発酵はっこうしたインク
          原作:フレドリックブラウン
          アランフィールド
          もくじ
           
        ふとりすぎのふくろうにささげる歌      
        間奏曲 かんそうきょく                
        ギフト                 
        きなれないセレナーデ         
        モダンメロディ             
        ラプソディ               
        オーチュア               
        ロマンス                
        ミッドナイトソナタ           
        ゆっくりと目覚め ざめる           




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太りすぎのふくろうに捧げる歌
            Ode to a Stuffed Owl
太りすぎの ふくろう  The stuffed owl
遠ぼえも        Does not howl、
うなりも しない    Or yowl。
飛ぶとき        When flies
目の光         Light on its eyes
またたきも       It doesn’t blink
ウィンクも しない   Or wink、
止まり木から      Nor from its perch
ねずみに向かって    Does it lurch
滑空かっくうも しない    Into mouseward flight
夜に          At night。
うまく いった?    Right?
 
そいつは しゃべらず  It never talks
歩かず         Or walks、
わず         Begs、
卵を 抱かず      Or lays eggs。
交わらず        It has no sex

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3
























































おこらさず        To vex
こまらさず        And perplex
それが いつものこと  Its schemes、
けれど その夢は    But its dreams
きっと いっぱい    May be many
(あるとしたら)    (If any)、
その夢は        Its dreams
きっと いっぱい    May be many。
 
 
 




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5
























































間奏曲
 
それ以来 イヴォンヌ   Since then、Yvonne、
消えた翼に年月は流れ
彼らに会うことなく
奇妙な月の夜
オレは彷徨さまよった
刈られた牧草地を抜け垣根を越え
背の高いとうもろこし畑を裂いて抜け
泥水の流れを泳ぎ
前へと進んだが
どこにも辿たどり着けず
救えるものはなにもなく
青ざめた夜明け
 
だが かつて
あまりに自由にワインを飲んで
垣根にとまって4年の暗闇を見た
しゃがれ声でかぁかぁ鳴きながら
彼らに向かってって行くと

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7
























































飛び去った
禿鷹はげたかの翼で
戻って名前を呼んだ━━━いとしのアデリン
                  Sweet Adeline。
彼らがあんたのことを話していたことを知った
 
カーブで
飲み屋のすぐ外
5人で腕を組んであんたのことを歌った
甘く悲しく
オレのバリトンはよく響いて
大粒の涙がほおを伝って流れ
楽しかったことを思い出し魂は清められた
もう少し泣くためにカーブで座っていた
だがひとりが家へ送ってくれた
名前はジョージ     his name was George。
リノリウムを       He sold Linoleum
シカゴの会社に売っていた For a Chicago firm。



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     ギフト
      
     高い壁に囲まれた庭から
     たくさんのギフトを送る
      
     きらきら光る白
     人気獲得のための13手を述べたパンフレット
     最もはかない花びらのブルーの花
     タイトルマッチのチケット2枚
     砕いた象牙の入った香り付きタバコ
     ビザンチン風ローマ硬貨
     背面がそろった4組のトランプ
      
     つまらぬ物と思われないように
     みんなに愛を
     売ったり交換に出したりしないこと
     10月19日まで




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     聞きなれないセレナーデ
      
     高い風が地球の顔をでた
     芝生はその前に頭を下げ
     木々はおごそかな祈りに枝を曲げる
     暗黒の雲は夏の空を横切り
     んだ月は恥ずかしそうにかさかく
     見られることを避けてこちらを見ている
     腕には腕を そして風にもたれる
      
     この囁かささやれた言葉はオレの唇から盗まれた
     風から生まれ雲にまれた
     耳から聞こえず目を閉じる
     静かな喜び なんて言ったのかは分からない







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     モダンメロディ
     (オーボエとスネアドラム3台によるスローな曲に合わせて)
      
     夜明けまで座って
     2階の話声が
     安い酒を包んで
     叫び声が聞こえる
     半分服を着た女の
     においを通して
     そしてジンの誘惑
     愛を歌い
     神秘的な月
     6月の
      
     ピアノを弾くのんだくれ
     目で調子を取り
     音を叩き
     バッハの曲をこわした
      
     カネを払って

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     シープディップというビールに
     むだ話をして
     あれやこれの
     あんたのハットを通じて
      
     悲しみを集め
     2階の話声に
     安堵あんどを感じ
     あんたがドアを閉めたとき
     しかしまた戻ってくる
     もっと多くのことに










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     ラプソディ
     あんたに手紙を書こう簡潔に単純に
     地球風言語で
     子どもが子どもに話すように
      
     道に沿って関節がはすれ掛けたように歩く男を見た
     腕にかかえた布のバッグにバイオリンを入れて
      
     ブルーのキャリコをまとった少女を見た
     鉄道の駅で雑誌を読もうとしていたとき
     彼女は時計の長針と短針が到着時間に近づくのを見ていた
      
     すきを馬で引いて畑を耕す男を見た
     汗の小川が男の額とひたい馬の腹から同じように滴りしたた落ちていた
      
     裏のポーチでやせた女と話している太った女の声を聞いた
     550の葬送用語を使って生と死を流暢にりゅうちょう語っていた
      
     夜が落ちるのを見た そして月や星は静かに光っていた
     木々や曲がりくねった道や人々の夢のない眠りの上に

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     オーチュア
     オレの知ってるネコは
     オーチュア 傲慢ごうまん
     身をかがめて
     ネズミを取ろうともしない
      
     木にも登らないし
     ノミもいないし
     そういう生活を送っている
     平和でおだやかな
      
     彼の血はブルーで
     彼もそれを知ってはいるが
     あんたにあえて
     話さない
      
     しかしたぶん
     少しほこりを失う
     彼の命はいのち
     オレにっていると知ったら

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     彼は目が見えなくなってしまうかも
     オレが親切でなくなったら
     それは彼は架空の存在だから
     オレの心の中の
      
     彼はもっと悪くなるかも
     あるいは棺のひつぎ中かも
     オレがそう書いたので
     この詩の中で











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ロマンス
 彼は 浅黒くがっしりした体で 目は顔のくぼみに炎が沈み込んだよ
うで 休んでいるときにも炎は燃えていた。細長い白い指がしっかりと
固く丸めた新聞紙をつかんでいた それは音楽か あるいはモーニング
トリビューン紙に包まれたソーセージだった
 
 彼女は きゃしゃでかよわく ドレスは吊るされて売られもしない少
し流行遅れだった。目はブルーの氷だった 彼女が乗っている路面電車
が 彼が音楽かソーセージをつかんで立っている場所に停まるまでは 
二人の目が合った ブルーの氷は解けたように見えた 電車は鉄のレー
ルの上の車輪をガタガタ音を立てて動かすと 交差点でがらんと鳴った
 彼女の手は電車が動き出したときに自分の胸をつかんだ
 
 彼女は二度と彼に会わなかった しかし雑貨チェーン店の経営者で子
どもののろいを信じている夫の横のベッドで 夜 しばしば彼のことを
思い出し あれは音楽を丸めたものだったのか あるいはモーニングト
リビューン紙に包まれたソーセージだったのかと疑問に思った
in the night、whether it had been
a roll of music、or a sausage
wrapped in The Morning Tribune。

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     ミッドナイトソナタ
      
     ほうきを持った男
     夜に工場にひとり
     周りの機械は止まっている
      
     ほうきを持った男
     昼間の埃ほこりいている
     長い廊下に沿って
     タレット旋盤やマルチドリルのあいだを
     月は柔らかく光り
     埃がほこり散りばめられた天空の光のグラス
      
     ほうきを持った男
     ドリルヘッドで汚れた手を休める
     タバコを吐き出した
     発電機の影に




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     ゆっくりと目覚める
      
     絞首台で揺れている黒の影
     明るい空に
     白の麻ロープの玉子形の輪を通して
     驚くような夜明けが訪れる
      
     こんなふうにオレは
     夢と目覚めのあいだにいる
     するどい笑い声に驚き
     白のベッド支柱の
     規則正しいゆっくりとした白のアーチ
     女の太ももの
     白の牛乳ビンの死の音
     汚れたセメントのドア階段の上に
      
      
      
                            (終わり)


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