帰ってきたカーン
             ━━━スタートレック 第二話
             ロベルトオルシー、アレックスクルツマン、
             デイモンリンデロフ
              
            プロローグ
             
 ニビル、Mクラス惑星。
 赤の葉と白の幹のジャングルを、全身、青の布で覆われた僧侶ふうの
男が、走って逃げた。それを追う、大勢の村人たち。
 行く手に、3メートルの野獣。とっさに、銃で撃つと、野獣は、倒れ
た。
「なにしてんだ!」と、レナードマッコイ。同じ僧侶の服で、顔の部分
の布を取った。「これに乗って逃げるのに、麻痺マ ヒさせてどうする?」



 

2

1
























































「あ、そうか、ボーンズ!」と、ジェームズカーク。やはり、顔の部分
の布を取った。
 後ろから、追っ手が迫った。
「逃げろ!」と、カーク。ふたりは、また、走り出した。
 村人たちは、白の布を全身にまとい、黄のフードをかぶっていた。
「マゴエゴイ!ガッグゴロイ!」と、村長。おこっていた。フードをぬぐ
と、顔は、白と黒の泥。
「おまえ、なに、奪ったんだ?」と、マッコイ。走りながら。
「分からないけど、みんな、これにむかって、いのってた」と、カーク。
手に、巻いた布を持っていた。
 無線が鳴った。
「カークだ、そっちは?」無線に。「村人は、危険地帯を離脱。副長、
そちらの作戦を、開始せよ!火山を沈静化したら、すぐ、出るぞ!」
 
               ◇
 
 目の前の火山は、噴火口から、噴煙を吐いていた。そこに、1台のシ
ャトル。
「よし、急ぎましょう!」と、カトウ。自動運転にすると、運転席から
立ち上がった。「キャプテンにも、言ったが、シャトルは、熱に強くな

4

3
























































い」
「ミスターカトウ」と、スポック。耐熱スーツで。ウラは、装着を手伝
っていた。
「船長を、キャプテンと呼ぶのは、ブカツの延長か?ブカツは、なにを
していた?」
「フェンシングを」と、カトウ。スポックは、カトウの顔を見た。「古
代の地球では、ブカツのオーベーカっていいます」
「できたらで、いいんだが━━━」と、スポック。
「分かりました、サブキャプテン、いえ、副長」
「船長!」と、スポック。無線に。「彼らに、姿を見られましたか?」
「いや、副長。見られてない」と、カーク。走りながら。
「艦隊の誓いです。いかなる社会の発展にも、干渉してはならない、と
の規定がある」
「もちろん、知っている!だから、変装して、ジャングルを逃げてるん
だよ!火口に、スーパーアイスキューブをセットして、脱出だ!通信終
了」
「できた!」と、ウラ。ヘルメットを取りに行った。
 スポックは、冷却装置をあけて、チェックした。
「よし、それじゃ、まず━━━」と、カトウ。また、運転席についた。
「灰で、コイルが焼け焦げている」

6

5
























































「わたし、交代しようか?」と、ウラ。ヘルメットをかぶせながら。
「それは、非論理的だ」と、スポック。「すでに、私は、耐熱スーツを」
「今の、冗談!」と、ウラ。「がんばって!」
「おい!時間がない!いそいで!」と、カトウ。
 
               ◇
 
 カークとマッコイは、赤のジャングルを、走って逃げていた。何本も
のヤリが飛んできた。
「殺されるぞ!」と、マッコイ。「おい、殺されるぞ、ジム」
 
               ◇
 
 噴火口のシャトル。
「それじゃ、90秒後に」と、ウラ。助手席に、座った。
 スポックは、冷却装置を持って、耐熱スーツに、命綱のワイヤーをつ
けた。
「いくぞ!」と、カトウ。運転しながら。
 ウラは、脱出アームを引いた。
 スポックは、シャトルから、マグマを噴出する、火口に降りていった。

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7
























































「周波数、変更!」と、コンピュータ。「エンジン、オーバーヒート!」
「姿勢を保てない!」と、カトウ。「副長、今、引き上げます!」
「だめだ!」と、スポック。火口に降下しながら。「村人を救うには、
この方法しかない!噴火すれば、この惑星は、消える!」
 マグマがシャトルにぶつかってきた。
「だめだ、引き上げよう!はやく!」
 ウラは、ワイヤーアームを、引いた。
 上昇するシャトルから、ワイヤーが切れ、スポックは、噴火する火口
に落ちた。
「スポック、だいじょうぶ?」と、ウラ。無線で。
 スポックは、冷却装置を持ったまま、マグマが煮えたぎる、火口のわ
ずかな岩場に踏みとどまった。
「私は、驚いたことに、生きている」と、スポック。「待機せよ!」
「わたしが、耐熱スーツを着て、助けにゆく!」と、ウラ。
「このシャトルは、もう、捨てるしかない!」と、カトウ。
「置いては、いけないでしょ!」
「ほかに道は、ない!ウラ、すまないが」
「スポック、エンタープライズに戻るけど、かならず、助けるから」
「船長」と、カトウ。制服をぬいで、ダイビングスーツに。「シャトル
を捨てます。エンタープライズには、なんとか、自力で」

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9
























































「ありがたいね!」と、カーク。
「ウラ中尉、泳ぐぞ!」
「いいわ!」と、ウラ。すでに、ダイビングスーツに。
 
               ◇
 
 赤のジャングル。
「ジム」と、マッコイ。「おい、ジム!ビーチは、あっちだろ!」
 カークは、白い枝に、巻いた布をひろげて、つるした。
「ビーチへ向かうんじゃない!」と、カーク。
「おい、おい、おい!」
 村人たちは、つるされた布まで来ると、全員、おがみはじめた。
「オレは、イヤだぞ!」と、マッコイ。ふたりは、走りつづけた。
「ああ、分かっている」と、カーク。
 断崖までくると、そのまま、ふたりは、海に飛び込んだ。
 
               ◇
 
 海中。
 カークとマッコイは、海にもぐると、青い布をぬいで、ダイビングス

12

11
























































ーツと足につけた小型スクリューで進んだ。そして、海底に待機してい
た、エンタープライズのエアーロックに入った。
 エアーロックから、海水が出てゆくと、ドアがひらいて、スコットが
現われた。
「宇宙船を海底に隠すなんて」と、スコット。「どんだけバカバカしい
か、分かります?ゆうべっからですよ!船体が塩水でサビついて」
「チャーリー」と、カーク。「副長は?」
「まだ、火口の中に!」
 3人は、すぐに、ブリッジに向かった。
 
               ◇
 
 噴火口。
 スポックは、冷却装置を開いて、セットした。
 岩場で立ち上がると、目の前にマグマが湧き出してきた。
 
               ◇
 
 赤のジャングル。
 火口から、マグマの噴石が、いくつも飛んできて、近くに落下した。

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13
























































 村人たちは、恐れながら、山を見つめていた。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
 カークとマッコイが、ダイビングスーツのまま、走ってきた。
「ブリッジに、船長」と、チェコフ。
「ウラ中尉、副長とまだ、通信できるか?」と、カーク。
「熱でダメージはありますが、なんとか、いけます」と、ウラ。ダイビ
ングスーツのままで。
「スポック!」と、カーク。
「冷却装置を起動させました」と、スポック。マグマに囲まれた火口で。
「カウントダウンが終われば、この火山活動は、停止します」
「あいつの命も、停止だ」と、マッコイ。
「転送は、できるか?」と、カーク。
「できません」と、カトウ。
「磁場がジャマをしていて」と、チェコフ。
「スポックを、転送するには、どうすればいいか、考えろ!」と、カー
ク。
 窓を巨大な魚が横切って、スコットを驚かせた。

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15
























































「あいだに、障害物のない距離まで近づけば」と、チェコフ。「もしか
したら、できるかも」
「今にも、ドカンときそうな火山の上に、近づくのか?」と、スコット。
「直撃されたら、船体がもつか、保障できませんよ」
「低い高度を保てるか、どうか」と、カトウ。
「シャトルは、火山雲に隠せましたが」と、スポック。マグマの火口で。
「エンタープライズは、大きすぎる。私を助けようとすれば、現地の村
人に、船を見られてしまいます」
「おまえは、誰よりも、規則に詳しい」と、カーク。「だが、なにか、
例外は、あるはずだ」
「いえ、救助は、艦隊の誓いに反します」
「黙れ、スポック!」と、マッコイ。「おまえを、助けるためだぞ!」
「クルーひとりよりも、多数の必要を優先すべきです」
「このままじゃ、おまえ、死ぬんだぞ!」と、カーク。
「どんな場合にも、規則に、例外はありません」
 ウラは、呆然として立っていた。
「スポック!」返事がなかった。「もう一度、回線をつなげ!」
 ウラは、通信仕官席で、無線機器をたたいた。
「スポックが、オレの立場なら」と、カーク。「どうすると、思う?」
「おまえを、見捨てる!」と、マッコイ。

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17
























































 
               ◇
 
 噴火口。
 スポックは、沸き立つマグマに囲まれて、目をつぶり、両手をひらい
た。
 
               ◇
 
 赤のジャングル。
 村人たちは、地面に頭をつけて、おがんでいた。
 村長は、枝につるされた布を、はずした。
 その時、海から音がして、村人たちは、断崖に出てきた。
 エンタープライズは、村人たちの目の前で、海面に上昇し、空へと、
浮上した。
 火山に向かい、スポックを転送した。
 すぐに、冷却装置が作動して、噴火していたマグマが、つぎつぎに氷
結した。
 エンタープライズは、大空へと、飛立った。
 

20

19
























































               ◇
 
 エンタープライズの転送室。
 スポックが、耐熱スーツのまま、転送されてきた。
 カークとマッコイが、走ってきた。
「副長!」と、カーク。「無事か?」
「村人に、船を見られましたね?」と、スポック。
「ああ、元気そうだ」と、マッコイ。やれやれ、という表情。
「カーク船長!」と、ウラ。無線で。
「なんだ、ウラ」と、カーク。
「スポック少佐は、船に戻りましたか?」
「ああ、元気だ」
「冷却装置は、うまく、作動したと、伝えてください」
「聞いたか?」と、カーク。「よく、やった、副長。この星を救った」
「艦隊の誓いを、破りましたね?」と、スポック。
「どうかな。彼らが船を見たって、デカイ魚にさかなしか見えないさ!」
 
               ◇
 
 赤のジャングル。

22

21
























































 村人のひとりが、地面に、棒で、宇宙船を描いた。
 村人たちは、地面に描かれた絵を、おがみ始めた。
 村長は、手にしていた布を、落とした。
 宇宙を航行する、エンタープライズ NCC1701。
 ワープすると、視界から消えた。
 




            1
 
 ロンドン、宇宙暦2259・55。
 目覚まし時計が、5時を告げると、夫は、手でベルを止めた。
 愛犬のレトリーバーが、ベッドに飛び乗った。
 妻は、愛犬を撫でた。
 夫婦は、自家用のエアーカーで、ロンドン郊外にある病院に向かった。
 廊下で、担当医師と話す、夫婦。エアベッドを運ぶ、看護婦。
 病室に、娘を見舞う、夫婦。プレゼントのウサギのぬいぐるみを、枕
元に置いた。

24

23
























































 娘は、ずっと、意識がなかった。
 夫は、ひとり、病院のバルコニーで森を見ていると、背後に、ジョン
ハリソン。グレーのタートルネックに、襟を立てた、黒いコートを着て
いた。
「彼女を、助けられる」と、ハリソン。
「今、なんて?」と、夫。
「娘さんを、私は、助けられる」
「あなた、だれです?」
 
               ◇
 
 サンフランシスコ、カークの室。夜明け前。
 携帯の呼び出し音。カークが飛び起きた。
「ジム、どうしたの?」と、シッポのある女性。
「まさか、電話に出たりしないでしょ?」と、もうひとりのシッポのあ
る女性。
 
               ◇
 
 サンフランシスコ、宇宙艦隊本部。

26

25
























































「スポック、それで、呼ばれたんだって、間違いないよ」と、カーク。
制服姿で、手に帽子。
「いや、われわれが、新しいプログラムに選ばれることなど」と、スポ
ック。やはり、制服姿に、帽子。「まず、ないと、思うが」
「じゃ、なんで、パイクが、オレたちを呼ぶ?序列を飛び越えて、一番
新しい船をもらっているんだ。ほかに誰を、派遣する?」
「可能性は、いくらでもある」
「5年間の調査飛行だぞ!」カークは、スポックの胸を、軽くたたいた。
「人類未踏の遠い宇宙だ!おまえは、胸がおどらないのか?」
 3人の女性仕官と、すれ違った。
「元気?」と、カーク。「ジムカークだ!」
 
               ◇
 
 パイク提督の室。
「なにごともなく」と、パイク。いすに座って、報告書を見ていた。
「はい?」と、カーク。スポックとともに、手に帽子を持って、立った
姿勢で。
「きみは、ニビル星での日誌に、そう記したな?」
「ええ、些細なことで、お時間を取らせないように」

28

27
























































「その火山の話を聞こう。情報では、活動は活発だった。噴火すれば、
星に危険が」
「無事を祈りましょう」
「噴火は、しない?」
「活発というのは、相対的にいってですから、そこまで、正確とは」
「噴火しなかったのは、ミスタースポックが、火口内で冷却装置を作動
させたからで、その直前、村人は、車輪を発明したかどうかなのに、海
のなかから出現する、宇宙船を見たと、それが、きみの報告にある、詳
細だがね」と、パイク。スポックに。
「提督」と、スポック。
「報告したのか?」と、カーク。「なぜ、黙ってた?」
「きみも、航星日誌には、真実を書くと思ったからだ」
「ああ、書いたよ、おまえを救ってなければ」
「そのことは、このうえなく、感謝しているが、だからこそ、私が責任
をもって、報告をせねばと感じたのだ」
「すごい責任感だ。ごりっぱだよ、とんがり耳、オレを裏切ってまで」
「とんがり耳?それは、私をおとしめる意図か?」
「諸君!」と、パイク。立ち上がった。手に、杖。「艦隊の指示は、調
査と観察であり、干渉では、ない」
「しかし、ワイヤーが切れなければ」と、スポック。「村人に、われわ

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29
























































れの存在を気づかれることも、なかったのです」
「それは、ヘリクツだ」と、パイク。
「バルカン人は、リクツを重んじるのです」
「その態度は、なんだ、スポック?」
「私は、複数の態度を、同時に示しています。どの態度でしょうか?」
「出ていけ」パイクは、言い直した。「退出してくれ、スポック少佐」
 スポックは、出て行った。
「おまえは、どれだけ、めんどうだか、分かるか?」と、パイク。
「ええ、一応は」と、カーク。
「じゃ、なにを、間違えた?今回の教訓は?」
「バルカン人を、信じるな」
「なにが間違いかを、気づいていない。おまえは、ウソの報告をしたん
だぞ。気に入らない規則なら、守らなくていいと、思っているのか?」
「そういうオレをスカウトして、ご自身の船を任せたんでしょ?」
「おまえに任せたのは、偉大な資質を見たからだ。謙虚さのかけらも、
持ち合わせないようだが」
「スポックを死なせるべきでしたか?」カークは、パイクに向き合った。
「論点がずれている」
「そうは、思いません。では、あなたなら?」
「私なら、そもそも、副長の命を、危険にさらしはしない。おまえは、

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31
























































星の調査に行ったんだ、運命を変えるのではなく。おまえは、いくつも
の規則に違反したうえ、船のクルー全員を危険にさらした」
「でも、誰も死んでません。オレが船長になってから、なん人、死にま
したか?ひとりもです」
「自分は、間違うはずはないと、思っているだろ?規則は、自分以外の
ため」
「時には、必要でない」
「さらに、おまえは、ただの幸運を、言い訳にして、神をきどっている
!」
 パイクは、一呼吸おいた。
「本件は、状況をかんがみ、マーカス提督に報告され、特別審議会が召
集されたが、私は、招かれなかった。おまえも、さすがに、規則の重さ
を、思い知るだろう。おまえは、船から、降ろされた。アカデミーに、
逆戻りだ」
「聞いてください」と、カーク。真顔になった。
「いや、聞かない」
「すべて、説明できます」
「おまえは、規則を守らず、なにごとにも、責任を取ろうとせず、船長
のイスを、尊重しない。なぜだと、思う?おまえが、未熟だからだ」
 カークは、黙ったまま、目を落とした。

34

33
























































 
               ◇
 
 ロンドン。
 ハリソンの家のラボ。
 自分の血清を、50cc、容器に取り、携帯ケースに、指輪といっし
ょに収めた。
 
               ◇
 
 ロンドンの病院、深夜。
 娘の病室。妻は、ソファで寝ていた。
 夫は、ハリソンから渡された、携帯ケースから、血清の入ったガラス
の容器を取り出した。それを、娘の点滴容器にセットし、血清が混入を
始めると、娘のモニター画面が、活発になった。
 夫は、娘の頬にキスをした。
 
               ◇
 
 ロンドン、宇宙艦隊のケルヴィン記念記録保管庫。

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35
























































 夫は、艦隊仕官の制服で、保管庫の前にいた。通りの向かいに、黒い
コートのハリソン。
 夫は、保管庫に入ると、顔認証を受けた。
 エレベータで、勤務先の仕官席へ着くと、メールを送信した。そして、
ハリソンから受け取った指輪を、コップの水の中へ落とした。
 それが、起爆すると、爆発は、娘の病室の窓からも見えた。
 
               ◇
 
 サンフランシスコ、夜のバー。
 カークは、黒いジャンパー姿で、カウンター席で、ウィスキーロック。
 隣の女性に、話しかけようとすると、パイクが、急に現われて、とな
りに座った。
「どうして、ここを?」と、カーク。
「私を、みくびるんじゃない」と、パイク。「以前、見つけたときも、
酒場だった。覚えているか?ボコボコにやられて」
「いや、ぜんぜん」
「忘れた?」
「いや、負けてません」
「記録的な大敗だ」

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37
























































「違います!」
「鼻の穴、両方に、紙ナプキン」
「ハハ」
「違うか?」
「あれは、いいケンカでした」
「いいケンカ━━━そのへんが、おまえの問題だ。私に戻されたぞ、エ
ンタープライズが」
「おめでとうございます。副長は、裏切りますから、気をつけて!」
「副長は、スポックじゃない。彼は、転属だ。USSブラッドベリに。
おまえが、私の副長だ。かなり、苦労はしたけどな。なんとか、マーカ
スを説得した」
「なんて、言ったんです?」
「真実だ。カークを信じると。ジムカークは、2度目のチャンスに、ふ
さわしい男だと」
「言葉が、ありません」
「ふん、珍しいな。ま、大丈夫だ」
 パイクは、自分の携帯に、連絡が入ったので、開いて、読んだ。
「デイストロームで、緊急会議。行くぞ」
「はい」と、カーク。
 パイクは、カークの肩を叩いた。「制服を着ろ!」

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39
























































 
               ◇
 
 サンフランシスコ、デイストロームツインタワー。
 カークは、制服姿で、ロビーに入ると、スポックに呼び止められた。
「船長」と、スポック。
「もう、違う」と、カーク。「オレは、副長だ」エレベータに入ると、
ボタンを押した。「降格だよ。それで、おまえは、転属」
「処分が、予想以上に寛大で、運がよかった」と、スポック。
「おい、冗談だろ?」と、カーク。
「船長、これは、私が意図したこととは、違います」
「船長じゃない。おまえを救ったオレが、おまえに裏切られ、船を失っ
たよ」
 エレベータが開いて、カークが降りた。
「カーク少佐」と、スポック。「報告を提出したことは、忠告しておく
べきでした」
「おまえの」と、カーク。「規則への強迫観念は、知っているが、オレ
にはできない。オレの国では、命の恩人を裏切るような、まねはしない」
「バルカン人は、ウソをつけない」
「それじゃ、半分、地球人のおまえに話す。いいか、分かるよな?あの

42

41
























































時、なんで、オレが戻ったか」
「スポック少佐」と、アボット。スポックに、あいさつした。「USS
ブラッドベリのフランクアボットだ。きみは、私と?」
「はい、船長」と、スポック。
 アボットは、カークをチラっと見てから、去った。
「正直いうと」と、カーク。「さびしくなるよ」
 スポックは、なにか言いかけて、やめた。
 
               ◇
 
 会議室。
「マーカス提督、どうぞ」と、議長。円形のテーブルに、20人の上級
仕官が集まった。
「急な、召集で、すまなかった」と、マーカス。「座ってくれ」
 全員、着席した。
「ロンドンの事件を、聞いた者もいるだろう。標的は、艦隊のデータ保
管庫。男女合わせて、42人が死亡した。1時間前、ある艦隊仕官から、
脅迫されて実行するという、自白メッセージが届いた。彼を脅していた
のは、この男、ジョンハリソン少佐。われわれの仲間だ」
 各自のモニターに、ハリソンの写真。

44

43
























































「今回の残虐行為は、彼が引き起こした。理由は、分からないが、ジョ
ンハリソンは、宇宙艦隊に、ひとりで、戦争をしかけた。今後、どんな
ことがあろうとも、この男を、連邦宇宙域から逃がしては、ならない。
今日、集まってもらったのは、近辺にいる船の司令官。亡くなったもの
たちのためにも、かならず、この悪党をとらえるのだ」
 パイクは、マーカスの言葉使いに、違和感を覚えて、顔を見た。
「犯人追跡任務の計画を、発表する。地球の周辺センサーで、ワープの
痕跡を、とらえていないから、遠くへは、行っていない。諸君の船を、
等間隔で配置し、そこから捜査隊を結成し、あらゆる手がかりを追跡し
てくれ!この男は、無実な者でも、ためらわずに殺すくらいだから、や
つを発見し、自分や周辺に危険を感じたら、やつの命を奪ってもかまわ
ない━━━」
 カークは、モニターで、立体写真を操作して、爆発現場にいるハリソ
ンを見つけた。
「このバッグの中は?」と、カーク。となりのパイクに。
「あとにしろ!」と、パイク。
「データ保管庫の爆破なんて、ヘンでしょ?図書館、吹っとばすのと、
いっしょです」
「クリス」と、マーカス。「だいじょうぶか?」
「失礼」と、パイク。「ミスターカークが、まだ、副長の立場に慣れて

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45
























































いないようでして」
「カーク。あすでは、遅いぞ、言ってくれ!」
「大丈夫です、提督」と、カーク。
「遠慮せずに、言ってみろ!」
「なぜ、データ保管庫か。だって、そこにあるのは、公式記録だけです。
艦隊にダメージを与えたければ━━━」カークは、なにかに思いあたっ
た。「これは、ただの、始まりだ」
「なにが、始まるのかね?」
「こういう事件の際は、手順が決まっています。上層部が、艦隊の船長
と副長を、艦隊本部に集めて、対策を練る。この室で」
「それに、なぜ、ハリソンが、ワープ機能のない小型艇を使ったのか」
と、スポック。
 会議室に、窓から、照明があたった。
 カークは、立ち上がり、窓に近づいた。
 スポックや、マーカスも立ち上がった。
「みんな、逃げろ!」と、カーク。
 窓の外の小型艇から、銃撃が始まった。
 イスごと吹き飛ばされる、仕官たち。
 カークは、床に伏せた。
 女性仕官が撃たれて、床に倒れた。

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47
























































「防空班を頼む!」と、パイク。机の影で、無線に。「デイストローム
の会議室だ」
「いくぞ!」と、護衛仕官。会議室に、銃を持って走ってきた。「援護
しろ!」
 護衛仕官は、ふたりとも、撃たれて、倒れた。
 カークは、倒れた護衛士官の銃を拾って、脇の通路から、銃撃を続け
る、小型艇めがけて撃った。まったく、効果がなかった。
 パイクは、銃撃されて、倒れた。スポックが気づき、パイクを通路へ
運んだ。
 カークは、小型艇にある、ジェットの吸い込み口に気づいた。通路の
消火栓をあけて、消化ホースを引っ張りだした。銃にまきつけ、小型艇
めがけて、投げた。
 小型艇は、消化ホースをつぎつぎに吸い込んで、壁の消火栓もひっぱ
りこんだ。ダメージがあって、銃撃をやめ、回転を始めた。
 ハリソンは、運転席で、緊急転送を開始した。通路で立っていた、カ
ークと目が合った。
 運転席に人影がなくなると、小型艇は、壁に激突して、落ちていった。
 スポックは、撃たれて瀕死の、パイクの顔に右手をあてて、精神融合
をした。
 パイクは、目をあけたまま、死んだ。

50

49
























































 カークは、走ってきて、パイクのノドをさわってから、息がないこと
を知って、泣きくずれた。スポックの肩に手をおいて、去っていった。
 
               ◇
 
 見知らぬ惑星。
 風の強い、廃墟に、ハリソンが転送されてきた。黒いコートの襟を立
て、走り去った。
 
               ◇
 
 サンフランシスコ、カークの室。早朝。
 携帯の呼び出し音。
「ああ」と、カーク。
「カーク少佐」と、スポック。無線から。「ミスタースコットが、ハリ
ソンの船の残骸で、なにか見つけました。われわれに、すぐに来るよう
に、言っています」
 
               ◇
 

52

51
























































 デイストロームツインタワーの中庭。
 カークとスポックが、走ってゆくと、スコットが装置を持って待って
いた。
「船長!」と、スコット。「こいつが、残骸のなかにありました。やつ
は、これで、逃げたんです」
「というと?」と、カーク。
「小型トランスワープ転送装置」
「やつの行き先は、分かるか?」
「ええ、もう、出しました。やっかいなとこだ」スコットは、装置のス
イッチにふれた。宇宙座標43 89 26 05。「オレたちには、
そう簡単には、行けないところです」
 
               ◇
 
 会議室。マーカス提督が、仕官たちと会議をしていた。
「やつは、もう、地球にいません」と、カーク。「クロノス星に、いま
す」
 カークは、スポックとともに、マーカス提督に向き合った。
「私を、船長に復帰させ、やつの追跡許可を」
「諸君、のちほど」と、マーカス。会議室の仕官たちに。そして、カー

54

53
























































クに。「クロノス?」
「そうです」と、カーク。
「それじゃ、ハリソンは、クリンゴンの惑星に逃げたと。亡命か?」
「それは、分かりません」
「逃亡先は、クロノスのキャサ地区」と、スポック。「何十年も、無人
地区です」
「やつは、そこに、隠れてるんです」と、カーク。「艦隊が、クリンゴ
ン領域に近づけば、全面戦争です。なので、私が、行きます。許可、願
います」
「クリンゴンとの戦争は、避けられない」と、マーカス。「むしろ、も
う、始まっている。われわれの存在を知って以来、クリンゴン帝国は、
2つの惑星に侵攻。艦隊への攻撃は、数回ではない。彼らが望んだ、戦
争だ。ロンドンは、データ保管庫ではない。宇宙艦隊で、セクション3サーティ
ワンと呼ばれる、極秘集団だ。そこでは、防衛技術を開発し、さらには、
クリンゴン、そのほかの敵の情報収集をする、士官を訓練していた。ハ
リソンも、そのひとりだった」
「ですが、今は、倒すべき、逃亡犯です」と、カーク。
「パイクは、いつも、きみが優秀だと、信じ、きみのことをかばってい
た。そもそも、彼の説得で、艦隊に入ったとか?」
「そうです」

56

55
























































「パイクを入隊させたのは、誰だと思う?私が、死なせた。きみを、同
じ目には」
「提督、お言葉ですが」
「ミスタースポック。ハリソンのいる地区は、無人だと言ったな?」
「そうです」と、スポック。
「防衛戦略の一環で」と、マーカス。「セクション3サーティワンが、新しい光子
魚雷を開発した」
 マーカスは、立体モニターに、魚雷を表示させた。
「射程距離が長く、クリンゴンのセンサーにもかからない。きみらを傷
つけずに、ハリソンを倒したい。中立地帯のはしから、ハリソンの居場
所に、魚雷を発射。やつを殺したら、とっとと、逃げてこい!」
「ミスタースポックを、副長に復帰させる、許可をください」と、カー
ク。
「許可する」
 
               ◇
 
 第1格納デッキ。
「ジム!」と、マッコイ。「どこにいた?」
「なんで?」と、カーク。

58

57
























































「健康診断だろ?10時間前、撃ち合いのどまん中にいたんだぞ。船の
担当医師として」
「平気だ、ボーンズ」
「おい、どこがだ?」
「平気だ」
 カークは、シャトルに乗り込んだ。
「スポック、現状報告を」と、カーク。
「エンタープライズの出航準備は」と、スポック。「順調です」
「よし、そうか」
「船長。副長にしてくださり、感謝します」
「当然だろ」
「そして、あなたの副長として、任務内容に対し、断固、反対いたしま
す」
「だろうな」
「裁判なしで、人を殺す行為は、艦隊規則に反します。あなたも提督も、
お忘れのようだが」
 カークは、思い当たるふしがあった。
「さらに」スポックは、続けた。「クリンゴンの惑星を、魚雷で先制攻
撃するなど」
「おまえは、無人地区だと言った。死ぬのは、1名だけだ。しかも、今

60

59
























































回の任務に、艦隊の規則は、関係ない」
「待て、クリンゴンに魚雷を撃ち込むのか?」と、マッコイ。後ろの席
から、カークの頭にセンサーを当てて、モニターしていた。
「規則を脇においても」と、スポック。「倫理的に、間違っています」
「おまえを火山で助けたのは、倫理的に正しかった。感謝されてないが」
「おい、ジム、落ちつけ!」と、マッコイ。
「ロボットのくせに、倫理を説くかね?」
「私を侮辱するのは、あなたが、罪悪感を感じているからです」
「おまえの意見を聞いていない」と、カーク。そして、顔にセンサーを
当てている、マッコイに。「ボーンズ、やめてくれないか!うっとうし
い」
「この任務は、戦争につながりかねません」と、スポック。「しかも、
倫理に反しています。ご自身で、熟考を重ねれば、同じ結論に達するは
ずです」
「カーク船長」と、金髪の女性仕官。カークの前に。「科学仕官のウォ
レスです。マーカス提督の命で、ご同行します。こちらが、転属命令」
ウォレスは、書類ファイルを差し出した。
「船長」と、スポック。「科学仕官の追加要請を?」
「覚えがないが」と、カーク。「キャロルウォレス中尉。応用物理学博
士。専門は、先端兵器学」

62

61
























































「経歴は、りっぱだ」と、スポック。
「どうも」と、ウォレス。
「だが、私が船に戻れば、不要だ」
「にぎやかで楽しいだろ?」と、カーク。「座って、博士!」
「どうも」と、ウォレス。カークとスポックの間の席に座った。ウォレ
スは、スポックににらまれて、渋い顔をした。
「乗員、離陸スタンバイ」と、パイロット。シャトルは、飛びたった。
 宇宙基地に待機する、USSエンタープライズ NCC1701。
 シャトルは、NCC1701のシャトル格納庫に、向かった。
 
               ◇
 
 エンタープライズのシャトル格納庫。
「いやだ。オレは、サインしないぞ!」と、スコット。光子魚雷を積み
込んだ、少尉に。「こんなもん、オレの船から、降ろせ!」
「なにか、問題か?」と、カーク。
「そりゃ、もう、こいつらに、説明していたんです。中身を明らかにで
きない武器は、オレの船には、乗せないって」
「チャーリーの言う通り」と、スポック。「これも、また、規則です」
「ブリッジへ行け!」と、カーク。書類ファイルを、スポックに。

64

63
























































「はい、船長」と、スポック。ブリッジに向かった。
 ウォレスは、光子魚雷の周りを調べていた。
「チャーリー、心配は分かるが」と、カーク。「この魚雷は、船に乗せ
てくれ」
「いいですか」と、スコット。「光子魚雷の動力源は、内部燃料です。
なのに、どんな燃料が入っているのか、分からない。スキャンできない
んですよ。それで、こちらさんにいたら、お答えは」
「機密です」と、少尉。
「機密ですって、だからね、そんなんじゃ、サインできないって」
「船長」と、カトウ。上の階から。「フライトチェック完了。出航でき
ます」
「ご苦労、ミスターカトウ」と、カーク。
「いいえ」カトウは、ブリッジに向かった。
「それじゃ、オレは、失礼して、ワープコアの準備を」
別の光子魚雷に座っている、小さな宇宙人を見つけた。
「降りろ!」
「ジム」と、マッコイ。「おまえ、ひどい数値だ」
「医療室へ行ってろ!」と、カーク。スコットの後を、追った。「チャ
ーリー、あの魚雷は、乗せてくれよ」
「これが、なんだか知っていますか?」と、スコット。

66

65
























































「きみの講義を、聞くヒマはない」
「これが、なんだか知っていますか?」
「ワープコアだ」
「こいつは、反物質を反応させて、パワーを得る道具です。微妙な磁気
的変化、たとえば、成分不明の燃料を積んだ、魚雷6ダースの影響で、
反物質が暴走して、全員、オダブツってこともある。あんなもん、乗せ
たら、オレだって、もう、ぶちきれますよ」
「もう、限界か?」
「もうって、さんざん、がまんしてんです。オレのトランスワープ理論
を、艦隊が没収するから、あのイカレ野郎が、銀河の向こうに消えたん
です」
「これは、命令なんだ、チャーリー」
「だから、こわいんでしょうが。こんなの、あきらかに、軍事作戦だ。
いつから、軍隊になった?オレたちは、調査隊のはずでしょ?」
「魚雷を受けいれろ!これは、命令だ」
「いいでしょ、じゃあ、オレは、船を、降りるしかありませんね」
「おい、チャーリー、そんなこと」
「だって、責任、取れませんもの」
「ただ、サインするだけだ」
「中身が確認できないなら」

68

67
























































「今回だけだ」
「下船を、認めるんですか、認めないんですか?」
「認めるよ!」言い合いをしているうちに、カークは、口をすべらした。
 スコットは、黙った。
「認める」と、カーク。「下船してよし、ミスタースコット!」
「ジム」と、スコット。静かな口調で。「悪いことは、言わねぇ。絶対
に、あの魚雷は、使うなよ」
 スコットは、それだけ言うと、機関部のパッドをカークに返した。
 歩き始めたが、立ち止まって、振り返って、小さな宇宙人を見た。
 小さな宇宙人も、カークにパッドを返した。
 スコットは、小さな宇宙人とともに、船を後にした。
「機関部」と、アナウンス。「3分後より、ワープコアの反物質、封じ
込めチェックです」
 
               ◇
 
 エンタープライズの通路。
「船長」と、ウラ。「パイク提督は、とても、残念でした」
「ああ、みんなにとっても」と、カーク。
「大丈夫ですか?」

70

69
























































「問題ない。ありがとう」
 エレベータに乗って、ボタンを押した。
「チャーリーが、船を降りた」と、カーク。「きみの彼氏にも、文句、
言われまくっている。ごめん、恋人のきみに。だけど、たまに、あいつ
の前髪、引っこ抜こうかと思う。オレが、短気すぎるのか?」
「あなたじゃ、ない」と、ウラ。
「そうか」カークは、なにかに気づいた。「待てよ、きみら、今、ケン
カ中か?」
「その話は、したくないの」
「きみらのケンカって、どんな」
 エレベータのドアがひらくと、スポックが乗り込もうとしていた。
 ウラは、黙って、歩いていった。
「聞き耳、立てるな!」と、カーク。ブリッジへ入った。
「ブリッジに、船長」と、チェコフ。
「船長」と、カトウ。運転席についた。
「ミスターチェコフ」と、カーク。チェコフに、話しかけた。「チャー
リーのやることを見て、船のエンジンについて、詳しくなったよな」
「勉強しました」
「よし。機関室チーフだ。赤のシャツを、着ろ!」
 カークは、チェコフの背中を、軽く、叩いた。

72

71
























































「はい、船長」と、チェコフ。機関部へ向かった。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「係留アームをはずせ!」と、カーク。船長席で。
「了解」と、カトウ。
「ドッキングクランプ」と、管制官。「1号、2号、3号、解除」
「全モアリング、回収」と、別の管制官。
 チェコフの席に、交代仕官が、座った。
「ウラ中尉、船内チャンネルをあけろ!」と、カーク。
「了解です」と、ウラ。
「ミスターチェコフ、エンジンはどうだ?」
 
               ◇
 
 エンタープライズの機関室。
「全システム、異常なしです」と、チェコフ。
「了解」と、カーク。
「いつでも、ワープできます」

74

73
























































「ありがとう、チェコフ」
 チェコフは、通信終了ボタンを何回か、押し間違えた。
「ビビビー」と、通信終了ボタン。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「よし、行こうか」と、カーク。
「はい」と、カトウ。ワープドライブのアームを倒した。
 見えていた星々が一瞬直線状に流れると、ワープに入った。
 










76

75
























































            2
 
 エンタープライズのブリッジ。
「チャンネル、オープンです」と、ウラ。
「ピーピーヒャラヒャラ」と、艦内放送が始まる、スピーカー音。
「エンタープライズのクルー諸君」と、カーク。「知ってのとおり、わ
れらの友人であり、前船長、クリストファーパイク提督が、亡くなった。
彼を殺した犯人は、すでに、太陽系を脱出し、クリンゴンの惑星に、隠
れている。われわれは、そこへ向かう」
 機関室の仕官たちは、溶接用メガネをはずして、聞いていた。
 医療室では、マッコイや看護婦たちが。
「マーカス提督が言ったとおり、今回は、敵に気づかれないことが、重
要だ」
 ウォレスは、センサーを手に、シャトル格納庫を歩いて、階段を上っ
た。
「惑星連邦とクリンゴンの緊張が高まっている今、へたな刺激は、全面
戦争を引き起こす」
 カークは、科学仕官席のスポックを見た。スポックは、聞いていた。
「到着後、私が、クロノス星の無人地区へと降りるチームの、指揮をと
る。逃亡犯、ジョンハリソンを逮捕する。そして、やつを、地球へ連れ

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77
























































帰り、裁判を受けさせる。よし、じゃあ、悪党をつかまえよう!以上だ」
 スポックが、立ち上がり、カークに近づいた。
「正しい決断を、なさいましたね」と、スポック。「私も、上陸班に加
えていただけたら、しあわせです」
「おまえが?」と、カーク。「しあわせ?」
「ただ、単に、あなたがたの言い方を使ってみただけですが」
「ありがとう、スポック」
 
               ◇
 
 ワープ航行中の、エンタープライズ。
 シャトル格納庫。
 ウォレスは、センサーを手に、光子魚雷を調べていた。
 周りでは、多くのクルーが作業していた。
 スポックが立っていた。
「ミスタースポック」と、ウォレス。「驚きました」
「きみは、なにをしている?」と、スポック。
「魚雷の、内部誘導システムのチェックを」
「そうではない。この船で、なにをしている?きみが、エンタープライ
ズに配属された、記録はない」

80

79
























































「さぁ、なにかの、間違いかと」
「私も、そう思うよ、マーカス博士。きみが、ウソをついていなければ、
だが。ウォレスは、ミドルネームだ。きみは、マーカス提督のお嬢さん
だね?」
「ミスタースポック、こんなこと、頼めないのは、分かっていますけど、
お願いです。どうか、父には内緒に━━━」
 そのとき、エンタープライズに急ブレーキがかかった。
 前につんのめりそうな、カトウやカーク。
 
               ◇
 
 エンタープライズは、斜めに傾いたまま、通常空間に出た。
 エンタープライズのブリッジ。
「機関室が、手動でワープエンジンを、停止!」と、カトウ。
「チェコフ、船を壊したのか?」と、カーク。
 
               ◇
 
 エンタープライズの機関室
「すいません」と、チェコフ。走りまわっていた。「原因が不明ですが、

82

81
























































コアがオーバーヒートで、緊急停止ボタンを押しました。冷却剤の漏れ
を、確認します。すいません、船長」
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「参ったな」と、カーク。「目的地への所要時間は?」
「20分ですが」と、カトウ。「そのあいだ、ずっと、敵の宇宙域の中
です」
「よし、急がないと。スポックは?」
 スポックが、戻った。
「ここです」と、スポック。
「いっしょに、クロノスへ来い!ウラ中尉、クリンゴン語は?」
「ええ、思いだせます」と、ウラ。
「じゃあ、きみも。いっしょに働くのに、問題はないか?」
「ええ、もちろんです」と、ウラ。
「不明です」と、スポック。
 ふたりとも、ブリッジを出た。
「シャトルに集合だ」と、カーク。
「ジム」と、マッコイ。「まさか、ほんとうに、降りるつもりか?逃走

84

83
























































車両が故障していて、銀行強盗は、ムリだ!」
「戻ってくるころには」と、カーク。機関部へ。「エンジンは、直って
いると思うが、そうだろ?ミスターチェコフ」
「はい」と、チェコフ。「あの、がんばります」
「ミスターカトウ、船を頼む」と、カーク。「オレたちが、出たら、ハ
リソンの居場所に向かって、通信爆撃だ。最新鋭魚雷が、たくさん乗っ
ていて、いい子にしないと、そいつらを発射すると。問題あるか?」
「いいえ」と、カトウ。「船長のイスは、初めてで」
「おまえなら、やれる」
「ジム、待て!」と、マッコイ。「カトウにポーカーさせて、なんの切
り札もないのに、ハッタリをかませというのか?あいつは、いいやつだ
が、船長は、ムリだ」
「2時間くらいできる!もう、たとえ話は、やめろ!命令だ!」
 カークも、ブリッジを出た。
「ミスターカトウ」と、カーク。通信で。「キノルミア人の船を、用意
させろ!」
 カトウは、船長席に座った。運転席には、すぐに、交代仕官が座った。
「カトウ船長代理より、シャトルベイ2番。先月、マッド事件の際、押
収した貿易船の、出発準備をしてくれ!カーク船長が、そちらへ向かう」
 

86

85
























































               ◇
 
 エンタープライズのシャトルベイ2番。
 私服に着替えた、カーク、スポック、ウラが、貿易船に、やってきた。
「出発できます、船長」と、2名の機関部仕官。ひとりは、カップケー
キ。
「中尉、制服を脱げ。キノルミアの武器商人になる、これを」
 カークは、持ってきたバッグから着替えを出した。
「はい?」と、カップケーキ。
「もし、作戦が失敗したとき」と、カーク。「艦隊と結びつけられたら、
困る。戦争したければ、別だが」
「困ります」
「困ります」と、もうひとりの機関部仕官。
「よし、オレもだ」カークは、船に乗りこんだ。
 
               ◇
 
 貿易船は、エンタープライズから飛び出した。
 すぐに、クロノス星の分厚い雲の間を、飛行した。
「キャサ地区に、生命反応を、1つ感知」と、スポック。「ミスタース

88

87
























































コットの情報によると、これが、ジョンハリソンでしょう」
 カーク、スポック、ウラの3人は、貿易船の運転席で、背中合わせに
座っていた。
「ミスターカトウ」と、カーク。無線に。「見つけたぞ。本気だと、教
えてやれ!」
「はい、船長」と、カトウ。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「USSエンタープライズの船長、カトウだ。高度の訓練を受けた、士
官が、おまえの座標に向かっている。彼らにすぐに、降伏しなければ、
今、おまえがいる座標に、すでに、目標をセット済みの、最新鋭長距離
魚雷を、すべて、落としてやる」
 魚雷発射庫では、6ダースの長距離魚雷が、すべて、発射管に収めら
れた。
「決断するのに、2分の猶予をやる。降伏しなければ、おまえの存在を、
消すことになる。私を試せば、後悔するぞ」
 カトウは、通信を切った。
「ミスターカトウ」と、マッコイ。「きみは、おこらせたらこわいんだね」

90

89
























































 
               ◇
 
 貿易船は、クロノス星の山岳地帯の雲の上を、飛行した。
「ハリソンの座標到着まで、3分です、船長」と、スポック。「彼が降
伏する確率は低く、こちらを攻撃する確率は、91・6パーセントです」
「ありがたいね」と、カーク。
「でも、死ぬの、平気なんでしょ?」と、ウラ。
「失礼、ウラ中尉、よく聞こえなかったんだが」と、スポック。
「なにも、言ってません。聞いてくれるなら、よろこんで話すけど」
「その話題は、また、別の機会に話したい」
「本心は、まったく、話したくないでしょ?」
「ああ、今でないと、ダメかい?」と、カーク。
「失礼、船長、2秒ください」と、ウラ。
「分かった」と、カーク。
「スポック、火口の中で、わたしたちのこと、考えた?あなたが、死ん
だら、わたしがどうなるか?なにも感じてなかった?気にしてなかった?
あの態度でおこったのは、わたしだけじゃない。船長だって、そうよ」
「おい、待て、オレまで、巻き込むなよ」と、カーク。「でも、ホント
だ」

92

91
























































「私が、死に無頓着だと言うなら、間違いだ」と、スポック。「生物は、
長寿と繁栄をなしえてこそ、存在意義を発揮できる」
「あっそ!」と、ウラ。
「それじゃ、ラブソングには聞こえないな」と、カーク。
「誤解している」と、スポック。「たしかに。私は、命が終わると分か
ったとき、感覚を麻痺させることを、選んだ。パイク提督が死ぬ間際、
私は、精神融合で、死に直面した提督の感情を、体験した。怒り、混乱
に、孤独、恐怖。私が経験したことのある、感情だ。それらを、私は、
自分の星が失われた日に感じ、あの感情を、2度と経験しないことを選
んだのだ。ニオタ、きみは、私が感覚を麻痺させた理由を、きみを思っ
ていないからと、誤解している。だが、保証しよう、真実は、まったく、
その逆だ」
 ウラは、やっと、安心した気持ちになった。
 銃撃音がした。
「なんだ、今のは?」と、カーク。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「どうした?」と、カトウ。「信号は?」

94

93
























































「途切れました」と、通信仕官。「つなぎ直しています」
 
               ◇
 
 クロノス星の山岳地帯。
 貿易船の背後に、クリンゴン船。
「D4級のクリンゴン船に、追跡されています」と、スポック。
「この地区は、無人だろ?」と、カーク。
「抜き打ちのパトロールです」と、ウラ。
「つかまれ!」カークは、船を加速させた。
「この船に、攻撃手段は、ない」と、スポック。
「オレたちが、手段だ。エンジン全開!」
「はい、船長」
 貿易船は、廃墟の都市へ入りこんで、ビルの間を飛行した。
 クリンゴン船が、砲撃を開始した。
「おっと!」と、カーク。砲撃を寸前でかわして、飛行した。
「近づいています」と、ウラ。「方位285」
「よし、あそこで、追手をまく!」と、カーク。前方に、わずかにビル
の隙間。
「あの建物の隙間に」と、スポック。「はいろうというつもりなら、この

96

95
























































船ではムリです」
はいれる」
「船長、はいれません」
はいれる、はいれる、はいれる」
 貿易船は、扁平な形で、上下をこすりながら、通り抜けた。
 クリンゴン船は、寸前で停止した。
はいれると、言ったろ」と、カーク。
はいれたとは、認められません」と、スポック。
「やつら、いるか?」
「いえ、それが、心配です」と、ウラ。
いたんだ!」
「スキャナーが妨害されているか」
「いや、いたんだ!」
 しばらく行くと、3隻のクリンゴン船に囲まれて、サーチライトに照
らされた。
 クリンゴン語が響きわたった。
 貿易船は、ゆっくり後退した。
「着陸しろと、言っています」と、ウラ。「ここに来た、目的を聞かれ
ます、われわれを、拷問して、答えを引き出し、最後は、殺す気です」
「じゃあ、撃ち合うしかない」と、カーク。

98

97
























































 ウラは、立ち上がって、カークに向き合った。
「人数は、少ない。武器もない。先に攻撃すれば、生き残るチャンスは
ありません。わたしが来たのは、クリンゴンと、話すためですよね?そ
れなら、話をさせてください」
 貿易船は、クリンゴン船に囲まれながら、着陸した。
 ドアがひらいて、ウラが出てきた。ポニーテールで、黒いコートに、
藍のマフラー。外は、強い風に、ゴミが舞っていた。
 クリンゴンも、20人ほど降りてきた。
「こんなの無謀だ」と、カーク。
「唯一、論理的な手です」と、スポック。「今、ジャマをすれば、おこ
せるのは、クリンゴンだけではない。ウラ中尉もおこりますよ」
 ウラは、石畳の上の、クリンゴン兵士に近づいた。
 クリンゴンは、全員、鎧に兜をまとっていた。
「ジェウェラフェジャハン(助けに来た)」と、ウラ。
 クリンゴンの隊長が、前に出てきた。
 カークは、貿易船の中で、拳銃を3丁出してきて、スポックと機関部
仕官に渡した。
「ありがとうございます」と、機関部仕官。カークは、拳銃に装填した。
「ジェイェ(尊敬を)」と、ウラ。「ダガスナハペクナハダウン(犯罪
者が、この地区に隠れている)。ポッケダハイダハンエイフ(我々の多

100

99
























































くを殺した)」
 クリンゴンの隊長は、兜をぬいだ。頭皮が鰐皮で、目が青だった。
「トフへサシデサフ(人間を殺した人間など、関係ない)」と、隊長。
「ポックモフパカテハ(あなたは、名誉を重んじるから)」と、ウラ。
「アイチスポックナイヤ(犯罪者には、ないものだ)。ジェボンアホプ
ケヤキャイフ(あなたたちが、危険にさらされている)」
 隊長は、ウラのあごをつかんで、足に吊るした短剣をぬこうとした。
 そのとき、廃墟の高台に黒のコートの男があらわれて、銃を乱射した。
 ウラは、隊長の短剣を引き抜いて、太ももに刺した。
「トゥーフ!」と、ウラ。転がって、身を隠した。
 カークが、出てきて、隊長を撃った。
 スポックと機関部仕官も、貿易船を出て、銃撃に加わった。
 黒のコートの男は、両手に、ライフルを2挺たずさえ、すばやく、正
確な射撃で、クリンゴンをつぎつぎに倒した。
 クリンゴン船が援護に飛来したが、黒のコートの男に撃たれて、回転
して、墜落した。
 カークは、廃墟の路地を進むと、クリンゴン兵士に出くわし、バトラ
フで切りつけられた。地面に倒されたが、銃で、撃ち倒した。別の兵士
にも、組み伏せられたが、肘鉄で撃退した。
 クリンゴン船が、さらに、2隻、飛来し、ロープで、つぎつぎに援軍

102

101
























































の兵士を降ろした。
 カークは、さらに、ふたりに踏みつけられて、撃たれそうになったが、
黒のコートの男が気づき、兵士を撃った。もうひとりは、逃げていった。
カークは、倒れたまま、高台の男をよく見ようとしたが、スポックとウ
ラが、カークを安全な場所へ引きずっていった。
 黒のコートの男は、さらに、クリンゴン船を1隻、撃墜した。
 クリンゴン兵士は、黒のコートの男を取り囲んで、突撃したが、つぎ
つぎに撃たれて、倒された。
 カークは、地面に倒れたまま、それを、見ていた。
 黒のコートの男は、片方の機銃を投げ捨て、顔のおおいを取った。ハ
リソンだった。
 ハリソンは、高台から飛び降りてきた。残っていた兵士を、すべてナ
イフで倒して、ライフルを構えて、カークの方へ、歩いてきた。
「銃を、降ろせ!」と、スポック。ライフルを構えた。
「魚雷は、何発ある?」と、ハリソン。
「銃を、降ろせ!」
 ハリソンは、スポックのライフルを撃った。ライフルは、スポックの
手から飛んだ。
「魚雷だ。私に向けて、発射すると脅していた、魚雷は、何発ある?」
 カークとウラは、黙ったままだった。

104

103
























































「72本」と、スポック。
 それを聞いて、ハリソンは、銃を捨てた。
「降伏する」と、ハリソン。
 スポックは、ふたたび、ライフルを構えた。
 カークは、立ち上がった。急に憎しみが、沸いてきた。
「友である、クリストファーパイクの代理として、おまえの降伏を認め
よう」
 カークは、後ろを向いてから、ハリソンを殴った。
 何発も殴って、へとへとになって、ひざをついた。
 ハリソンは、平然と、立っていた。
「船長!」と、ウラ。
 カークは、立ち上がった。
「船長!」と、ハリソン。
 カークは、ウラのところに戻った。
「手錠を」と、カーク。
 
               ◇
 
 エンタープライズのシャトル格納庫。
 10人の保安部員に囲まれて、ハリソンが連行されてきた。

106

105
























































 ウォレスは、その様子を見ていた。
 その列の後ろに、まだ、私服のままの、カーク、スポック、ウラ。
「ボーンズ、拘束室へ」と、カーク。無線に。
「すぐに行く」と、マッコイ。
「ウラ中尉」と、カーク。「艦隊本部に、ハリソンを逮捕したと伝えろ。
ワープコアが修理でき次第、戻ると」
「はい、船長」と、ウラ。
 カークが去ると、ウラは、スポックに、仲直りしたことを、目で伝え
た。
 
               ◇
 
 エンタープライズの通路。
 制服に着替えた、カーク、スポック。マッコイとともに、拘束室に向
かった。
「なぜ、降伏したんだ?」と、マッコイ。
「分からないが、やつは、クリンゴンの1分隊を、片手でひねったんだ」
「どうも、超人類のようだな」
「調べてくれ!」
 拘束室の前。

108

107
























































 マッコイは、透明の壁の、腕の差し出し口を手前に持ってきた。
「ここから、腕を出せ!」と、マッコイ。「血液サンプルを、取る」
 ハリソンは、腕をまくって、差し出した。
「なぜ、船は、動かない?」と、ハリソン。マッコイは、ボスプレーに、
血液を。「船長。予測しなかった、ワープコアの作動不良だろ?それで、
クリンゴン領域から、動けない」
「なんで、それを、知ってる?」と、マッコイ。
「ボーンズ!」と、カーク。
「私の洞察力は、優れているのだ、船長」と、ハリソン。
 マッコイは、ボスプレーをしまい、差し出し口を脇へ消した。
「終わったか?」と、カーク。
「ああ」と、マッコイ。
「あとで、結果を聞く」
 3人は、戻っていった。
「私を無視すれば、この船のクルー全員を、死なせるぞ」と、ハリソン。
 カークとスポックは、立ち止まった。
「船長」と、スポック。「彼は、あなたを、操ろあやつうとしています。これ
以上、捕虜とは、交流しない方が」
「1分、くれないか」と、カーク。スポックは、ブリッジへ。
 カークは、拘束室の前に戻った。

110

109
























































「おまえの立場を、説明してやろう」と、カーク。「おまえは、犯罪者
だ。罪のない人々を殺した、おまえの命を終わらせる許可を、オレは受
けている。なのに、おまえが、まだ、生きている唯一の理由は、オレが
許可しているからだ。だから、余計な口は、つつしめ!」
「船長、また、私を殴るのか?」と、ハリソン。「なんども、なんども、
腕がなえるまで。あきらかに、そうしたいのに、なぜだ?なぜ、私を生
かしておく?」
「それは、間違いだったな」
「いや、私が降伏したのは、私を殴った行為とは、裏腹に、きみには、
良心があると、思ったからだ。もし、良心がなければ、きみに真実を言
っても、ムダだからな━━━23 17 46 11。地球から、そう、
遠くない座標だ。私がとった行動の、わけを知りたければ、行ってみて
くれ」
「オレが従う理由が、ひとつでもあるか?」
「理由なら、72ある。この船に、乗っているよ、船長。理由は、ずっ
と、船に。魚雷を、ひとつ、けてみるとよい」
 カークは、ウソばかりとは限らないかもしれない、という表情をした。
 
               ◇
 

112

111
























































 サンフランシスコ、夜のクラブ。
 スコットが、小さな宇宙人と、テーブル席で、お酒を飲んでいた。
「で、なにが、頭にくるって」と、スコット。「オレが船を改造して、
性能を強化した。なのに、あんな、簡単に、降ろしやがって!オレが危
ねぇって、言ってんのによ!で、おまえは、なにをしてた?貝みたいに、
黙って、オレを見てた」携帯の呼び出し音が、鳴った。「ハイ」
「チャーリー、カークだ」と、カーク。無線で。
「おー、ビックリ!」スコットは、小さな宇宙人に、あいつだと、ジェ
スチャーした。「ジェームズタイベリアス、髪型バッチリ、船長かい!」
そして、小さな宇宙人に。「おい、聞いたか?言ってやった」
「今、どこだ?」
「そっちは?」
「酔ってるのか?」
「自由時間に、なにしても、勝手だろ?ジミーちゃん」
「なぁ、おまえに、頼みがある。今、言う、座標を書いてくれ!23 
17 46 11」
「うん」
「書いたか?」
「数字、4つくらい、忘れると、思うか?ハハハ、まったく、信用ない
ね━━━3つめ、なんて?」

114

113
























































 小さな宇宙人は、え?という顔をした。
「46。なにがあるかは、オレにも分からないが、たぶん、見れば、分
かるものだ。あの魚雷、やっぱり、あやしい」
「それは、謝罪と受け取っておくが、受け入れるかどうかは、考えるよ」
「おまえが、降りると言った」
「あんたが、降ろした!」スコットは、無線を切った。
 
               ◇
 
 エンタープライズの通路。
「ミスタースコット?」無線は切れていた。「ああ、チャーリー!」と、
カーク。通路を戻っていった。
 
               ◇
 
 サンフランシスコ、夜のクラブ。
 スコットは、グラスをいっき飲みした。
「あいつめ!だれが、頼まれてやるかっての!」
 小さな宇宙人は、え?という顔をした。
「やだよ!ああ、しょうがねぇな!」

116

115
























































 スコットは、席を立った。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
 カーク、スポック、マッコイが、立ったまま、話していた。
「おまえ、とうとう、イカレタのか?」と、マッコイ。「本気で、あい
つの言うことを、聞くつもりか?パイクを殺し、おまえを殺しかけたの
に、そうしろと言われたからといって、魚雷をけるのが、いい考えな
のか?」
「なぜ、やつは、オレたちを、救った?」
「私は、ドクターに賛成です」と、スポック。
「きみに、賛成されても、ぜんぜん、うれしくない」と、マッコイ。
「おふたりとも、感情の制御を、学ぶべきです。こういう場合は、論理
に従うべき」
「論理?あいつは、オレたちを、操っあやつて、船を吹っ飛ばそうとしてるの
に」
「いや」と、カーク。「やつが降伏した理由は、分からないが、それじ
ゃない。魚雷は、ける。問題は、方法だ」
「だが、ジム。ミスタースコットがいないのに、4トンのダイナマイト

118

117
























































を、パカッとけられるやつが、どこにいる?」
「提督の娘が」と、スポック。「魚雷に興味を持っていましたし、武器
の専門家です。使えるかもしれません」
「提督の娘って?」と、カーク。
「キャロルウォレスマーカス。新しい科学士官の本名です」
「なぜ、黙ってた?」
「言う機会がなくて。今、できました」
 
               ◇
 
 エンタープライズの通路。
「魚雷は、発射管にあるんですか?」と、ウォレス。急ぎ足で。
「発射準備してあるが、中身は?」と、カーク。
「それをさぐるために、転属命令を偽造して、乗り込んだんです。すみ
ませんでした。もし、なにか、迷惑をかけたなら、あやまります。わた
し、キャロルウォレスマーカスです」
「ジムカークだ」カークは、反射的に、名乗った。
「魚雷へ」
 
               ◇

120

119
























































 
 エンタープライズのシャトル格納庫。
「わたし、あるとき、父が、新型魚雷のプロトタイプを、開発している
という、うわさを、聞いたんです。どういうものかと、父にいたら、
目も合わせなかった。その後、公式記録から、新型魚雷の記載が消えた
んです」
「それを、オレにたくしたわけだ」
「あなた、うわさより、かしこそうね、カーク船長」
 ウォレスは、シャトルに入った。
「うわさってなに?」カークも、シャトルに入った。
「わたし、クリスティンチャペルの友達です」
「クリスティンね、どうしてる?」
「今は、ディープスペースセブンでナースをしてます。とっても、幸せ
そう」
「そう、よかった」
「だれのことか、ぜんぜん、分かってないんでしょ?」
「で、ここでは、なにを?」
「この船、すぐ、飛べます?」
「もちろん」
「あちらを向いてください!」

122

121
























































「なんで?」
「あちらを向いてて!」
 ウォレスは、動きやすい服に着替え始めた。
「エンタープライズの中で、魚雷をけるのは、危険すぎます。理想的
な場所が、ありました。近くの小惑星です。そこでけますが、それに
は、だれか、助手が」
 カークは、つい、ウォレスの方を見た。
「あっちを見てて!」と、ウォレス。「早く!」
 カークは、すぐに、向きを戻した。
 
               ◇
 
 エンタープライズは、斜めに、停止していた。
 近づくと、ブリッジの窓に、カークが立っていた。
「ブリッジに、船長」と、カトウ。
「ミスターカトウ」と、カーク。「ウォレスとボーンズは、小惑星に着
いたか?」
「はい、船長」と、カトウ。「今、魚雷を、降ろしてます」
「よし、クリンゴンの動きは?」
「まだ、なにも。ですが、このままでは、すぐ、見つかります」

124

123
























































「ウラ中尉」と、カーク。「艦隊に、ハリソンの逮捕は、伝えたのか?」
「はい、船長」と、ウラ。「応答は、ありませんが」
「機関室から、ブリッジ」と、チェコフ。「もしもし、船長、聞こえま
すか?」
「ミスターチェコフ」と、カーク。「いい知らせをくれよ!」
 
               ◇
 
 エンタープライズの機関室。
「故障を発見しました」と、チェコフ。機関室は、あちこちから、蒸気
が上がっていた。
「故障の原因は、なんだ?」と、カーク。
「分かりません。でも、ぼくが、全責任をとります」
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「たぶん」と、カーク。「おまえのせいじゃないだろう。修理を頼む」
「シャトル、準備完了です」と、カトウ。
「ボーンズ、感謝する。ウォレスが、手先が器用なやつを、と言うから」

126

125
























































 
               ◇
 
 小惑星。一面、火成岩の平原。遠くに奇妙な形の岩。
 シャトルから10メートル離れた場所に、光子魚雷。
 ウォレスとマッコイが、装置を運んでいた。
「たしかに」と、マッコイ。「美人と無人星で、ふたりっきりっていう
のは、夢のようだよ。魚雷さえ、なけりゃな」
「ボーンズ、デートに行かせたんじゃないぞ」と、カーク。
「では、自慢の腕で、どのようにお手伝いしましょうか?」
「ボーンズ!」
「魚雷の威力を知るには」と、ウォレス。「弾頭をけるしかない。そ
のため、燃料コンパートメントにアクセスするんだけど、この魚雷の弾
頭は、生きてるわ」
「お嬢さん、オレは、ゴーン人の緊急帝王切開をしたことがある。八つ
子だった。しかも、あいつら、噛み付いてくるんだ。ああ、オレのゴッ
トハンドに任せりゃ、心配ない」
 
               ◇
 

128

127
























































 エンタープライズのブリッジ。
 マッコイのおしゃべりが、聞こえていた。
 カトウは、苦笑いで、カークの顔を見た。
 
               ◇
 
 小惑星。
 ウォレスは、魚雷の側面をけて、センサーで覗き込んだ。
「ドクターマッコイ、内部ケースに沿って、光ファイバーケーブルの束
があるので、上から23番目のワイヤーを切って!ほかのものには、さ
わらないで!分かりましたか?」
「ああ」と、マッコイ。「ほかのなんて、とんでもない」
「ドクターマッコイ、合図を待って!起爆プロセッサーを、リブートし
てるから。準備は?」
「もう、とっくに、準備オッケー!」
「幸運を」
「うぁ!」
 側面のドアがしまり、マッコイは、腕をはさまれた。
 
               ◇

130

129
























































 
 エンタープライズのブリッジ。
「船長」と、カトウ。「起爆シーケンスが、起動!」
「30秒後に、起爆します」と、女性仕官。
 
               ◇
 
 小惑星。
「なんでこうなったんだ!」と、マッコイ。「腕がはさまれて、抜けな
い」
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「ふたりの信号を、捕捉ほそく!」と、カーク。「転送で、船に戻せ!」
「転送装置が」と、スポック。「ドクターと魚雷の違いを、認識できな
い。ドクターだけを、転送できません」
「ウォレス、解除できるか?」
 
               ◇

132

131
























































 
 小惑星。
「やってます。今、やってます」と、ウォレス。
 ウォレスは、魚雷の反対側のタッチパネルをあけた。
 魚雷の起動音の周波数が、急速に、上がった。
「ジム、彼女を転送しろ!」と、マッコイ。
「だめです、それでは、ドクターが死にます。わたしにやらせてくださ
い!」
「10、9、8」マッコイは、爆発までの数字を読んだ。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「ウォレスの信号を捕捉ほそく」と、カトウ。「転送できます」
 
               ◇
 
 小惑星。
「4、3」と、マッコイ。
「これよ!」ウォレスは、起爆パネルを引き抜いた。

134

133
























































 マッコイの手が抜けて、起爆シーケンスが止まった。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「解除は、成功しました、船長」と、スポック。
「ボーンズ、大丈夫か?」と、カーク。「ボーンズ!」
 
               ◇
 
 小惑星。
 マッコイとウォレスは、起き上がった。
 魚雷の上面ドアが、あいた。
「ジム」と、マッコイ。「すごいものが、入っているぞ」
 冷凍睡眠中の人間の、顔が見えた。
 





136

135
























































            3
 
 宇宙座標23 17 46 11、木星。
 スコットは、シャトルを運転していた。
 シャトルは、木星の衛星のひとつに近づいた。
 巨大な宇宙基地が、浮かんでいた。
 巨大なドアがひらいた。
「デルタチーム」と、管制官。「スラスターを、ローディングドック1
2番へつけてくれ!」
「USSヴェンジェラス号」と、別の管制官。「ブリッジクルーは、建
設ハンガーに集合せよ!」
「ハンガーへの、進入を許可する!」
 スコットは、数十台の別のシャトルの後ろに続いて、ハンガーへ入っ
た。
「溶接チーム、1番ナセルに来てくれ!」
「こりゃ、すげえ!」と、スコット。なにかを見て、驚いた表情。
 
               ◇
 
 エンタープライズの医療室。

138

137
























































 ドアがあいて、カークとスポックが入ってきた。
「なんなんだ?」と、カーク。
「よく考えて、あります」と、ウォレス。マッコイと、光子魚雷の上部
カバーをはずした。「燃料コンテナの部分が、人工冬眠カプセルに改造
されているんです」
「生きてるのか?」と、カーク。
「生きてる」と、マッコイ。「だが、正しい手順で蘇生そせいさせないと、死
んでしまう。オレには、その知識がない」
「新しい技術ですか?」と、スポック。
「いえ」と、ウォレス。「人工冬眠は、大昔の技術です」
「ワープの開発で」と、マッコイ。「人を冷凍させる必要が、なくなっ
たんだ。そこで、彼の、興味深いところなんだが、この男は、300才
だ」
 
               ◇
 
 拘束室の前。カークとスポックが、走ってきた。
「なぜ、男が魚雷に入っている?」と、カーク。
「男も女も」と、ハリソン。「すべての魚雷に、入っているよ、船長。
私が入れた」

140

139
























































「きさまは、なにものだ?」
「遠く過ぎ去った、過去の遺物だ。当時の戦争の世を、平和に導くため、
遺伝子を改良された、超人類。だが、犯罪者の烙印を押され、流刑の地
へと、送られたのだ。何世紀も眠った。いつか、世界が変わっているよ
うにと、願いながら。だが、バルカン星の破壊の結果、艦隊は、さかん
に、ディープスペースの調査を始めた。私の船が発見され、私ひとりが、
覚醒させられた」
「ジョンハリソンを調べたが、1年前まで、存在しなかった」
「ジョンハリソンの件は、作り話だ。マーカス提督は、自らの目的を果
たすために、私を起こしたのだから。私の素性を隠すために、張られた、
煙幕だ。私の名前は、カーンだ!」
「なぜ、宇宙艦隊の提督が」と、カーク。「凍った、300才の男を、
起こして、助けを乞う?」
「なぜなら、私は、優秀だからだ」
「なにに?」
「すべてに。文明化された社会にきばをむく、野蛮な敵と、立ち向かうた
めにも、マーカスは、戦士の頭脳を欲しがった。私の頭脳を。兵器や戦
艦を作るためにな」
「提督が」と、スポック。「忠誠を誓った規則、すべてを、破ったとい
うのか?ただ、おまえの知性がほしくて?」

142

141
























































「知性ではなく、残虐性をだ。知性だけでは、戦闘で使いものにならな
い。規則ひとつも破れない、きみが、どうやって、敵の骨を砕けるのか?
マーカスは、私に魚雷を設計させた。宇宙艦隊を軍隊化する、理想をか
なえるためにな。そして、魚雷の発射に、きみを派遣。私の魚雷を、無
防備な惑星に打ち込ませるためにな。そして、敵の宇宙域で、きみらの
船をこわした。ある避けられない、結果を招くために。クリンゴンが魚雷
を発射したものをさがせば、きみらは、容易に見つかる。そうなれば、
マーカスは、やりたくてしようがなかった、戦争を、ついに、始めるこ
とができるのだ」
「いや、違う」と、カーク。「オレは、この目で見た。あのとき、丸腰
の仕官を攻撃してきたのは、おまえだ。おまえが、彼らを殺した」
「マーカスが、私のクルーを奪ったからだ」
「おまえは、人殺しだ」
「やつは、クルーを人質に、私を操っあやつたのだ。私は、自分の設計した魚
雷に、奪われたクルーたちを、ひとりづつ、隠した。だが、それが、見
つかった。私は、仕方なく、仲間を残して、逃げた。だが、そのとき、
私には、マーカスに対する、確信があったのだ。彼は、私の、大事な人
々を、ひとり残らず殺したに違いない、という。それで、同じように、
報復した。私のクルーは、私にとって、家族だ。きみには、家族のため
に、できないことなどあるのか?」

144

143
























































「接近警報です」と、カトウ。通信で。「ワープで向かってくる、船が
あります」
「クリンゴンか?」と、カーク。
「ワープで?」と、カーン。「いや、違う。きみにも、分かっているだ
ろう」
「違います。クロノスからじゃ、ありません」と、カトウ。
「カーンを、医療室へ」と、カーク。拘束室の監視に。「保安部員を、
6名つけておけ!」
「はい、船長」と、拘束室の監視。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
 ドアがあいて、カークとスポックが戻ってきた。
「ブリッジに、船長」と、カトウ。
「その船の、到着時刻は?」と、カーク。船長席に。
「3秒後です」
「シールドを」
「はい、船長」
 

146

145
























































               ◇
 
 エンタープライズは、斜めに、停止していた。
 そこへ、いきなり、巨大なUSSヴェンジェラスが、正面に、出現し
た。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「船長、通信です」と、ウラ。
「スクリーンに出せ」と、カーク。「船内にも放送。みんなにも、伝え
ろ」
「カーク船長」と、マーカス。スクリーンで。
「マーカス提督、これは、驚きました。ものすごい、船ですね」
「私も、驚いたよ。きみが、命令に反して、ハリソンを捕虜にとるとは
な」
「そうですね。しかたなくです。ワープコアが予想外に、こわれたので。
でも、もう、ご存知ですよね?」
「意味が分からないな」
「それが、分かったから、修理を手伝いにきてくれたんですよね?でな

148

147
























































けりゃ、なぜ、宇宙艦隊のトップが、中立地帯まで、いらっしゃるんで
す?」
「この船を、スキャンしています」と、カトウ。
「なにか、おさがしものですか?」と、カーク。
「捕虜は、どこだ、カーク」と、マーカス。
「宇宙艦隊の規則にのっとって、カーンを地球に連れ帰り、裁判にかけ
ます」
「ああ、参ったな。やつと、話したか?それだけは、なんとか、阻止し
たかったのに。戦術的リスクを犯して、やつを、起こしたのは、やつの
超人的頭脳が、やがて、きたる危機の際、役立つと信じたからだ。だが、
間違いだった。やつの、大量殺人は、私の責任だ。だから、きみに頼む。
やつを、渡すんだ。この始末は、自分でつける」
「それでは、彼のクルーたちについては、どうしましょう?クリンゴン
に魚雷を発射し、72名を殺し、戦争を始めますか?」
「やつが、魚雷の中に、仲間を仕込んだのだ」
 
               ◇
 
 エンタープライズの医療室。
 ウォレス、マッコイ、カーンが、艦内放送を聞いていた。

150

149
























































「だが、きみに、余計な負担をかけたくなくて、黙っていたのだ。やつ
ひとりで、なにができるか、見ただろ?もし、残りも目を覚ましたら、
どうなると思う?」
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「やつは、平和の番人だとでも、言ったのか?やつは、若いきみを、操っあやつ
ているんだ。分からんか?カーンと、そのクルーは、戦争犯罪人の死刑
囚だ。犠牲者が増える前に、刑を執行するのが、われわれの使命だろ?
いいか、もう一度だけ、言う。これが、最後だぞ、カーク。シールドを
下げろ!やつの、居場所を、言え!」
「彼は、機関室にいます」と、カーク。ウソをついた。「ですが、今す
ぐ、転送室に移動させます」
「あとは、引き受ける」と、マーカス。通信を切った。
「いいか、シールドを降ろすなよ、ミスターカトウ!」カークは、席を
立った。
「はい、船長」と、カトウ。
「船長」と、スポック。「カーンの居場所を、間違えて伝えたのは、ど
ういう意図だか、教えていただけますか?」

152

151
























































「最初に捕虜は、地球に連れて帰ると、言ったろ」と、カーク。「その
通りにする」そして、通信に。「チェコフ、ワープできるか?」
 
               ◇
 
 エンタープライズの機関室。
「船長、もし、この状態でワープ航行すれば」と、チェコフ。溶接用の
メガネで。「コアに深刻なダメージを、与えます」
「できるのか?」
「理論的には」チェコフは、メガネを取った。「できなくはないですが、
決して、おすすめは、しません」
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「わかった」と、カーク。通信を切った。「ミスターカトウ、目的地、
地球」
「了解」と、カトウ。
「出発!」
 カトウは、ワープドライブのアームを倒した。

154

153
























































 見えていた星々が一瞬直線状に流れると、ワープに入った。
 
               ◇
 
 エンタープライズの医療室。
「とりあえずは、動き出した」と、マッコイ。カーンに、センサーを。
「ワープなら、安全だと思ったら、間違いだ」と、カーン。
 ウォレスは、なにかを思い出して、医療室から走りだした。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「ウラ中尉、本部に連絡。船籍不明の船に、中立地帯まで、追跡された
と」
「通信機能ダウン」と、ウラ。
 ウォレスは、通路を走ってきて、入り口で止まった。「ブリッジに入
る、許可を」
「ウォレス」と、カーク。
「父が、追いついたら」と、ウォレス。「攻撃を、止められるのは、わ
たしだけです。話をさせてください」

156

155
























































「ワープ航行には、追いつけないぞ」
「追いつけるんです。父は、最新鋭ワープ機能を搭載した船を」
「ありえない信号を捉えました」と、カトウ。運転席から、警報音。
 
               ◇
 
 ワープ航行中の、エンタープライズ。
 うしろから、ヴェンジェラスが迫り、攻撃した。
 前につんのめりそうな、カークやウォレス。
 さらに、攻撃で、円盤部に裂け目ができると、何人ものクルーがワー
プ空間へ。
 ワープナセルにも被弾して、エンタープライズは、回転しながら、通
常空間へ。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「ここは、どこだ?」と、カーク。
「地球から、23万7千キロ」と、カトウ。
「被害報告!」と、カーク。

158

157
























































「シールドダウン!」と、女性仕官。
「隔壁に亀裂が!」
「被害は、どこだ?」と、カーク。
「第1船体です」
 ヴェンジェラスも、通常空間に出て、攻撃した。
「回避行動!」と、カーク。「今すぐ、地球へ向かえ!」
「待って!」と、ウォレス。「わたしが、父と話をしない限り、船の全
員が殺されます」
「ウラ中尉、つなげ!」
 ウラは、無線機器をたたいた。
「提督」と、ウォレス。「わたし、キャロルです」
 
               ◇
 
 エンタープライズに、いくつもの直撃弾。近くに、月。遠くに、地球。
 ヴェンジェラスの攻撃が、止まった。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。カークの前に、ウォレス。

160

159
























































 スクリーンに、マーカス。
「おまえは、その船でなにをしている?」と、マーカス。
「話を、聞いてました」と、ウォレス。「自分の犯した間違いを、ただ
そうとしているのよね?でも、お父さん、わたし、信じませんから。育
ててくれた父が、無実のクルーの、大勢乗った船を、撃墜できるなんて。
もし、わたしが間違っていれば、わたしごと撃墜してください」
「いいや、そんなことは、しない」
 ウォレスの、転送シーケンスが、始まった。
「ジム」と、ウォレス。
「転送を、妨害できるか?」と、カーク。
「できません」と、技術仕官。
「キャロル!」と、カーク。
 ウォレスは、転送波に包まれたまま、叫びながら、ウラに向かって走
ったが、ぶつかる直前、転送された。
「カーク船長」と、マーカス。「きみは、逃亡犯ジョンハリソンと手を
くみ、敵の宇宙域で、私の命令に背いた。私は、きみの船を、撃墜する
しかない。フェーザー砲を、ロック!」
「ちょっと、待ってください」と、カーク。手をあげた。「待って!」
「苦しませはせん」そして、ヴェンジェラスのクルーに。「船尾魚雷は、
すべて、ブリッジをねらえ!」

162

161
























































「提督」と、カーク。「私のクルーは、命令に従っているだけです。今
回の行動の責任は、すべて、私がひとりで、負うべきものです。今、カ
ーンの居場所を教えますから、クルーの命は、助けてください。お願い
します。どんなことでも、します。クルーの命だけは」
「それは、なかなかの謝罪だな」と、マーカス。「だが、私は、最初か
ら、クルーを助ける気は、なかった」そして、ヴェンジェラスのクルー
に。「発射準備!」
 
               ◇
 
 ヴェンジェラス。
 船尾魚雷の発射管が、全門、エンタープライズに向けられた。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
 スクリーンの前で、カークは、クルーの方に向き直った。「すまない
━━━」
 ウラは、下を向いた。
 

164

163
























































               ◇
 
 ヴェンジェラス。
 発射管が、突然、パワーダウンした。
「魚雷、発射できません」と、射撃手。
「シールドダウン。パワーが落ちました」と、技術仕官。
「機関室の誰かが、手動で、システムをリセット」と、別の仕官。
「誰かってのは、誰だ?」と、マーカス。「誰なんだ?」
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「魚雷のパワー停止です」と、カトウ。「船長」
「エンタープライズ号」と、通信。「聞こえるか?」
「チャーリー!」と、カーク。
 
               ◇
 
 ヴェンジェラスの通路。
 スコットが、走ってきて、ドアをあけた。

166

165
























































「木星で、この船、見つけてさ」無線で。
「おまえ、乗ってんのか?」と、カーク。
「もぐりこんだ。で、今、艦隊の提督に、反逆行為をしちまったから、
今すぐ、この船から、降りたいんだ。転送を頼む!」
「奇跡の男だが、今は、パワー不足で、転送できないから、待機してろ
!」
「パワー不足って、船に、なにがあった?」ドアの横で、物音。「また、
かける!」スコットは、ドアから、走りだした。ドアが閉まった。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「チャーリー!」と、カーク。無線は切れた。「スポック、状態は?」
「今の状態では」と、スポック。「攻撃することも、逃げることも、で
きません」
「考えがある。ウラ、チャーリーとつながったら、オレにつなげ!」
「了解」と、ウラ。
「スポック、船を頼む」
 カークは、エレベータに乗った。スポックがついてきた。
「船長、それには、反対です」と、スポック。

168

167
























































「なにに?、まだ、なにも、言ってないぞ」
 エレベータのドアがしまった。
「提督の船を、外から攻められないとなれば、中から、乗っ取るしかな
い。しかし、大勢では、気付かれるから、少人数で、乗り込むつもりで
しょう」
 ドアがあいて、カークは、通路を歩いた。「ならば」と、スポック。
「任務の同行者には、戦闘能力にたけ、あの船の内部を、知っている人
間を選ぶはずです。つまり、あなたは、われわれの攻撃目標だった、カ
ーンと手を組むつもりだ」
「いや、手は、組まない。利用するんだ。敵の敵は、友達だろ?」
「そのことわざに従った王は、民衆に首を切り落とされたはずですが」
「ああ、でも、いいことわざだ」
「では、私も行きます」
「いや、おまえは、残れ!」
「行かせるわけには、いきません」スポックは、カークの肩を抑えて、
止めた。「ここでの、私の任務は、あなたに、もっとも賢い選択をさせ
ることです。今のあなたには、まず、できない決断を」
「そうだよ」と、カーク。通路の女性仕官が、振り返った。「今、オレ
がしようとしているのは、非論理的だが、本能的な決断だ。オレは、な
にをすべきか、分からない。なにができるかは、分かる。エンタープラ

170

169
























































イズには、なにをすべきか、分かるものが必要だ。それは、オレじゃな
い。おまえだ、スポック」
 スポックを、通路に残して、カークは、医療室に向かった。
 
               ◇
 
 エンタープライズの医療室。
 カークは、ベッドに座らされている、カーンの前へ。周りに、保安部
員。
「あの船のことを、教えろ!」と、カーク。
「ドゥレッドノート級」と、カーン。「サイズ2倍、スピード3倍、最
新鋭の武器、乗組員は最小限。ほかの船と違い、戦艦として作られた」
「おまえがやったことについては、これから、かならず、償わつぐなせる。だ
が、今は、力を貸せ!」
「なにと、引き換えに?」
「クルーは、家族だと言ったな?彼らの安全を、保証する」
「船長、自分のクルーの安全を保証できないのに?」
 マッコイの診察台から、デジタル音。
「ボーンズ、トリブルで、なにしてる?」と、カーク。
「死んでる、トリブルだが」と、マッコイ。診察台で。「カーンの血小

172

171
























































板を、こいつのえし死した組織に、注射している。カーンの細胞は、すご
い、再生能力を持っている。理由を、知りたい」
「カーン、どうする?いっしょに来るか?」と、カーク。
 
               ◇
 
 ヴェンジェラスの通路。
「あんた、なにをするって?」と、スコット。ドアがあいて、小走りで、
無線に。
 
               ◇
 
 エンタープライズの通路。
「そっちへゆく」と、カーク。カーンと保安部員とともに、歩いていた。
「ミスターカトウが、船の姿勢を、微調整している」
「こっちへ?」と、スコット。「でも、どうやって?」
「アクセスポート101A」と、カーン。「7番ハンガーのドアを、オ
ーバーライドして、エアロックをあけろ!」
 
               ◇

174

173
























































 
 ヴェンジェラスの通路。
「あんた、アホか!」と、スコット。小走りで、無線に。「誰か、知ん
ねぇけど」
 
               ◇
 
 エンタープライズの通路。
「大丈夫だ」と、カーク。「彼の言う通りに、しろ!」
 
               ◇
 
 ヴェンジェラスの通路。
「いや、大丈夫じゃないです、船長!」と、スコット。小走りで、無線
に。「宇宙で、エアロックなんかあけたら、オレは、凍って、死んで、
爆発しちまう!」
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。

176

175
























































「ウラ中尉」と、スポック。通信仕官の席で。「現在の位置から、ニュ
ーバルカンへ、通信は可能か?」
「やってみます」と、ウラ。
「ありがとう」スポックは、船長席についた。「ミスターカトウ、相手
の船の状態は?」
「向こうのシステムは、まだ」と、カトウ。「起動していません。今、
こちらの姿勢を、調整中」カトウは、コンソールに触れて、コースを描
いた。
 エンタープライズのスラスターが噴射して、角度がわずかに変わった。
 遠くに、月をバックに、ヴェンジェラス。
 
               ◇
 
 ヴェンジェラスの通路。
 スコットは、走って、角を曲がると、コンソールパネルの前に。
 
               ◇
 
 エンタープライズのゴミ排出口。
 宇宙降下用スーツに着替えたカークとカーンは、はしごを降りて、排

178

177
























































出口の前に。
 ふたりとも、すでに、ヘルメット姿だった。
 上部のドアが閉まった。
「チャーリー、そっちの調子は?」と、カーク。
 
               ◇
 
 ヴェンジェラスの通路。
「船長」と、スコット。コンソールパネルの前で、無線に。「悪い知ら
せなんですけど、やつら、船のコンピュータにロックをかけやがった。
攻撃態勢まで、3分だ。次は、やつらの攻撃を、止められないかもしれ
ません。待機せよ!」
 スコットは、また、走りだした。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「スポック少佐」と、カトウ。「ゴミ排出口を、相手の船のアクセスポ
ート101Aに、向けました」
「船長」と、スポック。「準備完了です」

180

179
























































「了解した」と、カーク。
 
               ◇
 
 ヴェンジェラスの倉庫。
「チャーリー」と、カーク。無線から。
「今、ハンガーです」と、スコット。「ちょっと待って!」スコットは、
広い倉庫を、全力で走りだした。「走ってます。待機せよ!」
 ハンガーのドアまで来ると、立ち止まった。
「わ、わ、わ、どうかな、船長。すいぶん、かわいいドアです。かわい
いって、小さいんです。せいぜい、4平方メートルしかない。橋の上で、
車から飛び降りて、ショットグラスに飛び込むようなものだ」
 
               ◇
 
 エンタープライズのゴミ排出口。
「大丈夫」と、カーク。「前にも、やった」
 カーンが、カークを見た。
「ああ、垂直に降下して」と、カーク。「ドリルの円盤に━━━まぁ、
いい。チャーリー」

182

181
























































「オーバーライド装置は、見つかったか?」と、カーン。
「手動オーバーライドは?」と、カーク。
 
               ◇
 
 ヴェンジェラスの倉庫。
「まだです、まだ!」と、スコット。走って、コンソールに着くと、無
線をくわえて、パネルを叩いた。倉庫の奥のドアで、物音。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「船長」と、スポック。「言っておきますが、宇宙空間には、多数のゴ
ミが存在します」
 
               ◇
 
 エンタープライズのゴミ排出口。
「スポック、あとだ!」と、カーク。「チャーリー、いいか?」
 

184

183
























































               ◇
 
 ヴェンジェラスの倉庫。
「そんな簡単じゃ!」と、スコット。無線を、手に。「2秒、待ってく
ださいよ!あとすこし!」
 
               ◇
 
 エンタープライズのゴミ排出口。
 カーンは、中腰になった。カークも、中腰に。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「なぁ」と、マッコイ。スポックに。「うまくゆくと、言ってくれ!」
「私には」と、スポック。「そう言える、データも確信も、ありません」
「船長、もうちょい!」と、スコット。通信で。
「おかげで、気が楽になったよ」と、マッコイ。
 
               ◇

186

185
























































 
 ヴェンジェラスの倉庫。
「もうちょい、もうちょい」と、スコット。「よっしぁ、できました!
ドアを、あけられます」
 
               ◇
 
 エンタープライズのゴミ排出口。
「いけるか?」と、カーク。
「そっちは?」と、カーン。
「スポック、拳銃をぶっぱなせ!」と、カーク。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「はい、船長」と、スポック。手元のパネルにさわった。「発射シーケ
ンス、完了まで、3」
 
               ◇
 

188

187
























































 エンタープライズのゴミ排出口。
「2、1」
 ドアが一瞬あいて、宇宙降下用スーツの、カークとカーンが飛び出し
た。
 音が消えて、ふたりは、一直線に、ヴェンジェラスに向かって、降下
した。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「スポック少佐」と、技術仕官。「カークの前方、432に障害物」
「船長」と、スポック。「前方に、障害物です」
 
               ◇
 
 宇宙空間。
「了解した」と、カーク。右に旋回して、避けた。
 
               ◇
 

190

189
























































 エンタープライズのブリッジ。
「ジム、コースはずれたぞ!」と、マッコイ。パネルボードの前で。
 
               ◇
 
 宇宙空間。
「分かってるよ」と、カーク。「見えてる」
 カークとカーンは、大量の宇宙ゴミを避けて、降下した。
 
               ◇
 
 ヴェンジェラスの倉庫。
 スコットは、安全ベルトを見つけてくると、コンソールのアームに通
し、左腕に、何重にも巻きつけた。
「動くな!」と、保安部員。銃を突きつけた。
 スコットが口をあけると、無線が落ちた。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。

192

191
























































「船長」と、カトウ。「ディスプレイコンパスで、37・243度、軌
道修正してください!」
 
               ◇
 
 宇宙空間。
「了解」と、カーク。「もうすぐ、復帰する」ヘルメットに、降下コー
スの表示。「チャーリー、ドアの準備できてるか?」
 
               ◇
 
 ヴェンジェラスの倉庫。
「ここで、なにしてる?」と、保安部員。手に、銃。
「ちょっと、メンテナンス」と、スコット。「エアロックコンソールの。
きみ、でかいね!」
 
               ◇
 
 宇宙空間。
「チャーリー、応答せよ!」と、カーク。

194

193
























































「聞こえてないようです」と、ウラ。「信号を、調整中。お待ちを」
 カークのヘルメットの前面に、浮遊物がぶつかった。「まずい!」
「船長、なんですか?」と、スポック。
「ひびが入った。ウラ中尉、チャーリーにつながったか?」と、カーク。
「まだです。呼びかけています」と、ウラ。「通信機は、いきています
が、なぜか、使えません」
 
               ◇
 
 ヴェンジェラスの倉庫。
「それは?」と、保安部員。落ちた無線に。
「あんた、艦隊の仕官?」と、スコット。
「そっちの手も、出せ!」
「民間の警備員か?」
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「障害物を探知!」と、技術仕官。
「カーン」と、スポック。「回避しろ!前方に障害物を、探知!」

196

195
























































「見えてる」と、カーン。多くの障害物を、よけたが、ひとつにぶつか
った。
「カトウ、カーンは無事か?」
「分かりません」と、カトウ。「ゴミが多すぎて、どれが彼なのかも」
「カーンは?」と、カーク。
「今、捜しているところです」と、スポック。
「船長、ターゲットの数値を変更してください!」と、カトウ。「47
3度で183へ」
 
               ◇
 
 宇宙空間。
 カークは、ゴミをよけながら、降下した。ひびわれが、広がった。
「進路エラー」と、ディスプレイ。
「スポック、ディスプレイが死んで、コースが出ない!」と、カーク。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「船長」と、スポック。「ディスプレイコンパスなしでの、到達は、数

198

197
























































学的に不可能です」
「帰ったら、おまえに」と、カーク。「人の励まし方、教えてやるよ!」
「スポック少佐」と、カトウ。「絶対、無理です」
 その時、パネルボードに、カーンの表示が現われた。
「私のディスプレイは、作動している」と、カーン。「カークは、1時
の方向、200メートル前方だ。左に寄って、私についてこい!」
 
               ◇
 
 宇宙空間。
 カークは、右に噴射して、カーンと並んだ。
「チャーリー、もうすぐだ。歓迎してくれ!」と、カーク。「聞こえる
か?応答せよ、チャーリー」
「ミスタースコット」と、スポック。「聞こえたら、10秒後だ!」
「チャーリー!」
 
               ◇
 
 ヴェンジェラスの倉庫。
「9、8」

200

199
























































「そのカウントダウンは、なんだ?」と、保安部員。
「空耳じゃない?」と、スコット。ベルトを巻きつけた、左手に力を。
「7」
「チャーリー、聞こえるか?」と、カーク。
「6」
「1800メートル」と、ブリッジの技術仕官。
「5」
「1600メートル」
「4」
「おい、チャーリー、聞こえるか?」
「3」
「チャーリー、頼む!」
「2」
「ほんと、ごめんな」と、スコット。
「なにが?」と、保安部員。
「1」
「スコット、ドアをあけろ!」
「チャーリー、ドアをあけろ!今だ!」
 スコットは、振り向いて、コンソールのボタンを押した。
 保安部員は、ドアから宇宙空間へ。

202

201
























































 カークとカーンは、ドアから倉庫へ。
 スコットは、安全ベルトにつかまったまま、宙に浮いた。手をのばし
て、ボタンを押して、ドアを閉めた。
 カークとカーンは、倉庫の床を滑って、スコットのところに。
「ようこそ、いらっしゃい」と、スコット。
「ああ、会えてうれしいよ」と、カーク。
「この人は?」
「カーン、こちら、チャーリーだ」
「はじめまして」
「やつらが気づくぞ」と、カーン。「ブリッジへの道を、知っている」
 
               ◇
 
 ヴェンジェラスの倉庫。
 カークとカーンは、宇宙降下用スーツをぬいだ。
 カークは、バッグから、フェーザーを出して、渡した。
「麻痺のモードだ」と、カーク。
「やつらのは、違う」と、カーン。
「じゃあ、撃たれるなよ!」
 3人は、ブリッジに向かった。

204

203
























































            4
 
 エンタープライズのブリッジ。
「ご依頼の通信が、つながりました」と、ウラ。
「スクリーンに、頼む」と、スポック。
「お待ちを」
 スクリーンに、ニューバルカンにいる、スポック。
「ミスタースポック」と、スクリーンのスポック。
「ミスタースポック」と、船長席のスポック。
 
               ◇
 
 ヴェンジェラスのブリッジ。
 ウォレスが、連行されてきた。
「提督!」と、保安部員。
「おまえとの話は」と、マーカス。
 ウォレスは、父を平手打ちした。すぐに、手を父につかまれた。
「わたしは、あなたの娘で、恥ずかしいわ」と、ウォレス。
 ウォレスは、保安部員に、マーカスとは離れた席に、座らされた。
「さきほど」と、別の保安部員。「ハンガーデッキのエアロックが、ひ

206

205
























































らきました」
「カーンだな」と、マーカス。
 
               ◇
 
 ヴェンジェラスの通路。カーク、カーン、スコットが歩いていた。
「こんなでかい船」と、スコット。「歩いて、移動すんの?」
「ターボリフトを使えば」と、カーン。「すぐに知られて、閉じ込めら
れる」カーンは、コンソールにさわった。「この通路は、機関室に沿っ
ている。近くで武器を使えば、ワープコアに影響しかねないから、やつ
らは、撃ってこない」また、カーンは、歩き出した。
「あいつ、どこで、見つけた?」と、スコット。
「ああ、あとで、ゆっくり教えるよ」と、カーク。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「では、手短てみじかに」と、船長席のスポック。「あなたの世界で、カーンと
いう男に、出会いましたか?」
「知ってのとおり」と、スクリーンのスポック。「私は、きみらの運命

208

207
























































を変える可能性のある、情報は、与えないと、誓った。きみらの道は、
きみらだけで、進みべきものだ。それを、言ったうえで、カーンノニエ
ンシンは、エンタープライズ号が遭遇した、最強、最悪の敵だ。彼は、
賢く、残酷で、なんの躊躇もなく、きみらを、皆殺しにするだろう」
「倒しましたか?」
「犠牲は払ったが、倒した」
「どうやって?」
 
               ◇
 
 ヴェンジェラスの通路。
「こっちには、都合がいいけど」と、スコット。「なんで、人がいない
んだ?」
「この船は」と、カーン。「最悪でも、単独で飛ばすことが、可能だ」
「ひとりで?」
 保安部員が、カーンに殴りかかったが、逆に、殴り倒された。
 カークも、襲われたが、なんとか倒した。
「大丈夫か?」と、カーク。
「カーンは?」と、スコット。
 通路に、点々と、保安部員が倒れていた。

210

209
























































 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
 スポックは、立ち上がった。
「ウラ中尉」と、スポック。「医療部仕官と、機関部仕官を、兵器室に
集合させろ」
「分かりました」と、ウラ。医療室へ。
「ドクターマッコイ」と、スポック。「さきほど、魚雷を起動しました
が、もう一度、できますか?」
「どうして」と、マッコイ。「オレがそんなことを?」
「できますか?できませんか?」
「オレは、医者だぞ、魚雷のことなんか、知るか!」
「ええ、だからこそ、私の言うことを、注意深く聞いてください!」
 
               ◇
 
 ヴェンジェラスの通路。
「やつは、どこだ?」と、スコット。
「まずいぞ」と、カーク。

212

211
























































「こっちだ」と、カーン。急に現われると、ブリッジへ向かった。
「ブリッジに着いたら、あいつを撃て!」
「麻痺させるんですか?オレらの手伝いでしょ?」と、スコット。
「オレたちが、やつの手伝いらしい」
 
               ◇
 
 ヴェンジェラスのブリッジ。
「パワーが、戻りました」と、技術仕官。
「再度、エンタープライズをねらえ!」と、マーカス。ウォレスが睨ん
だ。
「了解」
 ブリッジに、カーク、カーン、スコットが、銃を乱射しながら、侵入
した。
 ウォレスは、護衛を肘打ちで、倒した。
 ブリッジの仕官は、つぎつぎに撃たれ、マーカスは、3人に囲まれた。
カークは、目で合図すると、スコットは、カーンを撃った。
 カーンは、床に倒れた。
「カーンを、見張っておけ!」と、カーク。
「失礼!」と、スコット。ウォレスの前を通った。

214

213
























































「はい」と、ウォレス。
 スコットは、倒れたカーンまで行って、銃を構えた。
「マーカス提督」と、カーク。「逮捕します」
「まさか」と、マーカス。「本気で、やる気じゃないだろうな?」
 カーンは、倒れたまま、薄目をあけた。
「提督、イスから立って!」
「自分が何を言っているのか、よく考えろ!おまえは、クロノス星で、
なにをした?おまえは、敵の惑星に、侵入したんだ。クリンゴンのパト
ロール隊を、殺した。証拠を残さなかったとしても、戦争は、避けられ
ん。その時、誰が指揮をとる?きさまか?私が先頭に立たなければ、人
類は、存亡の危機に立たされる。その私に、下船を命ずるなら、この場
で、殺すがいい」
「あなたを、殺したりしません。ですが、麻痺させて、イスから引きず
り降ろすことは、できます。娘さんの前で、そうしたくはないが」そし
て、ウォレスに。「大丈夫か?」
「はい、船長」と、ウォレス。
 カーンは、急に立ち上がって、スコットを殴り倒した。
「ジム」と、ウォレス。
 カーンは、カークに飛びかかり、3発殴って、床に放り投げた。
 カーンは、ウォレスに向かった。

216

215
























































「聞いて!」と、ウォレス。「待って」ウォレスは、腰を蹴られて、大
声を上げた。「ギャーッ!」
 カーンは、逃げようとしていたマーカスの、頭を両手でつかんだ。
「おまえは」と、カーン。「私を、眠らせておくべきだった」
 カーンは、両手に力を入れると、頭蓋骨が砕ける音がした。
「キャァァァァァー!」と、ウォレス。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「船長は、今、どこに?」と、スポック。
「センサーが」と、カトウ。「ダウンしていて、分かりません」
 スクリーンに、カーク。後ろから、カーンに銃を突きつけられていた。
「私の要求は」と、カーン。「至極、単純!」
「船長」と、スポック。
「互いのクルーの交換だ」
「裏切ったな」
「ほう、賢いな、ミスタースポック」
「スポック、断れ!」と、カーク。
 カークは、カーンに銃で殴られて、倒れた。

218

217
























































「ミスタースポック、私の部下を、渡すんだ」と、カーン。
「渡したら、どうする気だ?」と、スポック。
「やりかけていた任務を、達成する」
「その任務とは、きみらが価値を認めない種の、大量虐殺だったはずだ
が」
「きみも、虐殺してやろうか?それとも、私の要求をのむか?」
「われわれの転送機は、機能しない」
「幸運にも、こちらのは、完璧に機能する。シールドを、下げろ!」
「そうすれば、きみが、エンタープライズを破壊しないとも、限らない」
「では、論理的に、事を進めよう。まずは、私が、決意を示すために、
きみたちの船長を殺す。それで、足りなければ、他に方法がない。きみ
たちクルーを、皆殺しにする」
「こちらの船を破壊すれば、きみの部下をも殺すことになる」
「きみたちと違い、私の部下には、酸素が必要ない。エンタープライズ
の船尾にある、生命維持装置を壊せばよい。そして、きみたちクルーが、
全員、窒息死してから、私が、きみたちの冷たい死体を、またいで、部
下を迎えにゆく。では、始めるとしよう」
「シールド、下げろ!」と、スポック。カトウは、シールドを下げた。
 
               ◇

220

219
























































 
 ヴェンジェラスのブリッジ。
「賢い選択だ、スポック」と、カーン。
 立ち上がろうとしていた、カークを、ふたたび、蹴り倒した。
 カーンは、コンソールパネルで、エンタープライズを調べた。
「72本の魚雷は」と、カーン。「まだ、発射管の中だな?もし、私の
でなければ、すぐに、分かるぞ」
「バルカン人は、ウソをつかない」と、スポック。「その魚雷は、あな
たのだ」
 カーンは、パネルを操作した。スクリーンの7番ハンガーに、72本
の魚雷が転送されてきた。
「ありがとう、ミスタースポック」と、カーン。
「きみの要求は、のんだ」と、スポック。「次は、こちらの番だ」
「さぁ、カーク、きみを、クルーの元へ、返してやる」
 立ち上がろうとしていた、カーク、スコット、それに、床に座ったま
まの、ウォレスの3人は、転送波に包まれた。
「船長は」と、カーン。「やはり、船と運命を、ともに、しなければな」
 
               ◇
 

222

221
























































 エンタープライズのブリッジ。
 警報音が、響いた。
「フェーザー砲を」と、カトウ。「ロックしています」
 
               ◇
 
 エンタープライズの拘束室。
 カーク、スコット、ウォレスの3人が、転送されてきた。
「今すぐ」と、スコット。「ここから出せ!」
 船がゆれ、3人とも、倒れた。
 ヴェンジェラスのフェーザー砲が、エンタープライズに、いくつも直
撃した。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「シールド6パーセント」と、カトウ。
「あの魚雷は」と、スポック。「あと、何秒だ?」
「12秒です」と、技術仕官。
「全員、近隣での、爆発の衝撃に備えろ!」

224

223
























































 
               ◇
 
 エンタープライズの通路。
 カークとスコットが、ウォレスを運んでいた。
「なに、言ってんだ?」と、スコット。「爆発って、なに?」
「魚雷だ」と、カーク。「あの魚雷を仕掛けたんだ!」
 
               ◇
 
 ヴェンジェラスの倉庫。
 72本並んだ、光子魚雷のひとつが、起爆シーケンスを終え、爆発し
た。
 ヴェンジェラスは、下部の倉庫が、爆発した。
 ブリッジのカーンは、船長席から、放り出され、大声を上げた。
 ほかの光子魚雷も、つぎつぎに爆発していった。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。

226

225
























































「やつの魚雷が、爆発しました」と、カトウ。「やりますね、スポック
少佐」
「ありがとう、ミスターカトウ」
 
               ◇
 
 エンタープライズの医療室。
 カークとスコットが、ウォレスを運んできた。ウォレスは、叫び声を。
「ボーンズ」と、カーク。
「ナース」と、マッコイ。
「はい、こちら」と、ナース。
「ウォレス」と、ウラ。
 ウラとナースは、ウォレスを隣室へ運んだ。
「お帰り、ジム」と、マッコイ。
「魚雷の起爆を、手伝ったろ?」と、カーク。
「よく分かったな」
「やつのクルーを、殺したのか?」
「スポックは、冷たいが、そこまでじゃない。カーンのクルーは、ここ
にいる。人間アイスキャンディー、72本。カプセルごと、全部、取り
出した」

228

227
























































 医療室の1室に、人工冬眠カプセル、72本が、並んでいた。
「やりやがったな」
 照明が、暗くなった。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「中央パワーグリッドが、機能停止」と、カトウ。
「補助パワーに、切り替えろ」と、スポック。
「補助パワー、起動しません」と、技術仕官。
 エンタープライズは、傾いたまま、落下を始めた。
「地球の引力に、引っ張られます」と、カトウ。
「止められるか?」と、スポック。
「なにもできません」
 
               ◇
 
 エンタープライズの機関室。
 上部が爆発した。蒸気がもれ、物が落ちてきた。
 チェコフは、コントロールパネルまで来た。

230

229
























































「全員、退避!」と、チェコフ。
 
               ◇
 
 エンタープライズの医療室。
 床が傾き、物が舞った。
「緊急ロックダウンをかけろ!」と、マッコイ。そして、横たわってい
る、ウォレスに、ベルトを。「きみ、揺れに強いといいが」
「あなたは?」と、ウォレス。
「弱い」
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「全デッキに、避難命令」と、スポック。
「了解」と、通信仕官。
「船長代理として、きみらにも、退避を命令する」
 シートベルトが現われて、スポックをイスに固定した。
「私は、残りすべてのパワーを、生命維持装置と、脱出用にまわす」
 ブリッジの仕官たちは、スポックを見た。

232

231
























































「これは、命令だ。船を捨てて、逃げろ!」
「お言葉ですが、スポック少佐」と、カトウ。「みな、どこにも、ゆき
ません」
 カトウのイスからも、シートベルトが現われた。
 
               ◇
 
 エンタープライズの通路。
 カークとスコットは、壁沿いに、移動した。
「たった1日、オレが1日いないと、こうだ」
 床が、傾いて、カークとスコットは、宙吊りになった。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「重力システム停止」と、スポック。「つかまれ!つかまれ!」
 
               ◇
 
 エンタープライズの通路。

234

233
























































 カークとスコットは、別の通路で、また、宙吊りになった。
 女性仕官が、ふたり、通路を落ちていった。
「船が必要な」と、スコット。「安定したパワーを、回復させないこと
には、避難なんか、できねえんだよ!」
「回復できるか?」と、カーク。
「機関室でないと。ワープコアまで、行かないとだめだ」
 傾きが、戻って、ふたりは、床に立った。
「ジム」と、スコット。上から、物が落ちてきた。
「チャーリー、まず、パワーの回復だ。急げ!」
 エンタープライズは、ナセルから煙を上げながら、落下していた。
 カークとスコットは、通路を走った。
 通路が傾いて、壁を走った。
「跳べ!跳べ!」と、カーク。
 ふたりは、曲がり角を、飛び越えた。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「緊急動力、15パーセント、低下中」と、技術仕官。
 

236

235
























































               ◇
 
 エンタープライズの機関室。
 カークとスコットは、手すり階段を渡っているときに、傾いて、宙吊
りになった。
「ジム」と、スコット。
「がんばれ」と、カーク。
「だめだ」
 スコットは、手を離し、カークに、片手で、つかまった。
 カークも手すりから手を離すと、別の手につかまれた。
「つかみました」と、チェコフ。
「チェコフ」と、カーク。
「離すなよ」と、スコット。
 傾きが変わって、3人は、手すり通路を歩いていた。
「ワープコアが回復しても」と、スコット。「パワーを調整しないと」
「そうです、船長」と、チェコフ。
「どういうことだ?」と、カーク。
「手動の」と、スコット。「オーバーライドに、切り替えなくちゃ。ス
イッチがあるから」
「デフレクターボードの後ろ」と、チェコフ。「スイッチは、ぼくが」

238

237
























































「急ごう」と、カーク。
 チェコフは、階段を上がった。
「まずい!」チェコフは、床が傾いて、すべっていった。
 
               ◇
 
 エンタープライズのシャトル格納庫。
 カークとスコットが、走ってきた。
「避難命令が、発令されました」と、アナウンス。
 多くのクルーが、走っていた。
 シャトルが3台、下へ落ちた。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「ミスターカトウ」と、スポック。「全パワーを、スタビライザーに」
「今、できるだけのことを、やっています」と、カトウ。
 
               ◇
 

240

239
























































 エンタープライズの機関室。
 チェコフは、走ってきて、デフレクターボードの奥のパネルをあけた。
 手動アームを、両手で持ち上げて、倒した。
 
               ◇
 
 エンタープライズのワープコア。
 カークとスコットが、走ってきた。
「コア、未調整です」と、コントロールパネル。「危険です」
「おいおいおい、待て待て待て!」と、スコット。
「どうした?」と、カーク。
「コアがフレームごと、ずれちゃってて、これじゃ、パワー調整なんか、
できない。船は、死んでますよ!おしまいだ!」
「いや、まだだ!」カークは、走りだした。
「待て、ジム」スコットは、追いかけた。「中に入れば、死んじまう。
聞いてるか?放射線にやられる!頼むから、聞けよ!なにしてるつもり
だ?」
「ドアをあけて、中に入る」
「そのドアで、放射線を防いでいるんでしょうが!コアにのぼるまでに、
死んじゃうって!」

242

241
























































「おまえは、のぼらせない!」
 カークは、スコットを殴って気絶させた。イスに座らせ、シートベル
トを。
 カークは、コアのドアをあけて、中の作業用通路をのぼった。高さ3
0メートルのコアは、プラネタリウムが7本、そびえ立った形だった。
 エンタープライズは、水平に回転しながら、地球へ落下していた。
 カークは、コアへのぼっていった。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「このまま、シールドが」と、カトウ。「使えないと、再突入の際に、
燃えて、灰になります」
 
               ◇
 
 エンタープライズのワープコア。
 カークは、コアの頂上の先端まで、のぼってきた。
 コアの上向きプローブが、上部からの下向きプローブと、わずかに、
ずれていた。

244

243
























































 カークは、上部の手すりにつかまって、両足で、プローブをなんども
蹴った。
 13回蹴って、プローブが、わずかに、動いた。
 プローブの向きがそろった瞬間、上と下のプローブの間で、反物質核
反応が始まった。
 カークは、吹き飛ばされて、落ちていった。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「ワープコア、回復しました!」と、カトウ。
「スラスターエンジンを、全開!」と、スポック。
 エンタープライズは、円盤部から下向きに、噴射した。
「スラスター、全開!」と、カトウ。「待機せよ!待機せよ!」
 エンタープライズは、雲海に、沈んだ。
 しばらくして、雲海から、浮上してきた。
「シールド、回復」と、技術仕官。
「パワーが、回復」と、女性仕官。
「スポック少佐、姿勢が安定しました」と、カトウ。
「奇跡だわ!」と、女性仕官。

246

245
























































「そんなものは、ないはずだ」と、スポック。シートベルトを、はずし
た。
「機関室から、ブリッジ」と、スコット。通信で。
「スコット」と、スポック。
「スポック少佐、こっちへ来てください!大急ぎで!」
 スポックは、走って、ブリッジを出た。ドアで、ウラとすれ違った。
スポックは、無言のままだった。
 
               ◇
 
 エンタープライズのワープコア。
 スコットのいるところまで、スポックが走ってきた。
 スコットは、首を振った。
 スポックは、ワープコアのドアまで、行った。
「あけろ!」と、スポック。透明のドアから、中を見た。
「除染プロセスが、まだ、終わっていません」と、スコット。「区画す
べてが、汚染されます。ドアは、あけられません」
 スポックは、ドアに座って、ドアの中のカークにさわろうとした。
 カークは、ほとんど、意識がなかったが、手を上げて、内側のドアの
ボタンを押した。

248

247
























































 ワープコアの内側のドアが、閉まった。
「オレたちの、船は?」と、カーク。意識がもうろうと、していた。
「危険を脱した」と、スポック。「きみが、クルーを救った」
「やつを、魚雷で、攻撃するとは。よく、考えたな」
「きみなら、ああ、するだろうと」
「これも、おまえなら、こうしただろう。唯一、論理的だ。オレは、こ
わいよ、スポック。どうすれば、いい?どうすれば、なにも、感じない
?」
「いや、分からない。今は、私にも、できない」
「火山で、なぜ、おまえを、見捨てられなかったか、なぜ、戻ったか、
分かるか?」
「きみが、友人だからだ」
 カークは、左手を、ドアに置いた。
 スポックも、外側から、左手を、ドアに置いた。
 カークは、そのまま、目をあけたまま、死亡した。
 ウラが、走ってきて、スコットの脇に立った。
「カーン!」と、スポック。大声を上げた。




250

249
























































            5
 
 エンタープライズのすぐ横を、ヴェンジェラスが墜落していった。
 エンタープライズのブリッジ。
「おっと、すれすれだったぞ!」と、カトウ。
 
               ◇
 
 ヴェンジェラスのブリッジ。
「目的地を、セット!」と、カーン。「宇宙艦隊、本部ビルだ!」
「エンジン故障により」と、コンピュータ。「目的地への到達を、保証
できません。命令の確認を」
「確認した」
 
               ◇
 
 サンフランシスコ、市街地。
 ヴェンジェラスは、黒煙をあげて、湾をすべり、艦隊基地の近くの、
市街地に不時着した。ヴェンジェラスの円盤部がぶつかり、高層ビルが、
27本、倒壊した。

252

251
























































 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「敵の船の、生命反応を、さがせ!」と、スポック。ブリッジに戻った。
「あれでは、生きてるはず、ありません」と、カトウ。
「やつは、生きてる!」
「了解!」
 
               ◇
 
 ヴェンジェラスは、円盤部を半分めり込ませて、市街地に不時着して
いた。
 カーンは、ブリッジの窓まで、滑ってきて、割れた窓から、円盤部に、
飛び降りた。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「わぉ、30メートルは、とんだぞ!」と、カトウ。

254

253
























































「転送できるか?」と、スポック。
「損傷がひどく」と、チェコフ。ブリッジに戻っていた。「信号を捕捉ほそく
できません。こちらから、転送で降ろすことは、できそうです」
 スポックは、横にいる、ウラの顔を見た。
つかまえて!」と、ウラ。
 スポックは、早足で、ブリッジを出て、転送室へ行った。
「転送の座標を、待て!」と、少尉に。
「了解」と、少尉。
「座標、3517の2598」と、チェコフ。
「座標確認」と、少尉。
 スポックは、フェーザーを右手に持ったまま、転送された。
 
               ◇
 
 サンフランシスコ、市街地。
 カーンは、大勢の人にまぎれて歩いた。落ちていたコートをはおった。
 スポックは、転送されると、すぐに、カーンを見つけた。
 カーンも、すぐに、スポックに気づき、走り出した。
 スポックも、走った。
 ビルを走りぬけ、車道を横断した。

256

255
























































 
               ◇
 
 エンタープライズの医療室。
 カークが入れられた袋は、ベッドにおかれ、顔部分は、あけられてい
た。
 スコットやウォレスが、見守っていた。
 マッコイは、カークを見たが、なにもできることがなかった。
 マッコイは、黙って、座った。
 そのとき、診察台に置かれた、トリブルが、かすかに鳴き声を上げた。
 マッコイは立ち上がって、トリブルのモニターを見た。
 生命反応が出ていた。
「人工冬眠カプセルを、持って来い!」と、マッコイ。
 
               ◇
 
 サンフランシスコ、市街地。
 カーンは、走って、ビルの谷間から、上昇してきた、貨物船に飛び乗
った。
 スポックは、貨物船の底に飛びついて、上へ出ようとして、カーンに

258

257
























































殴られた。
 スポックは、バルカンつかみで、カーンを倒そうとしたが、カーンは、
耐えて、スポックの腕をつかんで、反撃した。
 
               ◇
 
 エンタープライズの医療室。
 ウォレスは、カークの首に、ボスプレー注射をした。
「そのなかの男を、取り出して」と、マッコイ。人工冬眠カプセルが、
運ばれてきた。「そのまま、麻酔で眠らせておけ!中には、カークを入
れる。脳機能を、保存するには、これしかない」
「カーンの血は、まだ、残ってるの?」と、ウォレス。
「もう、ない」マッコイは、スポックに呼びかけた。「エンタープライ
ズより、スポック!スポック!」
 
               ◇
 
 サンフランシスコ、市街地。貨物船の上。
 カーンは、スポックを殴った。そして、両手で、スポックの頭を、つ
かんだ。

260

259
























































 スポックは、手をのばして、カーンの顔にさわってきたので、カーン
は、スポックを、頭ごと倒した。そして、別の貨物船に飛び乗った。
 スポックは、走って、同じ貨物船に飛び乗った。
 カーンは、なんども、スポックを蹴り上げた。
 
               ◇
 
 エンタープライズの医療室。
 カークは、人工冬眠カプセルに寝かされ、透明のフタが閉まった。
「人工冬眠シーケンス開始!」と、マッコイ。
 ウォレスは、カプセルのパネルに、入力した。
「マッコイから、ブリッジ。スポックと通信ができないが、生きたカー
ンが必要だ!あの悪党を、今、すぐ、この船に連れ戻せ!カークの、命
綱だ!」
「転送で、引き上げられるか?」と、カトウ。船長席で。
「いや、動き回っているんで」と、チェコフ。「どちらも、ロックでき
ません」
「じゃあ、そばに、降りることは?」と、ウラ。
 
               ◇

262

261
























































 
 サンフランシスコ、市街地。貨物船の上。
 カーンは、スポックを殴った。そして、両手で、スポックの頭を、つ
かんだ。
 カーンは、両手に力をこめた。
 そのとき、背後に、ウラが転送で現われた。
 ウラは、カーンを、フェーザーで、7発、撃った。
 カーンは、麻酔モードで撃たれても、まだ、立っていた。
 スポックは、起き上がり、カーンを何度も殴った。
「スポック!」と、ウラ。「スポック、やめて!やめて!カークを助け
るために、彼が必要なの!」
 スポックは、殴るのをやめた。
 
               ◇
 
 カークの夢の中。
「どっちだ?」と、カーク。
「男の子よ」と、ミランダ。
「名前は、ジムがいい!」
「きみの父上は」と、パイク。「12分間、船長をつとめて、800人

264

263
























































を救った。きみの母上と、きみもだ。きみは、越えられるか?」
 
               ◇
 
 エンタープライズの医療室。
 カークは、目覚めた。
 白のシーツに白の枕。白の寝巻き。
「ま、そんな」と、マッコイ。白の医療服で、センサーをかざした。
「メロドラマ的要素なんかないさ!ほとんど、死んでなかったんだから
な。負担が大きかったのは、輸血の方だ。2週間、意識がなかった」
「輸血って?」と、カーク。
「からだ全体に、放射線のダメージがあったから、仕方なくな」
「カーンの?」
「血清を、合成したんだ。やつの、スーパーブラッドで。人を殺したい、
衝動はないか?暴力的、独裁的な感情は?」
「普段と、同じくらいだ。どうやって、とらえた?」
「オレじゃない」
 スポックが進みでた。制服姿で。
「命の恩人だ」と、カーク。
「ウラとオレも、けっこう、がんばったんだけどね!」と、マッコイ。

266

265
























































「あなたが、助けたんです、船長」と、スポック。
「スポック、ああ」と、カーク。「ありがとう」
「どういたしまして、ジム」
 






            エピローグ
 
 地球、宇宙艦隊本部。
 シャトル倉庫には、人工冬眠カプセルが、73本並んでいた。
 白の医療服の医師が、ふたり、見回りを終えて、出ていった。
 カーンが、その1つで、眠っていた。
 本部前の壇上に、制服姿のカーク。広場には、仕官たちが制服姿でイ
スに。
「敵は、どんな時代にも、現われます」と、カーク。
「身を守るため、われわれは、おのれの中の悪を、呼び起こします」

268

267
























































 上空に、5機の戦闘機。爆音を上げて、白の飛行跡を残した。
「愛するものを奪われると、まず、われわれは、反射的に、復讐を考え
ますが、それは、本来の姿では、ない。われわれは、今日ふたたび、U
SSエンタープライズ号を、出航させます。そして、1年ほど前に、失
った仲間を、ともに、いたみます」
 制帽姿のスポック。
「パイク提督が、昔、私に船長の誓いを、暗唱させました」
 制帽姿のウラ。
「当時は、あまり、ありがたくなかった」
 制帽姿のウォレス。
「でも、今は、そのおかげで、思い出せます。かつての、われわれを。
そして、未来の、あるべき姿を。そして、この言葉を」
 
               ◇
 
 宇宙に停泊する、USSエンタープライズ。
「宇宙」と、ナレーター。「そこは、最後のフロンティア。これは、宇
宙船エンタープライズ号が、5年間の調査飛行で、未知の世界を、探索たんさく
して、新しい生命と、文明を求め、人類未踏みとうの宇宙に、勇敢にいどむ、驚
異の物語である」

270

269
























































 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
「ブリッジに、船長」と、チェコフ。
 カークは、船長席に向かった。
「一度、味をしめると」と、カーク。「なかなか、船長のイスから、立
てないだろう?」
「船長って」と、カトウ。「いい響きですね。イスを、お返しします」
「チャーリー」と、カーク。イスには、座らずに。「コアは、どうだ?」
 
               ◇
 
 エンタープライズの機関室。
 小さな宇宙人が、ステンレス棒をかついで、運んでいた。
「ゴロゴロ、子ネコちゃんです」と、スコット。「長い航海の、準備オ
ーケーです」
 
               ◇
 

272

271
























































 エンタープライズのブリッジ。
「ごきげんだな」と、カーク。「どうした、ボーンズ?きっと、楽しい
ぞ!」
 マッコイの肩を、軽く叩いた。
「5年も宇宙なんて、かんべんしてくれ!」と、マッコイ。
 カークは、技術仕官席へ。
「ウォレス」と、カーク。「オレのファミリーに、ようこそ!」
「家族ができて、うれしいです」と、ウォレス。
「スポック」と、カーク。
「船長」と、スポック。
 スクリーンの前に、カークとスポック。
「どこへ、行こうか?」
 ウラは、立って、ふたりを見ていた。
「5年間もの調査は、前人未踏ですから。船長のご判断に、従います」
 カークは、船長席に座った。
「ミスターカトウ、発進だ!」
「はい、船長」と、カトウ。
 ワープ直前の、USSエンタープライズ NCC1701。
 エンタープライズは、ワープに入り、視界から消えた。
 タイトルバック。タイトル音楽。

274

273
























































 ジーンロッデンベリーのスタートレックをベースに、
 故ジーンロッデンベリーと、
 メイジェルバレットロッデンベリーに捧ぐ。
 
 
 
                      (終わり)














276

275