殺しは10時15分
原作:フレドリックブラウン
アランフィールド
プロローグ
教科書にどう書かれていようと、耳の形から、あるいは、外見の輪郭
からすぐに分かる殺人狂としゃべる機会なんて、めったにない。
ベニーボイルは、ゲリット署長に会いたいというりっぱな身なりの男
の応対をした。ずんぐりして力が強そうだが、ふつうの身長で表情もお
だやかだった。服のサイズは、だぶだぶで、ストローハットは2サイズ
は大きく、両耳の上に乗せて、歩くたびに、前後に傾いた。
ベニーが、署長は多忙だと言うと、見知らぬ男は笑った━━━口が水
平に広がることを笑いと呼べるなら。「まったく急いでない」と、男は
ベニーに言った。「待ってる」