死んだ夫
          原作:フレドリックブラウン
          アランフィールド
           
            プロローグ
             
「ジンだ、エド!」と、叔父のアム。カードを見せた。「ゲームに勝つ
こつが知りたい?」
 オレは、そろってないカードを見せて、言った。「また、ビッグゲーム
だった。まだ、計算してない」オレは、数字を足し合わせた。「438
ドル。今までの分に加えると━━━あんたに、8620ドルの借りだ。
ほんとうにオレに取り立てるつもり、アム?」
 もしもそのとおりなら、大金だった。しかし、もちろん、そうでなか
った。
 




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            登場人物
             
エドハンター:元印刷工、叔父アムといっしょに探偵事務所を始める。
アムハンター:エドの叔父、カーニバルをやめて、私立探偵をやる。
ベンスターロック:スターロック探偵事務所の所長、元探偵。
ジェイソンロジャース:13年間、市の会計係、死後、使い込みが発覚。
ワンダロジャース:ジェイソンの娘、スターロックの受付嬢に応募。
ジョンカルスティヤ:ジェイソンの友人、弁護士。


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 1点が1ドルで計算したスコアを記録しておいて、もしも借金が1万
ドルになったら、いいレストランで食事をおごり、そのあと、見たい芝
居をシカゴでやってれば見に連れて行く、芝居がなければ、それほど高
くないナイトクラブで楽しく遊ぶ。それで1万ドルの借金は帳消しにし
て、ジンラミーの勝負を最初から始める、借金の額が1万ドルになるの
は、2か月に1度くらいで、オレたちは、そうたびたびは町の夜に繰り
出せなかった。
 アムは、腕時計を見た。「外に出て食事に行く?それとも、もう1ゲ

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ーム?」
 オレは、もう1ゲームに賛成だった。腹はまだ減ってなかった。その
とき、電話が鳴った。アムが受話器を取って、言った。「ハンター&ハ
ンター探偵事務所」
 それから言った。「ちょっと待って、ベン!エドは、ここにいる。も
う1つの受話器を取ってもらう、そうすれば、同じ話を2度しなくて済
む。オーケー?」
 アムはうなづいたので、オレは外側のオフィスに行って、デスクにあ
るもう1台の受話器の方へ向かった。それを取る前に、ハンター家につ
いて説明した方がよい。そこにベンも登場する。
 オレは、エドハンター、20代半ば。アンブローズハンターは、40
代半ば━━━小柄で、がっしりして、頭が良い━━━は、オレの父の弟
で、生きている唯一の親戚だった。長い間、カーニバルで働いていた。
オレが18のときに、父が死んだあと、オレはカーニバルにころがり込ん
で、叔父のアムといっしょに2シーズン働いた。それから、オレたちは
カーニバルをやめて、シカゴに戻って来た。アムは、カーニバルで働く
前に、私立探偵をしたことがあって、ベンスターロックの仕事を得た。
ベンは、かなり大きい探偵事務所を経営していて、オフィスもあって、
通常は10人から12人の探偵がいた。しばらくしてから、オレが21
になって、アムは、エドも探偵として雇ってくれとベンに頼んでくれた。

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ベンの仕事を2年やって、貯金もできたので、オレたちの探偵事務所、
ハンター&ハンターを始めるというギャンブルに出た。それが2年前。
しばらくは赤字続きで、それからトントンになって、今では黒字で、金
持ちにはなれそうにはないが、なんとかやっている。
 ベンスターロックとは友好的な関係を保っていて、彼のところの探偵
ではこなせない量の仕事が舞い込んだら、オレたちに一部を回してくれ
た。逆のこともあった。探偵事務所をやってゆくのは、そんなもんだ。
なん日か、場合によってはなん週間もすることがなかったかと思ったら、
突然、もっと多くの探偵が必要な仕事が舞い込んで来る。スターロック
のような大きな軍団でも、ハンター&ハンターのようなふたりでやって
るところでも。ほとんどすべての探偵事務所は、1つか2つのほかのと
ころと緊急時のために手を結んでいる。
 
               ◇
 
 オレは、外側のオフィスのデスクのはしに座った。そのデスクは、オレ
たちが赤字から抜け出て、もう一つの受話器用に買った、速記タイプか
簿記係あるいは受付用のデスクに使われていたものだった。
「ハイ、ベン!」と、オレ。「3方向につながった。射撃開始!」
「ふたりは、ヒマ?」

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「いや、ベン」と、アム。「カネは欲しいが、今すぐは、別の仕事があ
る。あんたの言う意味がそういうことなら」
 ベンスターロックは認めた。「最初に1つきたい。その答えが違っ
ていたら、仕事を出せないかもしれない。うちの事務所にいたのは、い
つだった?いっしょに、あるいは別々に」
「いっしょにだ」と、アム。「だいたい1か月前。とにかく、それがオ
レがいた最後だった。エドが、それ以外、そこへ行ったかは分からない。
行った、エド?」
「いや」と、オレ。「それが最後だった。しかし、それは、1か月でな
く、5週間か6週間前だった」
「受付のデスクには、だれがいた?」
 オレは、言った。「背の高い赤毛。名前は知らない」
「いいね」と、スターロック。ホッとして。「30分後に会える?ふた
りいっしょに」
「ああ」と、アム。「あんたのオフィスで?」
「とんでもない!だめだ。あんたたちがここに顔を出したら、仕事は、
なしだ!オレがあんたらの壁の穴へ出向く。ソロング」
 オレが、内側のオフィスのドアに戻ると、オレを見て言った。
「とんでもないって、どういうことだ?」
 オレは、ドアの横に寄り掛かって、言った。「分からない、アム?1

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つのことは確か、それは、彼のオフィスのだれかが、彼がオレたちにや
って欲しいことに含まれているということ。そのだれかは、オレたちを
見てないことが重要。そして、そのだれかは、1か月前から働いている、
オレたちをすでに見ていたのかどうか」
 アムは、うなづいた。「つまり、こういうことか?彼女は、すでにオ
レたちを見ていたなら、受付デスクの赤毛は、代わってなければならな
い。オレたちがいた最後まで、赤毛が受付にいたかどうか分かるまでは、
オレたちに仕事を出せるか分からない」アムは、電話が鳴るまで吹かし
ていた葉巻に、また火をつけた。「それなら、仕事が入るかどうか分か
らないことに、脳みそを無駄に使うのは損だ。30分なら、ちょうどジ
ンラミーもう1勝負できる、やるか?」
 オレは言った。「やらない方がいい。家賃の小切手も電話代の小切手
も、まだ、切ってない。この仕事がなんであれ、すぐ始められるように
準備した方がいい」
 オレは、外側のオフィスに戻って、仕事をこなした。小切手を郵送す
る準備をして、ほかにもこまごました仕事があって、スターロックが来
たときは、忙しくしていた。
 オレは、内側のオフィスに戻って、ベンには一番いいイス、クライア
ント用のイスに座ってもらった。アムがいた。「どんな仕事、ベン?」
「だいたい、今、4人の探偵に尾行の仕事をしてもらっている。しかし、

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その4人を今度の仕事に使えない理由は、かしこいあんたたちは、分か
っていると思う」
「ああ」と、アム。「どのくらい、彼女は、あんたのとこで働いていた?
1か月くらい?」
「そんなとこ。しかし、もう2日かも。土曜にやめるという届けを出し
たりしたので」
「それで、なにを疑っている?切手代を盗んだのではないな。ファイル
の情報かなにか?」
 スターロックは、頭を振った。いつものように、慈悲深い仏陀ぶっだのよう
な笑いを浮かべた。体は大きく、仏陀ぶっだのようで、額のひたい真ん中にほくろさ
えあって、ますます仏陀ぶっだの幻影を誘った。
 彼は言った。「彼女のことは、なにも疑ってない。特にファイルは、
彼女がアクセスできるところにはなかった。そうでなく、アム、あるク
ライアントから、彼女を調べてくれと言われた。彼は、4万6千ドルが
消えた事件について、彼女はなにか知っていると見ている。ジェイソン
ロジャース事件について読んだことは?」
「名前は聞いたことがある。しかし、エドにいて!このあたりのこと
には詳しいし、記憶力がいい。もしもエドが読んだことがあるなら、事
件の全体像を引用できる」
 スターロックは、オレを見た。「読んだことは、エド?どのくらい覚

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えている?」
「フリーランドの外の話」と、オレ。「外に住んだことは、ベン?」
 スターロックは、うなづいた。フリーランドは、クックカウンティの
すぐ外の小さな都市だった。正確には、シカゴの郊外ではなく、政治的
に独立しているが、シカゴで働く多くの人がそこに住んで、通っている。
「ジェイソンロジャースは」と、オレ。「フリーランドの市の会計係だ
った。2か月前」
「6週間だ」ベンがさえぎった。「続けて!間違っていたら、その都度、
修正する」
「6週間前、彼は殺された。車で引かれた。事故の詳細は知らないが、
殺害されたのではないと思う」
「そう、続けて!」
「彼は、外観上、よく知られていて、そこでは好かれ、長いあいだ会計
を任されていた。どのくらい、ベン?」
「13年間。2年ごとの選挙で改選され、7回続けて選ばれている。最
後の2回は、対抗者がいなかった。彼が殺されたときは、7期目の途中
だった」
「ああ」と、オレ。「とにかく、彼は良く思われていた。りっぱな墓に
埋葬され、新聞各紙では賞賛された。彼は、その死を嘆き悲しまれたジ
ェイソンロジャースだった。死後1週間までは。そのとき、会計検査で、

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使い込みが発覚した。しかし、オレには、46を越えた程度には思えな
い」
「そう違う、最初は」と、スターロック。「最初の推計は35。そのあ
と、さらなる不一致が見つかった。65がほんとうの合計だ。ほかに覚
えていることは、エド?」
「ただひとりの生き残りは、娘。名前は知らない。オレの推測では、彼
女があんたのオフィスに勤めている?」
「その通り、ワンダロジャース。そして、クライアントがウォキーガン
保険会社、ジェイソンロジャースの債権を5万ドル保有している。もし
も彼が横領で有罪になれば、46すべて支払わなければならない。裁判
が長期にわたって、そのあいだ、保険会社はずっと心配し続けなければ
ならない。現金で支払うことになったら最悪だ」
「どちらかに、証拠は?」
「まだ、どちらも見つけてない。監査役は、まだ、会計に携わっている
が、いくつかの書類は紛失していて、彼が、あるいは別のだれかがやっ
たということを絶対的に証明するのは難しい。しかし、彼は直接の担当
者で、彼に見つからないように多額のカネを横領するのは、別のだれか
にとってかなり難しい。よって、裁判所は、そのための強い推定があれ
ば、保険会社に責任があるという裁定を下すかもしれない。会社は、彼
がやってないということを証明したい。つまり、どこかにカネが見つか

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ればよい。どちらかに」
「会社は、彼が取ったとしたら、現金にして、使っていないと?そして、
娘がそのりかを知ってると?」
「今は、一方しか答えられない。現金化については、盗んだのなら、た
ぶん現金にした。彼の給与は年1万ドルで、生活レベルは、良かった。
もちろん、ギャンブルで全額スッたかもしれないが、自分のカネでさえ、
ギャンブルが好きだったということは知られてない。彼の知人が知る限
り、彼は、宝くじの的板からルーレットホイールに至るまで、なんのこ
とか知らなかったそうだ。そう、もしも彼が盗んだのなら、パウダーの
予備を買ったり、南アメリカかどこかで余生を送るために、現金にして
持っていた。それが事件だとして、彼の死後2週間で発覚した」
「あんたはどう見る?」と、アム。
「外部の会計事務所による、1年ごとの会計検査では、不足額はなかっ
た。去年の最終決算は、パスしている。つまり、カネは、そのあと消え
た」
「彼の死ぬ前は?だれか、彼の代わりに仕事を引き継ぐ者でも、だれか、
会計検査の前に先に調べて、彼の横領に気づけなかった?」
「だれも。会計検査は、彼が死んだ翌日から始まった。会計事務所がた
またま仕事があいて、ヒマだったので、待つ必要もないので始めた。し
かし、なにかで時間を取られ、1週間後にやっと、不足額が判明した。

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そのあいだ、会計作業は、停止していた」
「オーケー」と、オレ。「彼が取って、現金化したとしよう。どういう
理由で、娘のワンダが事件に関わり、カネのりかを知ってると?横領
者は、ふつう、自分のしたことを家族にべらべらしゃべったりはしない」
「その通り!しかし、今回のように、高額のカネが関わる場合、娘に、
なにかあったら持っていてほしいと思うかもしれない。なにかがたまた
ま起こった場合、作業を終える前に。この事件の場合、そのなにかがた
やすく起きてしまった。オレはそうだとは言ってない。その可能性があ
ると言ってるだけ。調査の結果分かったことが、1つあった。
 ジェイソンロジャースの弁護士であるジョンカルスティヤは、彼の法
的作業を担当していて、友人でもあった。彼の遺書は、カルスティヤの
金庫の中だった。死ぬ数か月前にも、封印された封筒をカルスティヤに
渡していて、そこには、彼の死後に彼女に譲渡する覚書が記されていた。
カルスティヤは、それを娘に、彼の死んだ翌日に渡した。彼女は、それ
を彼の目の前で開いたが、彼には読ませなかった。そこに、カネの
かが書かれていたかもしれない」
「そこになんて書かれていたと、彼女は言ってる?たぶん、かれたと
思う?」
「確かに!1週間後に不足額が明るみに出てから、かれた。彼女の話
は、筋が通っている。葬式のこと、どこに埋めて欲しいかといったこと

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が書かれていた。彼の望み通りに葬式をしたが、覚書は捨ててしまった。
それで、ほんとうにそうなのかは不明だ。まだ、ほかの可能性もあって、
彼女の言葉に疑問は残っている」
「うう、ふむ」と、オレ。「だいぶ分かったが、オレたちがなにをする
か聞く前に、1つ質問。彼女は、なぜ、今の仕事を?ただの偶然の一致?
しかし、父の死後、なぜそんなに早く仕事を始めた?彼の年収が1万ド
ルなら、いくらかの財産を残したのでは?」
「財産を残したが、多くはない。数千ドルに、ふたりが住んでいた家、
全部で1万ドル、もしも家が売れれば。しかし、しばらくのあいだは、
ふつうの場合より長く、財産物件として凍結されている。横領罪で有罪
になれば、そして、カネが見つからなければ、財産物件は、賠償の一部
として差し押さえられる。カルスティヤが執行官で、市の代理人は、裁
判が終わるまでは、ワンダに財産の一部でも渡さないように警告した。
それで、彼女自身の名義のカネも財産もなく、彼女を金欠の状態にして
いる、事件が解決するまでは。
 どうして、うちの仕事についたかだが、彼女には、たしか、2度会っ
た。彼女の父とも、薄いが、知り合いだった。6か月前に、オレは、フ
リーランドのカントリークラブの会員になった。彼は、すでに会員だっ
た。しょっちゅうラウンドしたわけでないが、そこで彼に会った。ある
日曜に、彼を含めて4人でゴルフをした。そして、そう、娘もいっしょ

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にラウンドしたことが2度あった。その最初のときに、彼は娘を紹介し
た。たぶん、彼女は、父とオレが、実際以上に親しいという印象を持っ
たのだと思う」
 とにかく、父の死後10日くらいして━━━スキャンダルが始まって
3日くらいして、彼女は職を捜して、オレのオフィスに来た。
 たぶん彼女は、オレの推測だが、最初に、父ともっと親しい友人に先
に会いに行ったが、なにもしてもらえなかったのだと思う。理由は、あ
いている職がなかったか、あるいは、彼女の父がほんとうに横領したと
信じていた、それで、その娘を雇いたくなかった。しかし、ジェニファ
ーが、あんたの言うように背が高い赤毛だが、退職届を出していて、オ
レは受付嬢を捜していた。彼女は適任に見えた。なんだって、受付嬢が
必要なのに、雇ってはダメなんだ?犯罪は遺伝だとは思ってない。彼が
有罪だともまったく思ってない。なぜ彼女がそのことでペナルティを負
うのか理解できない」
「彼女がカネのりかを知っていたとしても?」と、アム。「そして、
彼女が職につきたいのは、ほんの短期だけ、カネを出しても怪しまれな
くなるころまでだとしても?」
 スターロックは、アゴをこすった。「そのときは、オレは、父が彼女
に残した封印された手紙の存在を知らなかった。今まで一度も新聞に出
なかった。今朝、クライアントから聞いて、初めて知った。たぶん、そ

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のことは、オレに考えることを止めさせる。しかしそれを知らなくても、
オレは、彼女の父が有罪でも、彼女はそれについては知らなかったと断
言できる」
「そしてどのようにして」と、オレ。「ウォキーガン保険会社は、あん
たに彼女の調査を依頼して来た?ただの偶然、それとも彼女が働き始め
たときから知っていた?」
「よくは知らない。会社は当然彼女を追跡していて、どこに勤めている
かも知っていた。今朝、フリーランド支店の支店長のコスロフスキーと
いう名前の男が会いに来て、彼女に関しての調査を依頼した」
「彼は、本名と会社名を受付嬢に告げた?」と、アム。割って入った。
 スターロックは、アムにニヤリとした。「保険会社は、内情もよく知
ってるので、昨夜、オレの家に電話して来て、アポを取って、今朝オレ
が出掛ける前に、オレの家に会いに来た。
 とにかく、彼女や父のために、オレのできることは、今、話したよう
に、わずかしかないと、彼に言った。そして、彼は、オレが彼女に関す
る仕事をしたいか訊いた。ふつうに、オレはビジネスをしている、たと
え、オレの分を差し引いて、その仕事を別の、あんたのようなだれかに
請負うけおわすとしても。よって、オレはイエスと答え、オレたちは取引をし
た。支店長は、フリーランドのことで監査役や警官に会ったりして忙し
く、自分ではその仕事はできない」

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「なにをして欲しいと?わなに掛ける?」と、オレ。
「その通り!しかし、その前に、尾行の仕事がある。オレが考えている
のは、こうだ。アムは、彼女が今夜仕事を終えたら、尾行して、夜をど
う過ごしているか調べてくれ!どこでなにをしたか、といったこと。彼
女について、いろいろ分かって来る、一晩かもしれないし、もっと長く
なるかもしれない、習慣とかくせとか。そして、あんた、エドは、いい
時と場所を選んで、彼女と知り合いになる。そこから、あんたの仕事は
始まる。アムは、あんたが彼女とデートしてないときも、ずっと、尾行
を続けてる。オーケー?」
「オーケー」と、オレ。「とにかく、やってみる。しかし、最初にデー
トに誘って、顔をはたかれたら、続けることは難しい」
「エドは、そんなへまはしないよ、ベン」と、アム。「あんたは、彼女
は別の仕事のためにあんたのところを辞めると言っていたが、どこの仕
事?」
「マーシャルフィールドの、月曜から始まるモデルの仕事、あるいは、
そう彼女は言った。そのことは、電話ですぐ確かめられるので、電話す
るつもり。ウソかどうか、知らせる。彼女は、こんな短い期間で辞める
のをとても済まないと言っていた。モデルの仕事が来て、週10ドルで
断れなかった。そこはオレも認めた、うちでは、それだけ支払えるのは、
2年以上勤めたあとだったから」

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 アムはオレを見て、ニヤリとした。「彼女は、モデルになれるほと美
しい!エド、あんたの仕事も捨てたものじゃないな!」
「彼女は、かわいいどころじゃない」と、スターロック。「ほかの特徴
も知りたい?」
「ああ」と、オレ。
「22才、身長5フィート4インチ、だいたい150パウンド、栗色の
ショートヘアー。ショートヘアーは時代遅れだが、彼女には完璧に似合
っている。ブルーの目、クリーミーな肌。口紅以外の化粧なし。いいか
らだ、すご過ぎず、ほど良い。優美な身のこなしと歩くしぐさ。
 今日、最初に服を着るところから、見てみよう。ボタンを掛けて、キ
ューバヒールのくすんだ仕上がりの黒のパンプスをはいて、黄かっ色の
ナイロン靴下、グリーンとブラウンの斜めの複雑なチェックのスカート、
遠目にはグリーンに見える、ブラウスも黄かっ色、彼女がビルから出て
くるときには、それらはやはり黄かっ色の短めのコートでヒップまでお
おわれている。帽子はかぶってない」
「じゅうぶん!」と、アム。「彼女は、5時に、あるいは、少ししてか
ら、ビルの出口から出てくる?」
「ちょうど。そこで彼女を捕まえられる。そう、フリーランド郊外には
住んでない。そこにあった家はからだ。室を借りている、北側の近くに。
住所は、西コベントプレース186。だいたいオフィスから12ブロッ

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クのところ。歩くのかバスに乗るのかは知らない。車は持ってないので、
その点の心配はいらない」
「電話番号は?あるいは、コベントの室番号は?」
「書類には」と、スターロック。「電話番号はあったが、コピーしたり
覚える手間を掛けなかった。尾行には必要ないだろう、アム。エドも自
分でゲットできなければ、使うことはできない。室番号はない。ビルも
知らない。そのあたりは知っていて、そのようなビルもあるが、室番号
はたぶんない」
 ポケットから折りたたんだ紙を出して、デスクの上に置いた。「これ
は、採用した際に、彼女が自分で記した応募書類だ。今、話した以上の
ことは書かれてない。あまり役に立たないと思う、アム、尾行には。し
かし、エドは、1つか2つ、役に立つことを取って来るかもしれない」
彼は、腕時計を見た。「さて、オレは急いで戻らなければならない。オ
フィスで2時に約束がある。ちょうどその時間だ」
「もう1つ質問、ベン」と、アム。「この仕事のために許された時間は?
特に知りたいのは、エドが知り合いになるのを急がしたらいいのか、あ
るいは、ゆっくり時間を掛けて火が燃えるまで待っていいのかどうか?」
「クライアントの指定は、1週間。つまり、ひとりで1週間の指定だ。
出発点からいい結果が出たら、引き延ばしをお願いすることもある。エ
ドが彼女といい知り合いになれたとかの場合。しかしそれまでになんの

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結果も出なければ、それまで。それじゃ、ソロング、ボーイズ!」
 彼が帰ってから、アムは言った。「さて、キッド、食事した方がいい。
今度は、いっしょに行くか!」
 ふつう、オレたちは、交代でランチをとった。ひとりが残って、オフ
ィスの電話番や、クライアントが電話する代わりに突然やって来ること
もあったからだ。
 オレは、首を振った。「あんたが先、アム。オレは、ここにいた方が
いい。あんたは今夜も仕事だ。しかし、オレはない。たぶん、なん日も
ない。オレの仕事が始まったら、あんたはフリーだ。オレたちは、なに
があっても仕事は続けられる」
「オーケー、キッド。食事より仕事に飢えているなら、オレが先に行っ
て来る」









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            2
 
 オレがいて良かった。アムが出て行って、1分で電話が鳴って、仕事
の電話だった。クライドムアからだった。彼は、小さな金融会社のマネ
ージャーで、たまに、仕事をくれた。かならず、ふつうなら不可能なく
らいに難しい仕事だった。なぜなら、その会社には調査員がいて、いつ
も最初に調査をした。調査員が失敗すると、しわ寄せがオレたちに来て、
たまにうまく行った。オレたちの前に、やさしいことはすべてやってあ
って、言及は避けられた。
 仕事は、バーテンダーのウォルタープヒューガーが車を買う際ローン
を組んだ件だった。400ドルまだ借りているが、3か月間、支払いが
なかった。彼を見つけ次第、請求したかった。しかし分かったことは、
ワバッシュという店はクビになって、住んでいた州道のメルバンホテル
からも出て行った。それ以上の情報は、車を買う際にローンの申し込み
をした書類だった。読み上げてもらって、すべてメモした。情報は、多
くはなかった。ここにあることはすべて調べたのかどうか、きもしな
かった。オレがいたのは、1つだけ。「調査期間は、どのくらい、ク
ライド?」
「1日。そのことでギャンブルはしたくない」
 オレは、オーケーと言って、電話を切った。メモしたノートを調べ、

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37
























































少し考えた。
 
 
 
                            (つづく)
















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