カトゥーニスト
          原作:フレドリックブラウン、マックレイノルズ
          アランフィールド
           
            プロローグ
             
 ビルカリガンの郵便箱には6通の手紙があった。どれも小切手でない
ことはひと目で分かった。自称ギャグ作家から送られて来た、ギャグの
ようなもの。似たりよったりで、精彩を欠くもの。
 手紙はすぐ開封しないで、スタジオと呼んでいるレンガ造りの家に運
んだ。評判の悪いハットは、石油ストーブの上に投げた。キッチンチェ
アに足をねじって、食卓兼書斎机のぐらぐらするテーブルの前に座った。
 ギャグが最後に売れてから、長い時がたった。望むのは、この中にしん
にヒットするギャグがあること。奇跡が起こること。



 

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 最初の手紙をあけた。オレゴンに住む若者から、ふつうの便箋びんせんに書か
れた6つのギャグ。もしも気に入ったのがあったら、彼が仕上げるだろ
う。もしも売れたら、若者は1パーセントをもらう。ビルカリガンは最
初のものをあけた。こう書かれていた。
 
 男と女が車でレストランへ行った。看板にはこうあった。
「ハーマン・ザ・イーター」
 レストランの窓越しに人々がキャンドルライトで食事していた。
 男「ウ~、ここは食べるにいい場所だ!」
 
 ビルカリガンは、うなり声を上げ、次のカードを見た。そして、次の
カード。そして、次。次の手紙をあけた。そして、次。
 ここは年々、悪くなって行った。カトゥーニストにとって、住むには
タフな場所だった。南西部の土地代の安い小さな町に住んでいても、同
じことだった。一度滑り出したら、ものごとはさらに悪い方へ、悪循環
陥っおちいた。マーケットが大きくなっても、スタッフは年々少なくなって、
優秀なギャグ作家は、自分の作品をどこか別のところに送り始めた。滑
り止めをしてもさらに悪くなって、残り物で満足するしかなくなった。

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 最後の手紙の最後のものをあけた。こう書かれていた。
 
 ほかの惑星の1シーン。恐ろしい怪物たち、皇帝スヌークがお抱えの
科学者たちと話している。
皇帝「そう、あんたらの作った地球に行く方法は分かった。しかしだれ
が、そこに住む身の毛もよだつ人類に会いたがるのだ?」
 
 ビルカリガンは、考え深げに鼻先をかいた。可能性はある。実際、サ
イエンスフィクション市場は、信じられないくらい大きくなって来てい
る。この地球外の生物をギャグになるくらい恐ろしくければ━━━。
 エンピツと紙を出して、ラフスケッチをき始めた。皇帝と科学者た
ちの最初のバージョンは、まったく醜くみにくなかった。紙を丸めて、別の紙
を出した。
 
               ◇
 
 いたものを見てみよう。怪物たちには、それぞれ3つの頭。頭には
6つの突き出た突起の先に、ぎょろぎょろ目玉。6本のずんぐりした手。
う~む、悪くない。長い胴、短い足。前の4本は同じ方向に、後ろの2
本は別々の方向を向いている。外にひらいた足。顔はどうか、6つの目

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は外側に?目の下は、ブランクのまま残しておく。口は、大きいやつ、
胸の真ん中にある。そうなると、頭は食べるためにあるのかどうか、議
論する余地はなくなるだろう。
 背景に数本の線を引いた。彼は、自分の作品を見下ろした。上出来だ
った。かなりいい。編集者たちは、おそらく、読者があまりに吐き気を
もよおしてこのような恐ろしい怪物を直視することができない、と考え
るだろう。だが、できる限り恐ろしくけなければ、ギャグは失敗に終
わる。
 実際、もう少し恐ろしくできるだろう。やってみて、なんとかできそ
うだった。
 このギャグからできる限りのものすべてを引き出したと確信するまで、
ラフスケッチをいた。手紙から見出したもの、ギャグが滑り出した数
ヶ月前までは、ベストな作品をマーケットに提供してきた、そのような
ものができるまで。ギャグが最後に売れたのは、2ヶ月以上前だった。
しかし、これは売れるだろう。編集者のロッドコリーは、ちょっと奇妙
なかんじの彼のカトゥーンを気に入っていた。





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            2
 
 ビルカリガンは、6週間後に返事が来るまで、ロッドコリーにラフス
ケッチを出したことをほとんど忘れていた。
 その手紙をあけた。ラフスケッチが入っていて、横に大きく赤字で
「オーケー、仕上げて!」と、なぶり書き、下に「R・C・」とイニシ
ャルがあった。
 彼はまた食べてゆける!
 ビルは、テーブルの上の食べものや本や衣服など、あれらこれらを片
付けた。そして、紙に鉛筆、ペンとインクをそろえた。
 ラフスケッチを、ミルク缶と汚れた皿の間にピンで留めた。それを見
つめ、最初にアイデアを思いついたときの自分の状態に戻るまで、集中
した。
 彼が仕事をしたのは、ロッドコリーのマーケットが手が届く範囲でベ
ストだったからだ。収入を稼げる唯一の場所だった。もちろん、トップ
のマーケットなら名前の売れたカトゥーニストにはもっとカネを出した
だろう。確かに、彼にもトップをねらうチャンスはあるが、うまくゆき
そうになかった。今は、食べてゆけるだけ稼ぐことから始めるしかなか
った。
 仕上げるのに2時間かけた。慎重にカードボードに梱包して郵便局に

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持って行った。それを投函して、満足気に手をこすり合わせた。銀行に
カネが入れば、おんぼろ車の壊れたトランスミッションを直して、また
車で出かけられる。食料雑貨が買えるし、預金もできる。唯一の心配は、
R・C・の支払いが遅いことだった。
 実際、小切手は、そのカトゥーンが載った雑誌が発行されて駅のスタ
ンドに乗るまで送られて来なかった。しかしその間、商業雑誌に2つの
小さな仕事ができて、空腹になることはなかった。それでも、送られて
来た小切手を見るのは、すばらしかった。
 郵便局へ行くついでに、銀行でカネにかえて、立飲み屋のセイジブラ
ッシュタップで軽く2杯引っ掛けた。じつにうまく、幸せな気分で酒屋
に寄ると、メタクサのボトルを手にとった。もちろん買うことはできな
かったが━━━誰が買える?━━━祝いの気分は味わえた。
 家に帰ると、ギリシャブランディをあけた。2杯だけ飲むと、イスに
彼の長いからだを乗せた。ぐらぐらするテーブルにり減った靴をあて
て、真に満足したため息をついた。明日になったら二日酔いで、使った
カネを後悔するだろう。しかし、あしたのことは、あした考えればいい。
 手をのばして届く範囲の汚れたグラスをとると、きつい1杯を注いだ。
たぶん、と彼は考えた、名声というのは、魂たましいかてであって、自分は有名
なカトゥーニストではなかった。しかしこの昼間の時間は、少なくとも
カトゥーンをいて、酒を浴びれるわけだ。

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 グラスを唇まくちびるでもって来て、そこで止まった。目を大きく見開いた。
 彼の前のレンガが輝いたかと思うと、細かくれた。それから、ゆっ
くりと、小さな裂け目が現れた。それは、広がって、大きくなり、あい
た。突然、それはドアの大きさになった。
 ビルは、ブランディの入ったグラスを疑わしそうに見た。ヘル!と自
分に言った。ほとんど飲んでないのに!壁に現れたドアを、信じられな
いように見た。地震だったこともありうる。
 事実、そうに違いない。あるいは━━━。
 
               ◇
 
 ふたりの6本腕の生き物が現れた。それぞれ3つの頭があり、頭には
6つのぎょろぎょろ目玉。4本足で口は胸の真ん中━━━。
「なんてこった!」と、ビル。
 生き物はそれぞれ、がっしりした銃のようなものを持っていた。どち
らも、ビルカリガンをねらっていた。
「あんたたち」と、ビル。「確かに、この酒はもっともきつい酒のひと
つだが、2杯くらいで、酔うはずはない」

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 怪物たちは彼を見つめ、肩を震わせた。ふたりとも18ある目を1つ
を除いてすべて閉じた。
「ほんとうに恐ろしい」と、先に裂け目から入ってきたやつ。「恒星系
でもっとも恐ろしい生物だ。そうだろ、アゴール?」
「オレが?」と、ビルカリガン。かすれた声で。
「あんただ。しかし怖がらないでいい。傷つけるために来たのではない。
あんたを、偉大なボンフィヤ3世、皇帝スヌークのところにお連れする
ために来たのだ。そこで、あんたは賞にふさわしいかテストされる」
「どうやって?なんのために?どこだって?スヌーク?」
「1度に質問は1つにしてくれないか?オレは3つの頭を使って、同時
に3つの質問に答えられるが、あんたはどうも、マルチコミュニケート
機能をそなえているようには見えない」
 ビルカリガンは目を閉じた。「あんたは確かに頭は3つだが、口は1
つしかない。1つの口でどうやって3つのことをしゃべれるのだ?」
 怪物の口が笑った。「オレたちは口を使ってしゃべると思ったのか?
オレたちは、笑うときだけ、口を使う。食べるときは、しみ込ませる。
しゃべるときは頭の先にある膜をふるわせる。さっきの3つの質問の、
どれに答えて欲しいのか?」
「賞は、どうやって?」
「皇帝は話してくれなかった。しかし、その賞はとても名誉な賞だ。あ

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んたをお連れするところまでが、オレたちの仕事。武器は、あんたが抵
抗しないようにするためのただのおどしだ。殺しはしない。オレたちは
文明が発達していて、殺したりはしない。気絶させるだけだ」
「あんたらは、ほんとうにそこにいるのか?」と、ビル。目をあけてか
ら、すばやく閉じた。「今まで、マリファナをさわったこともない。精神
錯乱もない。たった2杯のブランディで突然こんなことになったことも
ない。バーで飲んだのも入れると、4杯だけれど」
「いっしょに来る準備は?」
「行くって、どこへ?」
「スヌークのところ」
「どこにある?」
「逆行システムK=14=320=GM、宇宙連続体1745=88J
HT=97608の第5惑星」
「ここから見たら、どこ?」
 怪物は6本の腕の1つでジェスチャーした。「あんたの壁の裂け目を
通ればすぐ。準備は?」
「まだ。オレがもらえる賞はなに?そのカトゥーンのこと?それをどこ
で見た?」
「そう、そのカトゥーンが受賞した。オレたちは、あんたたちの世界や
文明にとても馴染 なじみがある。あんたたちの世界はオレたちの世界と平行

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宇宙になっている。ただし、連続体が異なる。オレたちはユーモアのセ
ンスがとても高い人々だ。オレたちは芸術家はいるが、カトゥーニスト
がいない。その能力が欠けているようだ。あんたがくカトゥーンは、
オレたちにとって、ひどく苦しいほどおもしろい。すでに、スヌークに
いるすべての人がそれを見て笑っている。準備は?」
「まだ」と、ビルカリガン。
 ふたりの怪物は、銃口を上げた。同時にクリック音がした。



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「気がついたかね?」と、声。「ここを行けば、王の間。どうぞ」
 特に飾りのない廊下だった。ビルは歩いて行った。彼はここにいて、
ここはどこかで、たぶん、やつらは賞をくれる。彼らしくふるまえば帰
らせてくれる。
 その室は馴染 なじみのあるものだった。前に彼がいたものそのままだっ
た。皇帝はここにいるような気がした。皇帝だけでなく、いっしょに来
た科学者たちも。
 彼がいたシーンや生物が、実際に存在するものと一致するなんてこ

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とが、ありうるだろうか?前にどこかで読んだことがあった。無数の時
空連続体に応じた宇宙も無数にあって、その結果、想像した世界が、ど
こかで実際に存在しているらしい。その話を読んだときはバカらしいと
思ったが、今は、そうではなかった。
 どこからか声がした。まるで膜が振動しているかのように響いた。
「偉大なる皇帝、ボンフィヤ3世、信頼のおけるリーダー、栄光の戦士、
光の申し子、銀河の帝王、人民から愛される王」
 声は止まったので、ビルは言った、「ビルカリガン」
 皇帝は笑った。彼の口で。
「ありがとう、ビルカリガン」と、彼。「オレたちに日々、ベストな笑
いを届けてくれた功績に対して、ここにあんたを表彰する。これより、
あんたは、ロイヤルカトゥーニストの地位につく。この地位は、ここに
はカトゥーニストがいなかったので、いままでは存在しなかった。あん
たの唯一の義務は、毎日1つのカトゥーンをくこと」
「1日1つ?しかし、どこからギャグを?」
「オレたちが提供する。オレたちには優れたギャグがある。みんな、鋭
いギャグのセンスの持ち主。クリエイティブで優秀。しかし、オレたち
は断片的にしか描けない。あんたはこの惑星で一番偉大だ。オレのつぎ
に」彼は笑った。「たぶん、すぐにオレより有名になる━━━真に好か
れてるのはオレだけれど」

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 「オレは、オレはできないと思う」と、ビル。「むしろ、戻りたい、
つまり、支払いは?しばらくやって稼いだら、カネをもらって、あるい
は、その対価物をもらって、地球に戻りたい」
「支払いは、あんたのゴージャスな夢のはるか上を行く。欲しいものは
なんでも手に入る。1年契約で始めることもできる。1年後に、望めば、
生涯契約に変更できるオプションも付けて」
「そう」と、ビル。ゴージャスな夢のはるか上っていくらなのだろう?
金の延べ棒をかかえて、地球に戻る自分の姿を想像した。
「受け入れてくれるよう、促しうながたい」と、皇帝。「あんたがいたすべ
てのカトゥーンは、希望すれば、1日1つ以上くこともできる、惑星
のすべての出版社が出版する。そのすべてからロイヤリティが入る」
「出版社の数は?」
「10万社以上。200億の人々があんたのカトゥーンを読む」
「それなら」と、ビル。「たぶん、1年はトライしてみたい。しかし、
う~」
「なに?」
「ここで、どのようにやって行けるのかな、カトゥーンをく以外で。
つまり、肉体的に、オレはあんたが恐ろしい、同じくらい、あんたもオ
レが恐ろしい。それで、オレには友人ができない。ぜんぜん友人ができ
ないなら、つまり」

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「そのことなら、すでに解決済みだ。あんたが受け入れてくれることを
予想して、あんたが気を失っているあいだに。うちには、どの宇宙より
も優秀な物理学者と整形外科医がいる。うしろの壁は鏡になっている。
振り返れば━━━」
 ビルカリガンは振り返った。そして気を失った。





            エピローグ
 
 ビルカリガンの1番目の頭は、カトゥーンをくのに集中していた。
最初からインクを使い、もう、ラフスケッチはかなかった。同時にさ
まざまな視点から作業ができるので、目のマルチプリシティ機能を使う
までもなかった。
 2番目の頭は、自分の銀行口座の巨額な残高や、ここでの権力や人気
ぶりについて考えていた。そう、カネは銅で、この世界では銅が重要な
金属だった。売り買いするに十分な銅があり、将来は、地球でさえ売る
ことができた。悪いことに、と2番目の頭は考えた。権力と人気ぶりは

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持ち帰ることができなかった。
 3番目の頭は、皇帝と話していた。皇帝は、このところ、よく彼に会
いに来た。
「そう」と、皇帝。「明日が契約期限だ。オレは、あんたに残ってほし
い、残ってと説得したい。もちろん、あんた次第だ。強制はしたくない
ので、ここの整形外科医が、あんたをもとの━━━お、おそろしい姿に
━━━戻してくれる」
 ビルカリガンの口は、胸の真ん中だが、ニヤリとした。評価されるの
はとてもすばらしかった。彼の4冊目のカトゥーン全集は、発売された
ばかりで、この惑星だけで1000万冊売れた。さらに恒星系の別の惑
星にも輸出される。それはカネではなかった。すでにここで一生暮らし
てゆける額以上のものを稼いだ。3つの頭と6本の腕の便利さは、さる
ことながら。
 1番目の頭は、カトゥーンから目を上げ、秘書の方を見た。彼女も彼
を見て、目玉軸を恥ずかしそうにしなだれた。彼女はとても美しかった。
彼はまだ彼女になにも言っていなかった。地球に戻るのかどうか、決心
するときだった。2番目の頭は、元の惑星にいたころに知り合いだった
女のことを考えた。彼は身震みぶるいをした。すぐに、その女のことから考え
をそらした。おおなんて、その女は恐ろしい姿だったのだろう!
 皇帝の頭の1つが、書き上げたばかりのカトゥーンを見た。そして、

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口を痙攣けいれんさせながら笑っていた。
 そう、評価されるのはすばらしかった。ビルの1番目の頭は、トゥウ
ィルを見ていた。彼の美しい秘書。そして彼女は、彼に見つめられて、
顔を美しいに染めた。
「では、友よ」と、ビルの3番目の頭は皇帝に言った。「よく考えよう。
そう、よく考えよう」
 
 
                            (おわり)












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