有権をあきめたわけではありません」
「星図で見れば、ベイジョーのものであるのは明らかだ。まもなくワー
ムホール周辺は、商業と科学探査の中心地となることだろう。艦隊にと
っても、非常に重要な拠点となる」
「艦長、私の交代要員を捜して欲しいという件ですが」
「申し訳ないんだが、司令部と相談する時間がなかった」
「それは、好都合です。忘れてください」
「そういうわけには、ゆかん。今回の配属に不本意な君を、指揮官に置
くわけにはゆかない」
「いいえ、やらせてください」
「健闘を祈る、シスコ中佐」
 ピカード艦長は、シスコ中佐と握手を交わすと、司令部を後にした。
 
               ◇
 
 再び活気を取り戻したプロムナードを、ドクターベシアとオドーが歩
いていた。
「まず、フェーザーの射撃場で腕試しといきたいな」と、ドクターベシ
ア。
 キラ少佐は、クワークに話しかけていた。

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「自粛しろって?」とクワーク。
「今後、お客をカモにして、お金を巻き上げることは禁止よ」と、キラ
少佐。
「町のリーダなんだから!」
「わかったよ、だったら、これから、その件について、じっくりと話し
合おう、一杯、やってさ」
「私のお尻から、すぐに、手を引っ込めないと、この先、お酒のグラス
も持てなくなるわよ!」
「へへへ、制服姿の女は、そそるな」
 シスコ中佐は、ダックス中尉とオブライエンと共に、エアロックから
出てきた。
「クルナリーの科学船三隻が、着庫許可を求めています」と、ダックス
中尉。
「ところが、エアロックに問題があって、収容できないんです」と、オ
ブライエン。
「ワームホールまで移動した時点で、半数が損傷し、残りはカーデシア
の攻撃で、やられてしまいました」
「では、人員を転送するしかないな、早速、連絡を取ってくれ」
 
 

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                    (第一_一_一話 終わり)



















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