いつもふたりで
          フレデリックラファエル、スタンリードーネン
           
            プロローグ
             
             
情緒的でありながら、楽しげなテーマ曲。
映像は、ドライブしているイメージアニメーション。
道であったり、森だったり、標識であったり。
 
               ◇





 

2

1
























































 教会の鐘の音が聞こえてくると、大勢の人が、結婚式を挙げたふたり
を祝福に出てきた。ふたりは、車の後部座席に座っていた。
 そこへ、1台の車が通りかかって、足止めされた。
「あまり、幸福しあわせそうじゃないわね」と、女。
「そんなことはないさ。結婚したんだから」と、男。
 車は、走り去り、空輸される飛行機に入った。
 
               ◇
 
「よい、ご旅行を!ミスターウォレス」と、空港のレストランのボーイ。
「奥様も」
「サンキュー」と、男、「モーリスからの酒だ!」
「ふーん」と、女。手でグラスの上をさぐった。
「なにしてる?」
「あやつり糸があるかもよ・・・よい、ご旅行を!ミスターウォレス」
「奥様も・・・モーリスを嫌うは?悪くしやしないさ」
「わずらわしいわ」
「わずらわしいって?」
「うるさいし」
「モーリスダルブレさんからお電話です」と、ボーイ。受話器を渡した。

4

3
























































「サントロペスからです」
「たしかに、わずらわしいかも・・・モーリス?ああ・・・話したろ?
すぐは、ムリだ。ふたりで旅をしてるから」
 女は、読んでいた雑誌をイスの上において、バッグを持って席をはず
すと、電話ボックスの受話器をとった。「ロンドンを」
「ジョアンナと・・・妻だよ、そうさ」と、男。電話に。「もう、遅い。
車も必要だ」
「もちろんよ!ママも、寂しいわ」と、ジョアンナ。電話に。「すぐよ」
「なにも、心配ない。予定どおりだ」
「おばあちゃんたちと、仲良くするのよ」
「空間コンセプトが崩れる!空間のコンセプトだ!設計の基本方針。じ
ゃあ、3日後に」
 男は、電話を切った。
 ジョアンナは、受話器を差し出した。
「今度は、誰だ?」と、男。
「キャロラインよ!」
「キャロラインなんて、知らない!」
「キャロラインウォレスは、あなたの娘でしょ!」
「あのキャロラインか・・・」男は、立ち上がって、受話器をとった。
「ハロー!パパの大切たいちぇつお姫様ひめちゃま!」

6

5
























































 
               ◇
 
 20人乗り飛行機が離陸した。
「おタバコは」と、客室乗務員。ジョアンナが声をかける間もなく、立
ち去った。
「パスポートは?」と、ジョアンナ。席をひとつ離れた夫に。
「引き返してくれ!パスポートを忘れた」夫は、立ち上がった。
「お確かめになりましたか?」と、客室乗務員。
「大切な打ち合わせが」夫は、間の席に置かれたかばんを調べ始めた。
「マークウォレス、33才、建築家」と、ジョアンナ。夫の目の前に、
パスポートをぶら下げて、読み上げた。マークは、パスポートを、かば
んの中へ投げ入れた。
「タバコを買ってくれない?」、ジョアンナ。
 マークは、客室乗務員に合図して、タバコとマッチを、妻に渡した。
「モーリスが・・・」と、マーク。
「サントロペにすぐ来いって?うるさいんだったら、無視したら?」
「仕方ないんだ」
 ジョアンナは、タバコをくわえて、マッチで火をつけた。
「失業してもいいのか?集中砲火は、よせ!」

8

7
























































「別に、なにも」
「サイレンサーをつけて、撃ちまくってる!」
「バキューン」と、ジョアンナ。指で撃った。
「もう、うんざりだ・・・」
 それを聞いて、ジョアンナは、出会ったころのことを、思い出した。
「出会ったことが、不幸の始まりなのかしら」テーマ曲が流れ、フェリ
ーには、尼さんやら、帽子のビジネスマンやらの中に、ヒッチハイク姿
の、マークがいた。
「こうなると、分かっていたらね」
「いえる!」と、マーク。
 
               ◇
 
 マークは、デッキから見下ろすと、女学生のころの髪の長いジョアン
ナを見つけた。ジョアンナも、マークに気づいてこちらを見ていた。
 フェリーが港に着き、人々が降り始めると、マークは、大声を出した。
「パスポートがないんだ!」マークは、四つんばいになって、床の下を
さがし始めた。「失礼!さがしものを!」
「バッグには?」と、船員。
「ない!盗まれたんだ!」

10

9
























































「まさか!」
「英国のパスポートは、ナボリの闇市で、100ポンドだ!」
「ここは、フランスです」
「もっと高いかも!見つかるまで、この船で何往復もする!なにをして
いる!」
 ジョアンナは、マークのバッグをさぐっていた。
「見ろ!やっぱり、盗人ぬすっとが・・・」
 ジョアンナは、マークのパスポートを取り出し、手でつまんで振った。
「どうも」マークは、立ち上がって、礼を言った。
「どういたしまして」と、ジョアンナ。
 マークがリュックを持ち上げると、中のものがすべて階段の下に落ち
た。マークは、階段の下に降りて、リュックをまとめているうちに、パ
スポートがないことに気づいて、振り返って、ジョアンナになにか言お
うとした。
「あう、あう」そのとき、自分の口にパスポートをくわえていることに
気づいた。
 
               ◇
 
「結婚して、幸せな時期もあったわ」

12

11
























































 ジョアンナが、新しいパスポートを差し出した。マークと髪の長いジ
ョアンナの写真。次のページに、スタンプが押された。
「ふたりきりの初旅行とか。中古のMGで。わたしの誕生日か、結婚記
念日に。ひたすらドライブしようって。まるで、無邪気な子ども」
 オープンカーのMGに乗り込むふたり。
「いいか、先は長いぞ」と、運転席のマーク。エンジンをかけて、すぐ
にエンストした。2回目も同じだった。今度は、エンジンもかからなく
なった。助手席のジョアンナは、嫌な予感がした。
「押さないとだめだ」と、マーク。
 ジョアンナは、ポーターを呼ぼうと周りを見たが、誰も目を合わせよ
うとしなかった。ジョアンナは、降りて、車の後ろに回った。
「さぁ!」と、マーク。「がんばれ!」ジョアンナが押すと、車は動き
出した。「その調子!もっと速く!速く!」やっと、エンジンが掛かっ
て、車は走りだした。
「ヘーイ!」と、ジョアンナ。車は、一周して戻ってきた。「わたしを
覚えてる?ジョアンナよ!」助手席に乗り込んだ。
「しっ!」
「なにか?」
「ほら、ドンク!」
「ドンクって、どんな?」

14

13
























































「中くらいの、不安なドンク!ほら、ドンク!」
 車は、走り出し、港を出て、畑の間を抜けて、走った。
「いつから、だめに?」と、今のジョアンナ。また、テーマ曲が聞こえ
た。「MGで初めて、ケンカしたとき?」
「あの旅は、楽しかった」と、今のマーク。
「そうね、幸せだった」
「わたしたちも、一人前ね!」と、MGの運転席のジョアンナ。
「まだ、不吉なドンクだ!」と、MGの助手席のマーク。「ドンク、ド
ンク!」
「エンジン周りよ!」
「だろうな!」
 車は、また、テーマ曲に包まれた花畑を過ぎて、川の渡し船に。
「太陽の下の午後は、1年ぶりだわ。帰宅すると、いつも真っ暗だった
もの」と、ジョアンナ。車ごと船に乗っていた。
「地下が好きなんだと思っていた」と、マーク。
「最初だけね」
「家があるだけ、幸運ラッキーだ」
「そうだけど、あそこを出る幸運ラッキーも必要よ!」
「広い庭付きの家がお望みなら、早まった結婚をしたな」
「広い庭付きの家なんて望まないけど、早まった結婚は、たしかね」ジ

16

15
























































ョアンナは、意味ありげに、マークを見た。
 
               ◇
 
 新車の白いベンツが、林の中を走った。
「離婚する?」と、運転席のマーク。助手席の白いスーツのジョアンナ
を、一瞬、見た。「こんな茶番に、意味があるのか?」
「ないわね」と、ジョアンナ。
「きみが、いっしょにと」
「そうよ。時々、意味はあるわ・・・今は、ないけど」
「ぼくの、どこがよかった?」
「思い出せない・・・髪は、あったわね」
 
               ◇
 
「MGでは、ケンカはしなかった」と、今のマーク。「軽くしか」
 郊外の草原を走るMG。
「ほんとうに大きな家や、いい車を望むなら」と、助手席のマーク。
「誰が?」と、運転席のジョアンナ。
「きみがだ。そうだろ?」

18

17
























































「ほんとうだわ。ドンクよ」
「聞こえる?」
「この中で」ジョアンナは、マークの頭をつついた。「なにかがゆるん
でいるのよ」
「きみのせいだ・・・ジョアンナ、低速ギアは、やめろ!」
「じゃあ、替わって!早く!」ジョアンナは、両手を離して、うしろに
どいた。
「まったく、危ない女だ!」マークは、走ったまま、運転席に移った。
ジョアンナは、喜んで大声を出した。このとき、テーマ曲が聞こえた。
「ほら、快調だ!」
 すぐに、ドンクが始まって、こんどは、車は止まった。
「なにも、言うな!」と、マーク。
 
               ◇
 
「なんて仕事だ!」マークは、車の下で、排気管を直していた。「見え
ない!オイルが目に!ついてない!」
下界げかいは、どんなかんじ?」と、ジョアンナ。
「真っ暗だ!問題は、排気管だ!見えさえすれば!」
「暗闇は、苦手?」

20

19
























































「新居は、ムリだ!排気管を買う金さえない!」
「低速ギアを避けなければね!」
「口に靴下を、くわえてろ!」
「ゆで卵は?」ジョアンナは、ゆで卵を、マークの口に入れた。
「おしまいだ!」
「修理が?それとも、車が?」
「1時間後に聞いてくれ!」
「トラクターが、お似合いよ!」と、今のジョアンナ。「運転手付きで、
うれしそうに!ほんとうに、嫌な男だと思ったわ。しかも、女の子たち
に、ちやほやされて」
 トラクターの荷台に乗った、ヒッチハイク姿のマークが、女学生たち
8人が乗った小型バスにあいさつすると、わき見していた女学生の運転
で、小型バスは、対向車を避けようとして、脇溝に落ちて、横転した。
その脇を、マークは、おどけたふりをしながら、通りすぎた。トラクタ
ーは止まり、マークが戻ってきて、小型バスを運転することになった。
 女学生たちは、合唱部の合宿で、パティの弾くギターの伴奏で、車内
でも歌った。
 運転席のマークの隣に、キャプテンのジャクリーン。ジョアンナは、
後ろの席だった。
「パティ、うまくなったわ」と、ジャクリーン。「どうしたの?」

22

21
























































「なにも」と、パティ。「ああ、どうもおかしい!病気みたい」
「はしか?」
「もう、かかったわ!別のなにかよ!」
 車の前に、ニワトリが現れて、道をふさいだ。
 
               ◇
 
水疱瘡でチッキンポクスす」と、医師。「疑いは、ない」
 診察を受けた、3人の女学生の顔には、水疱瘡が広がっていた。
 
               ◇
 
「もう、絶望的ね」と、ジャクリーン。
「なにが?予定でも?」と、マーク。みんなで、宿で食事をしていた。
「休暇をかねて、マントンの音楽祭に出る予定だったの。どうする?」
「分からないわ」と、女学生のひとり。指で額をかきだした。「わたし
もだわ!」
 隣の席のふたりは、イスを離した。
「残るは、4人。朝、誰が残っているか、待つだけね」と、ジャクリー
ン。マークに。

24

23
























































「名案だ!」と、マーク。
 朝。マークが2階から食堂に降りてくると、ジャクリーンが座ってい
た。
「気分は?」と、ジャクリーン。
「順調さ!きみは?」
「快適よ!」
「それで、ほかの人は?」
「夜、犠牲者、続出!」
「それは、残念!」マークは、自分用のスープ皿に、スープをすくった。
「車は、みんなのために残して、ふたりで出発しましょうか?」
「なんて、冷酷なマネを・・・いつ、出る?」
「いつでも、いいわ!」と、ジョアンナ。ドアから食堂に入ってきた。
「ジョアンナ!」と、ジャクリーン。「病院は?」
「わたしは、車で送っただけ!」
「健康?」と、マーク。
「ええ」
「でも、用心しないと!」と、ジャクリーン。
「そうだ!」
「12才で、水疱瘡はチッキンポクスやったわ!」と、ジョアンナ。
「車は残すから、ヒッチハイクになるわよ」

26

25
























































「楽しそう!お邪魔?」
「とんでもない」と、マーク。
「一日で、どこまで行ける?」ジョアンナは、壁の地図をたどった。
「ここだ!」と、マーク。
「もっと、行けるわよね、ジャクリーン?」
「そうかな、ジャクリーン?」
 ジャクリーンは、背中をかいていた。
「ジャッキー!」と、ジョアンナ。「コワーコッコッコッコッコ!コワ
ーコッコッコッコッコ!」
 ジャクリーンは、困った顔になって、指で自分の頭を撃った。「バキ
ューン!」
 
               ◇
 
 古代の水道橋のある郊外の道。
「子羊よ!」と、ジョアンナ。赤いセーターにジーパン姿で、両手にス
ーツケースと寝袋を持って歩いていた。「そのようだね」と、マーク。
大きなリュックを背負っていた。
「かわいい・・・ジャッキーは、残念だったわ!」
「だね!」

28

27
























































「発症したのが、わたしでなく・・・一緒でなくても」
「いいかい、ベイビー!オレは、きみといる気はない!オレには、予定
があるんでね。暇じゃないのさ!」
「分かってるわ」
「建築研究だ!無駄にできる時間はない!分かるか?」
「予定どおりね!」
「きっちりとね」
「パスポートは持った?」
 マークは、パスポートがないことに気づき、車を止めて乗り込んだ。
「マーク!」ジョアンナは、寝袋からパスポートを出すと、走りさる車
に向かって、手でつまんで振った。
 マークは、車から降りてきて、自分のパスポートを奪った。
「嫌いなものを1つあげるとするなら、いないと困る女だよ!」と、マ
ーク。あきれて、すこし笑顔になった。頭をふって、さぁ、行くかとい
う仕草をした。
 このとき、テーマ曲が聞こえて、ジョアンナは、荷物を両手に歩き出
した。
 
               ◇
 

30

29
























































 
 
 
 
                            (つづく)
















32

31