ザ・オフィス
          原作:フレドリックブラウン
          アランフィールド
 
          パート1=始まり
          パート2=始まりの終わり
          パート3=終わりの始まり
          パート4=終わり
           
            登場人物
 
コンガ氏:コンガ&ウェイ社の経営者、機械類を工場に売っている。
マーティレインズ:簿記係、21、背が低いのが悩み。
ステラクロスターマン:ファイル係、ヒールをはくと男より背が高い。
ウィビロービィ氏:オフィスマネージャー、鋭い目線で監視している。




2

1
























































フレッド:オレ、語り手、高校卒業して雑務係に応募する。読書依存症。
メアリーホートン:速記タイピスト、たまに指をすべらす。
営業マン:その1
営業マン:その2






パート1=始まり
            1
 
 コンガ&ウェイ社のオフィスは、かつてはシンシナティのコマースス
トリートに建っていたビルの2階にあった。そこは当時有名だった
橋からそれほど離れてはなかった。り橋は、ケンタッキー州コビント
ンへと流れる広い泥だらけのオハイオ川にかっていた。
 フォンテインスクエアやコマースストリートといった町の中心部から
数ブロックのところだったが、そのあたり3ブロック一帯は、すべて家
賃が安かった。それは建物が古い、それもすごく古いせいもあるが、わ

4

3
























































ずかフロントストリートとウォーターストリートをへだてただけで、川か
ら非常に近かったからだ。大きな川が増水であふれると、しばしば洪水こうずい
なった。しかしこれは、オレが書いているこの物語の短いあいだは、一
度も起こらなかった。
 そのビルは今はもうない。20世紀初頭の当時においても、そのビル
は非常に古かった。ビルのあった場所は、橋に出る新しい通りの一部に
なった。そのビルは今はもうないというだけでなく、そもそも建ってい
た場所がない。もしもその場所が土やコンクリートで埋められていたら、
ビルはなくなったと言えるかもしれない。そこは名前も知らないビルに
なった。
 コンガ&ウェイ社は、一方で、本来のもの以外に多くの社名があった。
特殊なビジネス用語で、20世紀初頭固有の、スクリューマシンプロダ
クツやミッドウェスト旋盤サプライ会社、仕上げ研磨会社といった名前
だった。すり減ってはいるがくっきりとした、黒で縁取られた金色の文
字で書かれた社名は、コンガ&ウェイ社の看板の下、オフィスの出入り
口のドアに書かれていた。
 こんなふうに名前が4つもあるのは、詐欺ではないかと読者は言うか
もしれない。ビジネスは、もっぱら、エドワードB・コンガという名前
の一人の男によって行われていた。ウェイ氏は10年近く前に亡くなっ
ていた。しかし共同経営規約に従って、ウェイ氏の未亡人は利益の25

6

5
























































%を受け取った。彼女が生きてるあいだはずっと。しかしそれ以外のこ
とに関しては、彼女は一切口出しせず、すべてをコンガ氏にゆだねる代
わりに、社名に亡き夫の名前を残すことを主張して譲らなかった。コン
ガ氏は、みんなの利益のために、彼女に関しては例外を認めたが、自分
に関しても同様に感じた。ウェイ夫人をとても嫌っていた一方で、共同
経営者のハリーウェイはずっと最良の友人であったので、会社の看板に
彼の名前を残すことでハリーの思い出を大切にしたいと感じた。会社の
別の名前に関しては━━━仕上げ研磨会社は、メアリーホートンの一番
上の引き出しにある爪やすりのようなものを含めなければ、研磨機は扱
ってなかった。ミッドウェスト旋盤サプライ会社は、コンガ氏にとって
は紙の重さくらいの重要性しかない、モーステーパシャンクに設置する
4分の3インチの第2中心軸しか扱ってなかった。スクリューマシンプ
ロダクツが扱うスクリューマシンに最も近いものは、エンピツ削りやパ
ウダー状の黒鉛だった。扱う量はとても少なく、ほとんど利益につなが
ってなかった。
 このような小さな不備は、かといって別段、大きな不備につながって
もいなかった。コンガ氏は全面的に信頼できるという男ではなく、ただ
の仕事人だった。シンシナティやその近くの店から機械を仕入れ、ピッ
ツバーグやアクロン、シカゴにある工場に売っていた。
 コンガ氏のもとで、7人が働いていた。

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7
























































 
            2
 
 人間は、生まれて、そして死ぬ。つまり、始まりと終わりがあって、
どちらも時間的にはっきりとした地点がある。情熱的な興味深いできご
とが、生まれる前に起こったり、葬儀屋やうじ虫たちのできごとが、死
んだ後も続くことはあるが、その人間自身に関する限り、はっきりとし
た始まりとはっきりとした終わりがある。
 場所については、時間で定義するのは、より難しい。場所はいつもそ
こにあるし、これからもいつもあるだろう。その光景は変わるかもしれ
ないが、そこには時間的な境界がない。
 コンガ&ウェイ社があった場所は、かつては別の会社やさまざまな会
社があった。あるときは、平屋の小屋だったり空き地だったりした。そ
れより以前は、ロサントビルという町の初期移民のひとりが耕した広大
な土地が広がっていた。のちにそこはシンシナティとなった。その前は、
そこには1本のオークの木が枝を広げていて、インディアンの少年が木
登りをしていた。インディアンたちが来るはるか昔、オークの木のずっ
と以前は、どんぐりのなるトゲのある木が立っていた。過酷な季節のあ
いだ、モズは獲物をトゲに突き刺して保管し、そこに巣を作り、その場
所がのちに正確に、簿記係のマーティレインズの机の上のインクつぼを

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9
























































置いた場所となった。
 
            3
 
 1922年6月29日木曜の午後、そこから始めよう。この年は好況
が始まる年だった。また、不況が始まる7年前でもあった。2年に及ぶ
不況の終わりを見た年で、20世紀がうなりを上げ始めた年だった。
 マーティレインズを登場させる。年令は21、身長5フィート7イン
チ、体重130ポンド、普通のブロンド髪で、簿記係。モズの巣にペン
を刺したり、借り方に項目を記入したり、自分の勇気を知るためだけに
ファイル係のステラクロスターマンをデートに誘ったりするようなやつ。
研磨剤10パウンドと半ガロンの接着剤を借り方に記入してから、台帳
から顔を上げて、オフィスの奥で、ステラがファイルキャビネットの下
から2番目の引き出しに腰を曲げているところへ目をやった。
 ステラは、ほどよく肉付きのよい、すばらしい体をしていた。顔は別
の方を向いていたが、マーティは、彼女が温かい茶の目をして、ときど
き涙でかすむことを知っていた。髪は肩までのショートヘアでやはり温
かい茶だった。彼女は背が高く、ふつうのハイヒールでは、目の高さが
ほとんどマーティの背の高さだった。ときどき彼が少し不快に思い悩む
のは、夜に高いヒールをはいてきたら、彼より背が高くないように見せ

12

11
























































られるかどうかだった。また、ステラはまだ背が伸びるのではないかと
悩んでいた。いや、そんなことはないと彼は考えた。彼女は19だし、
19になったらふつうはもう背は伸びない。少なくとも、彼、マーティ
は、17で背が伸びるのが止まった。17から20才のあいだ、もう1
インチか2インチ、背が伸びないかと虚しい望みをかけながら、注意深
く背を測ってきたが、1年前に彼はあきらめた。
 さらに2つの項目を記入すると、ふたたび目を上げた。ステラは今は
一番下の引き出しに体を曲げていて、スカートが数インチめくれて、巻
き上げたシルクのストッキングの上1インチか2インチ、滑らかなオリ
ーブ色の肌が見えた。
 それは、マーティには興味があるところだったが、気にしていいのか
悩むところだった。それは不謹慎だった。娘はヒザの下までストッキン
グを巻き上げるべきでないし、そんなふうに腰を曲げるべきでない。彼
がまた思い悩むのは、ほかの男たちはオフィスでこのようなものを見る
のかどうか。営業マンのふたりは不健全な心があったが、ふたりとも外
出していた。年寄りのコンガ氏は、自分のオフィスにいた。雑務係のマ
ックスならどうするかと捜したが、思い出した。マックスは2日前に辞
めていた。しかし、オフィスマネージャーのウィビロービィ氏は自分の
デスクにいたので、マーティは彼を見た。そしてすぐに、数字を記入し
ていた台帳に目を落とした。ウィビロービィ氏の目は、ステラクロスタ

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13
























































ーマンの足を見ていなかった。マーティを見ていた。目からレーザービ
ームが出て、こちらに向かってきていた。ウィビロービィ氏の、なんと
いう嫌味っぽい目!すべてを見ていて、すべてお見通しであるかのよう
な。マックスが前にこう言っていた。ウィビロービィは、頭の後ろにも
目がある。それほど間違ってはなかった。
 マーティレインズは今度は目を上げずに、さらに6項目記入した。グ
レイソン会計を終え、項目にしるしをつけて、ページをめくった。彼の
顔はまだ、先ほどの気まずさから少し紅潮していた。
 なぜ、と彼は思い悩んだ。ほかのやつらのような図太い神経がないの
だろう?ひどく恥ずかしがり屋なことを、なぜ悩んだりするのだろう?
彼は恋人がなく、白人で、21だった。ハンサムではなかったが、醜くみにく
もなかった。背は平均より少し低かった。それはそれほど重大なことで
もないし、それによってなにかができなくなるわけでもなかった。週2
0ドル稼ぎ━━━一部を貯金した。
 ステラクロスターマンは、まだ19で、ただのファイル係だった。
(いや、と彼の内部のなにかが言った。彼女は女神だ!彼女は特別な存
在だ!彼女はなぞに満ちている!)
 しかしなぜ、次のチャンスで、自然に「ステラ、今夜の予定は?」と
けないのだろう?彼は、彼女には好かれていると考えていた。たぶん、
彼女はすぐいい返事をくれるだろう。あるいは、悪くても、なにか予定

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15
























































があって、こう言うだろう。「なぜって、今夜は忙しいの、マーティ。
でも━━━」そして、次の予定のない夜になにを約束するかは、彼に託
される。
 「ステラ、今夜の予定は?」たったの4ワードを言うだけだ。しかし
自然に4ワードを言おうとしても、自分の声がなにか変なのが分かって
いた。正しく言い始めても、最後には自然な質問にしてはピッチが高く
なりすぎて、自分がアホに思えて、たぶん恥ずかしくなって、後悔する
ことになる。なにか欠けていることでもあるのだろうか?
 彼は、また、ステラを見た。今は立ったまま、一番上の引き出しで作
業していた。キャビネットの上に書類の入ったカゴが置いてあった。一
番上の紙を取り上げて、名前を見て、それぞれのファイルに入れていた。
単調な仕事に違いない、とマーティは考えた。
 すばらしいアイデアを思いついて、彼の目が輝いた。彼女が取り上げ
た手紙のひとつが、ヒーラー&リー社やシンシナティ旋盤会社といった
宛名でなく、ミス・ステラクロスターマン宛てになっていたら?なぜだ
めなんだ?彼女をデートに誘ううまい方法だ。コンガ氏が手紙を口述筆
記させるときの形式ばったビジネスレターのように書ければ、なにかの
目的のためにうまくしゃべれるようになる第一歩になるだろうし、今ま
で恥ずかしがり屋だと思われていたのは、ただの気まぐれだったと見な
されるようになるだろう。

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17
























































      「ミス・ステラクロスターマン
      コンガ&ウェイ社様方
      シンシナティ、オハイオ州
      親愛なるミス・ステラクロスターマン:」
 よく考える時間がなく、少し怖かった。つまり、少し考えて、心に決
めてしまったので、彼女がどう考えるだろうかとかどういう返事をくれ
るか心配し出した。ウィビロービィ氏が見てないことをさっと確認して、
デスクの引き出しから1枚紙を出して、ひらいたままの台帳の上に広げて、
書き始めた。自分の大きな誇りになっている、きれいなスペンサリアン
書体で、デートという目的のために書いた。簿記係として、マーティは
単に適任というだけだった。コンガ&ウェイ社の簿記システムは、同様
に、シンプルというだけだった。
 マーティレインズは鈍感な少年だった。彼の前に何人かの登場人物を
登場させたが、彼は物語の要にかなめなっている。
 彼が鈍感な少年だというのは、なにも彼のせいではないし、仕事がそ
うさせていたのでもなかった。実存主義者は、もちろん、すべて彼の責
任だと言うだろうが、実存主義の思想は、1922年には、まだ台頭し
てなかった。フロイトもアメリカでは知識人にしか知られてなかった。
 語り手であるオレは、それは彼の母親のせいだと言いたい。陽気な1
990年代の終わりにかけて、彼女はバルチモアの売春宿の娼婦をして

20

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いた。そこで敬虔な長老派教会のビジネスマンと知り合い、愛し合い結
婚した。しかし3年もしないうちに、彼は心臓発作で亡くなった。彼女
には、幼い息子と質素な生活なら暮らしてゆけるだけの財産を残した。
彼女は、そのように暮らすことにためらいはなく、過去の仕事に戻るこ
とはなかった。夫の宗教については、やめたわけではなかったが、それ
ほど熱心でもなかった。彼女のよくない過去への心からの償いつぐなの気持ち
から、過度に自分を責めていた。
 マーティに対しては、多くの者が無条件に信じる神を強く信じるだけ
でなく、女性の神聖さを強く信じるように教えた。彼女の教えによれば、
純粋さは神にもっとも近い場所で生まれると言う。このことは、なんど
も強調された。考えることの純粋さは、おこないの純粋さと同じように、
とても重要だった。
 この信念を過剰投与されれば、どんな男でも曲げられてしまう。マー
ティは過剰よりもっと多く吹き込まれた。彼の父は、ふつうに良心的な
男で、生き、そしてまったく違う形の物を残した。最悪でもマーティは、
比較的健全なエディプスコンプレックスを発展させた。しかし、ほとん
ど覚えてない父を憎む理由がなかった。物については、全く違っていて、
長老派よりもカソリックを支持した。この場合には、処女マリアの崇拝
から、彼は、純粋な女性像をあがめることになった。それにより、彼の母
親も含めて、他の女性たちは、肉体および神聖さからは程遠いなにかで

22

21
























































作られていることを、見抜くことができた。物に支えられて、21にな
って彼は完全に、おこないと同様、考えることにおいて純粋だった。彼が
セックスの仕組みが分かっていなかったと言ってるのではなく、なにか
そこには嫌悪すべきものがあって、純粋に、少なくとも彼の意識下の心
では、そう考えるようにしつけられていたのだ。もちろん、彼はそれが
出産のために必要な行為で、種の保存につながるということを知ってい
た。もちろん、彼はそのことが分からない程おろかではなく、彼が今い
るのは、過去にそのようなことが行われたからということを知っていた。
彼の母親の結婚生活において、あとで彼の父親となる、見知らぬ男と。
しかし、彼の心がシャイでその事実から離れたがって、それについて考
えるのをこばんだ。つまり、互いに愛し合っている結婚生活の場合は、事
情はまったく異なっていた。その行為が単独で行われようと、あるいは
基本的に出産のために行われようと。
 友好的でない精神分析医は、当時でさえ数少ないが、たぶんこう言う
だろう。マーティレインズは予想もされなかった、ただの事故で生まれ
てきただけで、装填した銃の引き金に髪が引っ掛かっただけだったと。
 しかし彼の母親は、彼はパーフェクトだと考えた。彼女の基準に照ら
して、そうだった。
 
            4

24

23
























































 
 1922年6月29日木曜日。いい天気だった。
 オフィスマネージャー、ジョフリーウィビロービィは、そのことに感
謝した。太陽は出ていて、暖かかった。ウィビロービィ氏は、暖かい日
を愛し、寒い日を憎んだ。彼に寒い日々が訪れたのは、自分の残りの人
生すべてを賭けて戦った、1917年から1918年の冬の4ヶ月だっ
た。4年半前は、塹壕ざんごうの中にいた。神に誓って彼が決心したことは、も
う2度と塹壕ざんごうには入らないということだった。たとえ殺されようとも。
彼の遺書は、それがなければ重要でもないが、埋葬ではなく火葬にして
くれということだった。
 彼は少し身震いした。死だとか埋葬やら、軍隊や塹壕ざんごうのことを考えさ
せたのは、なんだったのだろう?死は、避けることができるなら、考え
ないでも済むものだ。塹壕ざんごうでの数ヶ月間を除けば、彼は軍隊でイヤな日
々を過ごしたわけではなかった。1917年の志願兵の中では、彼は年
齢が少し上の方で、少し優秀だった。事務の経験があったので、補給部
の仕事に回され、すぐに軍曹になって、フランスの港へ送り込まれた。
そこでは今とさほど変わらない仕事、それほどやっかいでもない仕事が
与えられた。その後、悪い時期に、彼は愛国主義の影響を受けて、世界
を救うために自分の生涯を捧げるべきだという大胆な考えを抱き、前線
に配置替えしてもらった。彼が犯した哀れな間違いによって、成し得た

26

25
























































ことのなんと少なかったことか!
 
               ◇
 
 彼のデスクから、オフィスの開いたドアを通して、いろいろ見ること
ができた。外廻りから戻った営業部のふたりが、デスクについていた。
窓から明るい日射しが差し込んでいるのが見えた。
 彼の視線は、窓から、ファイルキャビネットで忙しい、ステラに移っ
た。日射しを見ていたので、彼の目には日射しが残った。ステラは、明
るく、暖かい日射しのようだった。もしも彼がもう少し若ければ━━━。
 本当のところ、それほど年寄りではなかったが、彼女は彼をたぶん中
年と見るだろうし、彼女は自分をどちらかというと少女と考えているだ
ろう。あまりにきれい過ぎて、彼女の年令の2倍にわずかに届かない男
や、結婚する気などまったくない独身者からも、からわれることはなか
った。
 その上、数年前、彼がオフィスマネージャーになってすぐ、彼の下で
働く女性を口説いたり、デートに誘ったりは決してしないとかたく決心し
た。そのことを今思うと、「彼の下で働く」というところが、苦しいシ
ャレに思えて、ニヤリとした。ウィビロービィ氏は、シャレや2重の意
味を楽しめる心を持っていて、無理やりのこじつけでさえ楽しんだ。ぎ

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27
























































りぎりのきわどさを楽しむために、多くの人から心が汚いと言われなが
らも、彼は言葉遊びを楽しんだ。きれいなものであっても。同様に、色
気さえ、きわどさを増してくれるものだった。
 色気があろうがなかろうが、彼は言葉を愛していた。精神的にそれら
と遊ぶことを愛していた。輪でそれらを遠くに跳ばしたり、さかさまに
したり、あるいは、道に迷わしたり。今朝のように、速記タイピストの
メアリーホートンが、デスクサイズもある計算機を両腕にかかえてオフ
ィスを横切って、ウィビロービィ氏の方へ運んでいた。メアリーは計算
機を胸に押し付けていた。そう考えると、明るい1日がさらに明るくな
ったように彼には思えた。
 ウィビロービィ氏は、言葉の連想や乖離かいりを愛していた。彼はかつては
優秀な語源学者であった。それに真剣に取り組んでいたという意味で。
語源学について言うと、彼はかつて、とても若いころ、虫を研究する、
昆虫学の言葉と混乱する傾向があった。結論として彼は、~する人を表
すエントが、昆虫学の蟻のエントと同じことに突然気づいて、幸せな気
分になった。
 誤植による間違いは、2重の意味を持てば、彼を幸せにさせるチャン
スだった。速記タイピストが指をすべらすか気分が乗っていない時に、ど
んな奇妙なことが起こるかを見て陶酔するには、あまりに短い間で、一
瞬のスリルとなる。たとえば、先週の月曜日は赤文字の日とされた。メ

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29
























































アリーホートンがコンガ氏の手紙をタイプしているときに、あるワード
の1文字をとばしてしまった。電話を修飾するpublicのlをとば
してしまった。pubic電話(かげの電話)というフレーズは、魔法で
呼び出されたかのようなすばらしいフレーズだ!慎重に作り出されたよ
うな、おもしろさがあった。偶然できたにしても、真珠やルビー以上の
ものだ。
 もちろん、彼はそのことを誰かに見せるわけではない。みんなと共有
するような種類のものではなかった。少なくとも、コンガ&ウェイ社で
働いている者たちとは。彼は、ただ修正を行うだけだった。コンガ氏の
手紙を読んだり修正するのは、彼の仕事の一部であったので、修正しな
ければならなかった。ときどき、美しいものを破壊しているかのように
感じた。
 今、彼はため息をつくと、これから出される手紙の最新の束をチェッ
クする仕事に戻った。5通あり、どれも間違いはなかった。それぞれに
コンガ氏自身のサインを完璧にまねた筆跡で、エドワードB・コンガと
サインした。他人の筆跡をまねることは、ウィビロービィ氏の多くの才
能のひとつで、これがあまりにけていたために、にせ物作りの公衆の
敵として、犯罪的な活動に手を染めていた時期があった。
 彼はまた、ため息をついて顔を上げた。ステラクロスターマンは一番
下の引き出しに、手紙をファイルしようと、体を曲げていた。ウィビロ

32

31
























































ービィ氏には、マーティレインズにあるような、そのようなことについ
て考える上での、いかなる禁止事項もなかった。例えば、ステラのスカ
ートのふちと、巻き上げたストッキングの間の露出した温かそうな肌は、
なんとすべすべして、なんていい感じでさわれるんだろう、というような
ことを考えても。彼の心は、それがなんであれ、さらに白昼夢を見て、
彼の下で働く部下たちを楽しくみだらな想像をすることに、なんのルール
もなかった。
 そのとき、彼は簿記係のデスクを見て、愉快なことを思いついた。マ
ーティレインズは、ステラのことを、まるで月に取りかれた子牛のよ
うに見ていた。マーティの目はオフィスを見まわして、彼の目と合った。
マーティの顔は赤面して、すぐにまた台帳を見るように頭を下げた。
 ウィビロービィ氏はマーティをしばらく見続けて、彼の愉快なことは、
ゆっくり哀れみへと変わっていった。それは地獄に違いない、と彼は考
えた。その子が縛られているように結び目に縛り付けられているのは。
女のことはもちろん、影にもおびえて。それに彼は20だ。いや、21
だ。ちょうど1年前に仕事を始めたときは、20だった。21は、感情
的にも、少なくとも女に関しては、彼は、まだ幼稚園レベルだ。たぶん、
まだ彼の生涯で、女にさわったことはなく、夢に見たことさえないだろう。
ステラを見つめる彼の目を見れば分かる。子犬の恋で、降り積もる雪の
ように純粋だ。

34

33
























































 なにがマーティをそうさせるのだろう?過度に溺愛されたから?過度
に純粋な母親に?それはありうる。彼はマーティの応募書類の履歴書か
ら、彼が母親と住んでいて、父はマーティがまだ幼い頃に亡くなったこ
とを知っていた。ほかの少年たちの多くは、母親に育てられた子どもた
ちで、それが普通だった。
 ウィビロービィ氏は、手紙を、送信バスケットに入れた。それから彼
は、マックスレイスマンは辞めて、手紙を出す雑務係がいないことを思
い出した。手紙を折って封筒に入れて、封をして、切手を貼って━━━
封書の切手は2セント?
 マックスはかわいそうに、と彼は考えた。なぜ派遣会社は、雑務係の
仕事にもっと敬意を払わないのだろう?今朝早くに、そのことで電話し
た。
 彼はまた顔を上げた。マーティレインズは、台帳ではなく、1枚の紙
になにかを書いていた。それはうしろ暗いかんじがした。たぶん、と彼
は考えた。開いた台帳の上に置いて、見えないがなにかしている。勤務
時間中に、私的な手紙を書いているのだろうか?そうに違いない。しか
し、ウィビロービィ氏は、そのことをおこる気にはなれなかった。社員た
ちがそのようなことをしないように、見張るのが彼の仕事だった。しか
し、彼は奴隷の監督官ではなかった。マーティが内職しているのを見つ
けたのは、初めてだった。マーティがしょっちゅうそんなことをしない

36

35
























































限り、注意する気にはなれなかった。
 マーティは書き物を終えて、注意深く見回した。ウィビロービィ氏は、
そのときは目を下げていた。頭を下げながら、見てないふりをしながら、
こっそり監視していた。マーティが前かがみになったのが見えた。そし
て今書いたものを、送られてきた請求書類の手紙を入れる、受信バスケ
ットに入れた。それは、ステラがつぎに調べるものだった。しかも、マ
ーティは注意深く、請求書類の一番上ではなく、束の中央あたりに入れ
たのが見えた。あは、ウィビロービィ氏は考えた。マーティは、がんば
ってる。ステラに伝言か手紙か、弱々しい1歩を打とうとしている。最
初の1歩には違いない。
 しかし、なんと弱々しい!
 突然、ウィビロービィ氏は、悪魔のアイデアを思いついた。なんとか
抑えようとして、いったん押し戻したが、打ち負かされた。
 彼は顔を上げて、呼んだ。「マーティ、少しいいかな?」
「ええ、もちろん、ミスターウィビロービィ」マーティは、高いスツー
ルから降りて、彼のデスクを回って、オフィスを横切って、ウィビロー
ビィ氏のデスクに来た。
 ウィビロービィ氏は言った。「マーティ、今日出す手紙の切手が足り
なくなりそうだ。あいにく今日は、雑務係がいないから、代わりに、郵
便局まで行って、いくつか買ってきてくれないか?」

38

37
























































「ええ、もちろん、ミスターウィビロービィ、喜んで!どのくらい?」
「10ドル分あれば十分。2セント切手を9ドル分、1セント切手を1
ドル分。おカネは現金ボックスから取って、マックスがしていたように
伝票に残せばいい。5時までに戻れる?」
 マックスは壁の時計を見た。「片道15分はかからない。4時半には
戻れる。お安いご用。ほかになにか?」
「ないが、出るついでに、郵便局で、ここの手紙は出してきて!」彼は
送信ボックスにある、封済みの切手が貼られた手紙の方にうなづいた。
マーティはそれらを持って行った。
 
               ◇
 
 マーティが出て行ってから、ウィビロービィ氏は、小声でなにか言い
ながら、マーティのデスクまで行き、受信バスケットを取った。それを
自分のデスクに持ち帰り、その手紙が出てくるまで、請求書を1枚1枚
辿たどった。
 読んでから、悲しそうに頭を振った。それは、ステラに今夜いてい
ればデートに誘う手紙で、形式は、堅苦かたくるしいビジネスレターのように書
かれていた。大げさな書体で。
 ウィビロービィ氏は、顔をしかめた。引き出しから1枚の紙を出し、

40

39
























































ペンを手に取って構えた。マーティのスペンサリアン書体をまねる練習
はいらなかった。ウィビロービィ氏は、そのような書体にはかなり熟練
していて、眠りながらでもまねできた。
 なにを書くかも考える必要なかった。それは、他ならず、ソロモンの
愛の詩だった。マーティの純粋な惚れ込みは、聖書の中の純朴さ以外に
なにがある?彼がすぐ思い出すのは、第7章の詩で、内容はそれで十分
だった。
 あるいは、少しためらい、
  「ステラ、きみの美しさは、古代船のように━━━」
 いや、ソロモンは、よくない。別なふうに書いた。
  「ステラへ
  なんじの靴をはいた足は、なんて美しい
  王子の娘のように、ため息は宝石のよう、
  手は熟練した大工のように動き、
  胸は2匹の双子のノロジカのよう、
  偉大な美しいアートのよう、愛と喜びの
  なんじのくちびるは、最愛のワインのように、
  甘くしたたり、なんじのへそは、酒杯の下で
  いざ、まいらん、いとしの」
 

42

41
























































 書き終え、すぐに、無造作にM・R・とサインした。(元のビジネス
レターは、マーティレインズとあった)満足気に読み直した。よくでき
たラブレターだ。
 書き忘れたことを思い出して、また、顔をしかめた。結局、マーティ
の手紙は、平凡だが、1つのことをいていて、ステラが今夜会ってく
れるかどうか、その返事が欲しいのだ。
 ソロモンなら、娘をどうデートに誘うのだろう?彼ならそんなことは
しない。娘の両親に娘を買う交渉をするだけだ。ソロモンは置いておい
て、彼は役目を果たすため、もっと現代的に、要点を抑えて、一行付け
加えた。
  「PS ステラ、今晩、いている?」
 これはソロモンとは相容あいいれないが、付け加える必要があった。
 ウィビロービィ氏は、元の手紙を丸めて自分のゴミ箱に捨て、書き直
したものを、受信バスケットの元あった場所に入れた。彼はバスケット
をマーティのデスクに運ぶと、自分の席に戻った。時計を見て、また、
バスケットを見ると、ステラがちょうどそこからファイルしているとこ
ろだった。タイミングは完璧だった。彼女は数分の間に請求書バスケッ
トから、1通取り出すだろう。マーティは、あと10分くらいで戻る。
気が変って、バスケットを捜して自分の手紙を取り返すチャンスはない
が、彼女がその手紙を取り上げるまでには、自分のデスクに戻っている

44

43
























































だろう。そう、タイミングは完璧だ、と彼は考えた。
 誰か少年が、エントランスとオフィス本体を仕切るレールのところに
立っているのに気づいた。ウィビロービィ氏のデスクは、レールの脇に
あったので、彼は、セールスマンやご用聞きの応対をしたり、断ったり
する受付の役目を果たしていた。
 彼は振り返り、尋ねるようにオレを見た。
 オレは息を飲んだ。「あ」と、オレ。「クイーンシティ派遣会社から、
ここへ来るようにと言われて。雑務係の募集で」
 
            5
 
 オフィスの概観を説明させてくれ!実際と違うかもしれない。それは、
当時の記憶はあいまいだからだ。だが、ここで説明しておいた方がいい。
 パーティッションがあっても、基本的に、そこは1つの室だ。25フ
ィートから30フィートと広い室で、天井は12フィートと高い。1つ
しかないドアから入ると、そこは南側の中央で、入り口は1つの、木の
レールで区切られた狭いエリアになっている。左には、南側の壁に向か
って置かれたタイプラーターのデスクがあって、速記タイピストのメア
リーホートンの席になっている。右には、壁に背を向けてなにが起こっ
ているか見ることのできる、オフィスマネージャーのウィビロービィ氏

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のデスクがある。西の壁近くに、壁に背を向けてマーティレインズの簿
記のデスクがある。それは(当時でさえ)旧式の高いスツールに座るデ
スクだ。
 メアリーホートンの席と簿記デスクの間のかどに、金庫が置かれてい
る。重厚な旧式の金庫で、少し腕に自信のある泥棒なら、タンブラーを
回せばはっきりと解除の音が聞こえるので、1・2分ですぐに開けられ
そうな単純な組み合わせ鍵だった。オレでさえ、昼休みにひとりでいる
時に、おもしろがって、(ちょうど「盗賊ラッフルズ」を読んだところ
だったので)、ロックしたあと、その方法で解錠でかいじょうきた。5分しか掛か
らなかった。金庫の目的は、わずかな現金を泥棒から守ることではない。
ビジネス取引は、切手代のような小額の購入を除いて、すべて小切手で
行われるので、現金ボックスにある平均の金額は、ごくわずかなものだ。
金庫の本来の目的は、コンガ氏が望むように、会社の最も大切な書類を
火災から守ることだった。当時の周辺の土地では、もっとも身近な災害
が火災だった。すべての重要な取引等の書類は金庫で守られ、マーティ
のすべての台帳も夜は中に入れられ、朝に取り出された。
 東の壁には、ステラクロスターマンが担当する4段のファイルキャビ
ネットが並んでいて、古いタイプライターが置かれたテーブルもあった。
ステラはファイル係で、勤務時間の半分は実際にファイルを整理してい
たが、他の仕事もした。彼女は速記はできないが、請求書や書類の手助

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けで、タイプが上手じょうずだった。
 ほかに2つの保存用キャビネットがあった。そこには手紙や封筒や営
業マンの書類や、備品などが入れられていた。もうひとつのテーブルや
イスは、雑務係の作業用で、ものをめたり、シールを貼ったり、封筒
に切手を貼ったりした。
 下半分3フィートが木製で、上半分4フィートが曇りガラスのパーテ
ィッションが、オフィスの北側を2つの小さい室に分けていて、1つは
コンガ氏が私室として使っていた。もうひとつは、2つのデスクが向か
い合って置かれ、ふたりの営業マンがオフィスにいるとき、つまり通常
は営業日の最初と最後の1時間に使用した。
 窓は、北側のはしにのみあって、パーティッションに遮らさえぎれていたが、
窓は4つで、大きく、ほとんど天井に達するくらい長い窓だった。光は、
パーティッションの上を越えて十分に届き、明るい日には、曇りガラス
を通して、メインオフィスに十分な光をもたらした。各デスクの上には、
円錐えんすい形の緑のシェード付きの照明もあって、曇りや雨の日にはそれらを
使った。
 すべての家具を説明しただろうか?2脚の予備のイスがあった。帽子
掛けにかさ用スタンド。オレの記憶では、それですべてだ。家具はどれも
新しくはなく、いくつかは、特に、簿記デスクとファイルキャビネット
のいくつかは、かなり使い古していた。しかし頑丈にがんじょう作られていて、こ

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の先もまだまだ同じ年数くらい使えそうだった。
 オレが一番よく覚えているのは、タイプ用テーブルと同じくらい小さ
なテーブルだ。外の用事がなくて、オフィスで仕事するときは、オレは
いつもそのテーブルで作業していた。時々、すばらしい日に、外の用事
もオフィスでの仕事もないときは、そこに座って、読書が許された。そ
のような時に読む本や雑誌を用意していて、ウィビロービィ氏は、オレ
にすることがない場合に限り、読書していても文句は言わなかった。オ
レは読書依存症だった。アル中が酒に依存するように、読書に依存して
いた。当時は、昼食時にも本を脇に置いて、食事中も本を読んでいた。
もちろん、図書館で借りた本だった。多くの本をかなりなスピードで読
んでいた。もしも借りた本でなければ、稼ぎのすべてを使っても、読ん
だ本のほんの一部にもならなかっただろう。
 それが、オレの知ってるオフィスだった。
 しかし、第一印象は、最初の日のレールの外に立って見た印象だった。
こざっぱりして、整理されてはいるが、すすけたかんじだった。ビルは
かなり古く、設備はすべて老朽化していた。だが、当時は、ちゃんと動
いていた。コンガ氏の目的にもかなっていて、新しいスマートなオフィ
スと同じように機能していた。彼は受付を置かなかった。顧客は、営業
マンを呼ばなかったし、コンガ氏も顧客を呼ばなかった。つまり、おも
な顧客は、注文を手紙か電話でした。

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 そう、そのオフィスは、特別な印象を与えたわけではなかった。しか
しオレには仕事が必要だった。高校を卒業して2週間、オレは仕事を捜
していた。
 4時20分だった。ウィビロービィ氏は、オレがレールの上から手渡
した、派遣会社の紹介カードを見ていた。
 彼は言った。「入りたまえ、中へ━━━」紹介カードを一瞥いちべつして、オ
レの名前を呼んだ。「━━━フレッド」
 オレはレールのゲートを越えた。数千回のうちの最初に。
 
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 メアリーホートンは、口述のため、コンガ氏のオフィスにいた。
 ドアはいていた。コンガ氏のオフィスに女がいるときは、ドアはい
つもいていた。彼はそのことをはっきり口で言ったわけではなかった
が、もしも、ある状況下で不適切にも部分的にでも、ドアが閉まってい
たら、コンガ氏は言い訳をして外側のオフィスに出て行って、おそらく
はウィビロービィ氏となにか話して、戻ってきたときには、ドアを広く
けたままにしておいた。
 コンガ氏の年令では、これはバカげた警戒だったが、ずっとそのよう
な習慣でやってきたし、バカげていると感じたことはなかった。

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 メアリーホートンは、もちろんこのことは知っていた。彼女が本能的
に常識的に分かっていたことは、コンガ氏は年取ったカナリアのように
性的に危険だということだった。ドアについての彼のルーチンは、時々
は彼女を驚かして、たまたまドアをほとんど閉めて室に入ってしまった
ら、コンガ氏がルーチンを始めるまで何秒かかるか計ったりした。コン
ガ氏はすぐに言い訳をして室を出て、戻ったら、ドアを大きくけた。
今のように。
 しかしこの時は、午後の遅い時間でコンガ氏の口述をしていたが、メ
アリーホートンは驚かなかった。
 なぜなら、開いたトアを通して、チックタック言う音が聞こえて、時
計の針も見えたから━━━
 (おっと、オフィスの家具を説明した際、オレは重要なものを忘れて
いた━━━時計だ。時計はオレたちの生活をりっするものだ。12時に向
かってゆっくり針が上っていけば、その時刻で、1時間自由になるし、
5時に向かってゆっくり針が下ってゆけば、その時刻で、翌朝の8時ま
で自由になる。時計の名前は、ハモンドだった。その名前は、数字と同
じくらいの大きさの文字で、刻まれていた。大きく、前面が矩形くけいガラス
の角ばった時計だった。真鍮のしんちゅう振り子でチックタックと大きな音で、ウ
ィビロービィ氏のデスクの背後の壁の上に掛かっていた。正確に時を刻
み、1週間で1分以上ずれることは決してなかった)

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                            (つづく)

















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