過去を救いに来た男
               ブラノンブラガ、ジョーメノスキー、
               リックバーマン
            プロローグ
 
 氷の惑星。
 そこへ防寒服を着た、ふたりの男が転送されて来た。ひとりがハンデ
ィセンサーで目的地を確認し、ふたりで向かった。地面は氷で覆われ、
雪が舞っていたが天候は良かった。
 目的地に着くと、電子杭を刺し、通信マイクで知らせた。
「バックボウ!」
 画面が引くと、そこは凍った浅い湖の上で、湖底に沈んだ巨大なボイ
ジャーの機影が見えた。
「氷の状態は安定している」と、ハリーキム。センサーを見ながら。
「中へ転送してくれ!」と、チャコティ。通信マイクに。




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「了解」と、通信マイク。
 腕の裾に付いた懐中電灯で照らしながら、通路を歩いて来た。
「ここだけでも、だいぶ、違う」と、ハリー。ふたりとも頭と口のおお
を取った。
 通路脇のコントロールパネルを見つけて、ハリーは起動した。パネル
は作動した。
「パワーグリッドがいかれているな」と、ハリー。パネルを操作しなが
ら。「ニューラルジェルが完全に凍っている。9から14デッキは、つぶ
れてしまってるし、第10デッキしかない」
「エンジン全開のまま突っ込んだか?」と、チャコティ。「EMHは?」
「医療室にアクセスしている。反応がない、パワーが落ちる」
「パワーセルをリセットしろ!」
 チャコティも応援しようとしたが、バネルのパワーは落ちて、画面は
暗くなった。
「カモ〜ン!」と、ハリー。
「先へ行こう」と、チャコティ。「通信リンクがあるはずだ」
 ハリーがブリッジの戸を手で開けて入ると、雪が積もって、なん人も
の乗員が倒れていた。
 チャコティは、雪で覆われた制御通路を、四つん這いになって進んだ。
 ハリーは、雪で覆われたブリッジを調べた。パイロット席には、トム

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パリスがこちらを見ながら凍り付いていた。艦長は、スクリーンの前で
あおむけに倒れていた。ハリーは医療室まで来ると、コンロールパネル
に、ハンディパワーグリッドを装着させてパワーを送った。
 チャコティは、天体測定ラボにたどり着いて、倒れているセブンオブ
ナインを見つけた。
「チャコティよりテッサ!」と、チャコティ。通信マイクに。
「どうしたの?」と、テッサ。ラフォージ艦のコントロールパネルにい
た。
「見つけた。転送リレーをロックして、そちらのラボに収容してくれ」
「スタンバイ」
「急いでくれ!」と、チャコティ。そして自分に。「楽しい再会じゃな
いがな」
「ロックした」と、テッサ。セブンを転送した。
 ハリーは、医療室のパネルを操作した。
「緊急事態の概要を━━━」と、ドクター。起動された。
「久しぶりだな」と、ハリー。
「少尉!」と、ドクター。
「今はただのハリーさ」と、ハリー。「長い話さ。モバイルエミッター
は?」
「船はどうなったんだ?クルーは?」

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「時間がない!エミッターは?」
「この中だが」と、ドクター。凍った台を指差した。
 ハリーは、氷を叩いて、エミッターを取り出した。「ホラッ!付けろ、
行くぞ」
「待って!どういうことか説明してくれ!」と、ドクター。
「教えよう!」と、チャコティ。医療室に入って来た。「オレたちは歴
史を変えに来た」
 ドクターは、なにも言わずに立ちつくした。


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 過去。機関室に多くの乗員が集まって、新型のコアドライブの完成を
祝っていた。紙吹雪が舞い、みんな拍手していた。ベラナはシャンパン
のビンを、コアドライブの手すりにぶつけて威勢よく割った。トゥヴォ
ックも拍手した。
「みんな聞いて!」と、ジェインウェイ艦長。「静かに!紹介します。
これが次世代の恒星間飛行推進エンジン。量子スリップストリームドラ
イブよ」みんな歓声を上げた。「4年と2か月、11日。デルタ宇宙域
に来て以来、長い日々が過ぎたけど、われわれはこのかん、宇宙探査でフ

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ロンティを前進させた。さらに大事なのは、生き延びたこと。でも、地
球に帰る時よ!」また、歓声。「パーティを楽しんで!でも、明日のフ
ライトまでには、山ほど仕事があるわ!シャンパン飲み過ぎないでよ!」
ベラナも笑った。
 艦長とチャコティは、先に、通路を帰って行った。
「量子マトリックス」と、ジェインウェイ。チャコティに。「ベナマイ
トクリスタル、それに、ボーグのテクノロジーよ、艦隊がなんて言うと
思う?」
「文句は出ないでしょう」と、チャコティ。「はつのスリップストリーム
ドライブが、コックレイン賞にノミネートされますよ」
「授賞式のスピーチを考えなきゃ」
「ボーグに感謝しなければ」
「夕食はなにか?」と、ジェインウェイ。
「そうだな、リプリケータかな?」
「キャンセル!命令よ!」と、ジェインウェイ。
「了解」と、チャコティ。「艦長」
「ベラナ!」と、ニーリックス。コアドライブのパーティで、ベラナの
ところへ。「オレもなにか協力したいと思ったんだ」ニーリックスの手
に、死んでいあたが、大きな昆虫がいた。
「ありがとう」と、ベラナ。「でも、なに?」

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「タラクシアンケバイだよ」と、ニーリックス。「オレの星じゃあ、宇
宙旅行の守り神って言われている。もしこいつが船にこっそり忍び込ん
でたら、その船は安全なんだ。オレはずっとこいつと飛んでた。エンジ
ンルームに6年、吊るしてあったんだ」
 ベラナは、おそるおそるケバイをつまんだ。「か、かわいい!」
「きみは、つぎつぎ」と、トゥヴォック。「驚きの種を提供してくれる
ね」
「そう言われると照れるな」と、ニーリックス。トゥヴォックに触れて、
食堂へ戻って行った。
 セブンがシャンパングラスを右手で持ちながら、左手のインプラント
を気にしていた。
「セブン」と、ドクター。
「ビジュアルプロセッサーと運動皮質が変だ」と、セブン。「機能異常
を起こしている」
「皮質インプラントに問題が出たなら」と、ドクター。ハンディセンサ
ーを出した。「チェックしてみよう」セブンはふらふら歩いた。「じっ
として!」
「足元がフラつく」と、セブン。
「酒に酔ってる?」と、ドクター。ハンディセンサーを見ながら。
「ありえない」と、セブン。

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「血中シンセオール濃度が、0・05.シャンパンをなん杯飲んだんだ
?」
「1杯」と、セブン。
「ボーグは酒に弱いらしい」と、ドクター。「医療室へ行こう!イナプ
ロバリンを処方しよう」
「わたしは、おまえの指示通り社交術を磨こうとしていたのだ」
「ああ、見事にやってるね」
「お、おまえは、常に、尽力を惜しまず支援してくれる。よき指導者だ」
「そうとも」
「われわれは同志だ!同志なんだ!」セブンはドクターの胸を叩きなが
ら、医療室へ向かった。
「あれ、見たかい?」と、ハリーキム。トムパリスに。「うん?」
「われらのドローンも」と、ハリー。「パーティで少しはしゃぎ過ぎた
ようだな?あまえは、いつ、仲間に入るんだ?」
「すぐに」と、トム。パネルに向かっていた。
「なんで今頃、ワープドライブのチェックなんか?」
「ハリー」と、トム。パネルから顔を上げた。「こいつはリコールもの
だ」
「なに?」
「欠陥車だ。このまま放っておけば、大事故になる。夕べ、フライトシ

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ミュレーションをしてみたが、スリップストリームに入るときに、位相
変動が0・42に上がった」
「0・42?それは今さらだが、もっとひどいときもあるぜ」
「スリップストリームのど真ん中で、ぶち当たったら?」
 ハリーは、シーッとするしぐさをした。
「量子マトリックスがオーバーロードいなる」と、トム。
「艦長には言った?」と、ハリー。
「まだだ」と、トム。「みんな期待で沸き立っている、確証がないとな」
「トム、もし気が済むんなら」と、ハリー。「いっしょにホロデッキへ
行って、もっとシミュレーションすべきだ、センサーの不調だろ」
 
               ◇
 
 第2ホロデッキ。
「正常エンジン、全開!」と、トム。パイロット席で。
「スリップストリームドライブ起動!」と、ハリー。自分の席のパネル
で。「量子フィールド安定。ディフレクター、最大出力」
「スリップストリーム突入まで、4秒」と、トム。「3、2━━━」
 スクリーンにスリップストリームの流れが映し出された。
「動力安定」と、トム。「量子フィールドも維持している」

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「シールド73%」と、ハリー。
「いいかんじだ」と、トム。「ディフレクター微調整━━━」
 警告音がして、ブリッジの照明が暗くなった。
「位相変動があった、0・1、0・2」と、ハリー。
「ディフレクターを調整しろ」
「変化なし、0・4」
「スリップストリーム停止」
「待て、量子フィールドを維持してみる」
「ムダだね。スリップストリームが崩壊している」
 スクリーンの流れが消えて、暗い画面になった。
「慣性ダンパーに異常発生」と、トム。
「警告」と、コンピュータ。「第10ブリッジ、船体崩壊」
「船体構造が維持できない」と、ハリー。
「コンピュータ、プログラム停止!」と、トム。
「つぎは」と、ハリー。「非常用パワーをもう少し早くディフレクター
に回せば」
「同じことだ」と、トム。ハリーのパネルまで歩いて行った。
「コンピュータ、プログラム再開、タイムインデックスは」と、ハリー。
「コンピュータ、今のは撤回だ」と、トム。そしてハリーに。「これ以
上やってもムダだよ」

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「ここで投げ出せないだろ?」
「23回シミュレーションして、全部大惨事に終わってんだ。これは、
センサーの不調なんかじゃない。みんなに言おう」
 
               ◇
 
 機関室。
「そんなわけない」と、ベラナ。艦長や上級士官も立ち合っていた。
「エンジンの部品、1つ1つ、これテストしたのよ」
「オレだって悔しいよ」と、トム。
「シミュレーション結果を検証させろ!」と、セブン。
「第2ホロデッキだ、自分でやってみろ」と、トム。「なん十回爆死し
ても構わないなら」
「私もデータを見ました」と、チャコティ。「明日の朝、フライトすれ
ば、午後には脱出ポッドでしょう」
「中止にするしか道はないでしょうね」と、トゥヴォック。
「もしくは」と、トム。「ハリーのアイデアです」
「なんなの?」と、ジェインウェイ。
「きわどいんですが」と、ハリー。「可能性はあると思うんです。トラ
ブルは、だいたい17秒後に始まります。位相変動が起きて、ストリー

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ムが不安定になったら、だれかがシャトルで前を飛んで、その急流を乗
り切ればいいんですよ」
「そう」と、ベラナ。「シャトルでスリップストリームの変動を読み取
って、ボイジャーにフェーズ修正値を送ってもらえばいいんです。それ
なら、行けるわ」
「でも」と、ハリー。「ここがきわどいんです。シャトルは、ボイジャ
ーのほんの2・3秒前を飛ぶことになります。修正を間に合わせるには
ぎりぎりの時間です」
「トム?」と、ジェインウェイ。トムを見た。
「2・3秒か」と、トム。
「絶対成功しますよ」と、ハリー。「シャトルで飛ばさせてください。
スリップストリームを乗り切れます」
 ジェインウェイは、ベラナと顔を見合わせた。
「それしかないでしょ?」と、ハリー。「あきらめるんですか?長いこ
と掛かったのに!」
「もともと非常に実験的なエンジンだ」と、トゥヴォック。「中止も視
野に入れるべきだろう」
「エンジンの中は」と、ハリー。「ベナマイトクリスタルが崩壊し始め
てる、また、合成するには、なん年も掛かります。みんなは知らないか
もしれないが、今まで必死にやって来たことを、たった0・42の位相

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変動であきらめられませんよ」
「すいません、艦長」と、ハリー。声が大きくなったことを詫びた。
「いいのよ」と、ジェインウェイ。「分かったわ、少尉。試す価値はあ
る。フライトプランを出して。1時間以内に持ってくるのよ」
「分かりました」と、ハリー。
「それを見て決めましょう」ジェインウェイは自室に戻って行った。
 
               ◇
 
 艦長室。
 チャコティとのディナーの用意がしてあった。チャイムが鳴った。
「入って」と、ジェインウェイ。チャコティが入って来た。
「副長、まだ、食欲はある?」
「腹ぺこですよ」と、チャコティ。「でも、スリップストリームの件で
呼ばれたと思っていました」
「ディナーをふいにしたくはないわ」
 チャコティはテーブルについた。
「祖母が」と、ジェインウェイ。「地球でよく作ってくれたメニューに
したのよ、野菜ビリアーニ」
「うまそうだな、料理できたんですね?」

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「普段は、コーヒー入れるくらいだけど」
 
 
 
                  (第五_二_二話 つづく)
















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