サムワントゥウォッチオバーミー
               マイケルテイラー、ビラノンブラガ
            プロローグ
 
 ボイジャーの食堂。
 パイロットのトムパリスと機関室チーフのベラナが、テーブルに座っ
て食事していた。
「そう、それで」と、トム。「ハリーはギアを入れて、一気にアクセル
を踏んだ。オレたちはブリートの店に一直線」
「わたしにも運転させてよ!」と、ベラナ。
「ああ、運転、大丈夫?」
「宇宙船を操縦できるのよ、車なんて楽勝だわ!」
「69年型のムスタングを甘く見るなよ!クラッチがくせものだ」
「見てよ!」と、ベラナ。「また、わたしたちを観察している」
 セブンはパネルを手に、5メートル先からこちらをチラチラ見ていた。




2

1





「仕事してるだけだよ」と、トム。
「デザートは?」と、ニーリックス。デザートの盆を持っていた。
「なに、それ?」と、ベラナ。
「カディ人のゲストのために用意したチーズだ。味、どうかな?」
 ベラナは1つつまんで、ひと口食べた。「薄いわね」
「薄いか、大丈夫かな。たとえ薄くても、カディ人には刺激のある食べ
物は、ご法度はっとなんだ」
「ずいぶん神経を使っているんだな」と、トム。
「カディ人は、すごくおこりっぽいから。艦長があっちのコロニーに行っ
てるあいだ、接待はオレに任されている」
「大丈夫、おまえは優秀な外交官だ」
「だといいけど」ニーリックスはキッチンへ戻って行った。
「まだ、こっちを見ている」と、ベラナ。
「考え過ぎだって」と、トム。
「さぁ、どうかしら」ベラナは、立ち上がると、セブンが座ってるテー
ブルへ行った。
「そんなに楽しい?」と、ベラナ。
「なにがだ?」と、セブン。
「さっきからずっと、わたしたちを見張っている」と、ベラナ。「きょ
うだけじゃない、きのうは機関室へ向かうわたしたちをずっとけてた。

4

3





それからおとといは、シャトルベイで飛ぶのを待っているとき」
「その通り、おまえたちを観察している」と、セブン。「人間の繁殖行
動を研究しているのだ」
 ベラナは、テーブルに置かれたパネルを手に取って、読み上げた。
「宇宙歴52647、1400時。対象者は、女の室の前で、言い争い
をしている。男は12本の植物を抱えて戻る。品種ローザルビフォリア、
その後直ちに休戦状態に入る。宇宙歴52648、0300時。繁殖行
動開始」パネルを置くと怒鳴ど なった。「どうしてそんなことがあんたに分
かるのよ、セブン!」
「第9デッキ、セクション12にいる者であれば、だれでも気づくはず
だ」と、セブン。
「なにか問題でも?」と、ニーリックス。
「収集したデータをぜんぶ見せてちょうだい!」と、ベラナ。
「まだ、研究を終えていない」と、セブン。
「これを知ればじゅうぶん!ボーグがクリンゴンをおこらせれば、クリン
ゴンはボーグの鼻をへし折る」
「ベラナ」と、ニーリックス。
「ドクターに言って」と、ベラナ。「今からすぐに急患が向かうって」
「ベラナ」と、トム。「室で飲み直そう!」
「今回だけは許さない」と、ベラナ。食堂を出て行った。

6

5





            1
 
 ボイジャーは、カディのコロニーのある惑星の周回軌道に入った。
 艦長室。セブンが呼び出されていた。
「ベラナのリポートを読んだわ」と、ジェインウェイ艦長。コーヒーを
手に、赤に肩部分が黒の艦隊の礼服を着ていた。「驚いたのは言うまで
もない」
「規約を破らぬよう配慮した」と、セブン。
「そういう問題じゃない。ここは宇宙艦で自然保護区じゃないの」と、
ジェインウェイ。鏡に礼服姿を映した。「あら、階級章が」
「人間の行動について学ぶよう、言ったはずだ」
「こころがけはいいけど」階級章は下に落ちていた。「あった━━━問
題はやり方、クルーの行動を記録するなんて。これ、付けてくれない?」
 セブンは、ジェインウェイの胸に階級章を付けた。
「自分で試してみたらどうなの?」セブンにウィンクした。「ロマンス
を味わうの」
「わたしには、ロマンスなど無意味なだけだ」
「だったら、3万ギガクワッドのデータを集めるのね」と、ジェインウ
ェイ。「急がなきゃ」室を出て行った。
 

8

7





               ◇
 
 通路。艦長たち、3人は、転送室へ急いだ。
「最初の項目をチェックするの忘れていた」と、ジェインウェイ。ニー
リックスに。「カディ人は、浄化水しか使わないそうよ。ソニックシャ
ワーは禁止」
「仕様書に従い」と、ニーリックス。「室に洗浄式液体貯蔵容器を用意
しました」
「1日8回、祈りを捧げるんだ」と、トゥヴォック。
「分かってます」
「大使には最善のおもてなしをするように」と、ジェインウェイ。「カ
ディの上層部に礼儀知らずだと思われたくないもの」
 3人は、転送室に着くと、横に整列して待った。
「転送開始」と、トゥヴォック。
 カディ大使がふたり、転送されて来た。
「歓迎の言葉を」と、ニーリックス。艦長に耳打ちした。
「家庭の神聖な義務から離れた旅人よ」と、ジェインウェイ。「われら
の家庭に受け入れよう。家族として」
「われらの純潔のしるしです」と、カディの司祭。若い大使に合図した。
「母なる女神のご加護を」

10

9





 若い大使は、純白の布を、ジェインウェイとトゥヴォックの肩にそれ
ぞれ掛けた。
「彼は」と、ジェインウェイ。トゥヴォックに手振りした。「わたしと
同行するトゥヴォック少佐です」そして、ニーリックスに手振りした。
「彼は、ご存じ、ボイジャーの大使を務めるニーリックスです」
「トミーは公正な判断力の持ち主で」と、カディの司祭。若い大使を紹
介した。「取引するにふさわしい相手か、厳しく見極めるでしょう」
「気に入っていただけます」と、ジェインウェイ。
「では、あなたがたをお連れいたしましょう」
 ジェインウェイとトゥヴォックは、トミーと入れ違いに転送台に上が
った。3人はカディのコロニーへ転送された。
「どうぞ、こちらへ」と、ニーリックス。トミーを案内した。
 
               ◇
 
 通路。
「ボイジャーは」と、ニーリックス。トミーに説明した。「長期の探査
目的に開発されたクルー146人のイントレピッド級の宇宙艦です。主
要システムからご紹介しましょう。まずは、機関室へ」
「データファイルにのっていた食べ物で」と、トミー。「試食したいも

12

11





のがあるのだが━━━ハスペラット」
「ベイジョーの料理は」と、ニーリックス。「辛い。あなた方は、刺激
物をとることを、禁じられているんでは?」
「ここにあるいろいろな食べ物を試してみたいのだ。より理解を深める
ために」
「分かった、まずは、食堂へご案内しましょう」ニーリックスは笑顔に
なった。
 
               ◇
 
 医療室。
「皮質インプラントの効率は、ピークに達している」と、ドクター。セ
ブンをハンディセンサーで診断していた。「ナノプローブレベル安定。
問題は?」
「ない」と、セブン。
「食堂での一件を聞いたぞ、セブン」と、ドクター。
「この船のクルーは、情報を広める能力に、けていると言えるな」
「うわさは、ワープスピードより速いと言うからな。なぜ、トムとベラ
ナを研究していた?」
「科学的興味からだ」と、セブン。

14

13





「それだけか?ほかにも自分で自覚してないわけがあるのでは?きみは、
女だからな」
「それはなにかの診察結果か?」
「生物学上の事実だ。行動に拒否し難い影響を与える」と、ドクター。
「治療法はあるのか?」
「研究対象を、男と女の軽いデートまで広げたらどうだ?」
「デートとは」と、セブン。「生殖行動?」
「そうとは限らん」と、ドクター。「デートとは、ふたりの人間がある
種の社会活動を共有し、理解を深め合うこと。そのうちロマンティック
な関係が生まれて、すべてうまく運べば、結婚にいたる」
「生殖行動とどこが違う?」
「きみの社会進化を促すうながいい機会かもしれんな。学んでみないか?」
「艦長も同意するだろう」と、セブン。診察台から跳び降りた。「どう
すればいいのだ?」
「任せたまえ、レッスンプランを考える」と、ドクター。「1時間後に、
第2ホロデッキで会おう。初デートには遅いが、やらないよりはましだ」
ドクターは、意気揚々と診察道具を片付けた。
 
               ◇
 

16

15





 ボイジャーは、惑星の周回軌道をゆっくり回った。
 第2ホロデッキ。
「まずは、イントロダクション」と、ドクター。スクリーンのコントロ
ーラを手にした。「題して、さまざまな愛の形」
 コントローラのボタンを押すと、天の川銀河が映った。
「この銀河系には、多くの人類がひしめき合っており、その数だけ求愛
行為が存在する」
 スクリーンにクリンゴンの男女が映った。「クリンゴン人の男は、愛
証とあかしして女をかむ」ボタンを押すと、互いにひたいを寄せる青色の男
女。「これは、ボリアン人の男女が愛し合っているところだ。まだまだ、
求愛行為が謎に包まれている種族もある、たとえば」スクリーンに奇怪
な生物。「生命体8472には、5つの違った性別があるとされている。
ノーマルな人間は、近寄らない方がいい、ヘヘヘ」
 セブンは、黙っていた。
「きみと付き合う可能性があるのは人間だ」と、ドクター。気を取り直
した。「先を急ぐとしよう、レッスン1、ファーストコンタクト」スク
リーンにボイジャーの通路にいる男女。
「人間が恋に落ちる出会い方は、無数にある。ここにあるのは」と、ド
クター。スクリーンを指さした。「偶然の出会いだ、同様に多いのは」
スクリーンに、紹介されている男女。「正式な紹介。この出会いが成功

18

17





すると、ロマンスは急激に発展し、究極の幸福の営みになる、生殖行為
だ」
 スクリーンに、大きな卵子に群がる精子。「これは偉大なる卵子の要
塞に無数の精子たちが襲い掛かろうとしているところ」
「ドクター!」と、セブン。「生殖行為の生理学的プロセスはよく分か
っている」
「そう」と、ドクター。スクリーンを消した。「では、ひとっ跳びして、
実践編に移るとしよう、レッスン2、公共の場での出会い。コンピュ−
タ、ホロプログラム、パリス3、開始」
 薄暗いバーの場面。ピアノの音が聞こえた。
「ここは?」と、セブン。
「シェサンドラ」と、ドクター。バーの中を歩きながら、セブンに説明
した。「地球にあるマルセイユという町だ。ミスターパリスが、アカデ
ミー時代、あしげく通い詰めていたらしい。どうりで学校の成績がさん
ざんなはず」
 バーカウンターに着いた。
「さ、ここへ座って」と、ドクター。セブンをスツールに座らせた。
「きみは出会いを求めてやって来た。理想の男との出会いだ」
 ドクターは、自分のハンディパネルのセリフを読んだ。「やぁ!」
「どうも」と、セブン。自分のハンディパネルのセリフを見ながら。

20

19





「よく来るのかい?」
「いえ、今日が初めて」
「この町の人じゃないね。南フランスはどうだ?」
「とてもいいところね。想像していた通りだわ」
「一杯、ごちそうしたい」と、ドクター。
「わたしは」と、セブン。ハンディパネルを返しながら。「液体飲料は
必要としない」
「これは練習だ、続けたまえ!」
「このような会話は無意味だ」と、セブン。
「確かに、無意味かもしれん。だが、デートには必要不可欠なんだ。相
手との調和を築くのに役立つ」
「結局、同化の方が優れているということだ」
「だったら、自分でアプローチしてみるとよい、例えば、あの男はどう
だ?」ドクターは、テーブルでひとりで飲みながら本を開いている男を
指差した。「行きたまえ!」
「いいだろう」と、セブン。ドクターのハンディパネルのせりふを見て
から歩き出した。
「どうも」と、セブン。男の前に立った。
「どうも」と、男。
「一杯、ごちそうしたい!」

22

21





「ええ、うれしいな」男は、本を閉じて、手を差し出した。「スチーブ
ンプライスだ、きみは?」セブンと握手して、投げ跳ばされそうになっ
た。
「サブンオブナイン、ユニマトリックスの」と、セブン。「セブンと呼
んでくれ」
「セブンか、珍しい名前だね?ああ、どうぞ、座って!」
 セブンは、テーブルに男と向かい合わせに座った。
 トムパリスが、バーに入って来た。ドクターを見つけると、近くに行
った。
「サンドラは、経営方針を変えたらしい」と、トム。「ビリヤード台が
無くなってる」
「シーッ!」と、ドクター。「今、レッスン中なんだ」
「交際術か?」と、トム。
「見たまえ!きみも勉強になる」トムは、ドクターの隣りに腰掛けた。
「顔の飾りは?」と、男。
「ボーグインプラントだ、ドローンだった」と、セブン。
「じゃ、大事な家宝ってわけだ、ハハハ」と、男。
「ボーグに家族はない」と、セブン。「ユニマトリックスのみだ」
「じゃあ、聞かせてくれないか、そのユニマトリックス?」
「上出来だよ」と、ドクター。トムに。「そうだろ?」

24

23





「やつはホログラム」と、トム。バーテンダーが持ってきたオンザロッ
クを手に取った。
「それが?」と、ドクター。
「セブンと対話できるようにプログラムされてる。生身の人間じゃ、あ
あは行かない」
「私に従えば、すぐに人間ともデートできる」
「セブンにデートの仕方を教えているのか?」と、トム。「ハハ、自分
だってデートしたことないくせに」オンザロックを飲んだ。
「ロマンスの経験くらいあるさ」と、ドクター。トムの方を向いた。
「フムムム」と、トム。
「きみは、セブンが持てないとでも言うのかね?」
「とんでもない。セブンとデートしたい男が山ほどいるはずだ。だが、
それはそれ。また、トラブルに巻き込まれるのはごめんだ」
「私は、彼女の交際能力を信じている」と、ドクター。
「分かった」と、トム。「だったら続ければいい。ここはホロデッキだ。
彼女は首尾良くやるだろう。だが、ほんとうにデートを学ばせたいなら、
予測のつかない現実世界でさせるべきだよ」
「木曜の夜」と、ドクター。「ニーリックスが、カディ大使の歓迎パー
ティをやる。セブンが男と出席するだけでなく、そのデート相手を彼女
に夢中にさせるだろう」

26

25





「口で言うだけなら」と、トム。「だれだってできるさ。ほんとにセブ
ンが男を連れて現われ、外交上、なんのトラブルも起こさず、同じ相手
と帰って行ったら、来月、ダブルシフトで働いてもいい」
「失敗したら?」
「1か月の休暇」
「決まりだ」と、ドクター。トムと握手した。
 突然、セブンは立ち上がった。
「どこ行くんだ?」と、男。
「会話は、ここで終了する」と、セブン。
 カウンターに戻ると、ドクターに言った。「このレッスンは完了した、
つぎへ進んでくれ!」
「フフ」と、トム。「早目にオレの代わりを捜しておいた方がよざそう
だ」
 ドクターは、トムを見た。







28

27





            2
 
 ボイジャーは、惑星の周回軌道をゆっくり回った。
 食堂。
 カディ大使のトミーは、テーブルいっぱいに料理をならべて試食して
いた。
「こっちは、カタリアンプリンです」と、ニーリックス。料理を持って
きた。
「うん、うううん」と、トミー。口いっぱいにほうばって、ドリンクも
飲んだ。
 さっそく、トミーは、スプーンでプリンを一口味わった。「ふ〜ん、
非常に軽い舌触りだ。口の中で蒸発して行くようだぞ」
「舌と接触するときに、独特の反応を起こすんです」と、ニーリックス。
「あ、でも、トレス中尉のところへ行きませんと、ずいぶん待たせてい
るもんで」
「そう、機関室で、ワープコアを見なければな」トミーの声が低くなっ
た。近くのテーブルで仲良く話す男女を見た。「われわれは、男女を分
けて仕事をする。だが、本来は、こうあるべきかもしれん。女性がいた
方が、職場環境に活気が出る」プリンをまた食べた。
 トミーの胸ポケットのタイマーが音を立てた。

30

29





「お祈りの時間です」と、ニーリックス。
「ああ、そのようだ。だが、今日は、パスすることにしよう。機関室を
見学するのも後回しだ」仲良くしゃべっている男女を見た。「それより、
きみらの文化に触れることの方が大切だろう」プリンをまた食べてから、
差し出した。「ほかのデザートも!」
 ニーリックスは、うなづいて、渡された空の容器を調理室に持って行
った。
 
               ◇
 
 第2貨物室。
 セブンが貨物の調査をしていると、ドクターが入って来た。
「やぁ、おはよう」と、ドクター。「レッスン3の時間だ。題して、相
手を知る」
「内容は?」と、セブン。ハンディパネルに貨物を登録しながら。
「自分に合うパートナーを捜すには、興味のあることや目標を話し合う。
それがキーだ。では、趣味から始めよう。余暇はどう過ごしているんだ
ね?」
「再生だ」と、セブン。
「うう、きみの好きなものや、嫌いなものを聞かせてくれ」

32

31





「無意味な会話は大キライだ」と、セブン。
「そう、分かった。それじゃ、目標を聞こう。日々目指しているものは
?」
「完璧だ」と、セブン。
「個人で目指すにはいい目標だが、他人とは共有できんな。私は、最初
に稼働した日に、そのことを学んだ。そこで私が試みたのは、人と共有
できるなにかをしようとし、追及することだ。例えば、ホロ写真にオペ
ラ」
「音楽には、数学的興味をそそられる」と、セブン。
「すばらしい。その数学的興味を趣味に高めるんだ。他人とともに楽し
めるよ。まず、知識を試してみよう」
 ドクターは、入力パネルのところへ行って、簡単な楽譜をスクリーン
に出した。
「これは?」
「長調の基本的メロディだ」と、セブン。「すでに予備的研究は済んで
いる」
「歌ってくれ!」
「ラララララララララー」と、セブン。
 ドクターは、それを録音した。「セブン、きみは実に美しい声をして
いる。一種の才能だ」

34

33





「集合体のおかげだ」と、セブン。「声のサブプロセッサーは、ボーグ
内で交信しやすいように設計されている」
「もう少し、難易度を上げてみよう」と、ドクター。曲を呼び出した。
「ユーアーマイサンシャイン、あんたは陽の光」
「地球で20世紀に流行は やった歌だ。初心者には打ってつけだ。歌って!」
「ディアザーナイト、ディア、アズアイレイスリーピング
     ある夜、眠っていると
 アイドリーム アイヘルドユー インマイアーム」
     夢で あんたを腕に抱いていた
「非常に、すばらしい。だが、もう少し、感情を入れてみたらどうかな?
こんなふうに」
 ドクターも歌った。感情を込めて。
「フェンアイアウォーク、ディア、アイワズミステイクン
     目覚めて、夢だったと気づいた
 アンドアイハングマイヘッド アンドクライド
     うなだれて 泣いた」
「どうかね?」と、ドクター。「コンピュータ、伴奏を流してくれ!」
「ピピ」と、コンピュータ。伴奏が始まった。
「いっしょに歌おう」と、ドクター。
 「ユーアーマイサンシャイン、マイオンリーサンシャイン

36

35





     あんたは陽の光、たった1つの陽の光
  ユーメイクミーハッピー フェンスカイスアーグレイ
     空がグレーでも 幸せにしてくれる
  ユールネバーノウ、ディア、ハウマッチアイラブユー
     どれほど愛しているか、知ることはない
  プリーズドントゥテイク マイサンシャインアウェイ
     どうか 陽の光を消し去らないで
  ユーアーマイサンシャイン、マイオンリーサンシャイン
     あんたは陽の光、たった1つの陽の光
  ユーメイクミーハッピー フェンスカイスアーグレイ
     空がグレーでも 幸せにしてくれる
  ユールネバーノウ、ディア、ハウマッチアイラブユー
     どれほど愛しているか、知ることはない
  プリーズドントゥテイク マイサンシャインアウェイ
     どうか 陽の光を消し去らないで」
 ドクターは、手で拍子を取りながら、終わるとセブンに笑顔で会釈し
た。
 
               ◇
 

38

37





 ボイジャーは、惑星の周回軌道をゆっくり回った。
 天体測定ラボ。
 セブンは、スクリーンにデータを出して調べていた。
 ドアがいて、ハリーキム少尉が入って来た。
「セブン」と、ハリー。「最初の天体スキャンデータを出してくれ!」
「了解」と、セブン。
「あれはクルー名簿かい?」と、ハリー。
「ドクターに好きな候補を選べと言われた」
「なんの?」
「レッスン10、最初のデート」
「きみのデートかい?」
「すでにふたりのクルーに絞った。仕事の能力と趣味の互換性からだ」
「趣味があるとは知らなかった」
「わたしもだ。だが、明らかにある。天文学、量子力学、音楽だ」
「ぼくはクラリネット」と、ハリー。
「おまえは候補には入っていない」と、セブン。
「そ、それじゃ、せめて、選ぶのを手伝ってあげるよ」
 セブンは、スクリーンのそばへ行って、候補の顔と履歴を出した。
「エアポニックスベイ勤務、ボロノウスキー少尉、職歴にキズはなく、
アコーディオンを弾く」

40

39





「だめだめ、やめた方がいい、ユーモアのセンスゼロだ」と、ハリー。
「構造工学部門、チャップマン中尉」
「彼ならいいんじゃない?」と、ハリー。
「以前、ともに仕事をした」と、セブン。「いいかもしれんな」
 
               ◇
 
 ボイジャーの通路。
 チャップマン中尉が、ハシゴ階段で、船体の修理をしていた。
「ロバートソンなら」と、チャップマン。「アイソリニアスパナを取っ
てくれ!」
「わたしだ」と、セブンの声。
 驚いて、チャップマンは工具を足で蹴とばして下に落とした。
「済まない」と、セブン。工具を手で受け止めた。「驚かすつもりはな
かった」
「いや、いいんだ」と、チャップマン。「仕事かい?」
「おまえに用がある」と、セブン。「いや、お願いがあるのだ。19時
に第2ホロデッキに来て欲しい」
「なにかの工学シミュレーション?」
「ディナーだ」

42

41





「ディナー?」
「栄養物を消費する行為を言う」
「ハハ、それは分かっているけど━━━それって、ぼくを誘っているの
?」
「そうだ」
 チャップマンは、困って、笑顔になった。
「返事を聞かせてくれ!」と、セブン。
「わ、分かった、いいよ」
「時間厳守だ」と、セブン。
「分かった、どうも」
「工具を落とすのは危険だ。もう少し、気を付けたまえ」と、セブン。
工具をチャップマンに返して、立ち去った。
 
               ◇
 
 医療室。
 セブンが入って来た。
「セブン」と、ドクター。「どこか具合でも悪いのかね?」
「デートをする」と、セブン。
 それを聞いて、ドクターは笑顔になった。

44

43





            2
 
 医療室。
 ドクターは、ユーアーマイサンシャインを鼻歌で歌いながら、仕事を
していた。
 トムハリスが入って来た。
「遅れてごめん」と、トム。
「別にかまわんよ」と、ドクター。「そうだ、今日は休んだらどうかね?
ゆっくりと。1か月間のダブルシフトはきついぞ!」
「なぜ?」と、ドム。
「セブンが今夜デートをする。うまくいけば、もちろんいくと思うが、
明日の歓迎パーティもうまくゆくだろう」
「それで、相手は?」と、トム。
「チャップマン中尉だ」
「ハハ、チャップマン?そりゃいい」
「どういう意味だ?」
「やつは、女性が苦手で通っているんだ」
「だから?」
「だからって?セブンの高圧的な性格からして、デザートまで持つとは
思えないね」

46

45





「セブンが高圧的になるのは、相手に問題があるときだけだ。ほんとう
の彼女は、有能で、チャーミングでさえある」
「フフ、有能は認めるけど、チャーミング?」
「ほとんどの人間は、彼女の内面を見ようとしない。彼女の歌声は実に
すばらしい」
「へぇ?そうなんだ、歌ってくれなんて頼んだことないもんな」
「どういう意味かね?」
「ヘヘ、どうやらドクターは、かわいい生徒にひかれ始めているようだ」
「ハハ、なにをバカな!ありえんよ!」
「それはどうですかね、先生!」と、トム。出て行った。
「歌わせたのはレッスンの一部だ」
 
               ◇
 
 第2貨物室。
 セブンが仕事をしていると、ドクターが入って来た。
「ディナーの約束は」と、ドクター。「10分後だぞ。なぜしたくしな
い?」
「これで行く」と、セブン。
「なにか忘れてないか?」と、ドクター。「レッスン8、成功への装いよそお

48

47





「このままで効率的だ」と、セブン。
「確かに効率的だが、もう少しなんて言うか、華やかに行こう!手始め
に、髪型を変えてみよう」ドクターは、セブンの髪止めをはずした。
「私もこういうことに慣れていると言えんのだが。もう少し、頭を振っ
てみてくれ!」
 セブンは頭を振った。「この方がいいか?」
「ああ」と、ドクター。パネルのところへ行った。「最初にきみの服装
を考えたとき、カジュアルな服装もなん着か考えてみた。好きな服を選
ぶといい」パネルに服を出した。
「不可能だ」と、セブン。
「私のおすすめは」と、ドクター。「これだ!」
「この制服は、どう着ればいいのかわからない」と、セブン。「手伝っ
てくれ!」服を脱ごうとした。
「あ、いやいや、それで大丈夫さ」と、ドクター。「ホロデッキを用意
して来る。今夜は存分に楽しんで来るとよい。明朝、レポートの提出を
!」ドクターは、室を出て行った。
 
               ◇
 
 第2ホロデッキ。マルセイユのバー。

50

49





 カウンターのすみで、チャップマンが待っていると、ドレスに着替え
たセブンが入って来て、まっすぐ中尉のところへ行った。ドクターがセ
ーター姿でピアノを弾いていた。
「すごく素敵だ」と、チャップマン。
「ありがとう、おまえも、同様に、ステキだ」と、セブン。
「あ、フフ、ありがとう。そうそう座らないか?」
「どこへ座るのだ?」
「店の一番のテーブルだ」と、チャップマン。腕を差し出した。
 セブンがドクターを見ると、ドクターはうなづいたので、腕を添えた。
「まさか」と、チャップマン。「ほんとうに来てくれるとは!」
「誘ったのはわたしだ」
「ぼくの友達が仕組んでだましているんだと」
 チャップマンがイスを引くと、セブンは別のイスに座ったので、自分
でイスに座った。
「ああ、シャンパンは?」と、チャップマン。
「シンセオールは、皮質機能を損なう。水でいい」と、セブン。
「ぼくはいい?」
「許可する」
 チャップマンは、テーブルの脇に用意されていたシャンパンをグラス
についだ。

52

51





「正直言って、すごく、緊張してね」と、チャップマン。
「理由を述べよ!」と、セブン。
「あ、なんて言うか、女性とデートなんて、すごく、久しぶりだから」
「わたしは、初めてだ。従って、わたしもおまえと同様、緊張している」
「共通点が見つかって、良かった、ハハ」と、チャップマン。料理の注
文をしようとして、後ろにいるボーイを呼ぼうとしたがなかなか気づい
てくれなかった。
「ウェイター!」と、セブン。立ち上がった。「直ちに、このテーブル
に出頭したまえ!」
 ドクターは、驚いて、ピアノを中断させた。しかしなにごともなく、
明るい曲を弾き始めた。
 しばらくして、料理が運ばれて、テーブルに並べられた。
「どうかした?」と、チャップマン。
「外骨格をようしている」と、セブン。
「ああ、ロブスター。地球ではおすすめなんだ、食べて!」
 セブンが困ってドクターを見ると、ドクターはポキッと折るしぐさを
した。
 セブンが両手でロブスターを折ると、チャップマンに汁が飛んだ。
「新しい衣類を」と、セブン。「リプリケートしよう」
「大丈夫、平気さ」と、チャップマン。「ちょっと、外骨格がついただ

54

53





けだ、ヘヘ、デザートでも頼もうか?」
「それは、早急にさっきゅう切り上げるためか?」
「違うよ、とんでもない」と、チャップマン。服に飛び散った料理をタ
オルでふき取った。「今夜は、なんと言うか、楽しい夜だ」踊っている
男女を見た。「ぼくらも踊らない?」
「ダンスは、レッスン35だ。まだ、習っていない」
「ぼくは踊れるってほどじゃない。きっと、楽しいよ」
「いいだろう」と、セブン。立ち上げって、先にフロアへ行った。
「フフ、腕はこうだ」と、チャップマン。ふたりで、足を動かした。
「もっと、リラックスしてごらん?」
「気を抜くと」と、セブン。「体内の時間記録装置が支障をきたす。音
楽に合わせて動けなくなるんだ」
「だったら、時間記憶装置とやらを無視して、ぼくのリードに任せてご
らん」
 うまい具合に踊り出した。
「そう、その調子」と、チャップマン。
 セブンは、隣りで踊っている男女が、片手をあげて回されるのを見て、
やってみたくなった。セブンが力を入れ過ぎて、チャップマンは左肩を
抑えて倒れた。
「損傷したのか?」と、セブン。

56

55





「いや、大丈夫だ」と、チャップマン。
 ドクターが、ハンディセンサーで診察した。
「じん帯が切れている」と、ドクター。「残念だが、医療室へ行った方
がいい。ミスターパリスにてもらえ!原因を言う必要はないぞ」
「楽しかったよ、セブン」と、チャップマン。セブンに。「また、リベ
ンジしよう。いつか」チャップマンは、左肩を抑えてバーを出て行った。
「失敗した」と、セブン。
「とんでもない」と、ドクター。「ロミオとジュリエットだって、最初
はうまく付き合えなかった。それに、海にいるロブスターは、彼だけじ
ゃない」
「交際術のレッスンは中止にしてくれ!」と、セブン。歩き出した。
「最初のデートで完璧にふるまえなかったからと言って、あきらめるの
は早い」
 ふたりは、カウンターに座った。
「デートは、非効率的過ぎる」と、セブン。「われわれの方が、よほど
分かり合えているじゃないか!すべて単刀直入に語り合える」
「信頼関係があるからな」と、ドクター。「だが、仕事仲間だ。ロマン
スとは関係ない」
「そうだ」
「きみならすぐに、基本的な能力をマスターできる」

58

57





「デートもすぐに終わってしまった」
「ジョークかね?」
「レッスン6、冗談を楽しめ!」
「やはり、飲み込みが早い!せっかくのデートを終わらせるのは惜しい
な。レッスン35を学ぶのにちょうどいい。シャルウィダンスだ!コン
ピュータ、サムワントゥウォッチオバーミーを流してくれ!」
 ドクターがダンスフロアに行くと、セブンが正面に立った。
「簡単なステップから始めよう。まずは、左手を私の肩に!右で私の手
を取って!では、近づいて!あせる必要はない」
 ふたりはなんとか踊った。
「大丈夫だ、私にはじん帯がない」
 男が左手をあげて、女がそれをくぐるのもできた。
 音楽に合わせて踊るセブンとドクター。








60

59





            3
 
 第2ホロデッキ。マルセイユのバー。
 カディ大使のトミーは、バーのカウンターで両手にボリアン人とオル
レアン人の女を抱えていた。
「お代わりをくれ!」と、トミー。
「トミー大使!」と、ニーリックス。あわててバーに入って来た。
「ニーリックス!」と、トミー。「友よ、そしてホストよ、そして、使
用人よ」
 ニーリックスはカウンターまで来た。
「私の友人を紹介しよう」と、トミー。ふたりの女を紹介した。「アラ
ンダ、そして、トリア、ハハハ」
「なにしてるんです?」と、ニーリックス。
「ご覧の通り、きみが私のために用意してくれた格別のメニューを、堪
能させていただいている」
「ここは予定表には入れてません」と、ニーリックス。そして、ウェイ
ターに。「ブラックコーヒー!」
「ニーリックス」と、トミー。「船の中を探検していたら、このホロデ
ッキを見つけた。この宝石たちが興奮した目付きで私を見つめていた」
「急いでください、歓迎パーティが始まります」

62

61





 トミーは、出されたコーヒーを飲んだ。「刺激的な味」と、トミー。
「これは?」
「コーヒーです」と、ニーリックス。「あっちにも山ほどありますから」
 ニーリックスは、トミーを半分抱えながらいっしょに歩き出した。
「われわれのコロニーには」と、トミー。半分抱えられながら。「どん
なに意思の弱いものでさえ誘惑されるような飲みものはないの」ピアノ
のところまで来ると、コーヒーカップをピアノの上に置いて、ニーリッ
クスから離れた。「ニーリックス、告白しよう。オレさまはカディのコ
ロニーを出ようと思う。ボイジャーに加わり、誓いを捨て、きみらのす
ばらしい文化の中にこの身をたっぷりと浸して暮して行きたい」
「それは、シンセオールを飲んだせいですよ」と、ニーリックス。トミ
ーを引っ張りながらバーの出口へ向かった。
「違う!」と、トミー。「私は今ほど頭がえわたっていることはない。
きみには感謝しているぞ、ニーリックス」
「はいはい、分かってますって」と、ニーリックス。バーの出口の階段
を上った。
 
               ◇
 
 天体測定ラボ。

64

63





 仕事をしているセブン。
 ドクターが入って来た。「忙しいかね?」と、ドクター。
「レッスンより仕事を優先すべきだ」と、セブン。仕事をしながら。
「では、大使の歓迎パーティに出るのはムリかな?」
「出席する義務はない」
「いかにも」と、ドクター。「だが、レッスンで学んだ交際術を試す、
いいチャンスになるかもしれん」
「レッスン11、パーティライフ」と、セブン。
「その通り、どうかね?」
「わたしをデートに誘っているのか?」と、セブン。
「そのようだ」
「では、お受けしよう」と、セブン。「服装はこれでいいか?」
「完璧だ」と、ドクター。腕を出した。セブンが腕を取ると、ふたりで
歓迎パーティへ向かった。
 
               ◇
 
 食堂。大使の歓迎パーティ。
 みんな立ったまま談笑して、飲み物が配られた。
「ホログラムの耳を曲げるのは?」と、トムパリス。冗談を言っていた。

66

65





「プリズムを使う」トミー大使とニーリックスが、大笑いしていた。
「それじゃ、体重を測ったら?ホログラム」
「このユーモアは、神の啓示だ」と、トミー。差し出された飲み物を受
け取った。「ありがとう」
「あ、そうそう」と、ニーリックス。「大使、コーヒーが好物なんでは
?」
「コーヒーか、それもいただこう!」と、トミー。トムと笑い合った。
 ニーリックスが調理室へ向かおうとすると、副官に呼び止められた。
「ニーリックス」と、チャコティ。肩に正装用のチェーンを吊るしてい
た。「大使が酔っているように見えるが、気のせいか?」
「知らないうちに飲んでたんです」と、ニーリックス。「見学の計画も
たてて、室にお祈り用の台座まで用意しました。なのに、ちょっと目を
離したスキに、あのザマです。朝には艦長と司祭さまが戻られるってい
うのに、どうしましょう?」
「祈るんだ」と、チャコティ。その冗談に、ニーリックスはまゆをひそ
めた。
 ドアがあいて、腕を取り合ったドクターとセブンが姿を見せた。
「これはこれは」と、トム。「おふたりさん、おそろいで」
「ミスターパリス、紹介しよう、セブンだ」と、ドクター。「私のパー
トナーだ」

68

67





「そうか、なるほどね、ドクターだったらこの前のあいつみたいに医療
室送りになることはない」
「言葉を慎みつつしたまえ!」と、ドクター。
「いいんだ、ドクター」と、セブン。「ちょっとした会話を楽しんでい
るだけだろう。良ければ、飲み物を取って来よう」
「じゃあ、悪いが、ジントニックを頼む」と、トム。
「私は結構だ」と、ドクター。「胃袋を忘れて来たんでね、ハハ」
「いい冗談だ、ドクター」と、セブン。飲み物を取りに行った。
「驚いたな」と、トム。ドクターに。「ずいぶん礼儀正しくなった。で
も、セブンのデート相手は生身の人間で、と言ったはずだ」
「私は光とフォースフィールド」と、ドクター。「彼女は肉体と血液。
われわれの違いはそれだけ」
「あの愉快な男はどこだ?」と、トミー。大声を上げて、ニーリックス
がなだめていた。
「ミスタートミー、少しおかけになりませんか?」と、ニーリックス。
「あそこにいた、パリス少尉!」と、トミー。5メートル先にいるトム
に気付いて手を振った。「ほかのホログラムジョークを教えてくれ!」
「私の十八番お は こを盗んだのか?」と、ドクター。
「ひどく酔っぱらってて、なに言っても笑うんだ」と、トム。
「いた、いた」と、トミー。トムのところまで来た。「きみはユーモア

70

69





ガイドの大使だ」
「助けてくれよ、ドクター」と、ニーリックス。
 セブンがそこに戻り、トムにジントニックを渡した。
「セブン」と、ドクター。「レッスン23の復習をするいい機会だ。歓
待のスピーチ」
「いいだろう」と、セブン。前に出て、スプーンを取ってグラスにあて
て音を出した。
「紳士淑女のみなさん、ご注目を」と、セブン。「われわれは文化の違
いがあるからこそ歩み寄ろうと努力します」
 トミーが薄目をあけて、セブンを見ていた。
「個性の尊重を祈って」と、セブン。乾杯のしぐさをし、一同拍手。
「あの一風変わった女性は?」と、トミー。小声で、ニーリックスに。
「セブンオブナインっす」と、ニーリックス。
「彼女と話したい」
「では、あとで」と、ニーリックス。トミーをなだめた。
「すばらしかった」と、トム。スピーチを終えたセブンに。
「ありがとう」と、セブン。
「どうやら奇跡を起こしたようだ」と、トム。ドクターに。「勝ちは認
めるよ」
「勝ち?」と、セブン。

72

71





「オレの負けだ」と、トム。ドクターに。「いつからダブルシフトで働
く?」
「わたしを賭けの対象に?」と、セブン。ドクターに。「そうなのか?」
「そういうわけじゃない」と、ドクター。
「あ、これは」と、トム。説明した。「オレが言い出したことなんだ」
「わたしへの配慮は」と、セブン。ドクターに。「個人的利益を追求す
るためで、心からのものではなかったのだな?」
「心からのものだ」と、ドクター。
「交際術を学ぶべきなのは、わたしだけではないらしい」と、セブン。
「ステキな夜をありがとう、ドクター」グラスとスプーンをドクターに
渡して、出口に向かった。
「よう、ハハ」と、トミー。出口で両手を広げて、セブンを通れなくし
た。「いっしょに私の室へ来ないか?」セブンの腕をつかんだ。「愛の
営みについて、いっしょに研究しよう」
「その手を離せ!」と、セブン。「さもなければ、わたしが離す」セブ
ンはトミーの手を振り切って、ドアの外へ足早に去った。
「今、あの女の言ったことを聞いたか?」と、トミー。みんなに大声を
出した。「私は名誉あるゲストだ」
「大使!」と、チャコティ。ニーリックスといっしょに、トミーを制止
した。「お疲れのようです。少し休まれたら?」

74

73





「いいや、まだ、私はここにいる」と、トミー。ふたりを振り切った。
「さっさと、もう一杯、持って来い!」トミーは、酔いが回って、その
場に倒れた。







            4
 
 医療室。
 トミーは診察台に寝かされ、ドクターはハンディセンサーで診察した。
「シンセオール飲んだからと言って、倒れるか、ふつう?」と、ニーリ
ックス。
「人にりけりだ」と、ドクター。「大使の胃袋には、シンセオールを
分解する酵素がまったくない」
「なんとか治療できないかな?」と、ニーリックス。
「酵素は合成できる、2・3日掛かるがね」

76

75





「そんな!艦長は朝、戻って来るんだ!」
「冷たいシャワーでも浴びせるか」と、トム。
「このままで帰したら、大使は牢獄ろうごく行きだ」と、ニーリックス。「取引
だって断られるに決まっている」
「ああ、私のセブン」と、トミー。目が覚めて、立っているセブンに気
づいた。
「シンセオール分子を同化できるよう」と、セブン。ドクターに。「わ
たしのナノプローブを調整したらどうだ?」
「同化して!」と、トミー。
「副作用があるかもしれん」と、ドクター。
「お願い!」と、トミー。
「試してみるか」と、ドクター。
「カディには」と、ニーリックス。「清められていない治療を受けては
ならない規則がある」
「ここまで来たら」と、トム。「いくつ規則を破ろうがいっしょだろ?」
「彼を治療するか」と、ドクター。「酔っぱらったままにしておくか、
決めるのはきみだ!決めたまえ!」
「ナノプローブを!」と、ニーリックス。すぐに。
 ドクターがうなずくと、セブンは、別室へ行って準備を始めた。
「きみに謝らあやまければならない」と、ドクター。セブンにいてきた。

78

77





「ナノプローブの抽出は」と、セブン。「取るに足らぬ作業だ。謝罪に
は及ばない」
「違う、私が言っているのは」と、ドクター。「ミスターパリスとした
賭けのことだ。きみがだまされたと思うのはムリもない。だが、私には
決してその気はなかった」
「謝罪を受け入れよう」と、セブン。ドクターに、ナノプローブ抽出器
を渡した。
「ここではっきりさせよう」と、ドクター。「2度と誤解が起きないよ
うにな。私がきみをパーティに誘ったのは、きみと行きたかったからだ。
事実は、ここ数日で、私はきみに、親しみを感じた」ドクターは、セブ
ンの首からナノプローブを少量取った。
「親しみ?」と、セブン。
「ただの仕事仲間と言うより、その、友達だ」
「友達、同感だ」と、セブン。「始めるとしよう」ドクターからナノプ
ローブ抽出器を受け取って、あわただしく作業を始めた。
「そうだな」と、ドクター。別室でトムが入力しているパネルへ移動し
た。
「ここから代わるよ」と、ドクター。トムに。「ミスターパリス、教え
てくれ、だれかに恋愛感情を抱いた場合、どう伝えればいいのかね?セ
ブンのレッスンのために知っておきたい」

80

79





「ああ、ハハ、はっきりと言うべきなんだ」と、トム。「自分の素直な
気持ちを」
「一方的な感情でも?」と、ドクター。
「そりゃ、いつも両想いとは限らない」
「そうか、ありがとう」
「フフ」と、トム。「セブンに言ったらどうだ?ドクター、この室でセ
ブンに夢中になっているのは大使だけじゃないはずだ」
「言えるわけがない」と、ドクター。「彼女は生徒だ」
「ホログラムとボーグ、ちっとも不思議じゃない。オレとベラナもな」
 ドクターは、となりの室で作業しているセブンを見て、困った顔をし
た。
 
               ◇
 
 通路。
 ニーリックスが、トミー大使の腕を取って歩いていた。
「もう少しゆっくり歩いて」と、トミー。
「司祭さまが到着されます」と、ニーリックス。
「ノドが乾いてかなわんな、ちょっとサンドラに寄って戻る」
「ダメです、ダメ、ダメ、ダメ、ダーメ、それはいけません」と、ニー

82

81





リックス。逃げようとするトミーの腕を取って歩かせた。
 転送室に到着した。
「ドアの音が大き過ぎる」と、トミー。
「二日酔いだからっすよ」
「ニーリックス、夕べのことはよく覚えてないのだが」と、トミー。
「たしか、大声を出した気が」
「ごりっぱなスピーチにクルーも大感激、歓迎パーティは大成功でした。
ですね?」
「分かった、きみらの忍耐力に感謝するよ」
「今度は私が感謝する番ですよ」と、ニーリックス。転送係にうなづい
た。
 艦長、ニーリックス、カディの司祭の3人が転送されて来た。
「おかえりなさい」と、ニーリックス。
「ただいま」と、ジェインウェイ。「どうだった?」転送台を降りて、
いた。
「全システム異常ありません」と、ニーリックス。「キム少尉がセンサ
ーアレイにちょっとした故障を発見しましたが、すでに修復済みです」
「トミー大使のことを聞いたのよ!」と、ジェインウェイ。トミーに。
「滞在、楽しんでいただけた?」
「ええ、それはもちろんです」と、ニーリックス。トミーの代わりに答

84

83





えた。「心より楽しんでいただけたかと」
「この船には」と、司祭。「非常に誘惑が多いと聞いている。まさか、
負けてはおらんだろうな?」トミーをにらんだ。「さまざまな誘惑に」
「も、もちろんです」と、トミー。
「あなたが置いて行かれた日程通りに」と、ニーリックス。「行動して
おりました」
「情けない!」と、司祭。
「司祭さま」と、トミー。
「新たな経験をすることは、けっして規則違反ではない。それを習慣に
しない限りはな」
「ごもっともです」と、トミー。
「では、取引を進めるとしよう」と、司祭。
「お願いします」と、ジェインウェイ。
「会議室にご案内します」と、トゥヴォック。司祭を連れて出て行った。
「ご苦労さま、ニーリックス大使」と、ジェインウェイ。そのあとに続
いた。
 トミーも、ニーリックスに支えられながら、あとに続いた。




86

85





            エピローグ
 
 第2貨物室。
 ボーグ再生装置の足元に、赤の花束。セブンがそれを手にした。
「気に入ったかね?」と、ドクター。
「品種ローザルビフォリア」と、セブン。花束を持って、ドクターのい
る方へ歩いて来た。「どういうことだ?」
「最近のきみの目覚ましい社会進化を、祝いたかったんだ。カードを読
んでくれ」
 セブンは、花束に挟まれたカードを手にして読んだ。
「ユーアーマイサンシャイン、あんたは陽の光」
「きみと過ごしたこの、数日は、忘れ難いものだ。きみは私の人生に光
ともした」
「わたしに、恋愛感情を抱いているのか?」
「きみは、私のプログラムの一部なのだ。離れるとサブルーチンを、失
ったような気になる。答えて欲しいとは思っていない。ただ、知ってい
て欲しいんだ。私の気持ちを」
 ドアのチャイムが鳴った。
「コンピュータ」と、ドクター。「プログラム終了!」
 セットが消えると、そこは第2ホロデッキだった。

88

87





「どうぞ」と、ドクター。
 ドアが開くと、セブンが入って来た。
「おまえに話がある」と、セブン。
「これは奇遇だ、私もきみに話したいことがある」と、ドクター。
「聞こう」
「きみから始めて」
 セブンは近づいて来て、ドクターにハンディセンサーを渡した。
「これは?」と、ドクター。
「医療用トリコーダだ」と、セブン。「分析能力を、33%強化した。
効率的な機具が欲しいと言っていたはずだ」
「確かに、言っていた」
「贈り物だ、レッスン22、思い出への感謝」
 ドクターは、なにも言わなかった。
「なにか不満か?」と、セブン。
「そんな」と、ドクター。「どんでもない。すごくうれしいよ」
「感謝の気持ちを表しひょうたかったのだ。もはや、おまえの助けは必要とし
ない。この船にわたしと合う人間はいない。しかし、将来、分かり合え
る個体に遭遇したら、そのときは、また、助けてもらう」
「分かった」と、ドクター。「もちろん」
「おまえの話は、なんだ?」と、セブン。

90

89





「うう、礼を言いたかったんだ、この数日間、忘れ難い思い出を、あり
がとう」
「礼には及ばん」と、セブン。室を出て行った。
 ドクターは、悲しそうな顔になった。
「コンピュ−タ、ホロプログラム、パリス3、作動」
 客がほとんどいない店内。ドクターはピアノ向かって、サムワントゥ
ウォッチオバーミーを弾き始めた。
 「ウォンチューテルハープリーズ トゥプットオンサムスピード、
     あの女に もっとリズムに乗ってと言って
  フォローマイリード、オー、ハゥアイニード
     リードに従って、どんなに必要としているか
  サムワントゥウォッチオバーミー
     だれかこちらを見ている」
 
━━━ボイジャーは、ふたたび、アルファ宇宙域への、帰還の旅へ。
 
 
 
                  (第五_六_二話 終わり)


92

91