殺しは10時15分
          原作:フレドリックブラウン
          アランフィールド
           
            プロローグ
             
 教科書にどう書かれていようと、耳の形から、あるいは、外見の輪郭
からすぐに分かる殺人狂としゃべる機会なんて、めったにない。
 ベニーボイルは、ゲリット署長に会いたいというりっぱな身なりの男
の応対をした。ずんぐりして力が強そうだが、ふつうの身長で表情もお
だやかだった。服のサイズは、だぶだぶで、ストローハットは2サイズ
は大きく、両耳の上に乗せて、歩くたびに、前後に傾いた。
 ベニーが、署長は多忙だと言うと、見知らぬ男は笑った━━━口が水
平に広がることを笑いと呼べるなら。「まったく急いでない」と、男は
ベニーに言った。「待ってる」




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 男は、署の壁の正面の長イスに座った。サイズオーバーのハットを動
かさず、なにもすることがなく、すごくヒマだという雰囲気があった。
 ベニーは、警察署の受付にいて、たまに、奇妙な人々に会った。また、
ベニーは、刑事になるには体重が16パウンド足りなかったので、受付
副主任の座から、つぎは主任を目指していた。
 しかし、同じことだが、タイプライターの仕事に戻るのは、すごく嫌
だった。もしも、ゲリット署長が規則にやかましい人間でなかったら、
彼、ベニーボイルは、刑事の訓練を受ける前に、今頃は、見習い生の制
服になっていただろう。1つを除いてすべてのテストは、飛行服でパス
した。16パウンド足りないことで、タイプライターの仕事を続けなけ
ればならなかった。
 
 
 
                            (つづく)



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