夢を食う謎のワームホール
ロバートドハーディ、ビルプラティ
プロローグ
閃光が走り、エイリアン宇宙船が攻撃されたが、すぐに反撃した。
「ハッ!まいったか!」と、白髪のエイリアン。操縦席についた。
「おかしいな、そうあわてるなって!」
こちらに向かって、巨大ななにかが口をあけていた。
「今、こっちから突っ込んでやるって!オレの心が読めるんだろ?」
また、閃光が走った。
「分かったよ、来るなら来い!食えるなら食ってみろ!ああ、くそっ!
持ちこたえてくれ!」
大急ぎで操作パネルを叩いた。
ひとり乗りの宇宙船は、巨大ななにかに突進して行った。
1
宇宙船ボイジャーは、地球からはるかに離れた、銀河の反対側のデル
タ宇宙域を航行していた。
ターボリフトのドアが開き、ジェインウェイ艦長がブリッジに入った。
「ワームホールですって?」と、ジェインウェイ。
「現地点より、およそ4億キロの位置にあります」と、トゥヴォック少
佐。
「トランス運動ベクトルを見ると」と、チャコティ副長。
「セクター001に通じている」と、ジェインウェイ。
「ワームホールのようですが」と、チャコティ。「生命物質活動のかた
まりを検知しました」
「生命体なのに、ニュートリノ流動?」
「まさか」
「地球につながる道は、突然、現われた」と、ジェインウェイ。「いっ
たい、どういうことかしら?」
「プローブで調べましょう」と、チャコティ。
「警戒体制をしいて!」と、ジェインウェイ。「クラス5のプローブを
準備!正体を突き止めましょう!」
◇
3名のクルーを乗せたシャトルが、帰還の途についた。
「セブンオブナイン、私的記録」と、セブン。「新たなデュートリウム
捜しには失敗したが、クルー1名にいい体験をさせることができた」
操縦席には、トムパリスとセブン、それに、6才のナオミワイルドマ
ンがいた。
「あした、また、デュー捜しに行くなら、また、連れて行って!」と、
ナオミ。
「それは、艦長しだいだな」と、トム。
「おまえより経験のあるクルーが行くことになるだろう」と、セブン。
「せっかくシャトル任務についたのに、成果なしなんて」と、ナオミ。
「成果はあった」と、セブン。「このシャトルに慣れることができた」
「でも」と、ナオミ。「異星人とのファーストコンタクトとか、スペー
スバトルとか」
「ああ、そりゃいい」と、トム。
「いつか、そのうちにな」と、セブン。
「なぁ、ナオミ、操縦してみるか?」
「いいの?」
「少尉!」と、セブン。
「これもシャトルに慣れるための、勉強さ」トムは、操縦席にナオミを
座らせた。「さ、よ〜し、まずは、推力4分の1に変えてみよう!この
コントロールを押して、つぎにここ!」
ナオミは、言われたとおりに操縦パネルを叩いた。「推力4分の1に」
「さぁて、ボイジャーに戻るコースを示して!」
「イエス、サー!」と、ナオミ。それを横目で見るセブン。
◇
ボイジャーの通路を行く3人の脇を、クルーたちが反対方向へ走った。
「なに急いでるんだろ?」と、トム。寝込んでしまったナオミを抱えて
いた。
「ボイレンとホワイトだが、毎回任務の交代に遅れる」と、セブン。
「遅れると言えば」と、トム。「こういうこともしなけりゃな。オレが、
ナオミの就寝時間に遅れたことを母親に説明して、きみは調査の報告を
出す」
「了解した」
「がんばってくれ!」通路の角で別れた。
セブンは、ブリッジに入った。
「遅かったわね」と、ジェインウェイ。「心配してたのよ」
「調査は、予想以上に手間どった」
「デュートリウム問題は解決した」と、チャコティ。
「ワームホールか?」と、セブン。スクリーンに分析図が映し出されて
いた。
「本物だぞ!地球に一足跳びだ!」と、ハリーキム少尉。
「こうした現象が見つかる確率は」と、セブン。「きわめて低い」
「大当たりでしょ?」と、ジェインウェイ。
セブンは、調査パネルの前で、パネルを叩いた。
「なにをしている?」と、ハリー。
「異常がないか調べている」
「異常はない」と、トゥヴォック。
「そうなんだ」と、チャコティ。「亜空間のねじれなし、時間の変動も
ない」
「プローブが向こう側から、かすかなシグナルを拾ったの」と、ジェイ
ンウェイ。
「ベラナがダウンロード中だが、宇宙艦隊かららしいよ」と、ハリー。
「このワームホールは、わずか3億キロの位置にある。長距離センサー
が今ごろ感知するのはおかしい」と、セブン。
「それは、きみの見落としじゃないのか?」と、トゥヴォック。
「気がすむように、今からすぐチェックして!」と、ジェインウェイ。
「それまでは、今のコースを維持します」
セブンを残して、全員、ブリッジから出て行った。
調査パネルをいぶかしそうに叩くセブン。
◇
艦長室。ジェインウェイがコーヒーを入れていると、ドアが鳴った。
「どうぞ」と、ジェインウェイ。
「チェックはすべて完了した」と、セブン。「センサーは完璧な状態で
動いている」
「じゃあ、なんの問題もない」ジェインウェイは、入れたばかりのコー
ヒーを飲んだ。
「その逆だ。ニュートリノレベルが極端に不安定だ」
「わたしもそう思った。これを受け取るまではね」ハンディパネルを見
せた。「われわれが感知したシグナルは、宇宙艦隊からだったの。これ
でニュートリノ流動は、なんの心配もいらない」
「宇宙艦隊のミスかもしれない。しばらく様子を見るべきだ」
「時間がない。ワームホールが不安定になる」
「ドクターが、転ばぬ先の杖と、いつもわたしに言っている。古臭いこ
とわざだが、有効だ」
「この言葉を返す」と、ジェインウェイ。「ためらうもの、機会を逃す」
「艦長!」
「ほんとうの問題を避けてはだめよ、セブン。あなたは心から地球に戻
りたいとは思わないでしょ?恥ずかしいことじゃない。ほんとうよ、あ
なたは地球で成長する。ボイジャーでしたようにね」
ドアが鳴った。
「はい」と、ジェインウェイ。
「これで2通目」と、チャコティは入って来ると、艦長にハンディパネ
ルを渡した。「焼けるね」
「マーク!」と、ジェインウェイ。ハンディパネルを見ながら。「彼、
婚約がだめになったらしいわ。あなたの方は、いいんでしょ?」
「宇宙艦隊から、完全復帰を求められた。その上、アカデミーで人類学
の教授をやらないかと打診された」
「チャコティ、おめでとう!困るわ」
「大丈夫さ」
「わたしひとりでボイジャー指揮するなんてムリよ」
「いや、きみならできるさ」
ふたりのやり取りを、黙って見ているセブン。
◇
セブンは、自分の作業場にしている第2貨物室で、調査パネルに向か
った。
「コンピュータ、宇宙歴52542の全日誌、ジェインウェイ艦長の記
録にアクセス」
「ピピ、全ファイル、アクセス禁止です」と、コンピュータ。
セブンは、第2貨物室の裏のパネルをあけて、コネクターを1本抜い
た。
「アクセスします」と、コンピュータ。
「通常日誌を」と、セブン。調査パネルに戻った。
「艦長日誌、宇宙歴52542・3。長距離センサーが、アルファ宇宙
域につながるワームホールを感知。しかし残念ながら、2度目のスキャ
ンでは、ある種の策略だと判明した。いったいだれが?われわれをだま
しているのか?なんのために?」
「つぎの日誌に進め!」と、セブン。
「艦長日誌、補足。プローブでかすかな遠隔データを受信し始めた。み
んなを期待させるわけではないが、ベラナは宇宙艦隊からではないかと
言う。だまされていたというわたしの疑いは思い違いだったようだ」
「つぎの日誌に進め!」と、セブン。
「艦長日誌、補足。ボイジャーのコースをワームホールに設定。うまく
行けば、われわれはわずか数日で、アルファ宇宙域に到達する」
その記録を聞きながら、セブンは、無表情を崩さなかった。
◇
通路を歩くセブン。「アニタ!」と、呼び掛けながら、ニーリックス
が走って来た。
「アニタハンセン!」と、ニーリックス。
「そんな名前のクルーはいない」と、セブン。
「きみだろ?きみ宛ての手紙を預かっている」ニーリックスは、ハンデ
ィパネルを渡した。「アルファ宇宙域にきみの知り合いがいるとは思わ
なかったよ」
「いない」と、セブン。
「しかし、向こうはきみを知ってる。だれなんだい?」
「クラウディアハンセン」と、セブン。ハンディパネルを見ながら。
「わたしの父の妹だと言っている」
「おばさんか!」
「わたしに会うのを楽しみにしているらしい」
「そりゃよかった!」と、ニーリックス。「オレの方は、宇宙艦隊から、
ランチュアンセクターの大使に抜擢された」
「大使?」
「哺乳類をかぎ分ける能力を買われたのかな?」
セブンは、うれしそうなニーリックスを残して、歩いて行った。
◇
食堂にはいると、調理室でつまみ食いしているトムパリスを見つけた。
「少尉」と、セブン。「少し、訊きたいことがある」
「なんだ?」と、トム。
「シャトルから戻ったとき、クルーたちの態度の変化に気づかなかった
か?」
「たとえば?」
「ワームホールは見せ掛けかもしれないという証拠を、艦長に示したが、
艦長は無関心だった」
「ほんとか?」と、トム。料理を皿に盛りながら。「艦長らしくないな」
「みんな、ニセの遠隔測定データに騙されている。楽観的な通信のよう
だ」
「故郷からの手紙か?」
「ああ」
「オレも受け取ったよ」と、トム。コーヒーをつぎながら。
「やはり、いいニュースか?」
「ああ、最高さ。オーストラリアの新しいテストフライトセンターで働
かないかって!美しいビーチに、最新型の実験船を操縦するんだぞ!信
じられない」
「手紙はニセものの可能性もある」
「ハハ、冗談よせよ!オレはもう返事を出した。オーケーしたよ」
セブンは、喜んでいるトムを見ながら、失望を感じた。
◇
医療室。
セブンが入って来た。「コンピュータ、EMHを作動!」
「緊急事態の概要を述べよ!」ドクターが起動された。
「ワームホールはニセものの可能性が高い」と、セブン。「クルーが」
「待ってくれ」と、ドクター。「ワームホールだと?」
「知らされていないのか?」
「まったく知らん」
「最近の態度から考えれば驚くことはない。ワームホール発見以来、策
略の可能性があるのに、クルーたちは目をつぶっている。からだに、な
にか問題があるのか調べてほしい」
「ピピ」と、通信。
「ブリッジよりセブンオブナイン」と、チャコティの声。
「すぐ行く」と、セブンは応答した。
「いつもの検査ということで」と、ドクター。「なん人かクルーを調べ
てみる。それで必要な診断はできるだろう」
セブンは、医療室を出るときに、ドクターにうなづいた。
◇
ビリッジ。セブンが入って来た。
「ちょうど視覚領域に入った」と、チャコティ。「きみも見たいだろう
と思ってね。これから向こう側の画像が出るだろう」
スクリーンに、ワームホールの入口が映し出されていた。
「データが古く、更新している」と、トゥヴォック。
「なんとか取り除こう」と、ハリー。操作パネルを叩いた。「今だ」
すると、スクリーンに地球の映像が出た。艦長はスクリーンに釘付け
になった。
「ワームホールまで、あとなん分だ?」と、チャコティ。
「53分です」と、トムパリス。
「コースを維持して!」と、ジェインウェイ。
「全クルーへ、こちらブリッジ」と、チャコティ。「全システム固定」
「地球の軌道に入ったら」と、ジェインウェイ。「下降軌道に!北アメ
リカ大陸、宇宙艦隊司令部へ」
2
天体測定ラボ。
「コンピュータ、ワームホール内部の重力測定スキャンを実行」と、セ
ブン。「空間傾斜度の矛盾を捜せ!」
「ピピ、傾斜はクラス1ワームホールと一致します。異常はまったく感
知されません」
「センサーを再調整して、実行」
「ピピ、異常は、まったく感知できません」
「グリッド925を抜き出して、拡大」スクリーンに黒い点のようなも
のが見えた。
「コンピュータ、グリッド925にあるのは、宇宙船か?」
「ピピ、宇宙船は感知できません」
「回線をつないで!」
「ピピ、回線をつなぎました」
「通告する、こちらは、宇宙艦ボイジャー、応答せよ!ただちに応答せ
よ!」
雑音の多いスクリーンに、白髪のエイリアンが映し出された。「おま
えさん、だれだ?」
「連邦宇宙艦ボイジャーのセブンオブナインだ、お前の船から3・4光
年離れた位置から、そちらに向かっている」
「さっさと帰れ!おまえは、だまされている」
「だれに?」
「人の夢を食う、けだものさ!」
スクリーンの画像が消えた。
「コンピュータ、通信が途絶えた。原因はなんだ?」
「艦長命令だ」と、トゥヴォック。室に入って来た。「天体測定ラボか
らのパワーは、推進の方へ回される。ワームホールからあちら側に出る
まではな」
「今」と、セブン。「現象内部にいる宇宙船と話をした」
「宇宙艦隊か?」
「異星人だ。ここから離れるよう警告された」
トゥヴォックは、パネルを調べた。「センサーには、なんの通信記録
も残ってはいない」
「センサーは、機能不全だ」と、セブン。「われわれは、だまされてい
るのだ。ワームホールの存在をうのみにするな!」
「データの量から言って、間違いとは思われない」
「データは正しくない」と、セブン。
「きみの推理ではな」
セブンは、話題を変えた。「少し立ち入ったことを訊いてもいいか?」
トゥヴォックは、うなづいた。
「家族との再会は楽しみか?」
「もちろんだ」
「その再会の思いは、予想以上に強くなっていないか?」
「なにが言いたい?」
「おまえは操られている。なにものかが、論理を混乱させている。いつ
もなら、わたしの不安に耳を傾けないはずだ」
「セブン、当分、天体測定ラボへの立ち入りは禁止する。以上だ」
セブンは、憤然としたが、なにも言わずに出て行った。
◇
セブンは、第2貨物室へ戻って来た。操作パネルを叩いていると、貨
物の奥で物音がした。ゆっくり近づいてから声を掛けた。
「ナオミワイルドマン」
ナオミはゆっくり体を起こした。
「おまえは、貨物室への立ち入りは禁止されている」
「わたし、逃げて来たの」と、ナオミ。
「だれから?」
「みんなよ!みんななんだかおかしいの。ママからして」
「詳しく話せ!」
「ママったら、笑ってばかりいて、地球は最高だって、地球のことばか
り言うの」
「おまえは、地球に帰りたいとは思わないのか?」
ナオミは首を振った。「わたしのうちはボイジャーよ。地球に着いた
ら、船を降りなければならない。ニーリックスにも会えなくなるから、
寂しいし、それに、セブンといっしょにカディスコットで遊べなくなる」
ナオミは、お気に入りの宇宙人の人形を抱いていた。
「妙だな」と、セブン。「おまえとわたしだけが、影響を受けていない」
「なんのこと?」
「まだ、定かではない。わたしが戻るまで、隠れていろ!」
◇
医療室。
セブンが入って来た。「コンピュータ、EMHを作動!」
「緊急事態の概要を述べよ!」と、トムパリス。奥から出て来た。
「ドクターはどこへ行った?」と、セブン。
「停止させた」と、トム。
「なぜだ?」
「艦隊命令だ。ワームホールのなにかが、ホログラムシステムの障害に
なるらしい。ドクターを守るためだ」
「今すぐ、呼び戻せ!」
「それは、ダメだよ、アルファ宇宙域に着くまでは」
「緊急事態だ」
「フフッ、こう見えても、オレだってドクターに負けないくらいの医学
の知識と腕があるんだぞ!」
セブンは、あきらめて出て行った。
ターボリフトに乗ろうとすると、チャコティと2名の保安部員が降り
て来た。
「ちょうどよかった」と、チャコティ。「悪いニュースを伝えなければ
ならん」
チャコティは、セブンの腕を軽く取って歩き出した。
「ワームホールがボーグに監視されている亜空間の層を通っていること
が分かった。きみの神経帯にボーグが反応することを宇宙艦隊は懸念し
ているんだ。きみのインプラントを停止させる」
「ドクターの同意と監視なしに停止すべきではない」と、セブン。
「そのドクターはオフライン中だ」
「では、措置はすすめられない」と、セブン、声が大きくなった。
「セブン、どうしたんだ?アルファ宇宙域に着くまで、停止状態になる
だけじゃないか?じき地球に戻るんで、神経過敏になっているのかな?
未知のものを恐れるのは自然な感情だ。わたしたちに任せなさい。抵抗
してもムダだぞ」
チャコティは、笑顔になった。セブンは、憤然としたが、なにも言わ
なかった。
3
ビリッジ。スクリーンにワームホールの入口。
「トム、あとなんキロ?」と、ジェインウェイ。
「およそ2000キロで到着ですね」と、トム。「あばよ、デルタ宇宙
域」
「もう、ヒロージェンを相手にすることもない」と、ハリー。笑顔で。
「そう思うと、ちょっと寂しいな」
「あしたの今ごろには、なつかしい面々に再会だ。ロミュラン人に、フ
ェレンギ人」と、トム。
「副長より、ブリッジ」と、通信。
「どうぞ」と、ジェインウェイ。
「セブンオブナインに話した、今から彼女を停止させる」と、チャコテ
ィの声。
「早く、済ませて!」と、ジェインウェイ。「地球帰還のパーティを、
ボーグに邪魔させないわ!」
みんな笑顔になった。
◇
第2貨物室。
「その前に、再生パラメータを調整する」と、セブン。パネルに向かっ
た。「停止時間は、どのくらいだ?」
「安全地点に着くまで」と、チャコティ。「2・3時間さ」
倉庫の奥から、ナオミがこちらを見ていた。
セブンは、フォースフィールドを張ると、パネルを離れて、素早くフ
ォースフィールドの中へ入った。
「セキュリティアラート!」と、チャコティ。3人ともフォースフィー
ルドに阻まれた。
セブンは、ボーグコンソールの調整を始めた。
「ナオミ、出て来い」と、セブン。ナオミは、奥から人形を持って来た。
「トゥヴォックを送ったわ。どうしたの、チャコティ?」と、ジェイン
ウェイ。
「セブンが突然、ボーグフォースフィールドの中へ逃げ込んだ」と、チ
ャコティ。
「すぐ無力化して!」と、ジェインウェイ。ハリーに。
ナオミがセブンの隣りに来た。
「ナオミ、いいことがある、室へ戻ろう」と、チャコティ。
「よく見ていろ!」と、セブン。ナオミに説明した。「ここが点滅した
ら、つぎの順番で入力しろ!」セブンはやって見せた。「忘れるな!」
「ナオミ!」と、チャコティ。
「分かったか?」と、セブン。
「うん」と、ナオミ。セブンは奥へ向かった。
「ナオミ!」と、チャコティ。「これは副長命令だ。いますぐコンソー
ルから離れろ!」
ボーグコンソールが点滅を始めた。ナオミは、言われた通りに、パネ
ルを叩いた。
「セブンが司令系を動かしている」と、ハリー。
「続けて!」と、ジェインウェイ。ハリーに。
セブンは、貨物からフェーザー銃を出して、気絶レベルにセットして
構えた。
「コンピュータ、わたしをロックして、直ちに転送を開始しろ!メイン
機関室だ」
セブンは転送された。トゥヴォックが第2貨物室に入って来て、副長
と顔を見合わせた。
◇
メイン機関室。
セブンは転送された。フェーザー銃を構えて、ベラナの前に立った。
「セブン?」と、ベラナ。
「悪く思うな!」と、セブン。フェーザー銃を発射した。
ベラナが倒れ、ほかの2名もセブンに撃たれて、倒れた。
「機関室でフェーザーを感知」と、ハリー。
「艦長より保安部」と、ジェインウェイ。
「コンピュータ、機関室にレベル10のフォースフィールドを張れ!」
と、セブン。「ボーグ暗号コード294の司令コントロールより操作」
「セブンがエンジン集合体に侵入しようとしている」と、トムパリス。
「推進ドライブを停止させるようです」
「うう」と、ジェインウェイ。
トゥヴォックと保安部2名が、メイン機関室に到着した。しかし、セ
ブンの作業しているところへはフォースフィールドで阻まれた。
「艦長」と、トゥヴォック。「ここもフォースフィールドを張られまし
た。無力化には、かなり、時間が掛かります」
「セブンは今どこ?」と、ジェインウェイ。
「機関室です」と、ハリー。「機関室コンソール、ベータ16、艦長」
ジェインウェイは、自分でコンソールを叩いた。「そのセクションに
緊急サージを掛ける。これでセブンを、いやおうなく、停止させられる
はずよ」
機関室コンソールを叩いていたセブンは、サージを受けて倒れた。
「セブンが倒れました、艦長」と、トゥヴォック。
「艦長」と、トムパリス。「入口に到着しました」
スクリーンには、画面いっぱいにワームホールの入口が広がった。
「そのまま前進!」と、ジェインウェイ。艦長席についた。
ボイジャーは、巨大生命体の口から侵入して、閃光を受けてゆれた。
「状況は?」と、ジェインウェイ。
「ただの乱気流でしょう」と、トム。
「きれいね」と、ジェインウェイ。スクリーンには、美しいワームホー
ルの入口が映った。
「どんどん進んで!」と、ジェインウェイ。
巨大生命体の内部を進む、ボイジャー。
4
ニーリックスの夢。正装したニーリックスが、ボイジャーの通路で宇
宙艦隊の将軍たちに迎えられて、握手をかわした。
スクリーンに、巨大な地球が姿を見せた。ジェインウェイは立ち上が
り、ハリーもトムもその美しさに唖然とした。
実際のスクリーンには、暗い巨大生命体の内部が映り、艦内も暗く、
全員が倒れていた。
トゥヴォックの夢。妻が、ボイジャーの通路に現われ、トゥヴォック
と指の先端を触れて、精神感応した。
通路に点々と横たわるクルーに交じって、トゥヴォックも通路の壁に
もたれて倒れていた。
ナオミが、倒れたクルーをまたぎながら、通路を進んで来た。
メイン機関室まで来ると、倒れているセブンを見つけて助けようとす
るが、フォースフィールドに阻まれた。
「セブン、起きて!」と、ナオミ。「セブンオブナイン、起きてよ!」
セブンは気がついて、倒れたまま、ナオミの方を見た。
「これ、消して!」と、ナオミ。フォースフィールドを触ってみせた。
セブンは、パネルに行って、フォースフィールドを解除した。
「ケガをしている」と、セブン。ナオミの右耳の裏に触れた。
「かすり傷」と、ナオミ。
「ほかのクルーは?」と、セブン。
「みんな倒れて、意識不明」と、ナオミ。
船がゆれた。
「ボイジャーは、混乱状態だ」と、セブン。パネルで調べながら。
「ワームホールのせい?」
「いや、そうじゃない。状況が分かるまで、おまえは室へ戻っていろ!」
「わたしも手伝う。ひとりよりふたりの方がいいって、ママが言ってい
た。ボーグだって同じじゃないの?」
「単純な論理だが、その通りだ」
「お願い、ひとりになりたくないの」
セブンは、しようがないと言うかのように通路へ歩いて行った。ナオ
ミもセブンのあとに続いた。
「ニーリックス!」と、ナオミ。通路に倒れているニーリックスに駆け
寄った。「かわいそうに」
「死んではいない」と、セブン。「のんびりしているヒマはない。ナオ
ミワイルドマン!あとでかならず助けに来る」
ナオミが両手を差し出したので、セブンは抱えて、歩き出した。
「ここは地球じゃない」と、ナオミ。
「そう」と、セブン。
「じゃ、ここはどこ?」
セブンは、なにも言わずに、ブリッジへ急いだ。
◇
ブリッジ。
「システムを一部修復した」と、セブン。スクリーンに、巨大生命体の
分析図が映し出された。「有機化合物と生命物質の複合体、膨大な神経
ネットワークマトリックス」
「生命体ってこと?」と、ナオミ。
「最大級の生命体だな、直径が2000キロ以上ある」
「なにをしてるの?」
「倒れる前に、異星人とコンタクトした。まだ、いるかもしれない」
「ほかにも船がいるの?」
「おそらくな。いたぞ。損傷が激しいが、まだ、機能している。こちら
ボイジャー、応答せよ!」
操縦席で気を失っていた白髪の異星人は、気が付いて、通信パネルの
前に行った。ボタンを押すと、画面にセブンとナオミの姿が映った。
「あれほど近づくなと言ったのに」と、異星人。「なぜ、警告を無視し
た?」
「仲間たちが、故郷に帰還できると信じたからだ」と、セブン。
「それが仲間の長年の夢か?違うか?」
「そうだ」
「やつの手さ!」
「やつ?」と、ナオミ。
「協力し合わなければ、ここから抜け出すのはムリだ」と、セブン。
「シールドを下げろ、こちらに転送する」
「オレの船は、今、シールドだけで守られているんだ。下げたらつぶさ
れる」
「シールドオミッターを強化している」
「エサでだますつもりだろう!」
「われわれは絶対、だましたりしない!」と、セブン。
「そううまく行くかよ?巨大宇宙船が、オレを助けに来るなんてありえ
ない。巧妙なワナで近づくつもりだろう?」
「おまえの船のシールドが持ちこたえるのは、あと15分だと、スキャ
ンに出ている。このまま自分の船に残って、だまされていなかったと気
づいても、あとの祭りだぞ!後悔しても、そのときはもう手遅れだ。ど
うするんだ?」
「分かったよ、分かったよ、シールドレベルを下げたぜ!」
セブンは、白髪の異星人を転送した。彼は、ブリッジにやって来ると、
壁を調べて、ナオミの肩をつねった。
「いたい」と、ナオミ。
「あんたらは本物らしい」と、異星人。「オレはクワタイっていうんだ
が、ずっとやつにだまざれ続けて来たんでね。数え切れないほどの幸運、
いい友達、死んだやつとの再会」
「われわれが迷い込んだ現象だな?」と、セブン。
「現象?」と、クワタイ。「けだものさ!狡猾で破壊的」
「やつの望みは?」
「すべてさ。おまえの船、反物質、生命体、なにもかも食っちまうんだ」
「みんなここがワームホールだと信じていた」
「テレパシーだよ。心を操るんだ。やつは、相手の考えや希望を感じ、
エサを与えるんだ」
「食虫植物ね!」と、ナオミ。
「なんじゃそれ?」と、クワタイ。
「植物学の授業で習ったの、ニセのフェロモンを出して、虫を引き付け
るって」
「おお、その通りだよ、だが、やつは虫の代わりに、宇宙船を食う」
「敵について、詳しいんだな?」と、セブン。
「詳しい?やつを40年間追い続けて来たんだ」
「だからおまえには、テレパシーが利かないんだ」
「そうなんだ。だがときどき、このおれさまも騙されちまう!きのうの
ようにな。オレは今度こそ、やつを退治する方法を見つけたと思った。
すすんで自らの船をエサにするって方法さ。やつの最大の弱点に、こっ
ちから突っ込むんだ。神経の集中するところにな。そうさ!オレは内部
からやつを攻撃するはずだった。だが、甘かった。オレは求めるものを、
見せられていただけだった。神経とは程遠いところに、誘導されちまっ
た。オレさまは、自らすすんで、やつの胃袋に飛び込んでいたというわ
けさ」
閃光を受けて船がゆれた。
「その胃袋ときたら━━━」
「どうやったらモンスターの中から逃げるの?」と、ナオミ。
「モンスターではない」と、セブン。「生命機能を持つ有機体で、脱出
法はかならずある」
「いいや」と、クワタイ。「その子が正しい。あいつはモンスターさ。
ここから脱出するには、やつを殺すしかない」
◇
医療室。
「緊急事態の概要を述べよ!」ドクターが起動された。
「あんたの船は、壊れちまったんだよ」と、クワタイ。「りっぱな緊急
事態だ」
「船がモンスターに食べられたの」と、ナオミ。
「モンスター?」と、ドクター。
「ここには、どんな武器があるんだ?」と、クワタイ。
「武器だと?」と、ドクター。「ここは医療室で兵器室ではない、なに
があったんだ?」
「ボイジャーは」と、セブン。「生命機能のある有機体の消化器官に飲
み込まれた。脱出ルート確保にドクターの力がいる」
「待ってくれ」と、ドクター。「わたしは最後にミスターパリスと話を
した。彼はワームホールがわたしのプログラムを脅かすと言った」
「クルーはモンスターに操られていたのさ」と、クワタイ。「あんたが
疑いを持ち始めたことに気づいて、ドクターのプログラムを停止させよ
うとしたのさ」
「あなたはなにものです?」と、ドクター。「地元のモンスター専門家
か?」
「じつを言うと、その通りさ。やつはずっとあんたらをだまし続け、ウ
ソの情報をセンサーに感知させ、クルーたちの思考パターンを変えよう
とした。神経性のテレパシーが相手の守りを低下させちまう」
「クルーたちを検査したとき」と、ドクター。「ドーパミンレベルが高
まっていた理由がこれで分かったよ。艦長には知らせたのか?」
「眠ってるの」と、ナオミ。
「眠ってる?」と、ドクター。
「有機体の体内は」と、セブン。ドクターに。「神経性フィールドが非
常に強くなっている。ほとんどのクルーは意識不明だ」そして、クワタ
イに。「おまえの方には有機体の体内構造のデータがあるか?」
「もちろんさ」と、クワタイ。
「回収してくれ」と、セブン。
閃光を受けて船がゆれた。
「それまでは、クルーたちを起こす作業に掛かろう」
巨大生命体の内部を進む、ボイジャー。
◇
医療室。
ベラナはベッドに寝かされ、ドクターに診断されていた。
「コンピュータ、神経伝達物質レベルを29%増加」
「ピピピ」と、コンピュータ。
「皮質抑制剤か?」と、クワタイ。医療室に入って来ると、ベラナを見
た。
「有機体からの支配を解除できるかもしれない」と、ドクター。
「ムリさ!前に似たような作用を試してみたことがある」
「あんたの意見は訊いていない」と、ドクター。
「う〜ん」と、ベラナ。
「効いたんだ」と、ドクター。「意識が回復しそうだ」
「ドクター」と、ベラナ。目をあけて、体を起こした。
「きみは」と、ドクター。「強力な神経性フィールドにさらされていた。
数時間意識を失っていたんだぞ」
「彼らだわ」と、ベラナ。
「彼らって?」と、ドクター。
「マキよ!生きてる!」
「ベラナ、ここはボイジャーだぞ、それは幻覚だ」
「全員殺されたと思っていたのに」
「コンピュータ、神経伝達物資レベルを10%増大」
「ピピ」と、コンピュータ。
「なにがあったの?」と、ベラナ。「彼は?ええ、わたしも」ベラナは
幻覚と会話した。
「ベラナ、わたしの言うことを」
「ムリさ」と、クワタイ。「あんたの声は耳に入らない」
ベラナは、気を失い、ドクターに、またベッドに寝かされた。
「イヤなことは、聞こえないんだ」
◇
ブリッジで倒れているジェインウェイ、トムパリス、ハリー。
医療室。
ドクターは、コンソールで調べていた。
「やつは、知らないあいだに近づく」と、クワタイ。ひとりつぶやいた。
「そして静寂のうちに、オレたちを食っちまうんだ。ノカロと同じやり
方だった。ほぼ3千人の仲間が、ほとんどが家族だ、オレの家族もいた、
新しい移住先を捜していたんだ。だが、彼らはモンスターに出会っちま
った。そしてやつに、望み通りのものを見せられた。新しい星、緑のパ
ラダイス。オレが救難信号に応答したときには、エンジンの噴射音だけ
が、かすかに聞こえて来ただけだった。39年前のできごとさ、オレは
39年間も追い掛けて来たんだぞ!」
「分かったよ」と、ドクター。「これ以上暗くなる話は結構!」
「どんなやつを相手にしているか、説明してやってるんだぞ!」
「わたしにも少し分かって来たよ。バイオスキャンから判断して、有機
体は、39年より長く生命体を食い続けている。少なく見積もっても、
20万才にはなっているはずさ」
「頭のいいやつほど、長生きをするんだ」
「わたしはそんなに生きたくはない。敵は高度に進化した本能に動かさ
れている。なんらかの感覚は感知できない」
「インテリってことか?クルーにあんたのホログラムを停止させるほど
頭がいいってことだよ」
「わたしのことは放っておいてくれ」
閃光を受けて船がゆれた。
「セブン!」と、ナオミ。医療室の奥のベットから身を起こした。
「ここだ」と、セブン。診療コンソールからやって来た。
「まだ、モンスターの中なの?」
「ああ、だが、かならず抜け出せる」
「これだぁ!こいつだよ、こいつが欲しかったんだよ」と、クワタイの
声。
セブンは、彼がコンソールを見ているところへ行った。
「この武器室にある、クラス9の魚雷さ。ボイジャーを移動させるんだ
よ。モンスターの消化管のずっと奥の方にな。そこで魚雷を一発爆発さ
せれば、やつを潰せるかもしれない」
「宇宙艦隊では、生命体を殺す習慣はないんだ」と、ドクター。
「相手があんたを殺そうとしていてもか?」
「モンスターを2・3時間、徹底的に調査できれば」
「そんな時間はない」と、セブン。
「やつを殺す!」と、クワタイ。
ドクターは、立ち止まって、こちらを向いた。「別の方法を思いつい
た」
「どんな方法だ?」と、セブン。
「生きた有機体なら、本能的に体内の異物を外に排出しようとする。ボ
イジャーを少しまずく味付けできればいいんだ」
「おまえの武器は、テトリオンベースだったな?」と、セブン。クワタ
イに。「ボイジャーのワープコアから反物質を放出させて、それを爆発
させれば、電解質反応が起きる」
「それでボイジャー、まずくなるの?」と、ナオミ。ベッドから出て来
た。
「ひょっとしたらな」と、クワタイ。
◇
転送室。
ドクターがクワタイを案内して来た。
「自分の船に転送されたら」と、ドクター。「船のシールドをこの周波
数に修正しろ」ハンディパネルをクワタイに渡した。「生命物質放電に
対して抵抗力が付く」
「おまえさんは、なんでもよく知ってる」と、クワタイ。「薬や宇宙生
物学、シールド調整」
「わたしはプログラムの再生だけどな」と、ドクター。転送台から降り
て、コンソールの前に。
「オレの船にも来てもらいたいよ。モンスターだって、プログラムの心
を操るのは手こずるだろうからね」
「生涯を復讐に捧げるか?遠慮しておく」
「モンスターハントに人生を捧げるのも悪くないと思うがね」
「はっきり言っておくが、わたしは医者だ、ドラゴンバスターじゃない。
人殺しをするようにプログラムされてはいないんでね」
「残念だな」と、クワタイ。転送されて行った。
◇
巨大生命体の内部を進む、ボイジャーと小さなひとり乗りの宇宙船。
メイン機関室。ドクターがメインコンソールを叩いていた。
セブンが入って来た。「クアタイは準備完了」
「ブリッジのコントロールを機関室に移した」と、ドクター。「オペレ
ーション、戦術、航行、すべてひとつに統合した」
「効率的だ」と、セブン。
「気に入ってよかった」と、ドクター。ワープコアコンソールに移った。
「進路を有機体の食道開口部に設定した」と、セブン。「反物質の放出
準備を」
巨大生命体の内部を進む、ボイジャー。
「船体の能率が、また、30%落ちた」と、セブン。「ドクター」
「こちらは準備オーケー」と、ドクター。
「ボイジャーよりクアタイ、発射準備」と、セブン。
「待ってくれ、待ってくれ、まずいな」と、クワタイ。
「どうした?」と、セブン。
「さっきの揺れの衝撃で、こっちの標的センサーが不安定になっちまっ
たよ」
「ボイジャーの標的センサー配列を接続できる」
「心配ない、オレの船は大丈夫だ。機嫌を損ねただけさ」と、クワタイ。
センサーの調整を終えて、操縦席についた。「いいぞ!」
「わたしの合図で排出させろ」と、セブン。ドクターに。「今だ」
ドクターはボタンを押した。
ボイジャーから反物質が放出され、クワタイの宇宙船がレーザー砲で
爆発させた。
「なかなかおいしいだろう?」と、クワタイ。
「消化管に新しい収縮を感知した」と、ドクター。「効いている!今、
食道を移動中だ」
「ボイジャーは外に出た」と、セブン。「有機体から3・9キロ、離れ
た位置にいる」
「たった一度の放出で?」と、ドクター。「からだが大きい分、腹痛に
耐える抵抗力も弱い」
「クワタイの船も抜け出たようだ」と、セブン。
「呼び掛けて!」と、ドクター。
セブンは、通信コンソールから、クワタイの船内を出した。
「なぜ、さっさと2度目を噴出させないんだ?」と、クワタイ。
「有機体から抜け出た」と、セブン。
「おまえさんはだまされている。まだ、オレたちはやつの腹の中だ」
「ほんとうだ」と、ドクター。「生命物質エネルギーを感知した」
「わたしは、生命体の影響は受けないはずだ」と、セブン。
「たしかに、前はそうだった」と、ドクター。「地球に帰還するという
幻想を見せられたとき、きみには、帰りたいという気持ちはなかったが、
今回は、逃げるという全員の望みが一致する」
「よく考えてみろ」と、クワタイ。「やつはおまえさんの望み通りのも
のを見せてくれるんだよ」
「セブン!」と、ドクター。
「もう一度、反物質を噴出する」と、セブン。やっと気を取り直した。
「今だ!発射!」
「よおし!」と、クアタイ。
巨大生命体の口が開き、そこから噴出された反物質の燃えカスととも
に、ボイジャーとクアタイの船が吐き出さされた。
「ついに出た」と、クアタイ。
「確かか?」と、セブン。
「生命物質反応はない」と、ドクター。「今度はほんとうだ」
「規定領域脱出、ワープ最大」と、セブン。
「クルーたちを見て来る」と、ドクター。出て行った。
「オレはもう行くよ」と、クワタイ。「いろいろ助かった」
「エンジンが相当ダメージを受けてるはずだ。力を貸そう」と、セブン。
「時間がない。モンスターはすでに進路を変えている。修理は自分でで
きるさ」
「修理にはなん日もかかるぞ」
「オレのことは心配しなくてもなんとかなる。あまえさんたちも、早く
故郷に帰れるように、これからも、食虫植物には気をつけて!」
エピローグ
ブリッジ。
ジェインウェイは、起き上がった。「今、どこなの?」
「まだ、デルタ宇宙域です」と、トムパリス。
「すぐ、あのワームホールを捜して!」
「消えました。センサーには映りません」
「艦長」と、ハリーキム少尉。「ブリッジのコントロールが機関室に移
動しています。オペレーションから戦術、航行、すべてです」
「ブリッジより機関室」と、ジェインウェイ。
「はい、艦長」と、声。
「セブン!そこでなにしてるの?」
「ドクターが説明する」と、セブン。「朝までには、完全な報告書を仕
上げる。再生したあとには」
「艦長日誌、宇宙歴52542・3。生命物質有機体に注意するよう、
警告として、ビーコンを配置し、コースをふたたび地球に設定。ほんと
うの故郷へ」
◇
天体測定ラボ。
ナオミがひとりでコンソールに向かっていた。
「ナオミワイルドマン」と、セブン。ラボに入って来た。
「大丈夫よ、入室許可は取ってあるから」と、ナオミ。
「だれから?」
「ママよ。地球のことをもっと学ぶようにって」
「なるほど」スクリーンには地球が映っていた。「この画像を見て、地
球に帰りたいという気持ちが強くなったか?」
「そうでもない」
「わたしも同感だ、特別、目を引かない」
「でも、ママは大好きなの。ニーリックスさえ帰りたいって。そう悪い
ところでもないかも」
「故郷に帰りたいという強い決意があれば、いつかきっと地球の良さが
分かるだろう」
◇
クワタイの宇宙船。
センサーの調整を終えると、クワタイは腕を組んで、スクリーンに広
がる巨大生命体を見ながら、ため息をついた。
ふたたび、白鯨のように、巨大生命体に立ち向かってゆく、クワタイ
の宇宙船。
(第五_四_二話 終わり)