スタートレック 第二話
             ━━━イントゥダークネス
             ロベルトオルシー、アレックスクルツマン、
             デイモンリンデロフ
              
            プロローグ
             
 ニビル、Mクラス惑星。
 赤の葉と白の幹のジャングルを、全身、青の布で覆われた僧侶ふうの
男が、走って逃げた。それを追う、大勢の村人たち。
 行く手に、3メートルの野獣。とっさに、銃で撃つと、野獣は、倒れ
た。
「なにしてんだ!」と、レナードマッコイ。同じ僧侶の服で、顔の部分
の布を取った。「これに乗って逃げるのに、麻痺 マヒさせてどうする?」



 

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「あ、そうか、ボーンズ!」と、ジェームズカーク。やはり、顔の部分
の布を取った。
 後ろから、追っ手が迫った。
「逃げろ!」と、カーク。ふたりは、また、走り出した。
 村人たちは、白の布を全身にまとい、黄のフードをかぶっていた。
「マゴエゴイ!ガッグゴロイ!」と、村長。おこっていた。フードをぬぐ
と、顔は、白と黒の泥。
「おまえ、なに、奪ったんだ?」と、マッコイ。走りながら。
「分からないけど、みんな、これに向かって、いのってた」と、カーク。
手に、巻いた布を持っていた。
 通信機が鳴った。
「カークだ、そっちは?」通信機に。「村人は、危険地帯を離脱。副長、
そちらの作戦を、開始せよ!火山を沈静化したら、すぐ、出るぞ!」
 
               ◇
 
 目の前の火山は、噴火口から、噴煙を吐いていた。そこに、1台のシ
ャトル。
「よし、急ぎましょう!」と、ヒカルカトウ。自動運転にすると、運転
席から立ち上がった。「キャプテンにも、言ったが、シャトルは、熱に

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強くない」
「ミスターカトウ」と、スポック。耐熱スーツで。ウラは、装着を手伝
っていた。
「船長を、キャプテンと呼ぶのは、ブカツの延長か?ブカツは、なにを
していた?」
「フェンシングを」と、カトウ。スポックは、カトウの顔を見た。「古
代の地球では、ブカツのオーベーカっていいます」
「できたらで、いいんだが━━━」と、スポック。
「分かりました、サブキャプテン、いえ、副長」
「船長!」と、スポック。通信機に。「彼らに、姿を見られましたか?」
「いや、副長。見られてない」と、カーク。走りながら。
「艦隊の誓いです。いかなる社会の発展にも、干渉してはならない、と
の規定がある」
「もちろん、知っている!だから、変装して、ジャングルを逃げてるん
だよ!火口に、スーパーアイスキューブをセットして、脱出だ!通信終
了」
「できた!」と、ウラ。ヘルメットを取りに行った。
 スポックは、冷却装置をあけて、チェックした。
「よし、それじゃ、まず━━━」と、カトウ。また、運転席についた。
「灰で、コイルが焼け焦げている」

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「わたし、交代しようか?」と、ウラ。ヘルメットをかぶせながら。
「それは、非論理的だ」と、スポック。「すでに、私は、耐熱スーツを」
「今の、冗談!」と、ウラ。「がんばって!」
「おい!時間がない!いそいで!」と、カトウ。
 
               ◇
 
 カークとマッコイは、赤のジャングルを、走って逃げていた。何本も
のヤリが飛んできた。
「殺されるぞ!」と、マッコイ。「おい、殺されるぞ、ジム」
 
               ◇
 
 噴火口のシャトル。
「それじゃ、90秒後に」と、ウラ。助手席に、座った。
 スポックは、冷却装置を持って、耐熱スーツに、命綱のワイヤーをつ
けた。
「いくぞ!」と、カトウ。運転しながら。
 ウラは、脱出アームを引いた。
 スポックは、シャトルから、マグマを噴出する、火口に降りていった。

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「周波数、変更!」と、コンピュータ。「エンジン、オーバーヒート!」
「姿勢を保てない!」と、カトウ。「副長、今、引き上げます!」
「だめだ!」と、スポック。火口に降下しながら。「村人を救うには、
この方法しかない!噴火すれば、この惑星は、消える!」
 マグマがシャトルにぶつかってきた。
「だめだ、引き上げよう!はやく!」
 ウラは、ワイヤーアームを、引いた。
 上昇するシャトルから、ワイヤーが切れ、スポックは、噴火する火口
に落ちた。
「スポック、だいじょうぶ?」と、ウラ。無線で。
 スポックは、冷却装置を持ったまま、マグマが煮えたぎる、火口のわ
ずかな岩場に踏みとどまった。
「私は、驚いたことに、生きている」と、スポック。「待機せよ!」
「わたしが、耐熱スーツを着て、助けにゆく!」と、ウラ。
「このシャトルは、もう、捨てるしかない!」と、カトウ。
「置いては、いけないでしょ!」
「ほかに道は、ない!ウラ、すまないが」
「スポック、エンタープライズに戻るけど、かならず、助けるから」
「船長」と、カトウ。制服をぬいで、ダイビングスーツに。「シャトル
を捨てます。エンタープライズには、なんとか、自力で」

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「すばらしいね!」と、カーク。
「ウラ、泳ぐぞ!」
「いいわ!」と、ウラ。すでに、ダイビングスーツに。
 
               ◇
 
 赤いジャングル。
「ジム」と、マッコイ。「おい、ジム!ビーチは、あっちだろ!」
 カークは、白い枝に、巻いた布をひろげて、つるした。
「ビーチへ向かうんじゃない!」と、カーク。
「おい、おい、おい!」
 村人たちは、つるされた布まで来ると、全員、おがみはじめた。
「オレは、イヤだぞ!」と、マッコイ。ふたりは、走りつづけた。
「ああ、分かっている」と、カーク。
 断崖までくると、そのまま、ふたりは、海に飛び込んだ。
 
               ◇
 
 海中。
 カークとマッコイは、海にもぐると、青い布をぬいで、ダイビングス

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ーツと足につけた小型スクリューで、海底に待機していた、エンタープ
ライズのエアーロックに入った。
 エアーロックから、海水が出てゆくと、ドアがひらいて、スコットが
現れた。
「宇宙船を海底に隠すなんて」と、スコット。「どんだけバカバカしい
か、分かります?ゆうべっからですよ!船体が塩水でサビついて」
「チャーリー」と、カーク。「副長は?」
「まだ、火口の中に!」
 3人は、すぐに、ブリッジに向かった。
 
               ◇
 
 噴火口
 スポックは、冷却装置を開いて、セットした。
 岩場で立ち上がると、目の前にマグマが湧き出してきた。
 
               ◇
 
 赤いジャングル。
 火口から、マグマの噴石が、いくつも飛んできて、近くに落下した。

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 村人たちは、恐れながら、山を見つめていた。
 
               ◇
 
 エンタープライズのブリッジ。
 カークとマッコイが、ダイビングスーツのまま、走ってきた。
「ブリッジに、船長」と、チェコフ。
「中尉、副長とまだ、通信できるか?」と、カーク。
「熱でダメージはありますが、なんとか、いけます」と、ウラ。ダイビ
ングスーツのままで。
「スポック!」と、カーク。
「冷却装置を起動させました」と、スポック。マグマに囲まれた火口で。
「カウントダウンが終われば、この火山活動は、停止します」
「あいつの命も、停止だ」と、マッコイ。
「転送は、できるか?」と、カーク。
「できません」と、カトウ。
「磁場がジャマをしていて」と、チェコフ。
「スポックを、転送するには、どうすればいいか、考えろ!」と、カー
ク。
 スクリーンを巨大な魚が横切って、スコットを驚かせた。

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「あいだに、障害物のない距離まで近づけば」と、チェコフ。「もしか
したら、できるかも」
「今にも、ドカンときそうな火山の上に、近づくのか?」と、スコット。
「直撃されたら、船体がもつか、保障できませんよ」
「低い高度を保てるか、どうか」と、カトウ。
「シャトルは、火山雲に隠せましたが」と、スポック。マグマの火口で。
「エンタープライズは、大きすぎる。私を助けようとすれば、現地の村
人に、船を見られてしまいます」
「おまえは、誰よりも、規則に詳しい」と、カーク。「だが、なにか、
例外は、あるはずだ」
「いえ、救助は、艦隊の誓いに反します」
「黙れ、スポック!」と、マッコイ。「おまえを、助けるためだぞ!」
「クルーひとりよりも、多数の必要を優先すべきです」
「このままじゃ、おまえ、死ぬんだぞ!」と、カーク。
「どんな場合にも、規則に、例外はありません」
 ウラは、呆然として立っていた。
「スポック!」返事がなかった。「もう一度、回線をつなげ!」
 ウラは、通信仕官席で、通信機器をたたいた。
「スポックが、オレの立場なら」と、カーク。「どうすると、思う?」
「おまえを、見捨てる!」と、マッコイ。

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               ◇
 
 噴火口
 スポックは、沸き立つマグマに囲まれて、目をつぶり、両手をひらい
た。
 
               ◇
 
 赤いジャングル。
 村人たちは、地面に頭をつけて、おがんでいた。
 村長は、枝につるされた布を、はずした。
 その時、海から音がして、村人たちは、断崖に出てきた。
 エンタープライズは、村人たちの目の前で、海面に上昇し、空へと、
浮上した。
 火山に向かい、スポックを転送した。
 すぐに、冷却装置が作動して、噴火していたマグマが、つぎつぎに氷
結した。
 エンタープライズは、大空へと、飛立った。
 

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               ◇
 
 エンタープライズの転送室。
 スポックが、耐熱スーツのまま、転送されてきた。
 カークとマッコイが、走ってきた。
「副長!」と、カーク。「無事か?」
「村人に、船を見られましたね?」と、スポック。
「ああ、元気そうだ」と、マッコイ。やれやれ、という表情。
「カーク船長!」と、ウラ。無線で。
「なんだ、ウラ」と、カーク。
「スポック少佐は、船に戻りましたか?」
「ああ、元気だ」
「冷却装置は、うまく、作動したと、伝えてください」
「聞いたか?」と、カーク。「よく、やった、副長。この星を救った」
「艦隊の誓いを、破りましたね?」と、スポック。
「どうかな。彼らが船を見たって、デカイ魚にさかなしか見えないさ!」
 
               ◇
 
 赤いジャングル。

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 村人のひとりが、地面に、棒で、宇宙船を描いた。
 村人たちは、地面に描かれた絵を、おがみ始めた。
 村長は、手にしていた布を、落とした。
 宇宙を航行する、エンタープライズ NCC1701。
 ワープすると、視界から消えた。
 




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 ロンドン、宇宙暦2259・55。
 目覚まし時計が、5時を告げると、夫は、手でベルを止めた。
 愛犬のレトリーバーが、ベッドに飛び乗った。
 妻は、愛犬を撫でた。
 夫婦は、自家用のエアーカーで、ロンドン郊外にある病院に向かった。
 廊下で、担当医師と話す、夫婦。エアベッドを運ぶ、看護師。
 病室に、娘を見舞う、夫婦。プレゼントのウサギのぬいぐるみを、枕
元に置いた。

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 娘は、ずっと、意識がなかった。
 夫は、ひとり、病院のバルコニーで森を見ていると、背後に、男。
「彼女を、助けられる」と、男。
「今、なんて?」と、夫。
「娘さんを、私は、助けられる」
「あなた、だれです?」
 
               ◇
 
 サンフランシスコの一室。夜明け前。
 パッドの呼び出し音に、カークが飛び起きた。
「ジム、どうしたの?」と、シッポのある女性。
「まさか、電話に出たりしないでしょ?」と、もうひとりのシッポのあ
る女性。
 
               ◇
 
 サンフランシスコ、宇宙艦隊本部。
「スポック、それで、呼ばれたんだって、間違いないよ」と、カーク。
制服姿で、手に帽子。

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「いや、われわれが、新しいプログラムに選ばれることなど」と、スポ
ック。制服姿に、帽子。「まず、ないと、思うが」
「じゃ、なんで、パイクが、オレたちを呼ぶ?序列を飛び越えて、一番
新しい船をもらっているんだ。ほかに誰を、派遣する?」
「可能性は、いくらでもある」
「5年間の調査飛行だぞ!」カークは、スポックの胸を、軽くたたいた。
「人類未踏の遠い宇宙だ!おまえは、胸がおどらないのか?」
 3人の女性仕官と、すれ違った。
「元気?」と、カーク。「ジムカークだ!」
 
               ◇
 
 パイク提督の室。
「なにごともなく」と、パイク。いすに座って、報告書を見ていた。
「はい?」と、カーク。スポックとともに、手に帽子を持って、立った
姿勢で。
「きみは、ニビル星での日誌に、そう記したな?」
「ええ、些細なことで、お時間を取らせないように」
「その火山の話を聞こう。情報では、活動は活発だった。噴火すれば、
星に危険が」

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「無事を祈りましょう」
「噴火は、しない?」
「活発というのは、相対的にいってですから、そこまで、正確とは」
「噴火しなかったのは、ミスタースポックが、火口内で冷却装置を作動
させたからで、その直前、村人は、車輪を発明したかどうかなのに、海
のなかから出現する、宇宙船を見たと、それが、きみの報告にある、詳
細だがね」と、パイク。スポックに。
「提督」と、スポック。
「報告したのか?」と、カーク。「なぜ、黙ってた?」
「きみも、航星日誌には、真実を書くと思ったからだ」
「ああ、書いたよ、おまえを救ってなければ」
「そのことは、このうえなく、感謝しているが、だからこそ、私が責任
をもって、報告をせねばと感じたのだ」
「すごい責任感だ。ごりっぱだよ、とんがり耳、オレを裏切ってまで」
「とんがり耳?それは、私をおとしめる意図か?」
「諸君!」と、パイク。立ち上がった。手に、杖。「艦隊の指示は、調
査と観察であり、干渉では、ない」
「しかし、ワイヤーが切れなければ」と、スポック。「村人に、われわ
れの存在を気づかれることも、なかったのです」
「それは、ヘリクツだ」と、パイク。

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「バルカン人は、リクツを重んじるのです」
「その態度は、なんだ、スポック?」
「私は、複数の態度を、同時に示しています。どの態度でしょうか?」
「出ていけ」パイクは、言い直した。「退出してくれ、少佐」
 スポックは、出て行った。
「おまえは、どれだけ、めんどうだか、分かるか?」と、パイク。
「ええ、一応は」と、カーク。
「じゃ、なにを、間違えた?今回の教訓は?」
「バルカン人を、信じるな」
「なにが間違いかを、気づいていない。おまえは、ウソの報告をしたん
だぞ。気に入らない規則なら、守らなくていいと、思っているのか?」
「そういうオレをスカウトして、ご自身の船を任せたんでしょ?」
「おまえに任せたのは、偉大な資質を見たからだ。謙虚さのかけらも、
持ち合わせないようだが」
「スポックを死なせるべきでしたか?」カークは、パイクに向き合った。
「論点がずれている」
「そうは、思いません。では、あなたなら?」
「私なら、そもそも、副長の命を、危険にさらしはしない。おまえは、
星の調査に行ったんだ、運命を変えるのではなく。おまえは、いくつも
の規則に違反したうえ、船のクルー全員を危険にさらした」

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「でも、誰も死んでません。オレが船長になってから、なん人、死にま
したか?ひとりもです」
「自分は、間違うはずはないと、思っているだろ?規則は、自分以外の
ため」
「時には、必要でない」
「さらに、おまえは、ただの幸運を、言い訳にして、神をきどっている
!」
 パイクは、一呼吸おいた。
「本件は、状況をかんがみ、マーカス提督に報告され、特別審議会が召
集されたが、私は、招かれなかった。おまえも、さすがに、規則の重さ
を、思い知るだろう。おまえは、船から、降ろされた。アカデミーに、
逆戻りだ」
「聞いてください」と、カーク。真顔になった。
「いや、聞かない」
「すべて、説明できます」
「おまえは、規則を守らず、なにごとにも、責任を取ろうとせず、船長
のイスを、尊重しない。なぜだと、思う?おまえが、未熟だからだ」
 カークは、黙ったまま、目を落とした。
 
               ◇

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 ロンドン。
 
 
 
                      (第二話 つづく)















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