サムワントゥウォッチオバーミー
マイケルテイラー、ビラノンブラガ
プロローグ
ボイジャーの食堂。
パイロットのトムパリスと機関室チーフのベラナが、テーブルに座っ
て食事していた。
「そう、それで」と、トム。「ハリーはギアを入れて、一気にアクセル
を踏んだ。オレたちはブリートの店に一直線」
「わたしにも運転させてよ!」と、ベラナ。
「ああ、運転、大丈夫?」
「宇宙船を操縦できるのよ、車なんて楽勝だわ!」
「69年型のムスタングを甘く見るなよ!クラッチがくせものだ」
「見てよ!」と、ベラナ。「また、わたしたちを観察している」
セブンはパネルを手に、5メートル先からこちらをチラチラ見ていた。
「仕事してるだけだよ」と、トム。
「デザートは?」と、ニーリックス。デザートの盆を持っていた。
「なに、それ?」と、ベラナ。
「カディ人のゲストのために用意したチーズだ。味、どうかな?」
ベラナは1つつまんで、ひと口食べた。「薄いわね」
「薄いか、大丈夫かな。たとえ薄くても、カディ人には刺激のある食べ
物は、ご法度なんだ」
「ずいぶん神経を使っているんだな」と、トム。
「カディ人は、すごく怒りっぽいから。艦長があっちのコロニーに行っ
てるあいだ、接待はオレに任されている」
「大丈夫、おまえは優秀な外交官だ」
「だといいけど」ニーリックスはキッチンへ戻って行った。
「まだ、こっちを見ている」と、ベラナ。
「考え過ぎだって」と、トム。
「さぁ、どうかしら」ベラナは、立ち上がると、セブンが座ってるテー
ブルへ行った。
「そんなに楽しい?」と、ベラナ。
「なにがだ?」と、セブン。
「さっきからずっと、わたしたちを見張っている」と、ベラナ。「きょ
うだけじゃない、きのうは機関室へ向かうわたしたちをずっと追けてた。
それからおとといは、シャトルベイで飛ぶのを待っているとき」
「その通り、おまえたちを観察している」と、セブン。「人間の繁殖行
動を研究しているのだ」
ベラナは、テーブルに置かれたパネルを手に取って、読み上げた。
「宇宙歴52647、1400時。対象者は、女の室の前で、言い争い
をしている。男は12本の植物を抱えて戻る。品種ローザルビフォリア、
その後直ちに休戦状態に入る。宇宙歴52648、0300時。繁殖行
動開始」パネルを置くと怒鳴った。「どうしてそんなことがあんたに分
かるのよ、セブン!」
「第9デッキ、セクション12にいる者であれば、だれでも気づくはず
だ」と、セブン。
「なにか問題でも?」と、ニーリックス。
「収集したデータをぜんぶ見せてちょうだい!」と、ベラナ。
「まだ、研究を終えていない」と、セブン。
「これを知ればじゅうぶん!ボーグがクリンゴンを怒らせれば、クリン
ゴンはボーグの鼻をへし折る」
「ベラナ」と、ニーリックス。
「ドクターに言って」と、ベラナ。「今からすぐに急患が向かうって」
「ベラナ」と、トム。「室で飲み直そう!」
「今回だけは許さない」と、ベラナ。食堂を出て行った。
1
ボイジャーは、カディ人のコロニーのある惑星の周回軌道に入った。
艦長室。セブンが呼び出されていた。
「ベラナのリポートを読んだわ」と、ジェインウェイ艦長。コーヒーを
手に、赤に肩部分が黒の艦隊の礼服を着ていた。「驚いたのは言うまで
もない」
「規約を破らぬよう配慮した」と、セブン。
「そういう問題じゃない。ここは宇宙艦で自然保護区じゃないの」と、
ジェインウェイ。鏡に礼服姿を映した。「あら、階級章が」
「人間の行動について学ぶよう、言ったはずだ」
「こころがけはいいけど」階級章は下に落ちていた。「あった━━━問
題はやり方、クルーの行動を記録するなんて。これ、付けてくれない?」
セブンは、ジェインウェイの胸に階級章を付けた。
「自分で試してみたらどうなの?」セヴンにウィンクした。「ロマンス
を味わうの」
「わたしには、ロマンスなど無意味なだけだ」
「だったら、3万ギガクワッドのデータを集めるのね」と、ジェインウ
ェイ。「急がなきゃ」室を出て行った。
◇
通路。艦長たち、3人は、転送室へ急いだ。
「最初の項目をチェックするの忘れていた」と、ジェインウェイ。ニー
リックスに。「カディ人は、浄化水しか使わないそうよ。ソニックシャ
ワーは禁止」
「仕様書に従い」と、ニーリックス。「室に洗浄式液体貯蔵容器を用意
しました」
「1日8回、祈りを捧げるんだ」と、トゥヴォック。
「分かってます」
「大使には最善のおもてなしをするように」と、ジェインウェイ。「カ
ディの上層部に礼儀知らずだと思われたくないもの」
3人は、転送室に着くと、横に整列して待った。
「転送開始」と、トゥヴォック。
カディ人大使がふたり、転送されて来た。
「歓迎の言葉を」と、ニーリックス。艦長に耳打ちした。
「家庭の神聖な義務から離れた旅人よ」と、ジェインウェイ。「われら
の家庭に受け入れよう。家族として」
「われらの純潔のしるしです」と、カディ人の長老。若い大使に合図し
た。「母なる女神のご加護を」
若い大使は、純白の布を、ジェインウェイとトゥヴォックの肩にそれ
ぞれ掛けた。
「彼は」と、ジェインウェイ。トゥヴォックに手振りした。「わたしと
同行するトゥヴォック少佐です」そして、ニーリックスに手振りした。
「彼は、ご存じ、ボイジャーの大使を務めるニーリックスです」
「トミーは公正な判断力の持ち主で」と、カディ人の長老。若い大使を
紹介した。「取引するにふさわしい相手か、厳しく見極めるでしょう」
「気に入っていただけます」と、ジェインウェイ。
「では、あなたがたをお連れいたしましょう」
ジェインウェイとトゥヴォックは、トミーと入れ違いに転送台に上が
った。3人はカディ人のコロニーへ転送された。
「どうぞ、こちらへ」と、ニーリックス。トミーを案内した。
◇
通路。
「ボイジャーは」と、ニーリックス。トミーに説明した。「長期の探査
目的に開発されたクルー146人のイントレピッド級の宇宙艦です。主
要システムからご紹介しましょう。まずは、機関室へ」
「データファイルにのっていた食べ物で」と、トミー。「試食したいも
のがあるのだが━━━ハスペラット」
「ベイジョーの料理は」と、ニーリックス。「辛い。あなた方は、刺激
物をとることを、禁じられているんでは?」
「ここにあるいろいろな食べ物を試してみたいのだ。より理解を深める
ために」
「分かった、まずは、食堂へご案内しましょう」ニーリックスは笑顔に
なった。
◇
医療室。
「皮質インプラントの効率は、ピークに達している」と、ドクター。セ
ブンをハンディセンサーで診断していた。「ナノプローブレベル安定。
問題は?」
「ない」と、セブン。
「食堂での一件を聞いたぞ、セブン」と、ドクター。
「この船のクルーは、情報を広める能力に、長けていると言えるな」
「うわさは、ワープスピードより速いと言うからな。なぜ、トムとベラ
ナを研究していた?」
「科学的興味からだ」と、セブン。
「それだけか?ほかにも自分で自覚してないわけがあるのでは?きみは、
女だからな」
「それはなにかの診察結果か?」
「生物学上の事実だ。行動に拒否し難い影響を与える」と、ドクター。
「治療法はあるのか?」
「研究対象を、男と女の軽いデートまで広げたらどうだ?」
「デートとは」と、セブン。「生殖行動?」
「そうとは限らん」と、ドクター。「デートとは、ふたりの人間がある
種の社会活動を共有し、理解を深め合うこと。そのうちロマンティック
な関係が生まれて、すべてうまく運べば、結婚にいたる」
「生殖行動とどこが違う?」
「きみの社会進化を促すいい機会かもしれんな。学んでみないか?」
「艦長も同意するだろう」と、セブン。診察台から跳び降りた。「どう
すればいいのだ?」
「任せたまえ、レッスンプランを考える」と、ドクター。「1時間後に、
第2ホロデッキで会おう。初デートには遅いが、やらないよりはましだ」
ドクターは、意気揚々と診察道具を片付けた。
◇
ボイジャーは、惑星の周回軌道をゆっくり回った。
第2ホロデッキ。
「まずは、イントロダクション」と、ドクター。スクリーンのコントロ
ーラを手にした。「題して、さまざまな愛の形」
コントローラのボタンを押すと、天の川銀河が映った。
「この銀河系には、多くの人類がひしめき合っており、その数だけ求愛
行為が存在する」
スクリーンにクリンゴンの男女が映った。「クリンゴン人の男は、愛
の証として女をかむ」ボタンを押すと、互いにひたいを寄せる青色の男
女。「これは、ボリアン人の男女が愛し合っているところだ。まだまだ、
求愛行為が謎に包まれている種族もある、たとえば」スクリーンに奇怪
な生物。「生命体8472には、5つの違った性別があるとされている。
ノーマルな人間は、近寄らない方がいい、ヘヘヘ」
セブンは、黙っていた。
「きみと付き合う可能性があるのは人間だ」と、ドクター。気を取り直
した。「先を急ぐとしよう、レッスン1、ファーストコンタクト」スク
リーンにボイジャーの通路にいる男女。
「人間が恋に落ちる出会い方は、無数にある。ここにあるのは」と、ド
クター。スクリーンを指さした。「偶然の出会いだ、同様に多いのは」
スクリーンに、紹介されている男女。「正式な紹介。この出会いが成功
すると、ロマンスは急激に発展し、究極の幸福の営みになる、生殖行為
だ」
スクリーンに、大きな卵子に群がる誓子。「これは偉大なる卵子の要
塞に無数の精子たちが襲い掛かろうとしているところ」
「ドクター!」と、セブン。「生殖行為の生理学的プロセスはよく分か
っている」
「そう」と、ドクター。スクリーンを消した。「では、ひとっ跳びして、
実践編に移るとしよう、レッスン2、公共の場での出会い。
コンピュ−タ、ホロプログラム、パリス3、開始」
薄暗いバーの場面。ピアノの音が聞こえた。
「ここは?」と、セブン。
「シ・サンドル」と、ドクター。バーの中を歩きながら、セブンに説明
した。「地球にあるマルセイユという町だ。ミスターパリスが、アカデ
ミー時代、あしげく通い詰めていたらしい。どうりで学校の成績がさん
ざんなはず」
バーカウンターに着いた。
「さ、ここへ座って」と、ドクター。セブンをスツールに座らせた。
「きみは出会いを求めてやって来た。理想の男との出会いだ」
ドクターは、自分のハンディパネルのセリフを読んだ。「やぁ!」
「どうも」と、セブン。自分のハンディパネルのセリフを見ながら。
「よく来るのかい?」
「いえ、今日が初めて」
「この町の人じゃないね。南フランスはどうだ?」
「とてもいいところね。想像していた通りだわ」
「一杯、ごちそうしたい」と、ドクター。
「わたしは」と、セブン。ハンディカムを返しながら。「液体飲料は必
要としない」
「これは練習だ、続けたまえ!」
「このような会話は無意味だ」と、セブン。
「確かに、無意味かもしれん。だが、デートには必要不可欠なんだ。相
手との調和を築くのに役立つ」
「結局、同化の方が優れているということだ」
「だったら、自分でアプローチしてみるとよい、例えば、あの男はどう
だ?」ドクターは、テーブルでひとりで飲みながら本を開いている男を
指差した。「行きたまえ!」
「いいだろう」と、セブン。ドクターのハンディパネルのせりふを見て
から歩き出した。
「どうも」と、セブン。男の前に立った。
「どうも」と、男。
「一杯、ごちそうしたい!」
「ええ、うれしいな」男は、本を閉じて、手を差し出した。「スチーブ
ンプライスだ、きみは?」セブンと握手して、投げ跳ばされそうになっ
た。
「サブンオブナイン、ユニマトリックスの」と、セブン。「セブンと呼
んでくれ」
「セブンか、珍しい名前だね?ああ、どうぞ、座って!」
セブンは、テーブルに男と向かい合わせに座った。
トムパリスが、バーに入って来た。ドクターを見つけると、近くに行
った。
「サンドラは、経営方針を変えたらしい」と、トム。「ビリヤード台が
無くなってる」
「シーッ!」と、ドクター。「今、レッスン中なんだ」
「交際術か?」と、トム。
「見たまえ!きみも勉強になる」トムは、ドクターの隣りに腰掛けた。
「顔の飾りは?」と、男。
「ボーグインプラントだ、ドローンだった」と、セブン。
「じゃ、大事な家宝ってわけだ、ハハハ」と、男。
「ボーグに家族はない」と、セブン。「ユニマトリックスのみだ」
「じゃあ、聞かせてくれないか、そのユニマトリックス?」
「上出来だよ」と、ドクター。トムに。「そうだろ?」
「やつはホログラム」と、トム。バーテンダーが持ってきたオンザロッ
クを手に取った。
「それが?」と、ドクター。
「セブンと対話できるようにプログラムされてる。生身の人間じゃ、あ
あは行かない」
「私に従えば、すぐに人間ともデートできる」
「セブンにデートの仕方を教えているのか?」と、トム。「ハハ、自分
だってデートしたことないくせに」オンザロックを飲んだ。
「ロマンスの経験くらいあるさ」と、ドクター。トムの方を向いた。
「フムムム」と、トム。
「きみは、セブンが持てないとでも言うのかね?」
「とんでもない。セブンとデートしたい男が山ほどいるはずだ。だが、
それはそれ。また、ドラブルに巻き込まれるのはごめんだ」
「私は、彼女の交際能力を信じている」と、ドクター。
「分かった」と、トム。「だったら続ければいい。ここはホロデッキだ。
彼女は首尾良くやるだろう。だが、ほんとうにデートを学ばせたいなら、
予測のつかない現実世界でさせるべきだよ」
「木曜の夜」と、ドクター。「ニーリックスが、カディ大使の歓迎パー
ティをやる。セブンが男と出席するだけでなく、そのデート相手を彼女
に夢中にさせるだろう」
「口で言うだけなら」と、トム。「だれだってできるさ。ほんとにセブ
ンが男を連れて現われ、外交上、なんのドラブルも起こさず、同じ相手
と帰って行ったら、来月、ダブルシフトで働いてもいい」
「失敗したら?」
「1か月の休暇」
「決まりだ」と、ドクター。トムと握手した。
突然、セブンは立ち上がった。
「どこ行くんだ?」と、男。
「会話は、ここで終了する」と、セブン。
カウンターに戻ると、ドクターに言った。「このレッスンは完了した、
つぎへ進んでくれ!」
「フフ」と、トム。「早目にオレの代わりを捜しておいた方がよざそう
だ」
ドクターは、トムを見た。
2
ボイジャーは、惑星の周回軌道をゆっくり回った。
食堂。
カディ大使のトミーは、テーブルいっぱいに料理をならべて試食して
いた。
「こっちは、カラリアンプリンです」と、ニーリックス。料理を持って
きた。
「うん、うううん」と、トミー。口いっぱいにほうばって、ドリンクも
飲んだ。
(第五_六_二話 つづく)